人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

言わなければよかった、と。

暖かさを失くし見つめる瞳に思えばよかっただろうか。
熱に浮かされた思考が、判断を間違えたのだと。
でもそうじゃなかった。
例えいつだったとしても、己はそう口にしていた。

ゆえに貴方の優しさが消えゆくのは──当然の帰結。
……だとして。

「──ッ……ち、がい、ます……!」


それだけは否定した。力強く。

「騙してなんかない、オレは!
 あなたたちを、騙してはいない……!」

腹の奥底が震えた。
こわい、おそろしい、でも。

否定しなくてはいけない。
揺らめいていた瞳が初めて強く、意志を持って貴方を見つめた。
(-176) mspn 2023/09/21(Thu) 11:48:41

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
お声がけありがとうございます、ねえさん来てくれて嬉しい…!
ただ申し訳ありません。状況について今不確定なところがありますゆえ、もう少し確定次第のお返事になりそうです……お時間いただきます……
(-177) mspn 2023/09/21(Thu) 11:49:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

何に遮られることなく、真っ直ぐと見つめた貴方の翠は。
不思議な色をしていた。
或いはどこか、寂しくも思えた。
重なっていく声に言いたいことはあって、けれどそれが形になる前に。

「……ゎ、」


手を引かれる、バランスが崩れる。
そうしてそのままに貴方の両腕の中だ。
それは酷く恐ろしいこと……のはず、だったけれど。

「…………」

少し肩に力が籠ってしまっただけで、あとは。
ああ、貴方が望むものに手を伸ばしてくれたのだと。
理解し、うれしさに瞼を落としていた。

[1/2]
(-183) mspn 2023/09/21(Thu) 12:25:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……ぁの」
「きれいじゃないよ、オレ、だって。
 ……スラムで、生きてた」

そうして恐る恐ると形にしていく。
貴方の期待を裏切ってしまうかもしれないけれど。

「悪いこと、いろいろしてる。
 パン屋のパンだって盗んだこと、あるし」

「…………春だって、売ってた」


「ぜんぜん、きれいじゃないんだ。
 きれいじゃないのに、きれいのふりしてる。
 でも……だから」

控えめに、それでも確かに。

「ロメオにいがもし、きれいじゃなくてもね」

両腕を己よりずっと大きな背へと、回す。

「……だいすき、変わらないよ」

"心配しないで"を伝えるように。

[2/2]
(-184) mspn 2023/09/21(Thu) 12:27:20

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

真っ当だ。
だからこそすぐに言い返せなかった。
貴方がマフィアを良く思っていないのは知っている。
初めて法の施行が言い渡されたとき、笑っていた姿も覚えている。

仲良くしていた、その事実を否定することはできない。
言えるのは知らなかったとそれだけ。
しかしそれも大した意味を持たなくて。
なら、なにを、いま?


「…………っ、」

音にびくりと震えた直後には、じゃらり。
腕を掴まれる、両腕を繋ぐ手錠が音を落とした。
なにを、いま。


「……な、かよくしてた。
 でも、知らなかった。
 あの人が、どんなことしてるのか」

「騙したりしてない、ほんとうに……
 警察のこと言ってもない、なにも」

重ねる毎に響かないだろう現実を痛感するばかりだ。
どうしたらいいのかわからない、思考がぐらつく。
ただあなたに信じてもらえないことが、ひどくかなしくて。
──こわい。

「……だ、ましてない……なにも、しりません……」
(-187) mspn 2023/09/21(Thu) 12:45:41

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

へんな気分だ。
全てをいいんだと許されていく。
それでもきれいなのだと告げられる。
昨日までは友達だったひと。
今日からは家族のように想うひと。

大きな腕の中に抱かれていると、安心した。
まるで昔からずっとそうしてほしかったみたいに。

「……ありがとう」

貴方もスラムにいたのなら案外、なんて。
ちょっと高望みしすぎか、それにそうじゃなくても。
嬉しい、の次に、己を想って告げてくれる言の葉たちと。
貴方自身が
そう
であると認めてくれたのだから。

