【人】 ][『月』 エーリク―― 自室へ至る ―― [ 一人か、もしくは後ろについてくるものが いたか。この部屋に誰かを招くことなど 数える程度しかなかったもので、もてなすための 道具に持ち合わせはない。唯一、珈琲カップだけが ないと不便だからと、二対揃えていた。 ――もしかしたら露店でねだって 買ってもらったものかもね。 ベッドチェストの上には硝子のオルゴール そして隣に、羊のぬいぐるみ。半年ほど前に 贈られたもの>>0:529だ。 余談では在るが彼"ら"は兄弟である。 最初の年に貰った後、もう一人ほしいと クロに言った。 僕には兄弟というものがいないけれど 一人は寂しいだろうからと、言ったのは表向き。 本当は、縋り癖を直そうと、一人で 耐えているときに、構いすぎたがため すこし、傷んでしまっていたから。 ] (349) 2022/12/17(Sat) 21:42:35 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 殺風景と言っても差し支えない部屋に、 さて客は居たか、否か。 どちらにしても、珈琲マシンのスイッチを入れた。 やがて、張り詰めた空気を和らげる 香ばしい香りが漂うことだろう。 ] 選択、……正直、よくわからない どうでもいいと言い換えてもいい [ 例えば父母、――生きていれば良いとは思う あれから一度だって手紙すら寄越すことはないが 別れた日にわずかに膨らんでいた彼女の腹からは 弟だか、妹だかが産まれてもう自由に歩き、 簡単な言葉なら会話もできていることだろう。 ――それが正しい、兄が証持ちであるなど 知らないほうがきっと幸せだ。 だが、彼らだっていずれ死ぬ。 それが明日か、何十年か先かという話で。 どうせ死ぬ。 ] (350) 2022/12/17(Sat) 21:43:09 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 幸せな最後を迎えさせてやるために、 走り回って説得してまわる"べきなのか" そう考えている時点で、口にした通り どうでもいいと思っているのかもしれない。 自分一人の選択で選び取れる未来が あるとしたら、どう答えていただろう。 僕と一緒に全て滅べばいい そんな大それたことを、言っていただろうか。 言っていたかもしれないな。 ――しかし、選択は全員に委ねられている そして今しがた、眩しくたっとい願いを聞いた。 好きにすれば?僕は崩壊を望む、 とはとても言えまい。 ] (351) 2022/12/17(Sat) 21:43:31 |
【人】 ][『月』 エーリク シトラが言ったんだ 悲しみの少ない方に、って どちらのほうが、悲しみが少ないのだろう [ 崩壊を止めた先に、 己が悲しまない未来はあるのだろうか。 言葉を放ったと同時に、珈琲マシンが動きを止めた。 望まざろうとも、もしも二人だとしたら あなたの分も、慣れた手付きで珈琲を注いだ。 ] (352) 2022/12/17(Sat) 21:44:04 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 抜け出した先で身につけた小手先の技術を 披露しても良かったのだけど。 いくつかの行く先に、カフェもあった。 とは言え、ゆっくりと珈琲を楽しむ時間までは ありはしない。わかっている。 せめて考えるための共として、 からからに乾いた口を、喉を潤す手段として 張り詰めた空気を和らげることができたなら 良いのだけれど。* ] (353) 2022/12/17(Sat) 21:44:30 |
(a91) 2022/12/17(Sat) 23:20:58 |