人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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視点:


【影】 うたかたの ダニエラ

ニコロ! いざや恩讐の碧落に絶えよ!
oO832mk 2023/09/20(Wed) 21:00:00

【影】 うたかたの ダニエラ

あるモーテルの入口。
冷えた風が肌を撫でる。女は立ち尽くしていた。


「una regina fulgida e bella al pari d'una fata
 siede accanto alla culla tua dorata...」



口ずさむのは『子守歌Ninna Nanna』。
歌うその声が微かに震えた。
…本当はそんな資格なんてない。自分が1番、分かっている。

誰かを檻に入れただけ、大事な人が檻へ行く。
なんて分かりやすい構造だろう。
世界は案外、そうやって帳尻合わせて回っているのかもしれなかった。
(&0) oO832mk 2023/09/20(Wed) 21:19:07

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

ふと気付くと、左手の小指のエナメルに傷が入っている。
女はそれを見つめた後、愛おしそうに唇を寄せる。

そうしてしばし静寂の間そのモーテルを見つめる。
くるりと踵を返した。約束を胸に。

…あたしは今も、ひとりじゃない。
(&1) oO832mk 2023/09/20(Wed) 21:24:16

【神】 傷入りのネイル ダニエラ

「………」
……人、少なくなりましたねえ。


小さな声。
誰に聞かせるでもない独り言。
顔色こそ変わらないがミントブルーの瞳はやや憂いを帯びて周囲を見つめた。
どこか薄皮向こうの景色みたいだ。

そんな脳裏に1番鮮烈に色付くのは昔なじみのライムグリーン。
小指のエナメルを、そうっと撫でた。

#警察署_朝礼
(G4) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:08:17

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

/*



襲撃予告です。



こんばんは、おさとうかえでです。こたびは
波魔
の役職を賜りました。
日付変更のショック冷めやらぬ中、のっぴきならない事情でアリーチェさんを襲撃せねばならなくなったことをここにご報告致します。

つきましては、初めての絡みが襲撃ロールというのも何ですし、いくらかお話をしませんか?
入村文でお触り頂いたの、とっても嬉しかったですし……(本心)

以上、ぜひ、ご検討いただけますと幸いです。
おさとうかえででした!
(-16) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:14:50

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

――新しいアジト。

そこで男からの留守電を聞いた女は、静かに息を吐き出した。
彼の情報が正しいのならばこれで終わり。
大切なものをどれだけ取りこぼしても、…彼らが大切にしていたものはきっと守ることができる。

それでいて、あのまどろみの中のような日々に戻ることはもうできない。
そのことを嘆く資格もないことなんて分かっているから、ただそっと目を閉じた。

…まあ、仕方がない。
だって最初から。あたしは。

裏切り者
だったのだし。
(!0) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:30:10

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

/*
歓迎されてる……!!!
安心しました、是非とも秘話進行で…… とも思いましたが白も捨て難くて今唸り始めました。
いや流石に最終日まで役職の話は伏せた方がいいか……そうか……?

ということで秘話にしておきましょう。
これよりお話をしに伺いますのでしばしお待ちくださいませ!
(-24) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:34:22

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

そうっと、朝礼の終わりあなたに近寄る女の姿があった。

「…アリーチェさあん」
「……ええとお」

――どの口が、と真っ先に浮かぶ。


「顔色、悪いですよお。」
「…大丈夫、ですかあ……?」
(-26) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:39:10

【神】 傷入りのネイル ダニエラ

「あははぁ。大丈夫、ですよお。」

――へらり。先輩に緩んだ笑みを向ける。
『隙』の文字が皮を被って歩いているような女だ。

「エルヴィーノさんこそお。ええとお」
「…気をつけて、どうにかなるんですかあ、これ……」

#警察署_朝礼
(G9) oO832mk 2023/09/20(Wed) 22:44:37

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

対する女の顔色はほぼ平常通り。
元より感情が顔色に出る方ではあまりない。
それでも笑ってみせるのは得意だった。


「ふふー。うんー。」
「あたしはあ、大丈夫ですよお。丈夫なのでえ」

緩んだ口元。
細めた瞳の上を前髪が揺れる。

「……でも、少し寂しいですねえ。」
「こんなに人が、いなくなっちゃうとお。」
(-41) oO832mk 2023/09/20(Wed) 23:13:16

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

「協力者…【A.C.A】、ですかあ。」
「んー。分かりませんけどお」

「…あたしも」

「なにか事情があるんじゃないかなあって。」
「そおだといいなあって、思いますよお。」

甘いですかねえ、と眉を下げ。
それでも笑顔は笑顔のまま。
誰かが好感を抱いた朗らかさのままに。

「…でも、そおじゃなかったら」

それが私利私欲のためであったなら。

「アリーチェさんはあ、…どおしますかあ?」
(-55) oO832mk 2023/09/20(Wed) 23:39:07

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

「あたし、ですかあ?」
「……あたしはあ」

む、と口を尖らせて、一考。

「…あんまり考えたく、ないですねえ。」
「難しいこと、面倒くさいですしい…。」

「悪い人がいるなら憎んだ方がラクかなあってえ。」
「だからちゃあんと向き合うのは立派だなあって、思いまあす」

向き合った結果、色良い解答が返るとも分からないのに。
もしくはそれすら騙されて、利用されるだけかもしれないのに。
そう思いながら、思ってもいないことを言う。
優しい人間というのは、本当に損だ。
(-67) oO832mk 2023/09/21(Thu) 0:09:03

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

それは何より。肩を竦めて。
やっぱりオッサンの気持ちは若者にはよく分からない。

「なあにが授業参観ですかあ。」
「あたしの努力が水の泡ですよお、そんなことしたらあ。」

それよりも、役得に同意されわかりやすく口を閉ざす。
…そこは肯定しないで欲しかった。全部軽口の冗談だと流して貰えた方が、というかそれを想定していたのに。渋い顔。



「んふふ、そおですかあ。」

言われなくとも。女は笑んだ。

「好きにしますよお。その時はあ。」
「もう子供じゃありませんしい。」
「…それにそれなら、あたしだけの責任だと思いませんかあ?」

そう扱って欲しい、と隠しもしない意図が滲む。
だから、きっと本当は――手助けを求めることだって、そう良しとしていなかった。
(-77) oO832mk 2023/09/21(Thu) 1:06:01

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

「……はあ、なるほどお。」

何とも微妙な声が出た。
だけどこれに関しては、あなたが悪いわけじゃない。

「アリーチェさん…苦労しそおですねえ。」

後輩に抱いたものと全く同じ感想を抱いた。
そうやって女に上手く嵌められた彼は今檻の中にいる。


「…………。」
「なあんの話、でしたっけえ。」

不自然に生まれた間を誤魔化して首を傾げる。
難しい話は苦手。ダニエラ・エーコは、その設定で、合っているし。
(-81) oO832mk 2023/09/21(Thu) 1:13:16

