75 【身内】星仰ぎのギムナジウム【R18G】
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身を守る僅かな盾すら奪われる。隠すものはもう何もない。
「ああ、そういう病気なんだよ。
知識を食っても腹が膨れるから食事が腹に入らなくて。
……上手く使えば飲まず食わず眠らずで数日は動けるし、
夜の見回りに申し出たのもそれが理由だったんだけどな……」
詳細を告げていないため、各所を曖昧にして語る。
"食欲"を満たして安心した理由については
問われない限り応えないだろう。
そういえば、夜の見回りはもう、できないな。
「食堂、今の時間なら行ってもいい気がするけど。
……イクリールも何か食べるのなら今から取りに行こうか?
俺もある程度の飲食を確保しておきたい、
ついでにだったら持ってこれるさ」
───
この立場になっても、まだ秘密がいくつもある。
隠しているつもりでなくとも。仕方がないことだ。
「オレは暫くは演奏してるつもり。
無視されるんならいっそ、うんと騒がしてやるよ。
石の一つでも投げられたら儲けもんだ」
自分から顔を合わせづらい相手だっていることだし。
「病気、な……それが良くなったら、
このギムナジウムから出るってことになるんかな。
……今すぐ出るって運びになったら困るけど」
「ううん、わたしは大丈夫よ。
朝食は寮まで『せんせい』が運んでくれたもの」
至って当然の事のように、何でもない事のように
イクリールはそう言ってのけた。
大人を恐れる素振りを見せないのは、やはり変わる事は無い。
イクリールの噂は、二人は聞いた事があっただろうか。
「でも、そうね。
それならわたし、暫くシェルタンと一緒に居るわ。
だから、もしルヘナがよかったら
あとで温かい飲み物を持ってきてくれるかしら。」
二人の分と、それからルヘナの分。
今日はなんだか冷えるから、と柔らかく微笑んだ。
『病気』に関しては、触れなかった。
「そうか分かった。じゃあ行ってくるから二人とも気をつけて、
……飲み物の味については保証しないぞ」
ほんの少しだけいたずらっぽく笑いかけて離れていく。
それからくるっと振り向いて、夜を越えたこの場所で、
「俺はきっと卒業するまでここにい続けるから、
お前達が出ていくまでは一緒にいられたら嬉しく思うよ」
それだけを言い残して去って行った。
「あんまり変なものだったら、その時は
シェルタンに頑張ってもらおうかしら」
いたずらな笑みにこれまた冗談めかして微笑んだ。
いつまでこの平穏を続ける事ができるのだろう。
大人には目を付けられ、生徒には居ないものとして扱われる。
それだけで済めば良い方だ。
「……わたしはきっと、『みんな』の事を
その卒業を、見送ることになるから。
大丈夫よ、ルヘナ、シェルタン。」
去り行く背に投げ掛ける。
それが何に対しての『大丈夫』なのかは、誰にもわからない。
食堂に向かう途中、一度だけ園芸部のほうへ視線を投げかけた。
いつも通りだ。首元の包帯以外は、何も変わった所など無い。
───
「おいおい、押し付けるのは無しだからな」
そう。こんな感じで、
冗談を言い合うような関係でずっといられたら。
なのに自分に残された時間はあまりにも少ない。
「はあ、気付けばここに4〜5年は居るのな。
シトゥラみたいにさ、
出た後もここに帰りたいなって思うの、分かるなあ……」
風で乱れたストールを巻き直す。
秋空の下、今日もいつもと変わらず、肌の露出は酷く少ない。
「………そうね。
わたしはきっと、ここを出たあとも
いつか、ここに帰ってくるわ。」
ギムナジウムは、わたしのもう一つのおうちだもの。
イクリールは、遠い秋空を見上げて微笑んだ。
寂しい中庭の片隅で。
冷たく乾いた秋風に吹かれながら。
冬の訪れは、思ったよりも早いのかもしれない。
| >>24 ポルクスとカストル 「許すよ!?許す許す! 今日はカストルが何しても、 許してあげるからポルクスも怒らないで!? おれさま、今日はとても寛大です、はっはっは」 いつものドタバタ。 いつもの会話。 それが、自分にとっては、ルヴァにとっては この状況においても嬉しく感じられて。 「……なんか度胸試しみたいなことしようとしてた。 夜の森に、ピャッと行って、何か行ってきた証拠持って、 ピャッっと帰ってくる、みたいな。 でも、もういいんだ……もう、いいんだ」 少しだけ嬉しそうな、泣きそうな顔で言う。 「居なくならないでいてくれるだけで、 ……もう、おれさまは、それだけでいいから」 (38) 2021/05/29(Sat) 14:43:31 |
| (a38) 2021/05/29(Sat) 15:15:19 |
