81 【身内】三途病院連続殺人事件【R18G】
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| きつい消毒液の臭いを纏った男が、重い足取りで歩いている。 目指す先は己が寝泊りをしている宿直室だった。
老いとは恐ろしい。 できる事は増えているはずなのに、 できない事はそれを上回る速さで増えていく。
未だやるべき事は残っている。 しかし一度、身体を休めたかった。 (0) 2021/07/04(Sun) 21:17:20 |
| 宿直室で一眠りした後のこと。 男は、調理室にいた。 調理台には 干し肉が並んでいる。 一夜干しのようだ。 弱火でじっくりと焼いていく。 塩と胡椒と、何かの焼かれる匂いが漂った。 /* (3) 2021/07/05(Mon) 11:29:50 |
| (a0) 2021/07/05(Mon) 11:40:52 |
体が軽い……
いつものように熱っぽい気がするのに、だるさも苦しさもない。
そうしてただぼんやりしていたら、なんとなくわかった。
自分は死んでしまったんだと。
こんな体だ…いつかこういう日は来るだろうと覚悟はしてたけど、未練がないわけではない。
死ぬ前に伝えたいことがあった。
ありがとうとか、ごめんとか……ほかにも色々……。
──自分の最後を看取ってくれたのは誰だったのだろう。
ぼんやりと揺蕩う記憶を手繰る
アキラと話してる途中で、薬を飲んで寝てしまって……そのあとは……?
眠っていて覚えているはずのない映像が浮かんでくる。
手術室に寝かされている自分……
それに触れる二つの影……
流れる血…削がれる肉………
ああそうだ。
俺は見ていたんだ。
自分の体が解体されていく様を――
「…あは…………アハハ……!」
思わず笑いが込み上げてしまった。
セナハラさんが言ってた"食料"は自分の事だったのか。
「そっか……そっかぁ……」
最初から、"食料"にする人間を決めていたのだろうか……?
ここにいる人達の中で最も死に近いのは自分だ。
誰かを殺さなきゃいけないなら、選ばれるのは必然ともいえる。
アキラもすべて知ってたんだろう。
友達と言ってくれたのも、油断させるための嘘だったのかな……。
「──言ってくれたらよかったのに…」
嘘で塗り固めなくたって、大好きな二人のためなら殺されたってよかった。
セナハラさんとお弁当をもってピクニックに行こうといった。
アキラも元気になったらトウキョウにいこうって。
全部全部、俺を慰めるための嘘。
でも……二人にとってはその場限りの嘘でも、自分にとっては大切な約束だ。
「でも……約束は、約束……だからね……」
噎せ返る血の匂いが染みついた手術室を一瞥して、
やがてぺたぺたと、自分の病室へと戻っていく。
その顔はどこかすっきりとしていた。
| >>5 【肉】 「ああ、丁度良かった。洪水で猿が流されて来てましてね。 この状況ですから、みなさんで食べようと思うんです」 三途村近辺の山に猿はいない。 この村に詳しいなら、違和感を抱けるだろう。 尤も、言うとおり遠くから流されて来たのかもしれないが……、 運良く病院周辺に辿り着く確率は低いはずだ。 → (6) 2021/07/05(Mon) 13:24:00 |
| >>6「 ──味見、します? 」 その上この天気の中、いつ外に出たというのか。 少なくとも男が雨に濡れた姿は、貯水槽の時以来目撃されていない。 冷静に考える余裕があるなら、直ぐに気付けるだろう。 (7) 2021/07/05(Mon) 13:27:00 |
| >>8 【肉】 焼けたばかりの肉を一切れ、菜箸で掴む。 小皿に載せると、手掴みで口に放り込んだ。 「……ん、 こんな具合だったかな 」 硬いらしく、何度も咀嚼している。 焼き終えた肉を皿に並べていった。 「窓辺にいたら見かけましてね、遠くに流される前にと 一人で取りに向かったんですよ。 傷む前に調理してしまいたかったので、 その後直ぐ僕だけで刻んでしまったんです」 綺麗に薄く切られた物もあれば、歪に切られた物もある。 部位ごとに切り方を別けているのかもしれないし、 切った人間が二人いるのかもしれない。 (10) 2021/07/05(Mon) 14:27:27 |
ニエカワ
「…………はい」
扉越しに声が聞こえる。
姿は見えない。
──少年は、生きていた頃のようにセナハラの後ろをペタペタ歩く。
誰かと会話して立ち止まってる時も、"調理"をしている時も。
「………」
少年はただ……彼の傍に居る。
| >>+7 男は霊的な存在を知覚できない。 貴方がいることも知らず、“贄川涼”のカルテを眺めていた。 生きてさえいれば、可能性はあった筈だ。 その可能性を手折ったのは、自分だ。 共犯者を唆したのも、自分だ。 (15) 2021/07/06(Tue) 10:34:59 |
| (a4) 2021/07/06(Tue) 10:37:30 |
