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【人】 ピアニスト イングラハム The secret is just like a wedding veil. 女の秘密とは、花嫁のベールだ。 (15) 2022/02/13(Sun) 16:38:16 |
【人】 ピアニスト イングラハムそう、私の父は言っていた。 その意味を幼子の私が知るはずもないが。 ピアニストの父と母もしかり 私の家系は芸術に対するバイブスが高めらしい。 それは私自身もそうで、ピアノの演奏には 幼い頃からずっと魅了され続けている。 ボランティアとして病院でコンサートを 開催することだって何度もあった。 私としては慈善なんてない純粋な演奏を 味わい、楽しみたかったのだが。そうも言えない。 (16) 2022/02/13(Sun) 16:41:07 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 遡ること数年前。 私にとっては数あるボランティア活動のひとつ、 病院でのコンサートに出向いた時だ。 「音楽は人の心を癒し、勇気を与える」と そんな両親の言葉を胸に臨む演奏は 首輪を繋がれた犬のような息苦しさを覚えて。 休憩と称した期間限定の逃避行の果てに 私は 彼女 のいるその場所へ、辿り着いた。 (18) 2022/02/13(Sun) 16:46:38 |
【人】 ピアニスト イングラハム演奏者として恥じない礼装姿のまま 先客にそう声をかけた。 それが始まり。 彼女の反応なんてお構い無しな私は まだ子供のように無作法なままで 彼女が何を思うかなんて知らずに。 「本、好きなの?」 そう言って手元の本に視線をやったりもした。 (20) 2022/02/13(Sun) 16:57:03 |
【人】 ピアニスト イングラハム病院が慈善活動の溜まり場にされたとして 命懸けで戦う患者からすればいい迷惑だろうに。 そんな承認欲求のために患者を利用する気分は 当然、いいものとは到底思えない。 (28) 2022/02/13(Sun) 18:33:33 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** その出会いは、冷えた心には心地いい。 いい天気だという彼女に同意を示し、 隣へと腰かければ見えぬ物も見えてくる。 太陽を知らぬ純白は外界との距離を感じさせ、 その程度は知らずとも、病院にいる理由が 私にもなんとなく分かる程だった。 (29) 2022/02/13(Sun) 18:34:04 |
【人】 ピアニスト イングラハム「退屈、か。」 正直、驚きはしなかった。 少し考えれば想像がつく話なのだから。 それでもってこの事は 周知の事実というわけでもないらしい。 脳裏に浮かぶ「同情」の二文字は ぐっと脳の奥深くへと押しやった。 「その本は僕も見た事がある。 確か本屋でも最近見かけたやつだよね。」 面白いの?そう聞かない理由は、 彼女の言葉がその答えだ。>>26 (30) 2022/02/13(Sun) 18:36:46 |
【人】 ピアニスト イングラハム幸か不幸か、彼女を知らない私は 彼女が造り上げたフィルターが効かない。 本好きのアンネと聞いて首を傾げたのは 言うまでもないこと。>>27 「あぁ、ごめん。最初に名乗るべきだった。 僕はエドワード・イングラハム。 よろしくね、アンネ。」 間違えていた順序を正すと 私は彼女に倣うように自身の名を名乗る。 (31) 2022/02/13(Sun) 18:38:58 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 分かるよ、と共感を示すべきか? 生憎と消毒薬に満ちた病室の虚無感を 私は知らなければ、知ることも無い。 私が知っていることはただひとつ、 共感こそ毒に他ならないことのみだ。>>32 毒を毒に思わせない器用さがあれば 少しはマシなことも言えたかもしれないが。 「確か、恋愛小説だったっけ。 僕も詳しくは知らないんだけどね。」 表紙とタイトルからの予測だったから その辺はあまり自信がなく答えてしまった。 それなら読んでみようかなって そう思う理由は、秘密だ。 (35) 2022/02/13(Sun) 22:27:23 |
