【人】 黒崎柚樹[いくらかの沈黙を流しつつ、歩みだけは止めずに────多分、迷ったら困るしと何度も曲がったりはしなかったとは思うのだけど、気付けば目の前に湖が広がっていた。 辿り着いた一画にはウッドデッキが整備され、本数は少ないものの淡い光を放つ街灯と、その下にはベンチがいくつか並んでいた。] へえ……きれいだね。 [昼の光が無ければ湖の透明度などは解らないけれど、きっと昼には格別に美しいに違いない。 林間の小道、ずっと木で覆われていた空が一気に開ければ、それだけで開放感は格別なもので、私はデッキへと、一歩踏み出し、そのまま湖畔のそう長くはない手すり沿い、端まで小走りで駆けてみた。 なんか、あれだな。武藤と行ったテーマパーク、こんな場所で追いかけっこ、したな。 そんなことを思い出し。 少しだけ思った。 忘れているのが武藤の側で良かった、と。 私は忘れたくないよ。 ずっと覚えていたいよ。 あれが私一人の夢だったのかもしれなくても。**] (179) 2023/03/01(Wed) 22:15:53 |