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → コピーキャット ペネロペ

「んー?」
「はあい。何でしょ ――」

見回りの足を止め、振り返る。
このとき女は珍しく、咄嗟に取り繕うことができなかった。

鮮やかなライムグリーン。
それだけがまず目に留まって。
『一般市民』の姿すら、一時として目に入らない。
(-122) oO832mk 2023/09/21(Thu) 5:31:57

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

「いやあ。無理があると思いますけどお…。」

それで『冷やかしに来た』とでも言う気だろうか。
1つ分かるのは、その日は定時で帰れそうにないことくらい。


「んー。あー。」
「…まあまあ。それはそれ、これはこれぇ…」

…これは誤魔化す気などなさそうだ。
その気になればいくらでもどうにでもなるのだし。

「……もー。酷い上司ですねえ。」

口を尖らせ、文字通り嘆息。
そうしてその顔の傷がひとつでも増えるだけで、こちらがどんな気持ちになるかなんて考えてもくれないのだ。

「わかりましたあ。…そんなこと、させませんからあ」
「要はあたしがうまくやればいいんですしい…。」

そうして小さな失敗だってできやしなくなる。
…本当に、なんて上司だ。
(-124) oO832mk 2023/09/21(Thu) 6:22:19

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

「…コーヒー1杯じゃ済みませんよお、それはあ。」

だからって高価なもので済む話でもない。
そもそももし本当に
終わったら
、…その話はその時、行うとしてだ。


「さあー。何のことでしょお」

誤魔化す気はないまま、小癪にもはぐらかしにかかる。
…結果放り出されるとして。生意気に慕うのも行動の源流もきっと変化はないから些事なのかもしれなかった。


「自覚あるならあ、…あー。いいです、もお。」

別に説教をしにきたわけでも、ないし。
本当はこの惨状について問い詰めたってよかったんだ。

「……外はあ。」

報告に上がるのはここまでの逮捕者の名前。
あとは女の協力者がルチアーノ・ガッティ・マンチーニであるということ。
金で雇ったとのことだが、未だ彼には自分とあなたの関係は伝えていないこと。

「…怒ってましたよお。アレッサンドロさんのこと。」
「くそ旦那あ、って。」

そして、彼が今は姿を晦ましていること。そのくらいだろうか。
(-128) oO832mk 2023/09/21(Thu) 7:25:31

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

ふうーん、と意味深な感嘆符。
言質はとったしそれじゃあたくさん『恩返し』してもらうとしよう。
何についての『恩』か、全く分からないけど。

「そんなことに全力にならないでくださあい。」

巻き込まれる人間の身にもなってやってほしい。


「…もっと迅速に、どうにかできればよかったんですけどお」

すみません、とその時ばかりは項垂れて。
もたつく間に取りこぼした物の数は多い。

「リヴィオさん…ですかあ。」

その名を呼ぶ時、どこか複雑そうな感情の色が言葉に乗った。
調べたくないというわけではないが。…何故、彼なのだろう。

「わかりましたあ。」

但しそこは従順な部下だった。
幸い彼には、いつでも能動的に仕掛けられる。…上手く情報を取れるかは、また別として。
(-138) oO832mk 2023/09/21(Thu) 8:13:12

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

「ありますねえ。」

あるらしいので。


「なら、…いいんですけどお…」

少なくとも、意図的に警察ばかりを摘発させていた自チームはその件には貢献していそうだが。
動けば動くほど、渡る橋を繋ぐロープが擦り切れていくのを感じる。
きっと長くは保たないだろう。だから早くの収束を願う。


リヴィオの件には間延びした返事。
ということは、雑貨屋に行かないと。忙しいなと浮かべていた頃。

「ええ?何ですかあ…?目え…?」

意味不明な指示すぎる。
困惑しつつも指示に従い目を閉じる。
…どこまで顔を近づければいいんだろう。まあ、いっぱいか。
(-189) oO832mk 2023/09/21(Thu) 12:59:13

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

女――ダニエラ・エーコは、この日まで、あなたを摘発するための理由づくりを考えていた。
街のおまわりさん。――それを利用する?
時折立ち寄るガンショップ。――そこに難癖をつける?
あのハーモニカの音色は、何かの符牒なのかもだとか。

さあ果たして、どうすればあなたを牢へ送れるだろう?

…そんな、時の事だった。
これ以上ないほどの『理由』が齎されたのは。


エーコは俺をよく知ってるからな。
俺のチームがどうするかはわかるだろ?

ある日の言葉が浮かんで消える。
うん、そうだ。彼女はただ黙って捕まるような人じゃない。



「…………ミネ…。」


ただ一言、その名を呟いたきり。
それ以上のことが自分に許されるとは思っていなかった。

今は、ただ。
彼女が最後に残した『理由』を手に、その下手人――あなたの元へ向かう。
市民の通報よりも、ずっと速く。
(-192) oO832mk 2023/09/21(Thu) 13:13:51

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → コピーキャット ペネロペ

「…………………、あー。」

あなたが告げ終えるだけの時間ほぼ全てを、気を立て直すのに使った女は間の抜けた声を出す。

「…はあい。ふふー。」
「そおいうことでしたらあ、お供しますよお。お姉さん。」

そうしてからの持ち直しの速さはなかなかだった。
頬を緩めてふにゃりと笑い、あなたに付き従うことだろう。
(-203) oO832mk 2023/09/21(Thu) 15:53:37

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

「……。」
「…はあい。」

沈黙の後、肩を竦める。すまし顔。
任されましたあ。…そうやって、先送り。


んー、と足音を聞きながら。
こう言うのを素直に聞くのが良くないのかもしれないと今更。
まあでも、相手が相手だしなあとその辺りまで思考が飛んだ頃。

「――!?」

口の中に酸味のある甘い塊が捩じ込まれ。
流石に、驚く。ただすぐに持ち直すだけで。
ころころと飴玉を口の中で転がしながら、共に押し込められたものを選り分けるまでは多分数秒くらいだった。

「あのお。」

でも、文句くらい言っていい気がする。

「……。」
「なんでもないですう。」

…つい最近似たようなことがあったのを思い出した。
あれはトリュフチョコレートだったけど。
美味しかったし、飴もおいしい。
(-207) oO832mk 2023/09/21(Thu) 16:37:23

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 黒眼鏡

「えー。」
「そんな昔のこと覚えてませえん」

爆弾発言だったかもしれない。

「特にありませえん。」
「それどころか、
用事
を思い出したのでえ。」
「お暇しましょおか、そろそろお」

かつ、と革靴の底が鳴る。

「あー。また」
「気が向いたらあ、様子見に来まあす。」

「……………………
心配、なのでえ。


蚊の鳴くほどの声で添えて。
その靴の音が、離れていく。
(-215) oO832mk 2023/09/21(Thu) 17:04:42

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → コピーキャット ペネロペ

連れられた先、勧められた席に女は座る。
どこか弛緩した雰囲気の女だ。
あなたの変貌ぶりすら、意に介さずに。

「あー。お兄さんでしたかあ。」

これである。

ふうむと話の中を聞き。
なるほど、お兄さんルチアーノの言っていた人だったか。
そう何の心配も懸念さえも抱いていなさそうな顔。
そこだけ見ればまるで、陽の当たる喫茶店のテラス席のような。