それだけでもう十分で……なんでだろ。
酔っているせいかな、胸が締め付けられて。
先の貴方の笑みを思えば一滴だけ、涙が落ちた。


一度詰まってしまった声を抱きしめる力を強めて誤魔化す。
見えてないから、ないしょ。

[1/2]
(-257) mspn 2023/09/21(Thu) 21:07:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……へへ、うれしい。
 でも、逆だってそうだよ」

「オレも、ロメオにいの力になるよ。
 できること……多くないけどさ。
 それでも、オレが叶えられることならなんだって」

貴方のこと、多くを知るわけじゃない。
けれどきっと"家族"を多く知っているのは自分の方だ。
だから、と。

「ね、一緒に色々しようよ、これから」

ひとつひとつ、ぬくもりを教えられますように。
望んだものは夢などではないのだと告げられますように。

「友達じゃなくて、家族っぽいこと。
 ……いいだろ?」

ちら、と貴方を見上げ、いつもみたいに無邪気に笑う。
これから変わっていく明日に想いを抱いていた。
共に居られる日々は変わらないって、信じていたから。


[2/2]
(-260) mspn 2023/09/21(Thu) 21:09:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


──疑わなかったのか、と。

その言葉が耳に届いたとき、声を詰まらせた。
考えたことがないわけじゃなかった。
男はこの世の掃き溜めで生きていた。
十分に薄暗い世界を知っている。
或いは、だから、と考えたことはあっただろう。

それでも己に伝えないのならと明らかにはさせなかった。
もしそうだとしても、言いたくないのならと尋ねなかった。
じゃあ、これは、そう。

知らなかったじゃなくて──

──
知ろうとしなかった
、のではないかと。


だん。

「────い゛ッ!?」


[1/2]
(-266) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:17
ニーノは、ならば、その罰が下るように。
(c12) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:32

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


痛み。

殴られたときのそれじゃなく。
蹴られたときのそれとも違う。
ペン先が皮膚を裂き、抉り。
先にある手骨を割った痛み。

「ぁ、? っ、せんぱ、……ぃ、なんで、」


いたい、いたくてたまらない。
吹き出る汗も滲む視界も、熱から来るものではない。
男は貴方を見た、怯え切った瞳にその笑みを映した。

「……ッ、ゃ、やだ、ごめ、なさ」


嗚咽を堪えて謝罪を形にしたのは条件反射のように。
それでも遠ざかろうと身を引く。
熱と痛みでろくに入らない力で、ペン先が突き立てられた手を引こうとする。

──逃げなきゃ、と、思って
 どこかに どこに?


[2/2]
(-267) mspn 2023/09/21(Thu) 21:50:15

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

先程の笑顔はもうそこにはない。
普段よりよく見えるいつもの笑みを見上げながら。
やりたいの意志を隠さずに示してくれることに眦を下げる。

「作ったご飯一緒に食べたり、とか。
 ……一緒に寝るならロメオにいの家行きたいな、そのうち。
 だめ?オレの家、ちょっと厳しいから」

尋ねながらもゆっくりと身体を離していく。
このままではグラスホッパーが頼めないし、と。
けれど、離れ切ってしまうその前。
少しだけ貴方の頬を掠めるように撫でては、悪戯をした幼子みたいに笑った。

「眼鏡さ、ないほうがかっこいいね」

それだけ告げて、姿勢を正したことだろう。
次いでマスターにグラスホッパーを注文して、…………。

……そういえば店の中だったんだよな、とか、今更のそれだ。
今になってちょっぴり恥ずかしさが湧いた。
誤魔化すように水に口を付ける。
(-335) mspn 2023/09/22(Fri) 9:46:16

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

最後までを暖かく見守り聞き終えてくれた貴方が、次に口を開き話してくれるのは己が知らない時代のことだ。
マフィアについて詳しくもなかった男は今と昔の違いをそこでようやくに知る。
けれど一度広まった印象というものはそう簡単にはなくならないもので。
彼等からの被害も決して無くなったわけではないと、これは周囲を見ていても知るところ。

