人狼物語 三日月国


153 『Override Syndrome』

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視点:


【人】 ???



     その少女は佇む。

        まるで心を亡くした傀儡のように。


(0) 2022/06/11(Sat) 0:00:00
 
[ ───兄が失敗したのは、俺が高校入学を決めた年。

  二度目、落ちて、三度目も、落ちて
  荒れ狂う海のような家庭で、3年を過ごした

  俺は初めて、兄は4度目の大学受験。

  この状況で凡人が勉強になど
  集中出来るはずもなく、成績は下がる一方。
  まだギリギリ合格ラインだった
  底辺に近い私立医大を、兄と受けた。


  結果。 ]

 


[  合格切符を手にしたのは、俺だけだった。  ]

 

 
[ パチパチと火が爆ぜる音に、視界を蹂躙する赤。
  燃え盛る棚の下敷きになって、呻く妹。
  私はただただ脚を震わせて、
  何をすることもなく絶望的な光景を見下ろしていた。



      「何してんの!?……早く逃げなさいよ。
       アンタがそこでじっとしてたって、
       何にもならないじゃない!
       さっさと逃げて、助けでも呼んできなさいよ」


  じわじわと後退る。確かに、真結実の言う通りだ。
  それでもすぐに体は言う事を聞かなくて、
  ぼろぼろ涙を零して、少しずつでも足を動かす。
  やっと背を向けることが出来たその時に、
  私の耳は最期の言葉を拾った。 ]

 

 
 
 
「もしダメだったらさ、アタシの分もちゃんと生きなさいよ」

 
 

 
[ "真結実の分もちゃんと生きる"
  その言葉の意味が、これだなんて私だって思っていない。
  でも、これまでちゃんと生きてきたとは
  到底思えない私は、
  "真結実のような生き方"しか、
  ちゃんとした生き方を知らなかった。


  ニュースや新聞で報じられたとおり、
  遺体の損傷は激しく、双子のどちらか所か、
  性別や年齢を判別するのも困難な有様であったらしい。

  亜結実なのか真結実なのか、
  判断する材料がもう私の自己申告しかなかったから。
  私の一世一代の嘘は、
  あっさりと受理されてしまった。 ]

 


[ 半年間、聞けなかった。
  でも、船越亜結実の死は、知ってしまった。

  それはここ数月前のこと。 ]

 




   『佐々岡さん』


      あなたが受付を済ませていたのなら
      私はきっと扉を開いてあなたを呼ぶの。*




[ 声が聞こえた気がした。
  ざざ、と、ひらがなの羅列。
  自分のことを呼ばれた感覚はない。
  本から視線を上げてぼんやりと周りを
  見渡すけれど、そこには誰もいないから
  それでようやく気づく。


   ささおかさん、……ああ、おれか。
   ─── はい、すみません。


[ なんだか今日はネクタイの結び方が
  わからなくて、ノーネクタイ。
  シャツにパンツ、ジャケットは手に持って
  ゆっくり立ち上がる。

  ウエスト部に緩く余裕がある。
  今更気付いてベルトの部分に手をやった。 ]
 


[ 開いた扉に向かう。

  背筋は伸ばして、整えた穏やかな笑みで、
  真っ直ぐに足を運んでいるつもりだけれど
  診察室までの数歩がやや遠い。

  床がぐにゃりと歪んでいるような錯覚に
  二、三度足を止めながら、
  迎え入れてくれる医師の前に立つ。 ]


   こんにちは。


[ あくまでにこやかに、声音も穏やかに
  軽く頭を下げれば、医師の顔を見られただろうか。

  ぼんやりと靄がかかる頭の中、
  ちかちかと何かが瞬くのがわかる。 ]
 



   だめだ。
   おもいだしては、いけない。
   
   ─── やめて、しらない。