ただ。

「……。」

テディベアが鳴くと、微かに眉間に皺を刻む。
戴きますう、と心のまま。要らないなんて、言えるわけがない。
(-220) oO832mk 2023/09/21(Thu) 17:31:46

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

ここ暫くの女といえば。
警察署とホテルの往復。
惰性のように続ける食べ歩きのルーチン。
奇数日はサンドイッチ。偶数日はベーカリー。
まるで何も変わりなかったかのように、…その頻度こそ多少落ちるが勤務後の食べ歩きも続けるほどだった。
ダニエラ・エーコという巡査はそうあるものだから。


「……。」

さて、そして、そんな帰り道だろうか。
何故か猫に懐かれた女は足を止めている。
…いつかパン屋のお兄さんが困り果てていたのを思い出す。
確かに間違えて蹴飛ばしてしまいそうだ。動けない。

ならば抱き上げればいいのだと、割と真っ当な結論に至った女はしゃがみ込む。
そこでもう一度動けなくなった。猫とはどのように抱くものだろう。

「…………。」

諦めて、ゆっくりその手を伸ばしてみる。
右手だ。腕には時計がついている。
触れるというにはおっかなびっくりなしぐさでその身体についた葉や土を払おうとする。

女はこの歳にして猫に触れたことがなかった。
(!2) oO832mk 2023/09/21(Thu) 17:50:53

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

葉っぱを払い、ついでにふうわりその背を撫でる。
嫌がる様子を見せない猫の様子を見て、戯れるように指先が額や喉元へと伸びていく。

少し触れてみると、あっという間だった。
元から遠目に眺める猫のことは好きだったのもあるかもしれない。
そうして首筋にその指先が伸びたとき、柔らかな毛に埋もれた首輪に気付いた。
…このケーキ屋の猫だろうか。

迷うような素振りのあと、遂に意を決した。
そうっと猫の身体の下に手を差し込むと、背を撫でたよりずっと柔らかな手触りと体温が伝わってくる。
ゆっくり抱き上げたところでどう落ち着けたらいいのか分からなくて暫くぶらん。
…下手くそな抱き方だったけど、それからどうにかこうにか形にはした。

首輪の住所に向かう。
革靴がいつもより少し控えめに、こつこつ。
(!4) oO832mk 2023/09/21(Thu) 19:00:32

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → コピーキャット ペネロペ

受け取ったテディベアを見つめると、人目もはばからずやおらに抱き締める。

「…はあい。」
「ありがとうございますう…」

そうして諸々については承諾した。
お茶なんて。このテディベアだけで十分だったのだけれど。

あなたがそうして立ち去ったあとも、短い時間だけ女はその場に残る。
同じ色のウィッグに少しだけ顔をうずめて、微かにその肩を震わせた。
(-232) oO832mk 2023/09/21(Thu) 19:15:50

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

勤務帰り、女は必ず自宅のアパルトメントに立ち寄る。
根城としているアジトはここより少し遠く、前あったアジトより更に遠くなったが、それでもここに立寄ることだけは欠かさなかった。

部屋にはかなりの数のダンボールが積まれている。
地震でも起きれば雪崩が起きそうなもの。イタリアは地震の多い土地だ。
そのダンボールの、真ん中で。

「…はあ。」

呆れだか溜め息だか、どちらとも取れない声を上げる。
……多分両方、しっかり含有していそうだ。
そうして疲れた眉間を揉みほぐし、ぱたんと端末を片付けた。

「…まあ」
「いいですけどお。」

そう呟く口許が微かに緩む。
べちゃりとデスクに頬を預けると、それも歪み冷たさだけが頬に移った。
…そうやって90度回転した視界に何かが映る。
ダンボールの山の中に少しも紛れられていない、ボストンバッグにスーツケースだ。
(&2) oO832mk 2023/09/21(Thu) 20:51:30

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

……。
身体を起こす。重いんだ。これは。
結局、中身は何なんだろう。

「……。」

また眉間に皺が寄るのに気付く。
持ち帰る間の、墨を落としたような心地がにわかに思い出された。
あれから、別に状況は何ひとつとしてよくなってはいない。
寧ろ悪くなっているはずだ。
…現実だけをただ見つめれば、もうこの手の中には何も残っていやしない。
(&3) oO832mk 2023/09/21(Thu) 21:28:58

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

「………。」

考えないようにしていたことが、すうと脳裏を横切っていく。
バッグの隣に膝を抱えて、ミントブルーの瞳を伏せた。

日差しが傾き、窓から差し込む赤い光に照らされる。
小波の音が聞こえる気がした。
瞼が少しずつ、重くなる。
そういえばここ数日は、あんまりしっかり眠れていない。
波の音に紛れ、歌声も聞こえるような気がしてきた。
髪を撫でる手が、ひとつ、ふたつ。…みっつ。

そして。





……寝息が、微かに聞こえている。
膝を抱えていた手がゆっくり、ことり、と床に落ちた。
(&4) oO832mk 2023/09/21(Thu) 23:06:05

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

ある日の警察署。
あなたのデスクに近寄る女の姿がある。

「……リヴィオさあん。」

ゆるり。間延びした声に、周囲の空気が弛緩する。
思えば女の様子がおかしかったのは、あの日1度きり。
あとは変わらぬ気怠さとともに、毎日職務に向き合っていた。
(-281) oO832mk 2023/09/21(Thu) 23:36:34

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

「ニコロさあん、…どおもお」

女は――笑顔だった。
けれどいつもの眼鏡はない。
どんな時でも、女は笑うことだけは得意だった。


「お仕事お疲れ様でえす。」
「…ニコロさん、【A.C.A】だったんですねえ。」

知りませんでしたあ、といつもの間延びした声。
へらりと笑って、革靴の底を鳴らしながら近付いてくる。
(-300) oO832mk 2023/09/22(Fri) 3:00:29

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「ええ?あたしにい?」
「どうかしましたかあ。」

小首をこてん。
ややあって、取り出されたものにわあと表情を輝かせた。

「いーんですかあ?やったあ」

戴けるものは戴く主義だ。
それは嬉しそうにお礼を言って、へらりと笑いかけている。

「あたしい。…あー。」
「あたしの要件はあ……」
「…んー」

本当は、とある人からあなたを『調べる』よう言われここに来た。
用意してきたのは犬のヘアピン。…正確には小さなヘアクリップ。
それと、もうひとつ。
仕込み
のされた、銀のヘアピン。
いつものように、それを渡すだけでいい。いいの、だけれど。