だから、やはり仕方ないのだろうかと。

落ちかけた視線、されど貴方の言は続いていく。
下がる眦が届けてくれる慈愛に満ちた表情。
鼻先を掠める芳香と混じり、かつての記憶が蘇るよう。
──変わらない。

「…………うん」

変わらないものが、ある。
そう感じる度にどうしてこんなにうれしくて。
どうしてこんなに泣きたくもなるのだろう。


「ちゃんと、ひとつの参考にする。
 けど、……よかった」
「ヴィトーさんが、"間違っている"を言ってくれること」

にぃと笑って届ける表情も幼いころと変わらない。
……のは己で自覚しているものではないけれど。
伸ばした指先は、貴方の服の袖をちょんと摘まんでいた。

「自分の心、よく見えなくなってたけれど。
 それを聞いてようやくちょっと……見えた気がするから」
「でも決まっちゃったもの、変えるのって難しい……ですよね。
 何かしてたら、オレでも変えられるものあるかなあ……」
(-422) mspn 2023/09/22(Fri) 20:42:47

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

押し込まれた瞬間に悲鳴がまた落ちる。
骨が割れる音を拾い上げ腹の底は冷えるようなのに、
ペン先が刺さるその場所は燃えるような痛みを訴える。
片側の手を止めるために動かそうとしても──じゃらり。
金属が擦れる音が自由の無さを示しただけ。

「……な、にも、しらな」

ぐり。


い゛っ
、ぅ」
「っは、……」

「……ゎ……、かり、ませ」


ぐり。


「〜〜ッぁ゛」


ねじ込まれる度に背が丸まり、びくりと身体が跳ねる。
喘ぐように開いた唇から苦悶に満ちた哭き声だけが落ちる。
首を横に振る度に汗と涙がはたりと落ちていく。
息をすることさえままならなくて、こんなの。

[1/2]
(-423) mspn 2023/09/22(Fri) 20:49:50

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ


──地獄、みたいだ。


いたい、こわい、くるしい、やめて。
逃れるための術を探している。
何か伝えたらやめてくれる?
でも本当になにもしらなくて。

貴方にそれを伝えようとしたのだと思う。
顔を上げ、滲む視界にその表情を捉えて。
けれど。

…………なんで。


どんな言葉よりも先に浮かんだものが、形になる。

「……な、んで…………」

「…………、……ゎ、らえる、の……?」


わからない。
わからなかった。
ぽた、とまた頬に雫が伝う。

[2/2]
(-424) mspn 2023/09/22(Fri) 20:52:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「やった!
 料理は……オレ、あんまりできないけど。
 でも手伝うから、火の番するとか……」

好きな食べ物を、なんて考えてくれていることも知らず。
おねだりを受け容れてもらえたのなら満足気。
マスターが早速作ってくれているのをちらと眺めたが。
それもすぐに貴方へと戻して、はたりと瞬いた。

「……なんでつけてたの?恥ずかしがり屋?」

……なわけ、ないだろうなあ。
ちょっとどきまぎした自分と違って、貴方は気が付いているだろうに涼しい顔だし。

「…………うん」

そうして続く、届いていない内の次の約束への返答は妙な間が一瞬空いた。
嫌だったとかそういうものではない、でもさっき聞いたばかりだ。
自分から誘うことはそうないって。
じわり湧き上がる嬉しさに口元がどうしたって緩むから、こてん。
気にしてないみたいだしいいかって、頭を傾けて貴方の肩にくっつけていた。
(-430) mspn 2023/09/22(Fri) 21:14:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

「じゃあ本当にとびきりの作って持っていくから、待ってて?」

貴方の言い方が面白くって、だからくすくすと笑ってしまった。
カッサータはどれくらい作るのが難しいだろうか、今はまだ想像もできないが。
それでも大好きな貴方のためならいくらだって頑張れる。

「そう!オレもう警察だから!
 約束できるよ、まだまだ下っ端だけど」

少しぐらいは何かできるはず。
だからそのときはと、約束の一言には小指だって差し出していたことだろう。
昔からの変わらない契り方。
ぎゅっと絡めて、そうして解いて、じゃあって。
離れる前に両腕が伸ばされていた、気付けば貴方の腕の中だ。