【人】 ピアニスト イングラハム恐らく他者とアンネの間にとって 本好きというのは演劇の役であって それでいて私とアンネの間に演目はない。 笑うアンネの姿に尚更首が傾くばかり。 それから思いついたように目を見開いて 「せっかくだし、エドって呼んでもいいよ。 僕と仲のいい人は皆そう呼ぶんだ。」 彼女が私にアンネと呼ぶことを望むなら それと同等のことを望んでいたい。 そんなわがままを伝えてみせただろう。 (36) 2022/02/13(Sun) 22:28:23 |
【人】 ピアニスト イングラハム仲間入り。言い得て妙な話だ。>>37 こちらの意図を丁寧に読み解く姿に 私は驚きを隠すことが出来なくて。 「そういうことになるね。 正しくは、仲良くなりたいと思うくらい 君に興味を惹かれてるってところかな。」 そういう意味では仲良しの人よりも 特別なのかもしれないね、と。 楽しげに笑っているアンネに私は告げる。 (41) 2022/02/14(Mon) 3:02:01 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 私が彼女に会いに行った回数など 両手両足の指を足しても及ばない。 彼女の両親に会うことがあったのなら プロの演奏家らしく礼儀正しく振舞っただろう。 しかし彼女の前とあっては私も流石に気が緩む。 見舞いに来る度に彼女に何を話そうか 次第に考えることが楽しみになっていた。 (42) 2022/02/14(Mon) 4:36:12 |
【人】 ピアニスト イングラハムいつの日だったか。 お見舞いにと持ってきていた果物を 冷蔵庫へとしまおうとした時に 私はそのチョコレートを見つけた。 「これは?」と尋ねてみれば どこか得意げにチョコを準備するアンネがいて 私は嬉しさのあまり思わず笑ってしまったのは 今でも記憶に新しい。 (43) 2022/02/14(Mon) 4:38:50 |
【人】 ピアニスト イングラハム「ふふ、僕のためにか。 それなら今度から紅茶を持ってこよう。 アンネが紅茶が苦手なら他のお茶でもいい。」 優しさと気遣いに何も添える物がないのは すこしばかり寂しい気もするからと その日を境に見舞いは小さなお茶会へと変わる。 (44) 2022/02/14(Mon) 4:40:34 |
【人】 ピアニスト イングラハム重ねられるお茶会の時間。 アンネが楽しそうに聞いてくれるから 最初はほとんど私の話ばかりだった。 もちろん彼女の事を聞こうとしていても なんだかんだで自分の話をして時間切れだ。 またいつものように迎えてくれるアンネに 私は微笑みかけて、あの時の本の話を始めると 読み終わったと彼女が言っていたものだから。 (45) 2022/02/14(Mon) 4:41:55 |
【人】 ピアニスト イングラハム「本の見所を聞いてもいいかい? 本の内容は流石に聞けないけど... 君がどんな場面が好きだったか、 君が見たままで聞いてみたいんだ。」 本を読む前に聞くのはタブーだったかな、と アンネのリアクション次第では今のは無しと 取り下げることになるだろうが。 頭にチラつくのは病気のこと だかその話題は繊細なもので こちらから聞くことは、本来許されない。 (46) 2022/02/14(Mon) 4:42:21 |
【人】 ピアニスト イングラハム好きな食べ物のことなど アンネに聞かれたことはお返しにと 聞き返すことがほとんどだった。 後は...そうだね。 どんな演奏を聞いてみたい?とか どんな場所に行ってみたい?とか 話はどんどん病院の外のことへと 渡り歩いていくことになっただろう。 (47) 2022/02/14(Mon) 4:43:48 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 彼女の両親の前でやけに緊張したのは はて、何故だったんだか。 好意的に接してくれる彼女の両親の言葉は 迷惑かという私の懸念を打ち消してくれた。 なんとなく血の繋がりを感じたりもして、>>49 不思議とあの日食べたチョコレートに 心満たされたことも記憶に在った。 (57) 2022/02/14(Mon) 23:40:15 |