「…せっかくですからあ」
「ここで食べても、いいですかあ。」

「リヴィオさんも食べましょお。」
「2個、ありますしい。」


そう言うと、自分のデスクから椅子をからころ引き摺って。
ちょこんと座った。返答を待つより前のことである。
(-303) oO832mk 2023/09/22(Fri) 3:23:49

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ

ダンボールの積まれた部屋の中。夕焼け色に照らされてまどろむ。
子供の頃はよくこうして膝を抱えて眠っていた。
もしお母さんが帰ってきたら、すぐに起きてお出迎えできるように。

そんな女の傍らには、アレッサンドロ・ルカーニアからの預かり物。
ボストンバッグに、スーツケース。
…開けるな、と。
そんな指示すら只管に守り続けるような女だったから、それが開かれることはない。
だから女が、その中身を知ることはないはずだった。

…噂に聞く『情報屋』に会えるのならば、話は違うのだろうけど。



/*
お疲れ様です、おさとうかえでです!
上記の通り、黒眼鏡さんよりお預かりしているお荷物の中身を知るのに情報屋さんのお力をお借りしたくてご連絡致しました。

お手数をお掛け致しますが、何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
(-305) oO832mk 2023/09/22(Fri) 3:42:53

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

椅子を引き摺りながら、頷く姿にまたへらり。
着席すると、紙袋を開いてフォカッチャを取り出す。
ひとつあなたに差し出して、手を合わせた。

「あははー。リヴィオさんてばあ」

口が上手いなあ。でも悪い気は別にしないのだ。
無理して食べなくてもいいですよおとは声掛けて、自分のフォカッチャを少し齧る。

「…やっぱり、人が減ったしわ寄せとか…ですかあ?」

その瞳はぼんやりと、あなたの仕事の跡を見つめた。
ものの1週間ほどで、瞬く間に警察署の人間が逮捕されていった。
警部補に上級警部まで逮捕されて、署内はきっとどこもてんやわんやだ。
(-316) oO832mk 2023/09/22(Fri) 7:50:06

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

「Esattamente. 今、外は大騒ぎですよお」
「知ってますかあ。ニコロさん。」

常と変わらない、気怠げな弛緩した空気で。
常と変わらない、朗らかな微笑みを浮かべながら。

「…あれだけ騒がれますとお」
「立場上、逮捕しないわけにはいかないんですよねえ。」

なんて嘯く。最初からずっとその気だったくせに。

「ニコロさんには、お世話になりましたからあ」
「…胸が痛いですう。わかってもらえますか?」

そう忍ばせた。これだけは、本心だ。
信じてもらえない方が、絶対にいい。
(-323) oO832mk 2023/09/22(Fri) 8:15:04

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

「ええ?それ、聞いちゃいますう?」

からからと、それでも控えめな笑い声。
まるで歌でも歌うように、明るい声音が嘯いた。

「あたしの目的はあ」
あなたたち
にいなくなってもらうこと、ですよお。」

これは、本当。


「だってえ。そうでもしないとお」
「いつかあたしが、逮捕されちゃうかもしれないじゃないですかあ。」

これも、本当。


「ニコロさんが逮捕した、カンターミネ・ヴォーフル。」
「あたしの、幼馴染なんですよお。」

これも、本当。


「――たったそれだけの理由でえ」
「無実のあたしが逮捕されるなんて、おかしいじゃないですかあ。」

これが、嘘。


虚実を織り交ぜ、女はいう。
曰く、正当防衛である、と。
そんな身勝手な女である、と。
…そのために、あなたたち摘発チームを解体するのが目的だった、と。
(-354) oO832mk 2023/09/22(Fri) 12:47:13

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「なるほどお…。」

フォカッチャを口元に寄せたまま、静かに感心の声。
…みんなが戻ってくる日は、来るだろうか。

そのとき、自分の居場所はもうないだろうけど。



「…【A.C.A】って、警察の人…ですよねえ。」
「どうしてこんなに、警察のことも摘発していくんでしょお」

きっとその殆どが冤罪だろうに。
そう、ぽつりと言ちる。
まるで、自分のことじゃないみたいに。
(-359) oO832mk 2023/09/22(Fri) 13:21:26

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ

同じ景色に、知らない誰か。
それをすんなりと受け入れたのは、これが夢だと分かったから。

記された文字を見つめる。
なんだこれは。まさか開けると思っていたのか。
浮かんだのはそんな憤り。子供みたいに、少し拗ねる。

それでもそんなものを、その当人に預けたのだ。
もしかしたら逆に、信頼の証と受け止めるべきかもしれない。
そう浮かんだところでつい口元を歪めた。
信頼されていると、思いたいんだ。あたしは。
(-377) oO832mk 2023/09/22(Fri) 16:04:23

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ



「…開けちゃ、だめですう。」


女が悩むことはなかった。


「でも、あなたは」

「中身を、知ってるんですかあ」


そうして無垢な瞳で問いかける。

女はほんとうのことを知りたかった。
この荷物がそれを、教えてくれるかはわからなかったけど。
(-378) oO832mk 2023/09/22(Fri) 16:05:57

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

煉瓦道の一角。人気のケーキ屋。この店のことは知っている。
だけど、ダニエラ・エーコのルーチンには存在しない店だった。
だから、立ち寄ったことはない。

「つめ…?」

小首を傾げ。両手は猫を抱いている。
今はお見せすることが出来ないが、
左手小指のエナメルは、傷が入って、剥がしもされずにそのまま。

けれどまあ、返答としては「ネイルなら少ししてまあす。」とそんなものだろう。
問題はどこから、その話を聞いたのかであるが。

猫を差し出す。
手放しても、数秒程はその体温が手の平に残っていた。
(!6) oO832mk 2023/09/22(Fri) 16:24:18

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

きょと、と丸くした目は、確かに動揺からきたものだった。
だけど本当にひとつの瞬きの間に、口を歪めて笑っている。

「そおですねえ。」

あなたの心地と相反して、弛緩した声。
間延びして。気怠げで。――そんな、いつも通りの。

「もしそうA.C.Aだったら、1番嫌だから。」
「…あんまり知られたくないこと、知られてたんですよお。ニーノくんにはあ。」

それが何なのかどころか、そんな理由だったことすらも知らぬまま、彼は牢獄へと押し込まれてしまったわけだが。

「悪いことしたなあって、思いますよお。」
「あれは、あたしの不手際でしたしい。」

女は何ひとつ、嘘をついていない。
ただその態度に何ひとつとして反省も後悔も見えないだけ。
笑って自分の想いを隠すのは、得意だったから。
(-396) oO832mk 2023/09/22(Fri) 18:03:43

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 情報屋 エリカ

あなたの声以外はひとつとして音のしない、
それは、本当に静かな時間だった。
最初はただ黙って聞いていたに過ぎなかった女だったが、
徐々にその口を引き結び、息を呑み、目を伏して。



――狭い車内と、遠く夕陽の海を望む。
その後ろ頭と流れる景色を、瞼の裏に浮かべていた。
(-406) oO832mk 2023/09/22(Fri) 19:08:06

