【人】 渡りに船 ロメオ>>31 ヴィンセンツィオ 軽やかなドアベルの音、扉の開く音。 クーラーのリモコンを置いてカウンターへと戻る途中、 振り返りざまに「いらっしゃいませ〜」と緩く店員らしい挨拶を。 ──癖のように自分より下げられた視線は、 少しの驚きを以て開かれると同時に自分の上の方へと修正された。 なんせ自分より背の大きい人は珍しいもので。 「……今日のおすすめ。 あー、今日のパーネ・ディ・リーゾは米粉で焼いてるからいつもより食感がいい。チーズとハムのピッツァ・ビアンカもあるし、なんか旦那が朝からさくらんぼのパネットーネも焼いてる」 「場所はそこ、そこ、あとそこ。値段は札見てください」 その驚きも一瞬に、尋ねられればすらすらと答える。 表情も声の抑揚も愛想のいいものではないが、瓶底眼鏡の奥の視線だけはきちんと貴方に合わせられていた。 一つに束ねられた薄いレモン色の髪を揺らしながら定位置の席へと付けば、背は貴方よりも大分低くなる。 #パン屋 (78) 2023/09/12(Tue) 22:47:29 |