【秘】 さよなら 御山洗 → 宵闇>>-34 変わらない言葉を掛けてくれるのだと、変わらず手を伸べてくれるのだと。 こらえきれずに瞼に溜まっていた涙がぽろりと目頭から落ちて、 それだけで揺らぐくらい色んなものがもろくなっていることに、自分で笑ってしまう。 見下ろす目はまだ恐れていて、怯えていて、壊れ物を見るように愛しさで溢れている。 「……それは、ごめん。 一緒に行くなんて、もう出来ないと思ってたから」 御山洗はどうして彼が帰ってきたのか、わかっているようでわからなかった。 急なことで何もわからなかっただろうというのはわかるのに、 それでも遠ざけきれず、遠ざけられきれなかったのは、不思議でしょうがなかった。 「俺は、同じくらい三人でいるのが好きで、楽しかったから。 もし不用意に口にしたり態度に表れたら、もうあんな風に遊んだり出来ないんだって。 そう思ったら……もう絶対に誰にも言わずにしまっておけば、今まで通りにいられる筈だって。 ずっと、昔から、そう思ってた」 実際にはここに帰り着いて、胸の中を占めていく心に耐えきれず鬼走に打ち明けたりもした。 自分の意思で抑え込むよりも育っていく願望を恐れている事ごと口にして、満足しようとしていた。 懐かしさの中に抱いていたいつかの面影や今の宵闇に対する思いは、 結局ふとした瞬間に耐えきれなくなって口を衝いて吐き出されてしまったのだけど。 下駄の歯が控えめに地面を叩く音ばかりが耳に響く。 指先まで心臓の鼓動が伝わるくらい、やけに血が集まって熱い。 細い蜘蛛の糸のようにつながっているだけの手は、ガラス片のように剥がれ落ちそうだった。 「言うつもりなんてなかったのにな」 (-36) 2021/08/20(Fri) 12:59:46 |