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 情報屋 エリカ

目を、開く。
静かな時間は続いていた。
無音で首を振る。…そうしてようやく、口を開いた。


「少し、悩んだんですけどお」
「読まないことにしましたあ。」

「読むのはあ」
夢から覚めてから
にしますう。」


もったいぶって、そういって。
へにゃり、と、頬を緩めて笑う。


「そおしたらあ」
「言い訳なんて、しようがないと思うのでえ。」

「それで、ちゃあんと、向き合って」
「…そのあと、考えよおと思いますう。」


続いたのは、暢気にゆらりと、間延びした声。
「ありがとおございましたあ」と、向き合うきっかけをくれた、あなたへ。
(-407) oO832mk 2023/09/22(Fri) 19:08:58

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

「そおなんですかあ。」

へらり。感想は、それだけ。

「ふふー。でも、嬉しいですねえ。」
「ちゃあんと仲間だって、思っててくれたんですねえ。」

一緒に街を見回って、休み時間は笑いあって。
あなたの作ったお菓子を食べて、また作ってくださあいなんておねだりをする。
そんな日々。
その日々は決して、嘘だけではなかったけれど。
嘘だとしていた方が、あなたにもきっと都合がいいはずだと女は信じていた。


「…んー。聞いちゃいますかあ?それえ」
「でもその答えを、聞いちゃったらあ」

「アリーチェさんも」
ニーノくんとおんなじとこ
に」
「連れてかれるかもって思いませえん?」

無垢そうな瞳で、恐ろしいことをいう。
そうしてまた何もなかったみたいににこりと笑った。
それだけは教えられないのだ。この女は。
だからそんな言い方で、あなたのことを牽制している。
(-412) oO832mk 2023/09/22(Fri) 19:37:06

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「あはー。なるほどお。」

頷く。暢気なものだ。
またフォカッチャを、ひとつ齧る。

「でもお、それじゃあー」
「もし。…もし、お話を聞けたとしてですよお?」

そういうの
じゃなくって、ほんとおに悪うい人だったらあ」
「リヴィオさんは、どおしますかあ?」
「…やっぱり、逮捕、しちゃいますう?」

こてり、と。首を傾げて、ミントブルーがあなたを窺う。
流れるのは、ただの雑談の延長だと嘯くような、日常的で、穏やかな空気。
(-414) oO832mk 2023/09/22(Fri) 19:59:24

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

運ばれていく猫に、指先だけで手を振って。
その頃には手の平に残っていた柔らかさも温かさも消えている。

「…あー。色男さあん。」

ブーケを受け取る。…浮かぶ顔は2つくらいあった。
しかしタイミング的に、片方に絞ることもできそうだ。
…そうやってだれかの顔を浮かべながら花束を見つめるその瞳には、僅かな寂寥が乗った。

「色男さんはあ、このお店、よく来るんですかあ?」

おもむろに顔を上げた女は、気怠そうに間延びした声でそう訊ねる。
ブーゲンビリアは胸の前。香り立つことなく、ただ鮮やかに。
(!8) oO832mk 2023/09/22(Fri) 20:38:41

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「…あたし、ですかあ。」

問い返され、女は僅かに眉を下げる。
口元の笑みは変わらぬまま。少し、困った様子。

「リヴィオさんみたいに、人ができてないのでえ」
「捕まっちゃえって、思いますねえ」
「…だって、
許せません
からあ。」

ニーノくん。イレネオさん。
テオドロさん。ニコロさん。ヴィンセンツィオさん。
…実際に悪事を働いていたとされる上級警部を差し引いても、
きっと罪のない仲間たちが4人も牢へと送られた。


「私刑…って言っちゃえば、そおかもしれませんけどお」
「悪いことした人を裁くために、法ってあるんじゃないですかあ」

そんな理想を、語る。許されざる悪人が捕まって。そして。

「…それにい、もしかしたらあ」
「その人に逮捕された人も、釈放とかされるかもしれませんしい?」

罪なき人が元の生活に戻る、大団円。
本当にそうなったら困るのは自分だというのに。
どこかで口に出して消化してしまいたかった。…これも、紛れのない本心。


「…なあんて。流石に出来すぎますよ、ねえー。」

けらけらと、女は自分の言葉を控えめに笑い飛ばす。
どんなときでも本心を隠して笑えるのは、女の特技だった。
(-429) oO832mk 2023/09/22(Fri) 21:10:31

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ

―――ぱちり。

積まれたダンボール。窓の外の夕焼け空。
幾度かの瞬きを繰り返しここが現実であると悟った女は、傍らにある2つの鞄を見た。

立ち上がる。スーツケースを、部屋の中央へ。
一瞬躊躇いはするも本当に一瞬だけのことで、意を決してそれを開いた。
中身をひとつひとつ見つめる。
夢と同じであることの確認を取るだろうか。

そして。

カサ、と最後に手にしたもの。
それを、ゆっくりと、開いた。
(-447) oO832mk 2023/09/22(Fri) 21:58:29

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

「……アリーチェさん。」
「振り込め詐欺とか、気をつけた方がいいですよお?」

信じようとしてくれる人間をただただ茶化すように。
いつかきっと口にした言葉。そのときの印象通りのあなたへ。

竦む身体でそれでもなお、甘えた言葉をいうあなたをミントブルーが映している。
笑うことしかできないから、ただただ笑みを浮かべたまま。
……純粋で、綺麗なひと。


「あー…。それなら言い方を変えましょおかあ。」
「世の中知らない方がいいこともある、…ってことですう。」

ゆらりと女は左手を持ち上げる。
小指にはマリーゴールドカラーのエナメル。
しかし少しだけ欠けていて、塗り直しもされず少し不恰好。
そんな左手であなたの髪に触れようとする。
くすりとやっぱり、変わらない笑顔を乗せたまま。

「…せっかくのきれいな髪、鉄格子の向こうでぼろぼろになるの、あたし、見たくないなあ」
(-450) oO832mk 2023/09/22(Fri) 22:13:48

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

ミントブルーの瞳を細め。
女は乱視だったから、それでもあなたの顔はぼやけていた。

「――もちろん」

にっこりと笑う。
まるでピザを奢られた時と同じように。

「あたしは、やられる前にやっている…」
「ただ、それだけですからあ」

「同じだってことは、もちろん承知の上ですよお。」

分かっていて、己のためにそれを行い、振り翳す。
それを人々は
悪人
と呼ぶ。
そう呼ばれ思われ恨まれることを女は望む。
中途半端に信じたままより、そっちの方が絶対に幸福だと信じているから。


