(a22) 2019/04/13(Sat) 16:43:34
[ ひたひたと続く足音に追従する獣の気配は、
酷く冷たい城内では優しく、故に孤独を知った。
おやすみ、と続いた言葉に笑えただろうか。
少なくとも不出来な表情ではあったと思う。
強張っても、歪でも、笑うことに意味があった。
扉を閉める間際の悲哀に彼の為だけの希望を残してから、
過去に縫われた男の前から姿を消すことに ]
ねぇ
[ 囁きを灰色の狼へ落とす。
狼を恐れることなく寄り添いながら双眸は遠くへ、
居場所のない城の中を歩く足音も、消えそうな程に儚く。
言葉を理解するとは知らないまま、
部屋へ辿り着くまでは問いの言葉を宙に浮かせていた。
勿論、狼を部屋から追い出すことなど在ろうはずもなく、
招き入れ、クロゼットの前へと歩きながら ]
化け物だから殺すだろうって……
ニクスさまはぼくがそう思うって考えたのかな。
[ それとも生き残るためになら、だろうか。
生き延びるために何でも――
想像し得る限り、どこまでもする心算だった。
齟齬は恐らくそこなのだろう。
贖罪のために殺されることを望んだ彼と、
この手で誰かを殺すことまでは浮かばなかった、
世間知らずで無価値だった己との、絶望的な差 ]
もしぼくが彼を殺せて、ひとりになって。
それからきみはどうなっちゃうの……?
[ 古城の主が消えたと知れれば大人が群がり、
そこに富があるならそれを得ようと、
贄の代価とばかりに奪いに来るのは想像に難くない。
居場所がない子供など大人にとって無力なものだろう。
けれど村の悪辣さを知り得なかった夜の怪物に、
それを知らせることなどはしないと決めている。
眼と、声と、たったそれだけ。
それだけが誰かに似ているらしい我儘な生贄に、
あんな忠告をする優しい主には決して。
どうでもいいと投げ捨てられるならともかく、
これ以上、塵であっても彼の重荷となるのを避けるために。
少なくとも、今それを伝えても意味がないのだと、
忘れられないと溢した想いの重さを知れば当然で ]
森に帰るのかな。
それともあの人が死んじゃったら、
きみも死んじゃったりする……?
[ 借りた上着を脱いで皴を伸ばし、
衣装掛けに吊るして選んだ夜着は一番シンプルなもの。
バスローブも脱ぎ捨て夜着に袖を通して、
それでも未だ夜の空気は冷たくて小さく震えながら]
おいで。名前を、あげる。
終わりまでの間だけだけど、きみの名はね……
[ 柔らかな寝台へ滑り込む。
燭台の灯はつけたままベッドの隅に寄って、
狼を空いた場所へと誘って、その首に腕を巻き付けて。
毛皮に顔を埋めて無防備に瞼を閉じた。
人ではない気配も、鋭い牙も恐れないどころか、
その感触に安堵の息を漏らし、稚くくすくす笑う ]
[私の愛は献身に似ている
自分よりも相手が幸せであればいいと
唯、ただ思って。触れたいのに触れられず
いとおしいのに、それを伝えるのに時間を要して
心を殺すことも慣れているので
そこを気にする必要など、なかったのに
公平さ、なんて求めていなかった
ただ。君が何時か手を伸ばしてくれる日が来ればよい
そんな風に思いながらも、触れることだけでも
許してほしいと思って、いた
だから多分。私の中の獣は飢えていた
悟られたくなくて抑圧するほどに、強く強く
君を求める様になっていて
嗚、自分の心なのにままならぬ]
[だからこそ、最後の一押しにあっけなく
獣を押さえつける楔は弾け飛んだのだ
寝ぼけ眼だったが、言質は取ったと言わんばかりに
歓喜に震える慾が、ある
―――それでも大事にしたいのだ、と
思う理性が、ある
どちらもが、私で
どちらもが、わしだ
その2つは今。君だけを見ている
腕の中に囲い込んだ君だけを]
(その胸の内はいかばかりなりや
彼の中の萌芽を未だ、知らぬ私は
思い巡らせる、瞬のこと)
[暗闇の中、焼けた肌をはっきり視認できる程に
目が慣れた時に、見る一等可愛い破壊力の笑顔よ
正直ぐっと、くる
などとは胸の内に留めてはいるが
触れて、踏み込むを許されたことで
唇は、手は。君を暴くをもう、躊躇うことはなく]
なんだ。知らぬのか?
男でもここは、愛撫すれば感じる者もいるらしい。
尻の穴でもだとか。借りた小説に書いてあったぞ。
[尚、女相手にしたことはあるが
男相手は君が初めてなので、多少焦らすのも許してほしい
膨らんでくれば、吸って舐めて転がすこともできようかと
考えながら、片方を執拗に愛撫すれば、
声を抑える、様子が目に留まる]
声を出しても。良いのだぞ。
耐える方がずっと……
[ぐ、と尖って芯を持ってきた胸の先端を潰す
甘い疼きを、もたらす様に
或いは仄かな快楽をより自覚させ焦らすように]
—――苦しかろう?
