![人狼物語 三日月国](./img/mptitle_prov_v0.jpg)
45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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[続く優しい言葉を、何度も読み返す。]
……ありがとう
[ぽつん、と落とした言葉は届かない。
他にももっと言葉があるはずなのに、
どれだけ友君の言葉が沁みてるか、
声が、表情が届けば、もっと伝えられるはずなのに。
私にできることは、ただ友君の言葉を指でなぞるだけで。
友君の文字がかすれなくたって、
滲んだ視界では見えにくかった。]
[私は友君に何でも話した。
チアの魅力、息がぴったり合って、
会場の観客と一緒に演技を作り上げていく達成感。
だけど、去年は銅賞になってしまったこと。
リベンジしたくて必死に練習したのに、
すべてのイベントが消えてしまって。]
[空気を乱さないか、興ざめじゃないか、
そう怯えて飲み込んでいた柔らかい心も、
友君なら受け入れてくれる気がして、
優しさに甘えて、話してしまう。
だけど、どれだけ心を寄せても、
私たちの距離は遠い。]*
──鈍色の球体5───
[子供は元より冷めていた。
笑いもせず、泣きもせず、子供らしい子供ではなかった。
可愛がられないのも慣れていて、
親戚達の対応も当然の事だと思った。
彼らは自分達の家を守ろうとした。
誰にでも拙い敬語を使いながらも、
同い年の子供のからかいには強く静かな視線を向ける。
気にならなかったのが真相、
子供達はつまらないと他の面白いものを探す。
守ると早くに決めた心が子供を強くした。
空洞を含む強さであっても、他の強さは知らず、歩み続けた。]*
―― 事件の翌日 ――
[まだ暗いうちに目を覚ませば、
今までと同じように自分の部屋の天井が見えた]
[事件が起きたのは昨日のこと。
その日はリフルの眠るベッドの隣で夜を明かした。
今日はご飯だって執務だって、
全部、けが人の部屋に持ち込もうとするものだから
メイド長直々に引き剥がされた。
仕事もご飯も終わらせて、枕を持ち込んでいたところを
今度は侍女に見つかり、
医者に任せてくださいって閉め出された]
……みんな、いじわるね
[夢の中で誰かにされたように、両手で私を抱きしめた。
私がいたって役に立たないのだから、
彼に負担かけないように。
……そんなの解っています]
[事件の日は「私のせいでリフルが死んだらどうしよう」
そればかり口にしていたせいか、
お父様が勲章を贈ることを決めてくれた。
『彼はよくやってくれた』と言ってくれたけれど、
目を覚まさない彼を誇る気持ちにはなれなくて、
ベッドのそばから離れられなかっただけです。]
[今日は見張りをつけられながら1人で寝たもの。
窓から脱出するのは思いとどまったもの]
[今日は仕事の合間に仕事を増やした。
カードックの義手技師にリフルの義手の状況を送って、
指示を願って駿馬を飛ばしたのだ。
きっと、こちらに向かっている王子とお連れさまに
文を持ち帰っていただくのがいいのだろうけど、
王子様を待つ気はもうなかった。]
[こんこん]
『遅くに失礼します、お嬢様。
リフルが目を覚ましましたよ』
ほんとう!
[彼が気がついたら何時でも知らせてと
お願いしたとおりにドアが鳴った。
ネグリジェにガウンを羽織ってドアを開け、
ノックしてくれた侍女の横を抜けようとしたら捕まった]
『今は医者が看ております。
お嬢様はせめて着替えてからにしてくださいませ』
[こんこん]
リフル、シャーリエです。
入りますね。
[早く着替えられる街着でまたこの部屋に戻ってきた。
起きたその場に居ることはできなかったけれど、
リフルのおかげで無事です、ありがとうって伝えるのが一番。
お医者様に痛み止めを打たれるときのしかめた顔には、
私の方が唇を噛んだ。
右腕の話を聞いたときには、ああって手を組んだ。
顔だけ笑ったリフルの隣に椅子を置き、
お医者様の注意を一緒に聞いている。
侍女がお医者様を見送りに出て行く。
お嬢様、今日はお部屋で寝てくださいって念を押されたけど
何にもいえずに2人を見送った]
……リフル……
ごめんね、酷いことさせて、
痛い思いさせて、ごめん
助けてくれて ありがとう
私はどこも平気。
……リフルが目を覚まさないんじゃないかって……
怖かった、こわかったの
[怪我はしてないって頭を振ったのに、
怖いことはと聞かれて、右目をこすった。
捜査が進んでいる間、警備は厳重で、
私は外出禁止を命じられてるから大丈夫。
簡単に現状を説明する。
