260 【身内】Secret
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思い出した?
じゃーこれからは忘れなきゃいいよ。
俺もそうするから。
[全部覚えていると言った彼女は
自分が嘘を吐かなかったことも覚えていたのだろうけれど
忘れていた自分と同じ立ち位置に立たせる。
「ごめんなさい」と小さく響く声色は
大人になって成長した声帯を通っているのに
小さな女の子のままに聞こえた。]
[起き上がると反射でルミの身体が傾ぐ。
痺れが直っていて良かった。
支える腕が間に合う。
触れようとした手は背中に使ってしまったから。
反対の手を使うのではなく、
直接傷を食べに行く。]
ルミ。
こいびとに、なるよ。
[言わなかったら嘘にはならない。
言ったからには嘘にはしない。]
いーたいのいーたいの、おーれがたーべ、
[た、の音で広がる鉄の味。*]
[ 物語、は。
ハッピーエンドのその先がどうなっているのかを
仕事中にふと考えたことがある。
たとえば、いじわるな継母たちから離れて
王子様のもとに嫁いだシンデレラ。
あのまま彼女たちは不幸などひとつも知らず、至らず、
生きていくことが出来るだろうか。
" 恋愛の成就 "で大団円、終幕になるのなら
その先がどうなっても読者に知るすべはないけれど。
結ばれて終わるのがおとぎ話の運命ならば。 ]
…………ぅん。
[ 忘れてたわけじゃない、と言うのはやめた。
飲み込んだ罪の味。
気付かないフリをしていたふたりの過去。
記憶の残り香が頬を撫でる。
匂い立つような昔の思い出が部屋に漂う。
変わったね、と貴方を詰ったこのなかで
変わらない、と優しいままの貴方を見つめた。
痛みも恨みも苦しみも煮詰めてしまったその後に
それでも消えないふたりの今が残っている。 ]
ッいきなり起きると、危ない……
[ もうほとんど薬が抜けたらしい。
油断して転びそうになった背中を支えて貰いながら、
「ありがとう」と言おうとして。
呆けたわたしの顔が、貴方の水晶に映り込む。 ]
ぇ、
[ 唇は赤い。
おとぎ話の白雪姫よりも真紅に濡れて
りんごよりも苦くて錆びた味で満ちて。 ]
──────…、
[ 言い終わると同時に奪われていく鉄の味。
睫毛を震わせ、瞳を瞬かせるのも忘れて瞠ると
いよいよわたしの思考は現実に追いつかない。
こいびと。 なる。
だれの? ────わたしの。
だれが。 ────お兄さん?
言ったからには、嘘には、ならない。 ]
────……お兄さんの未来も痛みもずーっと、
わたしがたーべた。
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