「いいじゃん、泣けない人の分まで泣いたって。俺が泣く意味に勝手に他人を乗せようとしているだけだし、タクシーの相乗りみたいなもんって考えればそっちに損はないだろ？」

からからと笑う。タクシーの相乗りと自分の泣く意味を混同しているのはわざとなのだろう。
気にしなくていいと、自分が勝手にそう思うだけなんだと、そういう姿勢。
続くあなたの言葉にも一つ微笑んで、問いかけには何度もこくこく頷いた。

「もちろん。好きなだけ泣きついていいんだろ？ビービー泣き喚いてやる。
……はは、ムルイジにタオル似合わねえし速やかに奪い取らねえとだ」

少しくすぐったそうに笑ってからお礼を付け足す。あなたを解放して数歩離れた。


/*アタイよ。処刑中に失礼するわ。日付更新も入ったので一旦このあたりで〆に向かいたいのだけどいかがかしら？愛を込めて。

あなたがドアの前まで来るならば、中から嗚咽が聞こえてくるのが分かるだろう。
ギタロンの音色とあなたの声を聞いて、一度息が潜められ。

「……カストル……？」

と泣き濡れた声が投げかけられる。ドアロックは解除されているので、入ろうと思えば入れる。

ベッドの上に座り込み布団に包まったバーナードがあなたを出迎えた。
顔はほぼ布団に埋もれているが、赤くなった目はじっとあなたを捉えている。

「……ちゃんと、起きてるよ。後で飯も食いに行く、から、大丈夫」

普段ならそんなに心配してくれたの？なんて茶化すところではあるのだが。そこまでの言葉は出ず、ありがとうを小さく伝えるのみだ。

あなたの行動に抵抗も拒絶も示さずされるがまま。癖のある栗色の髪がふるふると震える。

「一回りも違うお子様が何言ってんだ……、……ああでも……お前本っ当かっこいいなぁ……。かっこよさに免じて、今日は俺が弟、やってやるよ」

ぐす、と鼻を鳴らす。布団越しにあなたの服の裾を強く掴み、再度嗚咽が漏れ始める。
あなたの服を濡らしてしまうかもしれないがそこまで意識も回らず、ただ声をあげて泣いて。

「ゔ、ううう……ッ、苦しい、つらい……！アイツ、死ぬの嫌って、嫌って言ってたのに……！」

バーナードにきょうだいと呼べる人間はいない。だからこれが兄から弟にする行為である確証はないけれど、痛みを和らげる行為だとは知っていて、実際に今痛みがほんの少しだけ和らぐのを感じている。

「誰だってしたくないし、されたくないじゃん、こんなの……シェルタンも、怖いですよって笑ってたよ。怖かったろうなって、思うよ。……アイツも、ラサルハグも！死ぬのが怖くて、嫌で、碌に寝れてなくて……怖かったろうなって、」

シェルタンのことも、ラサルハグのことも痛いのだ。ラサルハグに至っては懇ろにしていたから更に痛い。
泣きながら呟く言葉には嫌だのクソゲーだの苦しいだのやめたいだのクソゲーだのと言ったワードが挟まれつつ、暫く泣いて落ち着いて来たのならばおずおずと服の裾を引っ張り。

「……その。なんだ、……ありがとう」

咥内で行われる戯れ、あるいは交接とも呼べようかというそれを楽しむ中、あなたの反応に気を良くしながら絡めた手指を解放してあなたの衣服に手をかける。一枚、また一枚とあなたを己を遮るものを奪い取っていく。

「ッは……、なるほど？それなら呼び捨てか愛称がいい、使用人としてじゃなくて友人としてお前を抱くんだから。……はは、友人を抱くってエロいな」

改めて言葉にして沸いた実感に喉を鳴らし、どちらのものともつかない銀糸が口の端から垂れるのも気にせずに笑う。あなたの手の動きにはこちらも時折短い吐息で応えるように快楽を示し、下腹の熱がじわりと布越しのあなたに伝わっていくことだろう。

「はは、そうだな。昨日みたいに皆で昼寝してさ、……昼寝と言えばお前ギタロンで睡眠BGMは面白すぎだよなんだアレ」

眠りに落ちる前に聞こえていた低音は心地よかったけれど、それはそれとして面白かったのでそう笑う。先程よりも幾分か元気になった様子だ。
あなたがベッドから降りるのならその背を視線で追って。

「おう、どうせこのゲーム中はビービー泣くだろうからな。……あ、でもその言葉はそっくりそのままお前にも返すよ。必要なら言え、情けない大人がお届けされてやるからさ」

「ああ、約束」

あなたの髪に頬を擦り寄せながら小さく囁く。
……こんなゲームの中でそれができるとも限らないけれど、小さな願いだろうとそれに縋ることで心の安寧は保たれるから。

「いくらでも、何度でも教えるから。お前も全部教えて？」

あなたの服に手をかけようとして、ちらと視線の端で時刻を確認する。処刑時間も近づいてきている。そっと、身体を離して。

「明日以降にさ。……もうそろそろ、お互い心構えが必要だと思うから」


/*アタイよ。知ってたわ……。
日付更新も入ったしあなたのお見舞いにも行きたいのでこのあたりで切ろうと思うのだけどいかがかしら？

あなたがバーナードを探すのであれば、あまり人通りもない静かな休憩スペースで星の海を眺めている姿を見つけることができるだろう。
幾重にも阻まれたガラスの向こうを何を見るでもなくただ眺め、……人の気配に気付いたのか視線をあなたのほうへ、向けて。

「……シェルタン？おかえり、」

へたくそな微笑みであなたを出迎えた。

「それはほら？ボーカル候補たるものいつでも歌えないとと思い……ってちょっ泣き虫バーナードはやめろ、マジでやめろ恥ずかしいから！いやまあムルイジにもバレてっから別にいいんだけど、どんな顔でいたらいいか分からなくなるから！！」

めちゃくちゃ必死である。まあまあ普通に恥ずかしいのでわー！？になっている。わー！？

「おう、毎日呼べよ。困った時に困ったって素直に言えるのはいいことじゃん、周囲に助けを求めることができてえらいぞー」