「まあ…それじゃあ。」
「ご理解頂けたよおですし、そろそろ行きましょおかあ」
「…ニコロさん?」

そういう女の手の平の中には、鈍い銀色の手錠が煌めいていた。
(-452) oO832mk 2023/09/22(Fri) 22:27:25

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 月桂樹の花 ニコロ

「……さあ、どおでしょお。」
「あたしは、嘘つきですからあ。」

…笑顔だけは、崩さずそのまま。
罵倒される心づもりまでは、できていたのに。


あなたに近寄り、手が伸びる。
マリーゴールドの色をしたエナメルが、この日も両手の小指に咲いていた。
そこに握られた、手錠が、

―――かしゃん。


 
いつかあなたにリクエストした『子守歌』。
あれはカンターミネ・ヴォーフルが、眠る女に歌って聴かせた曲だった。
…女の胸にはあの歌声も、あの日のハーモニカの音色も未だに残り響いている。

そのどちらもをこの日同時に失ったわけだが。
嘆く資格なんて、当然女に残っているはずもないのであった。


そうして、女はあなたを逮捕した。
「後悔するなよ」、その言葉には、何も返事を返せなかった。
(-468) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:34:54

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ

開いた紙に書かれたものを。
読んで、女は

「…あー。」
「なるほどお。」

…これは、

「ずっっるいなあ……。」

――さて、どう向き合おうか。
心だけは、もうとっくの昔に決まっていたけれど。
(-470) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:39:41

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

――あれから。

目を覚ました女がまず行ったのは、ここ数日1度も開けようとしなかったこの『預かり物』を開けることだった。
スーツケースを部屋中央まで引き摺って開く。
しばしがさごそと何らかを行う物音がして、最後にぱたりと閉じられた。

「…さてと。」

とりあえず、ひとつ決めたことがある。
やっぱり1杯くらいで許してやるのは絶対にやめてやると、そんなことだった。
(&5) oO832mk 2023/09/22(Fri) 23:45:15

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → pasticciona アリーチェ

そうやって笑い合ったあの日、こうなるなんて思っていなかったのは女もおなじ。
あたたかな日差しの下でうとうととまどろむような、本当に幸福な日々だった。
同じ言葉を違えることなく言えるのだから、女にとっても些細なものではなかったのかもしれない。


「そおですかあ。よかったですねえ。」

それを他人事のように切り捨てて、そうやってここまで歩いてきた。
これまでの幸せな日々を削って。全部嘘だったと騙って。

それだというのにまだあなたは、やさしい、甘いことをいう。
触れる髪すら震わせながら。それが女は、
とても█しい


「――そう思うんならあ」
「もお、この話はやめにしましょうかあ。」
「ただでさえあたしの秘密を1個知っちゃってるんですしい」

歌うように間延びした明るい声。
するりと指先をあなたから離すと、かつ、かつ、革靴の靴底を鳴らして2歩、あなたから離れた。

「…誰にもあたしのこと、話さないでくれるならあ」
「見逃してあげましょお」

「大サービスですよお、アリーチェさん。」

女は、嘘つきだ。見逃してなんかやるつもりはない。
だけどこう言って裏切れば、自分を今度こそ恨んでくれるんじゃないだろうか。
前の2人では失敗したから、今度こそ

…そんな思いが確かに、女の胸の中にはあった。
(-486) oO832mk 2023/09/23(Sat) 0:38:45

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ

革靴の底が鳴る。こつ、こつ。
牢獄を繋ぐ通路。…目当ての場所まで、真っ直ぐに。

「…ミネ」

とある牢獄の手前で立ち止まった女は、底に収容されたあなたへ声をかける。
今は、眼鏡を外していた。
不安げで悲しげな面持ちが、そうっと檻の中を覗く。
(-492) oO832mk 2023/09/23(Sat) 0:56:11

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ

乱視の視界に鮮やかに灯るライムグリーン。
女には
受け止める
意気地がなかった。
…そんなあなたの様子や顔色をだ。

「…」

いつも通り、――ううん、ちょっと違う。
ただそれだけなのに胸が痛い。
そうっと手を持ち上げる格子に触れて。
指先には、ぞくりとするほどの冷たさだけが残った。

「…あはー。そおだよねえ。」
「ミネはちょおっと、盗聴とかそゆことしてただけでえ。」

…頬を緩めて、へにゃりと笑う。
この特技はきっと、こんな時にこそ役立てるべきものだった。
それにしても発言は身内贔屓が過ぎるが。

「……あたしは。」
「だいじょおぶ、元気だよお。」

えへへと笑って、左手を翳す。
少し傷が入ってしまっても剥がさずにいるこの小指のネイルは、あの日あなたに塗ってもらったものだ。
…だから、大丈夫。ダニエラ・エーコは、まだ頑張れる。
(-531) oO832mk 2023/09/23(Sat) 4:45:17

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「…そおですねえ」

こんな話題のお供でも、フォカッチャはすぐに減る。
ダニエラ・エーコという巡査の、1番正しい挙動をなぞる。

「来るといいなあ、そんな未来」

来てはいけない、そんな未来は。

普段と遜色なく女は笑う。
こうなる前の、普段と。
温かい日差しの中で、まどろむようだったあの日々と。

「あ、そおだ。リヴィオさん。」

フォカッチャもあと欠片と差し掛かったところ。
お口直しと水を1口、口の内を、潤して。

「…犬と猫」
「前、
最近は
猫が好きって、言ってましたけどお」

「今は、どおです?」
「今も猫の方が、好きでしょおかあ?」

ことん。ボトルを置いて、小首を傾げる。
(-538) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:29:12

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ

――へらり。
…やっぱりそれは、いつも通りの緩い笑みで。

Certamente.もちろんですよお
「…ありがとおございますう、アリーチェさん。」
…ああ。信じちゃった。
本当に、純粋で――綺麗なひと。


ひらりと、離れた足そのまま手を振った。

「じゃーー」
「これまで通り、仲良くしましょおねえ。」

かつ、かつ。靴底を鳴らし、離れていく。

こうする度に、浮かぶ言葉が胸を刺すけれど。
その言葉だけは口にしてはいけないから、胸の中で何度も押し潰した。
(-540) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:38:55

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

へらりと緩い笑みで頷く。

「えー、それじゃあ」
「看板のティラミスを――」

ダニエラ巡査は、そう笑って。
この日ホテルに持ち帰ったのは、ブーゲンビリアの花束と、ティラミスがひとつ。
(!10) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:42:33

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 口に金貨を ルチアーノ

そのケーキ屋で、女はすぐにそのカードに気付いた。
身に染み込んだ技術がそれを一切表沙汰にしなかった。

ほんの一瞥でそのメッセージを読んだ女は顔色ひとつ変えない。
まるで、最初から、そう。
そういう仕事をしていたみたい


――このカードの送り主がこの場にいたのなら、そんな些細な様子にだって気付くことはあったのだろうが。
きっと、目の前の店員は気付けない。気付かない。

…ありがとお、お兄さん。
あたしもお兄さんを
信じて
ますからねえ。
(-541) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:47:13

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ

守りたいものが、あった。ひとつ、ふたつ。…ふたつとも、こぼれ落ちて行く。
守ることができなかった、その想いだけで枷なのに。
そのふたつの現在いまを知ると今度こそ先に進めなくなってしまう。