「……へへ」
「うん。
 楽しみにしてる、フィオねえ」

其処は揺り籠同然の場所で。
恐れるものなんて何もなかったから、ぎゅうとこちらも抱きしめ返す。
子どもみたいに貴方の髪にも少しだけ頬を摺り寄せてから、名残惜しくもじきに離した。

そうして今度こそ手を振って離れていくことだろう。
もう少し夜が深くなれば雨も降り始める日のこと。
その晩に貴方は何かを食べてくれただろうか、メッセージででも感想を伝えてくれただろうか。

だとしても──そこに返るものは、何もなかったのだけれど。

[1/2]
(-440) mspn 2023/09/22(Fri) 21:38:51

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


────こえがする。

暗い牢越しに貴方が名を呼んでも、そこにいるのが本当に"弟"なのかはすぐに分からなかっただろう。
冷たい牢の隅、与えられた毛布に丸まって蹲る人影。
声をかけられてもぴくりと跳ねるだけで、すぐに顔を上げない。

幻聴だと思った。
だってここであなたの声を聞くはずがないから。

……それでも、その内に。
緩慢な動作でゆっくりと顔を上げる。
泣き腫らし腫れた瞼も、熱で赤らみ汗ばむ頬も、暗くて貴方にすぐ見えるものかはわからない。

「…………ね、ぇさ、ん……?」


けれど貴方を呼ばう声が掠れ切っていて。
聞き落としてしまいそうな程に弱いものだったことだけは、明らかで。

夢かもしれないと思った。
なら夢でいいとも思った。
身体を動かす、それだけで。
走る痛みに喉奥がひきつる。

[2/2]
(-443) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:08

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
すみません、お待たせいたしました!
まだ最後まで状況は確定しておりませんが、とりあえずはこの程度は……といったところまで分かったのでお返事いたしました。最終的にもう少し酷くなる可能性はありますが、とりあえず、とりあえず……
どうぞごゆるりとお付き合いいただければ幸いです、ねえさん〜……
(-444) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:42

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「え、ほんと? じゃあおしえて!」
「作ってもらうばっかりもくすぐったいからさ。
 オレも作れるようになったら作りたい」

冗談、だとは受け取ることはなく。
貴方が少しでもその未来を描いてくれているならと男は笑った。
……が、続く、ナイショの一言を聞けば少しだけ頬を膨らませる。

「弟に内緒にするんだ〜」

意地悪な言い方だ、とはいえ本当に拗ねたのではないのだけれど。
代わりにぐいぐい……と寄せた頭で貴方を押すようにしていた。

そんなもちゃもちゃとしたやりとりののち、カウンターに置かれたグラスホッパーに気が付けばきらと目を輝かせて。

「わ、ほんとうに緑」

つん……とグラスを謎に突いて感動の声。
そのままそろっとグラスを持ち上げて飲む前に。
誘いを持ちかけられるときょとんと眼を丸くして貴方を見上げる。
込められた意図に気が付けば目を細めて、無意識に微笑んでいた。

「うん。
 じゃあ〜えっと……
 ……兄弟になった日に、乾杯?」

小首傾げつつ、こつん、貴方のグラスと己のグラスを合わせてみる。
改めて口にしてみるとなんだかやっぱり恥ずかしいな。
つい感じてしまえばそそくさと誤魔化すみたいにグラスに口をうけて一口。
思っていた以上にチョコミントだったので感嘆の声よりもいっそ、「えっ……」という動揺の声が出ていたとされる。
(-457) mspn 2023/09/22(Fri) 22:45:34