【人】 ピアニスト イングラハム (58) 2022/02/14(Mon) 23:41:05 |
【人】 ピアニスト イングラハム重ねられるお茶会の時間の最中 語られる本の見所に私は耳を傾ける。 核心に触れずに見所を教えてほしいなんて 我ながらとんでもないわがままだとは思う。>>54 答えてもらえば考えるように指先を顎に当てて 「強い心、か。 我の強ゆえの優しさなんだとしたら 二人は最後に幸せになりそうだね。」 そんな感想の口にすることになるだろう。 (59) 2022/02/14(Mon) 23:43:26 |
【人】 ピアニスト イングラハムそう呟くとすぐにはっとして。 「ごめん、知ったようなこと言って。 気にすることじゃないって言いたかったんだ。 .......この本、読んだらちゃんと返すから。」 誤魔化すように笑って彼女から本を受け取ると。 いつか求めた未来の予定を口にすることになった。 (60) 2022/02/14(Mon) 23:49:17 |
【人】 ピアニスト イングラハムありきたりな答えであっても 私にとってはダイヤのように貴重な資源 期待はずれなどありえない。>>56 しかし彼女の考えていた通り 「貴方の演奏」と言われれば戸惑いを 隠さずにはいれられなかったのも事実。 イメージが浮かばずに困っていると その答えを彼女はくれる。 それは私にとっては理想の演奏の形で それもまた彼女に惹かれた理由だ。 (61) 2022/02/14(Mon) 23:52:18 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 私の言った意味を知ってか知らずか 呆気に取られたような彼女の表情は 少しばかり怖くも思える。 引いた国境を踏み越えるような不安は 相手を想えば想う程花瓶になるのだから。 「それなら良かった。 あぁ、必ず、返しに来るよ。」 必ず、と口にしたからには返しに来るのも 当然早くなるもので。余す時間の全てを 読書に注いだのは言うまでもないこと。 (66) 2022/02/15(Tue) 8:25:24 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 君一人のためだけに僕の音色を届けましょう。 そんな想いは運命の因果を掛け合わせて 結果、彼女の優しさに甘える形に収まる。 叶うかも分からない約束を交わせば それは私自身の生きる糧ともなっていった。 課題にも観衆にも民俗にも縛られない そんな自由を彼女の為に使えるのなら...。 未来を夢見ていたのは、お相子というわけだ。 (67) 2022/02/15(Tue) 8:32:04 |
【人】 ピアニスト イングラハム*** 彼女の助けになろうと躍起になったものの 実際、私は私で彼女に救われた。 それは譜面に音符のインクが滴るように 彼女との約束は私の演奏への意欲を この上ないほどに高めてくれていたから。 両親がからかうように 「何かいいことでもあった?」などと言うので やめてくれと不満を顕にすることもあったが。 (68) 2022/02/15(Tue) 8:55:32 |
【人】 ピアニスト イングラハム新たに予定表に書き込まれる日課 学校と演奏の練習以外には何よりも優先される 病院への見舞いというイベント。 それまではアンネが病室から出られる日がある なんて思ってもみなかったから。 アンネからそれを聞いた時は分かりやすく 喜びの表情を浮かべることになっただろう。>>64 受付で看護婦が微笑ましげに ニヤついていた理由が、その時初めて分かった。 (69) 2022/02/15(Tue) 8:56:12 |
【人】 ピアニスト イングラハム「本当か!?」 外出の許可が降りたということは 回復も近いのだと私は勝手に解釈して 病室には相応しくないくらい声を張り上げる。 それからこほんと咳払いをして 頑張ったんだね、などとアンネを労うと 「なら、その日は必ず予定を空けるよ。 僕にとっては君が一番大事だから。」 そう、意気込んでみせるのだった。 その心臓の奥底に、大きな決意を秘めて。 (70) 2022/02/15(Tue) 8:57:48 |
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