中庭
「…あら…ごきげんよう、ブラキウム。」
誰もが見ないふりをする。
けれど何処にも居ないなんて訳はない。
イクリールは、確かにそこに居る。
確かにそこに居て、いつものように
にこやかに、道行く『みんな』に挨拶をしている。
自室を抜け出してからずっと。
確かにそこに居て、生きている。
それは他の『いない子』も同じ事。
それがどちらの側だって、声を上げれば、届かない筈はない。
イクリールは、そう信じている。
ブラキウム
「ええ、そうね。ブラキウムさえいいのなら
ちょうど、お部屋でいい子にしているのにも
少し退屈していたところだわ」
そう言って、イクリールはいたずらっぽく笑って見せた。
何も恐れる事など無いように。
それから、そっとブラキウムに手招きをした。
寂しい中庭の片隅へ。
| (a44) 2021/05/29(Sat) 17:08:33 |
>>中庭の片隅
横目で、二人を見ている。
『いなくなった』ものと、まだいるもの。
何が違うのだろう、と見ている。
見てわかるところに差がある訳がなくて。
『いなくなった』ものは確かに変わったが、
そうでなくとも変わりはするから。
声は出ない。考える時間が欲しかった。
だから、今は、考えてるだけ。
泣き言を言いながら、誰かに助けを求めようとして、それはやめた。
彼は、揶揄する子らを睨む。そこにあるのはお節介などではなく、“決意”だ。
| (a47) 2021/05/29(Sat) 18:15:48 |
ただそこに居る。揶揄いも抗拒も、今は重要ではない。
スピカを見ている。一人で全てを背負う、なんて、絵空事だと知っているから。
スピカのことを真に見てはいなかったのかもしれない。
また、バイオリンの弦を弾いた。
皆が心に自分たちを置いてくれることを信じて。
彼に、手が届くことを信じて。
まだ、遠いな。
スピカの力になりたかった。イクリールは一人ではないから、だからそんな事が言えるだけかもしれない。
カストル・ポルクス
本の上を滑る視線は常のものとは異なりどこか気だるげで。
聞き慣れた足音が二人分聞こえたのならば顔を上げ、
二人にとって自分が『見えて』いるのかを伺う。
――……話しかけられるまでは、何も言えない。
彼らにとっても『いない』存在になってしまうのか、
その一点を気にかけている。
自分だって、スピカの力になれるなら、と思った。任せっきりにしてしまっていたのは自分でもあるから。
彼が石を投げられても、それでもまだシェルタンの傍に居る。
「………皆が皆、
ギムナジウムの悪い風習に囚われてるわけじゃない」
投石でこさえた、軽い擦り傷を撫でて。
見てみぬ振りをしてしまった彼女のことを想う。
謝らないと。心から、心の底から。
無視することに心を痛める生徒の姿を想う。
変えていける筈だ。自分だけじゃない何かを。
大人たちを、頭に思い浮かべる。
……本当に皆が皆。“悪い”ものなのか?
知るべきだ。この場所のことを。
オレは、余りにも、自分だけを見過ぎていた。
自分が変わったのなら。
自分以外を変えられない道理はない。
昨日に今日、変わらなければ、
明日変えたらいい。それを何度も続けるだけだ。
ぱん、と頬を叩く。
傍らでただ寄り添う少女に笑いかけ、
そこらを歩き回る少年に緩く手を振り。
────観てくれるアンタ(
)に、
恥じないようにするためにも。
「思ってなかったよ。だから、“思わせる”んだ。
オレ達は被害者なんかじゃない、てね。
暗い顔してるから下に見られる。哀れまれる。
でも、少なくともオレは……
昔よりずっと、良いものになれた
から。
それは、胸に張りたいんだ」
「さて、集まってるならここかしら」
何のあても、
解決の手立ても、
そして一緒に歩んでくれそうな相手も
思い浮かばなかったが、
ただ、彼の行動パターンを考えればここかな、と。
そう思い、中庭にやってきた。
中庭
「────あら。ごきげんよう、スピカ。」
正しいやり方はわからなくたって
声を上げる事は、何か行動を起こす事は
たとえ誰に届かずとも、決して無駄な事ではない。
少なくとも、イクリールはそう信じている。
これまで通りだ。何も変わらない。
だって、これまでもずっと、そうして来たのだから。
寂しい中庭も、少しだけ賑やかになって来た。
>>中庭の片隅
「ようスピカ。
アンタくらいなら、オレが食堂に居なかった時点で気付──いや、スピカも行かなかったんだよな、すまん」
揃踏みだな、と皮肉げに笑う。
「これ以上、『いなくなる』子たちが増えるんだったら。
そうでない子との比率が縮まるなら。
きっと、段々と、無視できなくなっていくはず……
そう。声は聞こえる。姿は見える。
何も幽霊になったワケじゃないからな?