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

教えがいが出るなら何よりだなって。
嬉しいを素直に形にしてもらえたことに、こちらの胸にも嬉しさがまたひとつ。

「じゃあオレだって内緒するし〜」

何の張り合いだろう。
でも、貴方に言えないことがあるのならそれでいいとも思っている。
その裏にあるものがなんだって変わらない。

きれいじゃなくても、あなたがだいすき。


合わさる視線の先にはきっと己と似た表情が。
通じ合っているみたいでしあわせだった。

「……すっごくチョコミント。
 でも、うん、おいしい」

これまでに口にしたカクテルのどれよりも。
甘くて、おいしくて、忘れられそうにない。
……ううん、忘れたくないのだと思った、ずっと。

[1/2]
(-561) mspn 2023/09/23(Sat) 9:29:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


──そうやってもう少しの間、お酒を飲んだのち。

貴方の隣に出来上がっていたのは、どっぷり酔ったらしい弟の姿だった。

「……あはは、ねむた〜い……」

普段からそうお酒を嗜むことがない身体に、度数の高いお酒を入れ続けていたらまあこうもなる。
触るのが苦手、とはいっていたが、元々そうでなければくっついているのが好きなのだろう。
ずっともたれかかったままだ。むにい。

「ねていい〜?」

赤らんだ頬に、浮かべる笑みはへにゃへにゃと蕩けたもの。
そんな状態で貴方を見上げ、首を傾げてたぶんだめそうなことを尋ねた。

[2/2]
(-563) mspn 2023/09/23(Sat) 9:30:31

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

笑っている。
こわい。

愉しんでいる。
こわい。

声にはまだ優しさと暖かさが残っているようにも思えるから。
だからもっと、こわかった。

そうして、指先が。


「ほんとに、し、らな、」
「ん」


肯定の意は最後の一音まで紡がれずに。
ふれる、唇にやわらかな、

「……?、??」


まるでその刹那だけ痛みを忘れたみたいに。
大きな瞳を丸くさせて、呆けた表情で貴方を見つめ。
何をされたのか分からない、そんな目をして。

けれど。
すぐ、理解する。

──くちづけ、だ。


[1/2]
(-567) mspn 2023/09/23(Sat) 10:01:08
ニーノは、家族以外に触れられることが、こわい。
(c26) mspn 2023/09/23(Sat) 10:01:44

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


「…………ぁ、」


理解したと同時に、青褪めてゆく。
ちいさなころ、なんども、なんども。

身体があついのに奥底がつめたい。
いやだった、きもちわるかった。

「ゃ……だ、ゃ……っ」


声は幼子が駄々を捏ねるそれとおなじだ。
引き剥がすために動かそうと、意識した手には未だペン先が突き刺さったまま。
あつい痛みを脳が再度知覚し始めればまた涙が溢れる。
だって、こんなのなおさら、わけがわからない。

「な、ん……で…………?」


──どうして今、
そんなこと
ができる?

わからない、貴方のことがなんにもわからない。
鼓動が煩いのが痛みのせいなのか、恐怖のせいなのか。
或いはそのどちらもか。
"
たすけて
"と、音も無く唇が動いた。

[2/2]
(-568) mspn 2023/09/23(Sat) 10:04:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

名前が幾度も呼ばれている。
鉄格子越しに貴方の姿が見える気がする。
声が聞きたいと、姿が見たいと願うばかりに見ている夢か。
だとしてそれでもよかったから。

近づこうとした。そのために立ち上がろうとした。
熱が収まらないから足に力が入らなかった。ならば這い寄ろうとした。
手錠に繋がれた両手を地面について、そのまま。
──ズキリ。


「ぃッ」


刹那走る痛みに声を詰まらせて身体を折る。
情けなく地に一度伏せ、それでもと求める場所へ寄ろうとする。
もう少し光の届く場所へ、その体躯が辿り着いたなら貴方にも見えるだろうか。
薄汚れてはいるが酷い外傷はあまりない──ひとつを除いて。

右手の甲が腫れ上がり、
ちいさな穴が開いている

その腫れ方から骨が割れているのだと、人より傷を見たことがある貴方なら理解できるだろうか。


「……ねえ、さ、ん」


[1/2]
(-580) mspn 2023/09/23(Sat) 10:50:48

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


──会いたかった、会いたかったな。


貴方を見上げた。泣きじゃくり続け濡れた瞳で。

──ずっと考えてたんだ、オレの悪いこと。


今のこの状況を、迎えるに相応しい己の悪事はなんだろうと。
熱に浮かされ朦朧とした頭で考え続けたらいくつか出てきた。
そのひとつをだから、貴方に会ったら、言おうとして。