| セナハラは、麻酔と縫合道具が見当たらないことに気付いた。 (a5) 2021/07/06(Tue) 10:38:04 |
| (a6) 2021/07/06(Tue) 10:40:34 |
自分のカルテをみている貴方に薄く微笑んだ。
いつものように袖を控えめに摘む。
| >>+8誰かが触れた気がして、振り返る。 ……誰もいない。 風かとも思ったが、窓は閉め切っている筈だ。 「……」 不自然に消えた道具を確認すれば、宿直室へ向かった。 (16) 2021/07/06(Tue) 12:17:17 |
袖を摘まんだまま、宿直室へついていく。
その足取りは軽い。
──ペタペタ……ペタペタ……
霊感のない貴方には聞こえないかもしれないが、
貴方の足音に重なるようにもう一つの足音が聞こえる者もいるかもしれない。
| >>+9宿直室の扉を開き、乱雑に靴を脱いで畳に上がった。 紙と封筒、そして古い万年筆を取り出し、卓袱台に置く。 「……ふぅ」 長く息を吐いた。 久々に使う為か、それとも古いからか。 ペン先は少し錆びていた。 『此手紙を讀んだ方へ』 慣れない万年筆で綴っていく。 (18) 2021/07/06(Tue) 18:06:13 |
| >>18……文末に自身の名前を書き加えた。 親から貰ったものはこの名前と、この身体だけだ。 封筒に入れ、蓋を糊で閉じる。 その封筒を卓袱台の中央に置き、宿直室を後にした。 ──囁かれた言葉も知らぬまま。 (19) 2021/07/06(Tue) 19:58:01 |
| >>20 >>21 【肉】 「ハルミさんとメイジくんもどうですか? 少し硬いので、よく噛んでくださいね」 薄い肉と、大きな肉。 両方を皿に載せて、調理台の上に置く。丁度、ロクの手前だ。 「 猿肉なので 、少し癖が強いですよ。 水は用意しておいたので、辛かったらこれで流し込んでください」 新たに二つの皿を取り出し、焼いた肉を置いていく。 この村周辺に猿がいないことは、村人なら誰もが知っている。 しかし。 人間は流されやすい生き物であることを、男は知っている。 (24) 2021/07/06(Tue) 21:16:21 |
| >>27 ミロク ニエカワ、と聞けば僅かに目が開いた。 が、直ぐ元通りの柔和な笑顔に戻る。繕う事には慣れていた。 言語が通じなくとも、 笑顔でいれば殺されることはない。 そう身体に染み付いている。 「時間は大丈夫ですよ。 ……そんなに人目を気にするような伝言なんです?」 少し、体は強ばっていただろうか。 遺言にも等しいのだから当然だ。 (28) 2021/07/06(Tue) 22:30:01 |
| >>29 ミロク 「……確かに暫く、彼の姿は見ていませんね。 何故殺されたという発想になったのかは、気になりますが」 男は霊魂の類を信じない。 それは医者としての思想ではなく、 そうであってほしいと願う個人的な思いだった。 「まさか“お話し”って彼としたんですか?」 こんこん、と。 返事を聞く前に、診察室の扉を小さく鳴らす。 “中に入れ”と促しているのだろう。 「……どうも、あなたは気が滅入っているようだ」 (30) 2021/07/07(Wed) 0:19:58 |
【肉】メイジ
ペタペタと、聞こえる人にしか聞こえない小さな足音で友達に近づく。
──あぁ……今から先生を食べるのか。
そんな眼差しで近くにいる人々を見つめる。
肉にかじりついて笑う友達の顔を覗き込んで
「──よかった……いっぱい食べてね。 ……俺の事も……」
薄らとほほ笑む。
少年はまた徘徊するように歩み始め、やがて消えるだろう。
| >>33 >>34 【肉】 フジノの告げる“いただきます”に合わせ、自らも肉を食べた。 男の聴力は、 誰かの 小さな足音を拾わない。 今この調理室に在る音は、生活音と肉が焼ける音だけだ。 肉を口にする子供達を見て、僅かに肩の力を抜いたが──。 「……大丈夫ですよ。 僕もハルミさんも、食べたでしょう? 」 屈んでメイジの背中を摩る。 声色は柔らかいが、どこか状況にそぐわない言葉だった。 (36) 2021/07/07(Wed) 8:18:24 |
| セナハラは、診察室の壁を力任せに叩いた。一拍遅れて、手が痺れるように痛む。 (a9) 2021/07/07(Wed) 11:48:47 |
| (a11) 2021/07/07(Wed) 16:23:15 |
| (a12) 2021/07/07(Wed) 16:23:29 |
| (a14) 2021/07/07(Wed) 17:26:24 |
| セナハラは、かつて父も同じ気持ちだったのだろうかと、二人の子供を見ながら考えた。 (a17) 2021/07/07(Wed) 20:36:58 |
| セナハラは、広げた調理器具を片付ける。余った肉はまた明日、誰かの糧になるだろう。 (a18) 2021/07/07(Wed) 20:41:24 |
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