[と囁きつつ、目を細めるのだ]
そりゃあ、恥ずかしかろうて。
生まれたままの姿を晒し、
女の味も知らぬまま、私に
……男に喰われることに、なるのだから
[こんなに立派な摩羅をしておるというのにな。と
下履き越しのそれを撫でれば、熱を持ち始めたそれに
うっそりと、口元を緩ませる
――おや、なんとも初心な反応だ。
悲鳴もまた、甘露のようだとばかりに
楽し気にその様子を眺めていたのだが
ただ、そうだな
そんな風に素直にいじらしい反応をされれば
意地悪をして、快楽で溶かして
私に依存してしまうようになれば、なんて
浅ましい独占欲も、鳴りを潜めて
小さく、笑みもこぼれてしまうものだ]
[広げた手。抱き着いてしまえば
先生から甘えたになってしまうだろうから
その広げた手を1つとり、甲に口づけを落として]
—―快楽、教授し一等、君を気持ちよくさせよう。
任せよ。クガネ。
[告げれば、布ごしに無造作に摩っていたそれを、
下履きを下ろして外気に晒させる
嗚、それも一瞬だ
包み込むは己の掌。同じ男同士なのだ。
感じる部分は似たようなものだろう、と
君よりは冷たいかもしれないが、人肌の温かさは持つ手にて
それをしごくように、擦りあげる
裏筋、蟻の門渡、鈴口、雁の裏
さて、君の良い所はどこであろう
君の分身を愛撫する中で見つけたならば、
それが固くなり、脈打つまでは。念入りに掌にて責めたてようか*]
クー、とかどうかな。
ぼくが唯一、触っても逃げなかった犬とおんなじ。
[ 牧羊犬と一緒にされては狼も堪らないだろうけれど、
過去で唯一の癒しだった存在と重ねて瞼を閉じて ]
クーが喋れたらよかったのに。
そうしたら、もっとあの人のこと知れたかな。
ぼくが、殺す勇気を持てるくらいまで。
[ 湯に溶かした薔薇の香を漂わせ、
狼の毛皮に顔を埋めて瞼を鎖し溢れる何かを堪えながら。
眠れそうにもない夜を、取り留めのない会話が続く。
不安を少しずつ埋めるかのように。
過去を遡り語る独白は殆どが傷痕でしかないけれど、
少しだけ救いがあるとしたら同じ生贄の子たちとの交流で。
狼の呼気が寝息と重なるのは陽が月を熔かす夜明け前。
変わり者の子供の話に到ろうとして、眠りに落ちた ]*
[ 慾とは、抑えれば抑える程に
声上げ暴れまわるものだと知ったのは
己とてつい最近のことだった。
常の己は頭で思った時にはすぐに動いてしまうような
単純さが売りである故、溜まることもなかった筈で。
ただ、"愛"に振り回され悶々とした数日間で
此処まで変わってしまうとどうして想像できようか。
――願うなら、貴方の想うがままに
慾のままこの身を堕としてくれるというのなら
オレは喜んでこの手を引かれよう。
その先が虚無ではないと己は知っている。
慾に身浸すことは、生きてることの証左にも
なるだろう、から
]
尻って……痛いだけじゃないのか、それ
[ 男色に関して知らない訳ではない
職員が見せてくれたやたら薄い本などもそうだし、
そもそもギリシア神話主神が男女構わず襲うような
節操なしでもあった訳で。
――ただ、実際に男同士の性行為に"そこ"が使われるとして
本当にそんなことがあるのか?と疑問視もしてしまうのだ
そんな、僅かに首をもたげた疑問も
胸を嬲る手によって霧散してしまったが ]
だっ、て、きもちわりぃし……っあ!
[ 低く、どう聞いても女の子と比べものにならぬ声で喘ぐのも
おかしな話で(プライドも勿論ある)
そうして必死に我慢しようとしても
耳元で囁かれると同時に潰されれば
抑えきれない嬌声も漏れ出てしまう
――その小さな戯れだって
無意識に股をもぞもぞ動かしてしまうくらいに
己の身をじわりと焼いてゆく ]
[ 恥ずかしくしたのはシロさんだろ!と
普段のノリなら言えていたのだが。
全身弄ばれ、機敏になった身体は
優しく撫でられただけで理性を容易く揺さぶる程の
衝撃となる
――嗚呼、でも一つだけ ]
は、あっ……
オレは、たしかに女との交わりなんてしたことないけど……っ
別に良いだろっ、オレが、そういうのするのは
これから先も、シロさんとだけ……
だし……
[ 己にとって至って当たり前の事実だ。
元より、生まれて最初に恋をしたのが貴方で
こうして魂の多くを占めた今となっては
他の人に恋することなど―――少しも考えられない
――我慢せず、どろどろに落としてくれても良いのに
こんな時まで優しくオレを想ってくれる貴方だからこそ
抱いてほしいと思うのだ。
……世界中何処を探しても
貴方に敵う人なんていやしない。
]
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