【人】 III『女帝』 シャルレーヌ[ 自分でもわけがわからないまま、 その場に立ち尽くして泣き出した私を、 彼は抱きしめてくれた。 村の人は皆優しい。 だから、人前で泣くことなんてなかった。 だからというわけではないけれど、 こうして抱きしめてくれる人はいなかった。 私は「聖女」で、特別だから。 初対面でいきなりする行為ではない、 ということは、知らなかったけれど、 全然嫌ではなくて、 むしろひどく安心するのが不思議だった。 髪を撫でられることもおんなじで。 あの頃は、胸の奥に灯りが灯るような 張りつめた糸が緩むような、この気持ちが、 “安心”ということも知らなかった。] (555) 2022/12/13(Tue) 15:51:52 |