73 【誰歓突発RP】私設圖書館 うつぎ 其漆【R18】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[腹は少し減っていたけれど
夕飯のことにも生返事。
時間よ止まれ、と念じるなんて
馬鹿なことを試みていた。
でも、それでも時間は流れてしまうから
願うだけじゃなく手を伸ばす。
抱きすくめた飛鳥の身体が一瞬、強ばった。
でも、もう離そうとは思わない。]
思うさ。
さみしいし、時間が惜しい。
今日という日が終わるのが、つらい。
[抱き合ったまま、鼓膜へと刻み込むよう
素直な気持ちを口にする。
まるで子どもみたいで恥ずかしい。
でも、言わなきゃずっと伝わらない。]
[ぐ、と飛鳥の顔が近くに来る。
触れるのか、と思った赤い唇は
また離れていく。
離れていく体温を惜しむよう
俺の手はまだ、飛鳥の肩に置いたまま。
さびしい、帰りたくない。
でも、夕飯までは一緒。
それで飲み込ませようというのが大人の理屈。
頬にちゅ、と口付けられて
嬉しい、の気持ちよりももっと強く
寂しい、の気持ちが湧き上がって胸をつく。]
俺のが我慢出来ねェよ。
[すん、と口を尖らせたまま
ヘルメットを手渡して。
昼にがっつり天丼を食べたから
洒落たイタリアンでピザでもつつこう、と
またバイクを走らせる。
空に溶かした濃紺の色が
じわじわ広がり、空全体を飲み込んで
代わりにちらちらと星が瞬く。]
[背中に感じる体温が、
何故だかひどく遠く感じて
やっぱりさっき、
キスしておけばよかったかな、なんて。
でも、さっきの時点でキスしてしまえば
後の過ぎるだけの時間を、
ひどく辛い気持ちで過ごしてしまう気がして。
前に来た時は美味いと思った店だったけど
石窯で丁寧に焼いたマルゲリータは
今日は何だか、味がしなかった。
ピザを食べる間、何を話したろう。
『今度』の話は、なんだか怖くて
俺は飛鳥のことを尋ねたろう。
若い人の話をどこまで飲み込めるか分からないが
彼女のことを、もっと知りたくて。]
[どんなに惜しんでも、時は過ぎて
店の外に臨む空はぬばたまの色へ。]
……今日は、ありがとうな。
[空になった皿を前に、に、と笑って見せようか。
言いたいことはたくさんある。
引き止めたい気持ちも。
でも、今日このまま帰さない、というのは、ダメ。
明日、明後日、ともっと一緒にいたくなる。
送り届けるまでが、今日のデート。
もし嫌だというのなら、家に帰るまでの
ほんの少しのドライブを提案しよう。
港町の灯りを眺めて、海でも眺めて
気が済むまで一緒にいよう、と。]*
[さみしいって、聞けると思ってなかった。
…いつもみたいに、はぐらかされるんだろうって
もしさみしいよって言ってくれたとしても
わたしが押して押して聞かせてっていって
やっと聞ける言葉だと、思ってた。
なのに、その声に冗談やしょうがない、の色は
含まれていなくて。その腕が、わたしの体を
優しく、それでいて力強く、包み込んで。
ねえ、どうして寂しいの?
美術展が楽しすぎたから、なんて理由だけじゃ
ないっていってくれたらいいのに。
わたしと離れたくないって、だから、
別れの時間が惜しいって、そう、
思っていてくれたらいいのに。
だから、言葉にしたの。
わたしは離れたくないって。
だからさみしいんだって。]
[でもね、それに対する返答はなかったから。
ああきっと、また怖がって、迷ってる。
口に出すべきかどうか、悩んでるんだって
そう思ったから、頬に口付けて、
これで我慢するって言ったのに。]
っえ、
[俺のが我慢できないって、なによ。
心臓がうるさく鳴り始める。
我慢、出来ないって何?どういうこと?
キスしたってよかったの?
我慢、しなくていいのに。
我慢、なんてしてほしくないのに。
わたしはあなたのことが好きなのよ。
付き合ってほしいってずっといってるでしょ。
それなのに、何を我慢するの?
どうして我慢するの?
