(a6) 2022/05/23(Mon) 22:36:02
[だが、そうしてまで生きた先に何があるのだろうか。
思い至るには実に三百年以上の時を必要とした私は、
確かに嫌悪し嘲笑った愚かな人間の一人であった。
しかもそれが、
魔女の子から悪魔の仔となっても尚
世界の歴史の波打ちに在り方を乱されつつも、
悍ましき羽音に怯えながら駒遊びをする日々に対し、
疲れ果てたからこそだったとすれば、真に救えない話であろう。]
[そんな私だからこそ、分かっている。
裏切りを受け入れ、教会の走狗に敢えて身を委ね
与えられる死に期待を持っていたことを
──貴方はお気づきになられたのでしょう?
意識を失う前に聞こえた声が、今も耳に残り羽音を鳴らしている。
まるで呪いのようだった。]
[ 哀れなものだとせせら笑っていた。
いつ気づくだろうかと愉しみにしていた。
魔女裁判を騙る残虐な略奪を繰り返した教会が民衆が、
火炙りにされた女達同様人間でしかないように
どれ程歪みを得ようとも、少年の心も人のもの。
本能とは、朽ち果てる前に種を未来に繋ぐ為に存在する。
その楔から解き放たれて尚欲求だけを持ち続けるなど、
人の身で“こちら側”となるなど、
いつか限界が来るに決まっていたのだ。 ]
[ 形ばかりの笑いの向こう、
冷えた猛禽の瞳が下僕の所作の一つ一つを
じっと射抜くように見つめ続けていた。
犯した失敗も、至った感情のまま人に堕とされようとしたことも
許していないのは明らかであった。 ]
[彼女の言葉に肯き。
シーツを洗う。本当はもっと何かできればよかったのだけど、生憎自分にできることは限られていて、風呂場の場所を教えてもらえば、きちんと覚えますと頷いた。彼女は、この先も自分との関係を持つ事を望んでくれている。
その事が嬉しかった。
風呂場に入った彼女を見送り、
シーツを剥がせば、洗う準備をはじめ、汚れを落とそう。乱れた其れを見返せば、先ほどの交わりを思い出してしまう。自ら此方の逸物を良くしようとする姿は、妖艶というのにふさわしく。
思い出すだけで欲望がせりあがる。
若いなと自らを自嘲し
声を賭けられるまで
悶々と部屋で待ち]
ああ、ありがとうござ…い、
……その、服は
[彼女の姿に思わずと目を逸らしたのは
自分の中の欲望に勝てる自信がなかったため、先ほどの恰好だって此方を刺激してきたのだ。バスタオル一枚なんて、余計にくる。その姿が改めて彼女との交わりを意識させ、体を火照らせるのだから。
彼女の前をそくさと通り過ぎ
シャワーを借りれば、冷水を浴び
頭をひやしただろう]
[これで好きになってもらうって
まだまだ青い自分で、果たしてどこまで食い付けるか。道は長いと考え、滝に打たれ修行する事を真剣に悩むほど、冷水に浸り。それから、冷えた身体では彼女を心配させるかも。と気づき、慌てて温水で洗えば、戻った頃に食事の準備は出来ているか。
――服、向こうにおきっぱなしだった。と
彼女と同様バスタオルで現れることになったのは、お茶目。というより、うっかりで]
すみません、ナナミさん。
服そっちに置き忘れちゃって
[見苦しい姿を見せました。と
反省の顏で現れただろう*]
[ 「満たされた」って性欲以外の何が。
思ったけど声に出さなかったのは
何となくその感覚がわかる気がしたからだ。
「何が」と逆に尋ねられても答えられないけれど
何かが漸く満たされた気がして
満たされた気がすることで足りなかったことを知る。
何かが。いやわかんないけど。
普段なら終わった後は暫くもう放っておいて欲しくなるのに
わけのわからない多幸感に満ちていて
アナルセックスがすごいのか
好きな人との結ばれることがすごいのか
後者だったら美談なんだろうと思うから
後者と思っておくのがよさそうだ。
この充足感が新たな性癖の扉を開いた所為じゃ
ないと思いたいなんて考えて、ふと
もしそうだったとしても許すのは彼だけなのだから
結局美談と思っておいても大差はないと気付、
……いたあたりでアナルセックスに思いを馳せていた
なかなかに酷い思考を引き戻される。
いやいや尻のことばっか考えても仕方ないじゃん?