「…ふふっ。」

何がおかしいのか、あなたの様子を見た女は笑う。

「…大丈夫だよお、ミネ」
「カメラとか、全部、弄ってきたからあ」

びっくりしたあ?なんて女は悪戯に笑った。
元から女は警察に忍び込む内通者。これくらいなら、易くあり。
…更に言えば、上層部が検挙されたこの署内を好きにするのは、日頃より少し、更に易かった。

「…あんまり長くは保たないけど、でも」
「話したいことが、あったのお。」

とはいえリスクは多分にある。
毎度面会でこんなことはしていられない。
…リスクをとる必要があったのだ。だから、今こうなっている。

「その、お兄さんのこと、なんだけどお。」
「…ううん、あんまし長く話す時間もないしい、要件だけ、言うねえ。」

指先が上がる。5本。時計を見ながら、1本減った。
時間の猶予は、それだけだ。

「ミネのモーテルに、まだ仕事道具が残ってるなら」
「場所と使い方、教えて欲しいんだあ」
(-542) oO832mk 2023/09/23(Sat) 6:58:20

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → マスター エリカ

指先のエナメルを眺めた。
傷がまた、ひとつ増えている。

左手小指のエナメルは約束の証だ。
だからどれだけ傷がついても、女は剥がしたりしない。

「……今度こそ」


どっちつかずの蝙蝠が、どちらの居場所も認められるなんて間違ってる。
…犯した罪は消えやしないのだから、その分くらい、憎んでもらわないと。

/*
お疲れ様です。おさとうかえでです。
重ねまして、情報屋ロッシありがとうございました!

discordにて先にお伝えしておりましたが、本日の襲撃対象は
アリーチェさん
ということで本人に予告も済ませております。
よろしくお願いします!
(-566) oO832mk 2023/09/23(Sat) 9:54:52

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「えー。いいなあ。」
「あたし、犬の方はまだ会ってなくてえ。」

最後の欠片も、ぱくり。
咀嚼し飲み込むと、また水を1口、流し込む。

「でも猫は、触りましたあ。」
「…ぐーぜんですけどお。」

猫カフェも調べてたのになあ。
そうからころ笑って。
どっちが好きかは、犬も触ってから決めまあすなんて。

指先をナプキンで拭いて手を合わせる。

「ごちそうさまでしたあ。」
「ふふ。結局リヴィオさん、食べませんでしたねえ。」
(-569) oO832mk 2023/09/23(Sat) 10:06:20

【念】 傷入りのネイル ダニエラ

ひと回りほど小さくなったアジトのデスク。

7色の缶の紅茶アソート。
薄紅色のバスボム。
ライムグリーンのウィッグのテディベア。
ブーゲンビリアの花束。
そして冷蔵庫の中には、少しお高めのチョコレート。
部屋の片隅に、大きなボストンバッグとスーツケース。
鞄の中には、15mlの小瓶が複数と、脱脂綿にオイル。


この部屋にある、女の私物はそれだけだった。
女の自室とまた別の意味で、生活感のない部屋だった。
けれど変わらず、その部屋の明かりが消えることはない。
帰ってくる時女は、誰もいないその部屋に必ず、「ただいま」といった。
(!12) oO832mk 2023/09/23(Sat) 10:33:23

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「ええー。いいんですかあ?」

間延びした口調のまま、そのトーンだけが微かに持ち上がる。
嬉しそうに女はへらりと笑った。
この笑顔は決して嘘ではなかった。


「んー。そおですかあ?」
「お疲れ様ですねえ…。あ」

思い出した、とでもさも言いたげに立ち上がる。

 
懐には2つの小物。
犬の小さなヘアクリップと、銀色の大人びたヘアピン。
犬のヘアクリップはごく普通の購入品。
だがヘアピンの方には仕込みがされている。


「リヴィオさあん。」
「ちょおっと、じっとしててくださいねえ」

あなたに近寄り、手を伸ばす。
女にはあなたを調べねばならない理由が2つあった。
だから、迷う必要なんてどこにもない。


そうして、ふたつの中からひとつ。
女はその手の中に、選び取る。
(-586) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:16:02
ダニエラは、ふたつの中から、犬を選んだ。
(a23) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:16:18

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

…そうしてそれを、あなたの前髪に。丁寧に。

「ふふー。お手伝い、でえす。」
「…本当に、お忙しそうですからあ。」

満足げに、微笑みかける。
そしてあなたから離れる刹那、衣服のポケットへ銀のヘアピンを滑り落とした。


それまでの人生、受け取ってばかりだった女は、
あなたが贈り物のヘアピンを大事にしてくれるのが本当に嬉しかった。
…だからこそ、この銀のヘアピンをあなたへの贈り物にはしたくなかった。
今までの贈り物と、同列にしたくなかったのだ。
(-587) oO832mk 2023/09/23(Sat) 11:17:03

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ

「やあだ、王子様はあ、ミネだもん


そう口を尖らせたのも一瞬のこと。
すぐに和やかににこりと笑った。

ありがとう。信じてくれて。
その言葉だって本当は嬉しいんだ。
でもただ守られるだけのお姫様では、やっぱりいたくなんてなかった。


立てた指が曲がる。1本、2本。
その間あなたの言葉を1字1句忘れることなく聞いた女は、密やかな吐息をまたひとつ落とした。

「…うん。ありがとお、ミネ。」
「でもお、あたしは優秀だからあ。そんなことにはならないよお。」
「…ふふ。見ててよねえ。」

そう嘯いたのだって、もしかしたら強がりかもしれない。
それだってあなたにはわかるはず。だって女は、笑っていたわけだし。

「『マリーゴールド』の子にも、伝えときまあす。」

けれどからかうように、あなたのお転婆姫はいう。
茶化して笑って、ゆるりと変わらないあのモーテルでのことみたいに。

指が、あと1本。
反対の指先を冷たい格子に滑らせて、その向こうに薄い微笑みを向ける。
…本当に、あっという間なのだ。最後の指も、次第に折られるだろう。
(-600) oO832mk 2023/09/23(Sat) 12:12:36

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 歌い、歌わせた カンターミネ

笑んで頷き。
続いた言葉に、一瞬だけきょとん。
あなた相手に身構える必要はないけれど、多分このときの女は他の人に同じことを言われると警戒の色を見せていた。


「…いいよお。なあにい?」

そうして目を瞑ってのしばしの時間。
ゆっくりとあなたが近付く気配がして、…少しして、指先に湿ったやわらかな感触。
それだけでぎゅうと胸が潰されるくらい痛くって、手が届く距離にいるはずのあなたに今すぐ触れたいってそんな我儘が過ぎっていく。

