【秘】 ただいま 御山洗 → 貴方の隣に 宵闇>>-39 >>-40 >>-41 >>a11 >>-42 宵闇 夜の海は空との境界を失くしてどこまでも真っ暗なそれらが続いているみたいだった。 黒い髪に、黒い浴衣。時折ぱらぱらと光の粒を振りまく花火が、そこにいると教えてくれる。 やっぱり、海が似合うなと思った。掴みどころがなくて、波間の泡沫と一緒に流されていきそうで。 「うん、……うん。 きっとお前が思いもしない頃から……そうだったんだと、思ってる」 望みのないことだというのも、それ以上に何もかも終わらせてしまう一言だということも。 その先に何かあるだなんて思えなかったし、思いつきもしなかった。 瞼を閉ざすようにその先を閉ざされてしまうくらいなら、何も聞きたくはなかった。 だから逃げて、突き放した。その先を聞かなくて済むように。 けれども今彼が続く言葉を告げるというのなら、それを止める術もまた、なかった。 明かりになるようなものはほとんどありもしないのに眩しそうに目を細める。 告げられる言葉のひとつひとつを拾い上げて耳に入れる。返すのは小さな頷きばかり。 どんなことを望み、声にしているのか。望んでしまいそうで、期待してしまいそうで。 浮つきそうな気持ちを、きっと違うと押し止める。自分の都合のいいように思ってしまいたくなくて。 立ち尽くしたまま下がった指が、袖口に寄った皺の形に癖がついてしまいそうなくらい力を込めている。 → (-43) 2021/08/20(Fri) 20:34:57 |