「……ご、めんな、さい」


これが今までの罰だとするなら、ほら、帳尻が合うだろう。

「ごめん、なさい」


思い出す。
この世の掃き溜めの隅。
だれもいない場所で歩けなくなった日のこと。
目が覚めたら暖かなベッドの上にいたこと。

──連れ出された新たな場所陽光の元には、あなたがいなかったこと。


「オ、レだけ、ひろわれて、ごっ、めんなさ、ぃ……」

燻る罪悪感は今になってその重さに耐えきれなくなったように。
頭を垂れた、許しが欲しいんじゃなかった、ただどうしても謝りたかった。
壊れた涙腺がまたはたはたと涙を零したけれど、もうそれもよくわからなかった。

[2/2]
(-581) mspn 2023/09/23(Sat) 10:52:34

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「なんで……」

なんでではない。
剥がされると中々に不満そうだった。
勿論回るアルコールのせいで体温はさらに高くなってしまっている。
冬のカイロにちょうどいいぐらいだろう。

「たて、ぅ」

それでもできる?を尋ねられると、できる!を言いたくなるのが子どもというものだ。
立ち上がろうとして……当然のようによろめいて。
目の前で貴方が見てくれていたので、多分支えてもらったりしていたのかもしれない。

「……たててる……」


だめそう。
やっぱりお泊り会は案外早く来るかもしれない。
(-584) mspn 2023/09/23(Sat) 11:05:57

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

聞こえる声が涙で滲んでいる。
ゆっくりと上げた顔、移る視界に貴方の涙が雨のように降っていた。
なかないで、とおもった。
いつもそうしてくれるみたいに、だきしめたかった。
望みはなにひとつ、この場で叶うものではないのだけれど。

「……ね、ぇさん」
「ごめんなさ、い」

出来るのは案じてそう呼ぶことだけ。
己の謝罪で泣かせてしまったことを……また謝ることだけだった。
そうしてその頃になってようやく──夢ではないのだな、と理解する。
ああ、ならば。

「……ぁ、……にげて」

アレッサンドロ・ルカーニオはノッテ・ファミリーの幹部カポ・レジーム
既にそれを知っているだから捕えられた男は、もうひとつの予想もとうに付いていた。
きっとあなたも。


「つかまっちゃう」
「オレ、だいじょうぶだから」

あんな拷問を受ける姿を想像したら、ぞっとしたから。


「ねえさん、ここ、早く出て……」
(-617) mspn 2023/09/23(Sat) 13:41:23

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

立ててない指摘には、たててる……とまた主張していたものの。
一人ではろくに歩けそうにない男は貴方に支えられたままだ。
そうして目の前に向けられた背を見つめると、ゆっくりと瞬きを一度、二度。

「…………おんぶ」

してもらうの、いつぶりだっけ。
わからないけれど両腕を伸ばすことに抵抗は無かった。
そうして貴方がおぶり上げれば思ったよりも軽いと感じるかもしれない。女子よりは当然重いのだが、男子にしては発育が良いわけではないので。

「あはは、おんぶ」

笑いながらぎゅぅと腕に力を込めたのは、落ちないようにというよりはうれしくて。
緩む頬に癖のあるひだまりの髪が触れて、くすぐったくて、しあわせだった。

「かえる、かえろー、ろめおにい」

呼んで、その内に貴方が歩き出してくれることだろうか。
規則正しいリズムに揺られるのは揺り籠にも似ていた。
少しの間はふにゃふにゃと起きていて、言っていることは「ろめにい」「ろーにい……」となにやら改めての呼び方の模索だったが。
じきに穏やかに寝息を立て始める、安堵し切った子供と同じ。
(-620) mspn 2023/09/23(Sat) 13:55:03