だから───」
すぅ、と息を吸う。吐いて、もう一度吸って。
「───“いつも通り以上”の
オレ達
で。
時間は……短くても一年。長けりゃ数倍。
出来ない話じゃないって、信じてる」
>>中庭の片隅
「心無い言葉だって。石だって。
それは、“オレ達を認識する”って前提がある。
オレたちは、ここにいる。生きている。
───爪弾き者にされる理由なんて、ないじゃないか」
そう、言い放った。
>>中庭……?
ある程度時間を置いたのだ、もう流石に誰もいないだろう。
……と思っていた思考が浅はかだったことを知る。
一応は持っておこうと先程食堂から拝借してきた食料と
温かい飲み物を抱えたままで、
中庭から聞こえる会話に耳を澄ませる。
「……そんな方法、」
それ以上は続けられない。
盗み聞きになってしまっていることは分かっていても、
なかなかその場から離れられない。
>>中庭
「ああ、揃い踏みね……
で、言おうとしたことも全部言われちゃった。
考えてることは同じよね」
「そう。みんなで集まればいい。
簡単な話よ」
「ルヘナが教えてくれたわ」
>>中庭
「……そう。
よかったわ。みんながわたしと同じ考えで。
それに、わたしたちなら『こうなってしまった』子にだって、
堂々と会いにいけるものね。」
イクリールは、そう言っていたずらっぽく笑って見せた。
いつものように。
これからも、誰に対してだって、同じように。
「わたしもそれに、賛成よ。
シェルタンやスピカが卒業したって続けるわ。
でも今は、わたしたちだけではきっと手が足りないの
だから、手伝ってくれるとうれしいのだけど。」
──ねえ、ルヘナ。
イクリールは、遠くこちらを窺う視線の事だって、知っている。
中庭
「──……っ、」
自分の名前が出されていたこと、
そうしてその後に名を呼ばれたこと、
そのどちらにも驚いて渋々といった様子で皆のもとに歩く。
「気付かれていたのか。悪い、途中から盗み聞きした。
食事と飲み物だけ置いて行くつもりだったんだが」
「こうして隅っこで慎ましくしてるのも、
そういう、”一つの理由”なんだよな」
逃げるように食堂から離れて。
当てもなく、ただふらふらと動いている。
身体まで亡霊になったつもりはない。だから。
「……それでも。
オレは。シェルタンはここ
にいる。
それを知るのは、ブラキウム、アンタだけじゃない。
それぞれに絆があって。
んで、それは簡単に掻き消えるようなもんじゃない」
「幾らでも聞かせてやるよ。
楽しい談笑の声か?歌声の方がいいか。
楽器の音色も、とっておきがたくさんある。
踊りも。大体の雰囲気は伝わるかな?
それを観る、まだ『いる』アンタたちが。
他ならない、『いなくなった』オレたちが、でも、『そこにある』証明になる」
今もそうだ。と、辺りを見渡した。
>>中庭
「盗み聞きも何も、あなたが言い出したことなんだし、
それに、どのみちあなたも一緒になるんだから」
「私には、正直まだアイデアもないけど、
同じ境遇の人間の慰めになればそれでいいと思ってるわ」
そして、笑いながらこう言った。
「振るわれる暴力については、考えなくてもいいわ。
私が全て受け止めてあげる。
そういう身体
だもの。有効活用しなくちゃね」
「……──ルヘナ居ないのに揃踏みって言ったな今」
こら!カッコが付かない!
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