人狼物語 三日月国


184 【R-18G】ヴンダーカンマーの狂馨

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視点:


【人】 住職 チグサ

[男性の御遺体はまだ温かく、凍える夜に湯気が立ち上っておりました。
 読経を読み上げる間にも、その温もりは徐々に空気に溶けだしていきます。夜が更けていけば、御遺体も、血だまりも凍ってしまうでしょう。
 いったい幾人の手によってこの悲しき海が造られたのでしょうか。
 夜空には満天の星々、血だまりに映しだされ、間に挟まれた私は宇宙の中に放り出されたかのようにさえ感ぜられました。]
(20) 2022/11/10(Thu) 21:03:29

【人】 住職 チグサ

[不意に、足元の星空が大きく揺らぎ、波紋と共にかき消えました。
 衝撃が体を襲い、落ち葉のように吹き飛ばされました。
 一瞬意識を失っていたのでしょう。ぴちょん、ぴちょん、と雫の垂れる音が、物悲しくあたりに響き、その音ではっと気が付きました。
 体は酷く痛みましたが、まだ動きました。
 何が起こったのかと見やると、血だまりに足を取られたのでしょう。からくり車が横転していました。
 金属でできているのでしょうか。重たいからくりは先程まで私がいた場所、その壁に突っ込んでいます。
 そうです。私が一心にご冥福をお祈りしていた、お二人の仏さまがおられた場所です。
 凄惨な様相は言葉にするのも憚られるほどで、最早、生前のお知り合いが仏さまをご覧になっても、それが人であったと断じられるかすら怪しい有様です。
 私はあまりの胸の苦しさに、あの壁と車の狭間に在るのはもしや私の体ではないか、既に肉の体を失って、意識だけがあたりに霞のように浮いているのではないかとさえ感ぜられました。]
(21) 2022/11/10(Thu) 21:04:06

【人】 住職 チグサ

[遠い耳に、うめき声が届きました。からくり車の中から、ずるずると人が這い出して来ると、血だまりの中に倒れ伏します。
 私はようやっと、車があれば、運転されている方がおられるという当たり前のことに気が付きました。]

 ああ……大変。
 お加減は……

[問いかけた息にむせこんで、私自身も無事ですんではいないことに気が付きました。
 いったい体がどのように変容してしまったのか、自分では見れませんが。
 それでも、今目の前で苦しんでおられる方に近づいていけました。]*
(22) 2022/11/10(Thu) 21:04:47
住職 チグサは、メモを貼った。
(a7) 2022/11/10(Thu) 21:09:23

住職 チグサは、メモを貼った。
(a15) 2022/11/12(Sat) 10:23:02

【人】 住職 チグサ

[彼の口元を覆う布は、血に染まってはおりますが、おそらくは元の色も赤いのでしょう。彼もまた、裏切りの証を身にまとっておられました。
 彼の命は、急速に終わりに近づいていました。
 島を混沌へと堕としてなお、まだ心残りがおありなのでしょう。それは、未だ誓願が果たされていないことを表していました。
 うわごとのように繰り返しておられるのは、誰かの名でしょうか。
 死の淵から、絞り出すようにして繰り返しておられるその名を、私の耳では聞き取ることができませんでした。
 あるいは、祖の銀皮を求め、犀の角のようにただ一人歩まれた首魁、その理想に縋っておられたのかもれません。
 あるいは、持って生まれた魅了性に、その気は無くとも周囲を狂わせてしまわれた良家の御子息を、案じておられたのかもしれません。

 目の前でまさに息を引き取られようとしているお方の背景など、私には知る由もありませんでした。]
(63) 2022/11/12(Sat) 12:02:18

【人】 住職 チグサ

[ふと、いつもお世話になっているお医者様の、空のように捉えどころのない笑みが思い出されました。
 もしも私が医師であったならば──
 もしも私に、目の前の命を繋ぐ技術があったならば。
 あるいは、繋ぐことは叶わずとも、巧みなる死の技術があったのならば。
 肉の苦しみを抜き、楽を与えることができたのに。
 けれど、叶えようが無い妄想に囚われるなど、智慧ある者の行いではありません。

諸悪莫作 衆善奉行
自浄其意 是諸仏教

 仏の教えを思い起こして、肉の苦しみを抜くことは諦めて、彼の心に平穏をもたらそうとしました。]
(64) 2022/11/12(Sat) 12:03:23

【人】 住職 チグサ


 聞えますか。私の声が、聞こえますか。
 あなたは今、長い眠りに就こうとしておられます。
 無念でしょうか。無念でしょうね。 
 あなたに与えられたお役目は、この路地で果てることではなかったはず。
 けれどそれも仕方のないことです。
 さぞかしお辛いでしょうが、今は残されたわずかな時間を善きものとしてください。
 そして私に、そのお手伝いをさせてください。
 最期に思い残したことがあれば、私がお伝えいたします。
 果たせなかったお勤めも、あなたの同志が引き継がれるでしょう。
 また願い叶わずとも、あなたのご意志は遺された方の心に波紋を残し、行いで表していかれることでしょう。
 さぁ……

[私自身の血で、彼の体を濡らしながら、耳を口元に近づけます。
 このような傷を負った体では、お約束を本当に果たせるかは分かりません。
 分からないけれど、同志に託せるか、その前に私が死んでしまうかは大きな問題では無いのです。
 今、目の前で苦しんでおられる彼の心に安心をもたらすために、そのようにお伝えしました。]
(65) 2022/11/12(Sat) 12:04:14

【人】 住職 チグサ

[もはや声も出ないのでしょう。
 耳を近づけても、彼の喉からはヒュウヒュウと木枯らしのような死の笛が響くばかりでした。
 けれど声を失っても、口の動きで、お母さまに安心を求めておられることを教えてくださいました。

 もしかすると、彼のお母さまははるか昔に亡くなられたかもしれません。または、もっとお若いのかもしれません。けれど、ここに在るのは私の身一つです。
 ならば老いさらばえたこの身ほど適した体は無いでしょう。
 一つ頷いて、彼の頭の傍に正座をすると、その頭を膝の上に乗せました。
 今この瞬間、目の前で終わろうとしている一つの命。
 その命は、自らの胎を通じてこの世に産み落とした我が子であると、心に定めたのです。]
(66) 2022/11/12(Sat) 12:05:43

【人】 住職 チグサ


 よく、頑張りましたね。
 赤い布を身に纏い、汚名を着てでも、あなたは誓願を成し遂げようとした。
 あなたは何恥じることも無い、私の自慢の息子。
 お勤め、ご苦労様でした。あなたは十分に働きました。
 後のことは、もう後の方にお任せしましょう。
 どうか母の膝で、安らかに眠ってください。

[膝に乗せた頭はすっかり脱力しきっておられ、足の血が止まる程に重く、全く安定しないがために何度もずり落ちかけました。
 その額に手を当て、冷えた掌を強く握って、今ここに在る母の熱を伝えます。]
(67) 2022/11/12(Sat) 12:05:53

【人】 住職 チグサ

[──やがて。
 彼の指に力が入り、私の手が握り返されました。
 次の瞬間に力は抜け、静かな笛の音が鳴りやんで、一つの命が終わったことを悟りました。

 虚空を眺める瞳に既に意志は感ぜられず、涙に磨かれた眼は、ただありのままを映しておられます。
 やがて渇きゆくその瞳に手を当て、瞼を重ねると、舎利礼文、と唱えます。
 命潰えた路地に、単調なお経だけが響き渡りました。]**
(68) 2022/11/12(Sat) 12:07:16