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


己のそれより大きな掌が両頬を包んだ、刹那。
ちかり、フラッシュバック。

底から這い上がる恐怖で息を呑む。
めのまえにいるの、だれだっけ、

すぐに動かない身体は自由を知らず固まったまま。
いきていくために、ひつよう で 

気が付いたのは──"二度目"が触れてからだ。

「ッ〜〜〜……!」
「ぃ、ぅ」


指先を動かそうとする、ずきんと痛んだ右手に声が落ちる。
それでも腕を上げて、左手で貴方の手首を掴む。
わかりやすく震えていた、何かを取り繕う余裕もなかった。

「……っね、ぇ、せんぱ、い、も、やめて」

「わかんない、の、わかった、でしょ」

声は時折掠れて、詰まって、脳がぐらつく。
荒く繰り返す息は最早痛みよりも恐れによるものが勝っていた。
すぐに手折ることのできる力で、それでもと頬に添えられる片方を引き剝がそうとする。

「なんか、いって、」
「おねがい……」


問いかけへの解は無く、落ちた笑いが鼓膜を揺らしただけ。
その瞬間のぞっとした心地を思い出せば最後、乞うように願いさえもした。
(-648) mspn 2023/09/23(Sat) 16:40:19

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

貴方がデニッシュにかぶりつくのを見て、こちらも真似るようにパンドーロを一口。
クリスマスシーズンによく出回るものの年中置いてあるパン屋も多い。
ふんわりとした柔らかさに上品な甘さ、粉砂糖から香る微かなバニラの芳香に目を細めた。
そうしながらも話に耳を傾けていれば、貴方自身マフィアを良く思っているわけではない、が伝わってきて視線を上げる。

「……ヴィトーさんらしい、です」

いなくなればいい、そこまでの感情は同じだとして。
末に望むのが"隣人"であるということが、己が好む貴方の暖かさを示してくれているようだったから。
袖を掴んだ指先はそのまま、払い除けられないと知っていたように。
落とされた言葉はまるで祈りのようにも思えて、それが自身に向けられている事実を噛み締めてはたしかな喜びを抱く。

「へへ、悲しいにはなってほしくないなあ。
 オレ、だからちゃんと前を見ていたいです。
 迷っても、悩んでも……ほら、止まない雨はないっていうし。
 ヴィトーさんもきっと、そうやって歩いてきたんですよね」

小さなころから男が見てきた貴方は、もう随分と大人で。
今でもまだ、あの頃の貴方と同じ齢を重ねることさえできていない。
だから今の自分のような姿は想像ができないけれど、なんとなく、そうなのかなと思ったから。

「……そっか。
 それだけでも、いいんだ。
 すぐに何かするのが難しくても……誰かの安心にはなれる」

「あはは、だめだな〜。
 なんだか急いちゃってそういう、大事なこと抜けてました。
 ヴィトーさんと話してるとオレ、まだまだ視野が狭いんだっていつも思います。
 年の功?もあるんだろうけれどヴィトーさんぐらいになったとき、ちゃんとそういうこと言えるかまだ全然想像つかないや」
(-688) mspn 2023/09/23(Sat) 20:39:03

【墓】 暗雲の陰に ニーノ

冷たい牢の奥で毛布に包まり蹲る。
熱と、痛みの波に耐える為の仕草だった。
浅く呼吸を繰り返す最中に耳にする。
看守の噂話、は。

──君が目を塞いでしまざわるをえないことが、私は一番悲しいよ。

「……ヴィトー、さん」


自分の道を見つめていたい。
目の前にあるものをちゃんと見ていたい。
でも、もう。

だれの、いつの、どんな。
笑顔や言葉を信じたらいいんだろう。
わからないのに、信じたいと願うのはどうしたらいいんだろう。
一つを疑えば全てを手放してしまいそうで、それがこわかった。

ならその前に瞼を伏せてしまった方が、ずっと。

#収容所
(+10) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:07
ニーノは、十九年の人生で自分がした、悪いことを数えている。
(c29) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:39

ニーノは、この現実がこれまでの罰であるなら、帳尻が合うはずだから。
(c30) mspn 2023/09/23(Sat) 20:46:48

 


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0回 残 たくさん

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