そのくらいの衝撃だったわけですし。 ]
[ 先に名前で呼んだのは自分のくせに
俺が呼ぶのは引っかかるらしい。
なんとなく浮かんだ不満のまま
なんでだよって突っかかろうとした出鼻は
噛み締めるみたいに名を呼ぶ声にへし折られた。
そんな声で呼ばれてしまえば
些細なことはどうでも良くなってしまった。 ]
やだったら……、せんせぇって呼び続けるけど。
けど……でも、……いいじゃんべつに
ふたりきりのときくらいは、誠丞さんて呼んでも。
ずっと、『先生』以外の関係になって欲しかったんだ。
こんなことまでしたんだし、
なってくれるんでしょ?せぇーんせ。
[ 見返りを寄越せだなんてなかなか性格の悪い台詞を
どうせ叶えてくれるだろうと信じきった甘えた態度で吐く。
何に、とははっきりと名言しなかった。
何になって欲しいのか自分でもよくわからなくて。 ]
[ 途中で一度手洗いに起きた。
その時に彼をベッドに縛り付けてやろうかと思った。
転院させられたとは聞いたが
現状どういう状況なのかわからないなりに
彼をあの病院に戻れるよう何か手伝えないかと
思っていた気持ちに嘘はない。
けれど。それ以上に。
気付いてしまった。自分の気持ちに。
彼をここから一歩たりとも外に出したくない。
一番になりたかった。けれどそれだけじゃ満足できなくて
二番以下も誰にも譲りたくなかった。
このまま一緒に死んで今を永遠にできたらどんなに良いかと
一瞬過ぎった甘美な妄想に囚われ
彼の無防備な首筋に指が絡むより前に
もっと強欲な自分が顔を出したから、何もしなかった。
俺しかいないから俺が唯一なんじゃなく
他にもいるのに俺を選ぶくらいじゃないと
きっと俺は満足できそうにない、と。 ]
[ となりで身じろぐ気配で覚醒したふりをして
むずがるような音で小さく唸って寝ぼけたふりをして
隣の彼に寄り添って、擦り寄った。
が、特に効果はなかった。
可愛いって言ったから自分なりに
めいっぱい媚びてみたつもりなんだが?
満足するための方向性がわからない。
シーツを掛けられ離れて行くから
仕方なく離れて行く背を見送る。
綺麗なままの背中を見つめて
背中に爪あとでも付けてやれば良かったと思った。 ]
………どこいくの?
[ そんな無防備な格好のままどこかに出かけやしないだろう。
けれどそのままシャワーを浴びて着替えた後なら?
どこかへ行ってしまうのだろうか。俺を置いて。
俺の知らない時間にどこで誰と過ごすのかと
考えただけで頭がどうにかなりそうだ。
不安に駆られ咄嗟に飛び起き声をかければ
置いていかないでと嘆く子供みたいな怯えた声になった。
けれど、最中に散々騒いでいたおかげで
久々に発した声は少々ざらついてしまっていて
不自然さは、掠れた声に霞んでしまったかもしれない。* ]
綺麗に落としてくれてありがとね。
[彼が洗ったシーツ渡してくれたので、それを受け取って。
バスタオル一枚の自分を気遣ったのか、彼の目が自分を避けていく。
そのまま彼を浴室に見送れば、今度は髪を軽くドライヤーで乾かし、バスタオルから女性らしくも清楚なワンピースに着替え、エプロンを上に着ける。
フルメイクする余裕も時間もないから、軽く目元と唇だけメイクして。
急いで身支度を済ませたから、まだ彼はシャワーを浴びているようだ。
サンドイッチ用のパンをホットサンドメーカーに挟んで焼いている間に、ビーフシチューを温めなおす。
タルタルステーキにはサワークリームを添えて配膳し、二人分のカトラリーを置いておいて。
アップルパイは後でアイスクリームをのせてもってこようか。
結構すんなりと用意が済んでほっとした。
ついでに洗濯機に彼が洗ってくれたシーツを放り込んだり、新しいシーツを敷いたりしてして、情事の痕跡が部屋に残らないようにもできただろう。
彼が持ってきてくれたワインの栓をもう開けようかどうか悩んでいたら、彼が風呂から出てきたのに気づいた]
おかえ……ふぁっ!?
[思わず漏れる奇声。
バスタオル一枚に濡れ髪の彼が出てきたのに行き会ってしまった。
腰の周りだけをタオルで隠し、その肉体美を顕わにして。
思わず見とれてしまった。
こんなの眼福でしかない。
肉体労働に近いことをしているせいか、彼の躰はやはりたくましくて鍛えられてて。
肩に盛り上がった筋肉とか、しっかりとした脛などを見ないようでいながらばっちりしっかり見てしまった。
これではまるで痴女である。
自分はあの躰に抱かれたんだ―――。
そう思うと、ぶわっと顔から火をふいてしまう]
は、はやく食べましょっ
服、そこだから。
[先頬部屋の片づけと一緒に彼の服もたたんでおいたのを指さして。
声が上ずってしまっているが、変に思われてないだろうか。
そう思うが、言い訳もできない。
彼に椅子をすすめ、それから今日のメインのワインの栓を開けようか]
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