三人組を雇った奴は捕まって、
黒幕を吐かされている最中だから、
すぐにも解決すると思う。]
だから、私は大丈夫。
リフルが心配だった……
[今度は左目を拭った。
リフルは泣いてるのを隠すことも出来ないんだ、
私が泣いてどうするの]
[勲章を渡す話もしなくちゃ。
リフルが堅苦しいのいやがるのは知ってるから、
誓いの議はやらないことになるだろうと伝える]
よく頑張ってくれました、騎士さま。
あなたに不自由がないよう尽くすのが
あなたの働きへの感謝のしるしです。
……義手の先生も呼んだからね。
休んで元気になってね
[血生臭い悪夢はまだ彼を捕らえているのだろうか。
花瓶ごと持ってきていた中庭のバラを、
サイドテーブルに飾る。
私の部屋にあったのをそのまま持ってきた]
また、明日来ます
[窓の外を見る横顔を見る。
生きていてくれて良かった、話してくれて良かった。
今はそれだけでいいって思って、後ろ手にドアを閉めた]
[私を見るでもなく、お医者様を見るでもなく、
どこかに向けられた顔を見ているとなにも言えなくなる。
それから抱きついて泣きたいのを我慢する数日が過ぎた*]
[そんなことを考えながら
乱れていた金髪に指を通していけば
手入れが行き届いているのだろう
するりと簡単に整って、艷やな流れを取り戻す。
ひとつ美しくなれば
そうではない箇所
膝下で蟠ったスラックスが気に掛かり
眠りを妨げぬよう気を付けつつ
反対の足首からも鎖を外して
レースの下着と、拘束具以外を取り除いていく。]
ん…?
[先程よりも、脚が重く感じるのは
眠っているからだけじゃない。
脱がしやすいように
手伝ってくれていたからなのだろう。]
―― 数日後・怪我人の部屋 ――
[彼と買いに行ったピアノ譜をなぞって
頭の中で鍵盤を鳴らす。
リフルに聞いて欲しい気持ちと、
私も曲を作りたい言う気持ちが混ざって、
何度も同じフレーズを弾いている。]
[今日も当たり前のようにお見舞いに居座っている。
お医者様でもない私が役に立つことはなくても、
人を呼んで助けを求めることくらいはできる。
あのときみたいに、リフルの側に居たがった。
そのくらいには気持ちを持ち直したとも言える]
騎士さま、お加減はいかが?
[そういって花瓶の水を換えるのだ。
バラの向きを気にする振りをして、彼の顔を伺うのだ]
[話しかけるには塞ぎ込んでいるようなら、
話さずに出て行こうとしたけれど、
今日はどうしても言っておきたい事があった。]
リフル、あのね。
……私、王子様のお話、お断りすることにした。
かわりに頑張って国を支えようって思ったの。
へんな話してごめん、
……また仕事終わってからくるから
[きびすを返した顔は
傍目からも赤くなっているのがわかるだろう。
そのまま出て行こうとして、
ドアの押し引きを間違えて顔をぶつけてた**]
[言葉どおり
全部見せてくれようとしていたのだと
期待してしまう自分も居る。
けれども、油断させるためという線を
どうしても消せないのは
(………きっと、これのせいだ、)
チャリ、…
外したチェーンを持ち上げる。
こんなモノでは
貴方の体は繋げても
心まで縛ることは出来ない。]
[椅子の上にまっすぐ伸ばした
白さと長さが際立つ脚を
ぬくもりが移るくらいのゆっくりとした速度で
惜しむように撫で上げて
それから、レースの上を
へその窪みを
紅の模様を崩してしまわないように
避けながら胸を遡り
俺にはある喉の突起を
探るように首を滑らせてから
最後にまた、頬をふたつの掌で包み込んだ。]
[眠り姫に口づけて起こす絵本など
見たことも読んだことも
まるで無いまま、虫に狂って育った男は]
ずっと…、居て、 俺と
[不器用に望んでから
下着とお揃いのレースの手袋を切なく見つめつつ
残った2本の鎖も外して
ただ、静かに
その目が開いて
また自分を見つめてくれるまで、待った。]
……とも、くん
[友君の影が、私に近づく。手が伸ばされて、耳を撫でた。
耳にかけてくれた髪は、一本だって動かない。
いくら筋肉をつけたって、輪郭までは女のままだ。
その丸い胸と腰を、友君がなぞる。]
[友君の声も、顔も見えないのに、
気遣うような声が、表情を、感じる気がした。
嫌じゃなかった。
ただ、なんの感覚も無い愛撫が悲しかった。]
……ふ、
[影に口づけられると、じんと唇が痺れた。
無いはずの感触に戸惑って、
ほんの少しの期待を込めて友君を見上げる。
だけど、鼻先に指先をかざされると、
触れられなくても痒くなることを思い出して、
そうだよね、これ以上の奇跡は起きないよね……
なんて、すぐに落胆した。
友君はそうやって甘い痺れをもたらして、
私の緊張をほぐしていく。