だけど、女はそうはせずしっかりと目を閉じたまま。

指を折るまでの時間は心の中で正確に数えた。
最後の指まで折り曲げた後、目を開いた女は恥じらうようにはにかみ笑っていた。

「…ミネ」
「早くこんなとこ、出られるといいねえ。」
「ミネはなあんにも、悪いことしてないんだからあ」

カメラに載せられるぎりぎりの本音に虚言を添えて。
…ただでさえ小細工もした今日はあんまり長居ができないから、それを別れの挨拶みたいにこつこつ靴音を立てて立ち去っていくんだろう。
(-613) oO832mk 2023/09/23(Sat) 13:34:53

【影】 傷入りのネイル ダニエラ

常日頃、閑古鳥と同棲するそのモーテルは、つい数日前の騒ぎから一転、ここ数日でさらに静かになっていた。
ある雨の日に立ち寄ったのと同じように女はそこを訪れる。
人目を気にして足早に入口へと近付くと、するりとその中へ入っていった。

入口傍のカウンター。
カフェインの香りを撒き散らしながら店番をする経営者の姿はそこにない。
超えて奥にある扉を潜ると、そこはそんな経営者の私室だった。
部屋の大半をキングサイズのベッドが占め、本当に寝るためにしか存在していないんじゃなかろうかと密かに思っていたことは誰にも言っていない。
さらに言えば彼女は徹夜の常習犯でもあったのだから、想像する更に数倍この部屋に価値はないんじゃなかろうかと思っていた。

…実際には、そんなことはなかったと知ったのはつい数時間前のことである。

ペンライトを口に銜えて両手が使えるようにした女は、それからそこで暫く作業を行った。
たった1度しか聞かなかった手順だが忘れようもない。
大切で大好きな、昔馴染みの言葉なのだから。
(&6) oO832mk 2023/09/23(Sat) 14:09:14

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「ふふー。」
「今回も気に入ってもらえて、良かったですう。」

はにかみ笑んで、明るい声。
ありがとうなんて、本当はこっちが言いたかった。

それにしても。
そうして落ちた瞳であなたの額に触れた手の平を見つめる。
まあいいやと割り切れてしまえる女ならばよかったのだが。

「…リヴィオさん。」

また徐に手を伸ばす。
前髪揺れる額ではなく、目指したのはその頬だった。
別に無理にと言いはしないから、拒否をされれば触れることは叶わない。
それでももしまた触れることができたなら、その熱を確信して問うはずだ。
「熱いですよお。具合悪いんですかあ?」って。
(-639) oO832mk 2023/09/23(Sat) 15:44:00

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「……。」

いつも通り。変わらない笑顔。
嘘みたいに笑う。自分の不調も、苦痛も。
女にはその姿に、覚えがあった。


いってきますと声がする。
さみしいな。もっといっしょにいたいのに。
だけど、それをいったら困るから、いい子のかおで、わらって。
「いってらっしゃい」…あたしさえがまんすれば、いいことだから。

「…リヴィオさん。」

そうして笑ったあとはいつだって孤独だった。
誰も自分の不調にも苦痛にも気付かない。
それで不調や苦痛が、なくなってしまうわけじゃないのに。

あなたもそうだとは、言いきれないけれど。
そんな自分とあなたを重ねずいるのは、どうしても女には難しそうだ。
(-654) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:09:40

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

「無理は、だめですよお。」

そのときばかりは、女の顔に、笑顔はなく。
心のままに、眉を下げた。

「ほらあ、倒れたら元も子もありませんしい。」
「リヴィオさんまで倒れたら、あたしもお仕事増えて困っちゃいますしい。」

そんなダニエラ・エーコらしい理由も交ぜて。
…どこまで言っていいのか、分からないけれど。

「今日は、早退にしましょうよお。」
「……なんてえ、だめ…ですかねえ…?」

首を傾げて、そこでようやくふにゃりと笑う。
本当に何でもなかったとき、その方がきっと、断りやすいから。
(-655) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:10:20

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ

――さてそれから、1日2日と経ったある日。
あなたのデスク、または荷物に1通のメッセージが忍ばされていた。


  
相談したいことがあります。
港の××番の倉庫の裏まで来てください。

P.S.恥ずかしいので、誰にも言わずにお願いします。



崩した筆跡でそう書かれたそれには、倉庫の場所の略図も添えられている。
こんな古典的な手法でも、振り込め詐欺にすら騙されそうなあなたなら簡単に騙されてくれると差出人は思ったらしい。
(-659) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:20:44

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ

/*
ここまでお付き合いありがとうございます、おさとうかえでです!
ということで、倉庫まで来ていただいたところをマフィアとの密会疑惑で確保させて頂きたいと思っております。
こんな古典的な方法に引っかかるアリーチェさんは可愛いと思うので……………………

何か不都合ありましたらお教えいただければ軌道修正します!
よろしくお願いします!おさとうかえででした。
(-660) oO832mk 2023/09/23(Sat) 17:22:20

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → favorire アリーチェ

あなたの大事な幼馴染たちはもういない。
そうでなくとも人員が減り多忙を期した警察署内で、あなたのその様子が見落とされたのは致し方ない。
…ともすれば、だからこそ女も、こんな簡単な方法を選んだのかもしれなかった。



「――こちら、ポイントX。」

「被疑者が現れました。」
「…これより、確保に移ります。」


足音より何よりも先。
聞こえたのはそんな声だった。
次いで、かつりと革靴の底が地面を叩く音。
振り返ったあなたの前にいるのは、眼鏡を外した女の姿だった。

手にした無線から何やら声が聞こえ、「了解」と女は短く返す。
弧を描いた口元のまま、ゆらりとその瞳があなたを捉えていた。

「あれえ。」
「アリーチェさんじゃないですかあ」

わざとらしい声だ。
かつかつと、同じ音を立ててあなたへと近付いてくる。
(-675) oO832mk 2023/09/23(Sat) 19:22:51

【秘】 傷入りのネイル ダニエラ → 無敵の リヴィオ

女は人を、よく見る方だ。
いや、人をよく見なければならなかった。
だからきっと、その一瞬の変化だって。

「…よかったあ。」

そうして安心したように笑ったその顔が、一体何に所以したかなんてあなたに知れるはずもなく。
ただこの笑顔は本物だった。
偽物と本物の堺境なんて、意図して笑おうとした時でない限り女にとって曖昧になっていたが、それでも。


「絶対ですよお?」
「明日もこの時間にお仕事してたらあ、あたしが連れて帰りますからあ。」

しかしその言葉の根幹にあるのは、本当にただ心配な気持ちだけではなかったのかもしれない。
あなたがこんなに仕事をしなければならないのも、元を辿れば自分に大いに原因がある。


だから。

「んふふー。いいんですよお。」
「…そのぶん、早く体調、治してくださいねえ」


続いた言葉につい浮かんだのは、
「無敵になんて拘らなくてもいいのに」なんて言葉だったが。
今は、言わない。
これ以上、あなたの手を止めてしまうのも悪いと思うから。
(-677) oO832mk 2023/09/23(Sat) 19:40:14
 


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