だけどやっぱり足りない、
友君に触れたい。
友君に触れてほしい。]
[私は友君の手を取る。
その手は、空を掴む。
そのまま、カーディガンのボタンに導いた。
ハート形の可愛いボタンを、
私の、
友君の
指が、
一つずつ外していく。]
……ともくん、見て。
私をもっと、みて。
[衣擦れの音が図書室に響く。
私の影は、布の厚み分、小さくなった。
友君に知ってほしい。
早鐘のように鳴る鼓動も、
乱れた息遣いも、
夕焼けの色に染まった頬も、
何一つ触れられなくたって。
そのほんの欠片だけでも伝えたくて、
友君の手を、裸の心に導いた。]
[窓から吹き込む強い風が、カーテンを引いた。
風は、ヒュー、ヒュー、と
音を立てて吹いていました。
うっすらと開いた隙間から、月光が矢のように刺さる。
いつのまにか、満月が近い。
月明かりに照らされた私たちは、
確かに繋がっていた。]**
![](./img/saijisyou/22.png) |
天使でありますから、たとえ破られても、 焼かれても、また轢かれても、 血の出るわけではなし、 また痛たいということもなかったのです。 ただ、この地上にいる間は、 おもしろいことと、 悲しいこととがあるばかりで、 しまいには、魂は、みんな青い空へと 飛んでいってしまうのでありました。
─────『飴チョコの天使』 小川 未明
(19) 2020/10/06(Tue) 9:44:54 |
![](./img/saijisyou/22.png) | [その日の逢瀬で、菜月と一体何が話せたろう。 けれど、夕方の束の間の時間なんて 俺達にはちっとも足りなくて、 俺は家に本を持ち帰って、 話し足りない続きを書こうとした。
何でも菜月は打ち明けてくれて、 柔らかくて繊細な心をひた隠しに 仲間や家族に笑ってみせた、その裏まで。] (20) 2020/10/06(Tue) 9:45:53 |
![](./img/saijisyou/22.png) | [出来るだけ近くで彼女の気持ちを聞きたくて 影に寄り添い、声に出す。
─────ああ、悔しい。悔しいなあ。 もっと触れたい、近くにいたいのに。
便箋を書いては消して、書いては消して。 今までのやり取りは頭の中。] (21) 2020/10/06(Tue) 9:47:24 |
![](./img/saijisyou/22b.png) | [そんな扱われ方をした便箋が…… もう、裏なんかセロテープが無いとこの方が 珍しいくらいになっているそれが、 こうなる事なんて、分かっていたはずなのに。]
─────……あっ!
[何となく書き添えた、赤いハート。 恥ずかしくなって消そうとしたら、 びり、と音を立てて便箋が裂けてしまった。
慌てて学習机の上に手を伸ばして セロテープを取ろうとしたら、 手も触れていない便箋が、びり、びり、 もう耐え切れないのだ、と言わんばかりに ひとりでに千々に切れていく。] (22) 2020/10/06(Tue) 9:49:07 |
![](./img/saijisyou/22b.png) | ちょっ、えっ、待ってよ! [慌てて便箋を手で押えても、手の下で 容赦なく紙は裂けていく。 たとえ破られても、 焼かれても、また轢かれても、 血の出るわけではなし、 また痛たいということもなかったのです。 この紙が無くなったら、菜月に逢えない。 いやだ、いやだ、嫌だ! 焦る俺を他所に、 シャーペンと消えるインクの跡を刻んだ便箋は もう飛ばす寸前の紙吹雪みたいになっていて。 ただ、この地上にいる間は、 おもしろいことと、 悲しいこととがあるばかりで、 しまいには、魂は、みんな───── ] (23) 2020/10/06(Tue) 9:55:46 |
![](./img/saijisyou/22b.png) | [ともかく、セロテープで繋いでしまえば…… そう思って、紙から手を離した矢先。 細かく千切れた便箋たちは、 たちまち真っ青な 蝶 へと姿を変えて 窓の外へと飛んでいくと、 まんまるなお月様の方へと 飛び立っていくのでした。] (24) 2020/10/06(Tue) 9:59:36 |
![](./img/saijisyou/22b.png) | [行く手に美しい星の光る空を仰ぎ 窓から身を乗り出すようにして 俺は一人、大きな声を上げて泣いた。 「さびくて、しかたがない!」 真っ青な蝶の昇った空には ただ青ざめた顔をした月が 黙って地上を見下ろしていた。]* (25) 2020/10/06(Tue) 10:05:32 |
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