それはきっと、わたしもとっても
嬉しいことなんじゃないの?ねえ、教えてって
そう口に出すことができなかったのは、
彼が話題を切り替えて、ヘルメットを
こちらに投げてよこしたから。]
[少し悩んで、揺れて落ちた視線をアスファルトに
向けて唸ると、彼のバイクのエンジン音が
人気の少ない駐車場に響き渡った。
背中にまた、くっついて。
だけど、行きの時みたいな全部が全部、
しあわせな心地じゃなくて、どこか、
まどろっこしくて、どうしてって疑問が
頭の中を渦巻いているから。
とん、とんと、抗議するみたいに額で叩きながら
腕の力を思いっきり強めたりしてみた。]
[彼に連れて行ってもらったお洒落なイタリアンは
店内もいい匂いに包まれて、見た目にも、味も、
とってもいいはずなのに、「おいしいね」って
話しかけても、どこか上の空な気がして。
ふわふわ、地面に足のつかない会話。
わたしのことばかり聞いてくる彼は、
初めは興味が湧いたからかと思った
のだけれど、たぶんそうじゃない、気がして。
何かを避けてる、感じがして。
最近お気に入りのコンビニスイーツだとか
今欲しいコスメの話だとか
友人のくだらない失敗話だとかを
話しながらも、どこかで、なんでだめなんだろうって
頭の中を駆け巡ってしまう。
さみしいって思ってくれたり
抱きしめてくれたり
頬へのキスを許してくれたり
…我慢できないっていったり
好意を抱いてくれてるって思う。
だけど、その形がわからない。
こんなに近くに寄って行っても、
この手を取ってくれないのは、
この先を望んでいるわたしには、
報われない形をしてるってことなの?]
[空になったお皿を見つめて、ごちそうさまでしたと
手を合わせて、言われた言葉に体が強張る。
…それは、別れの言葉、だよね。
ぱっと顔を上げて、唇を結んで、眉を寄せて
迷うように落ちていく。
…帰りたくない。まだ離れたくない。
今離れたら、ダメになってしまう気がする。
W今度Wの話もさせてもらえなかった。
次、会える日の話も、次、行きたい場所の話も
───あなたの、本音も。
なにも、聞けてない、わたし。
全然こっちを向いてくれないなら、
いくらでも待てるって思ってた。
振り向いてくれるように頑張れるって
そう思ってたのだけれど。
向いてくれて、近くに寄ってくれたのに
また線を引かれてしまったら、わたしは、
それを超えていいのかどうかわからない。]
[───超えたら、嫌われない?
だから、言えないの。
さっきみたいに、
その別れの言葉が、何を意味してるのか、
私にはわからないから。]
……………うん、ありがとう
[沈黙が続きそうだったから、
わたしもお礼を言って、笑いかけた。
だけどもう一歩、踏み出せなくて、
そのまま、家に送り届けてもらうだろう。]
[西園寺の表札がかかった木製の大きな門が迎える。
バイクから降りて、ヘルメットを外して、置いて、
もう一度お礼を言って、見送らないと、
いけないって───わかってるのに。
だけど、やっぱり寂しくて。
門の方には回れなくて、彼の服の裾を掴んで、
少しだけ引っ張った。
…それから、もう一度、引っ張った。
唇を結んで、開いて、詰まって、飲み込んで]
───ひとつだけ、聞いてもいい?
[そう尋ねたら、そちらを見つめて。]
我慢、できないってどういうこと?
[ぎゅ、と掴んでいた裾を握って]
[イタリアンに入ると隣の席には
何処かぎこちない男女がいて
何となく、見合いか何かかな、って。
他人行儀な距離感と話題、
それでも何とか話題を出しては
笑い合おうとする、奇妙な空気。
名前だけ普段と違うけれど
きっと傍目には其方の席と
同じ空気に見えたかもしれない。
最近ハマったコンビニスイーツとか
欲しいコスメとか、友達の話とか
たくさん、知りたいことは知れたけど
そういうのじゃない、
俺はまだ、核心に触れようとしてない。
取り繕っておしゃべりしても
ダメ、なんだ。言わなくちゃ。]
[そうして提案したデートの引き伸ばしにも
却下が下りてしまえば
これで本当にデートのおしまいが
すぐそこにきてしまう。
…………いいや、きっと俺が一言
も少し一緒にいさせてくれ、って
素直に口にすれば良かった。
じわり、じわり、後悔が押し寄せる。
最後に冷やを一口、苦い想いを
喉の奥に流し込んだら、席を立とうか。
結局、またあの重苦しい感じのする
綺麗に剪定された松の前に辿り着くまで
俺は自分から切り出せない。]
[門に向かおうとする背が
控えめにぎゅ、と引かれて
俺は素直に立ち止まる。
くる、と振り向くと飛鳥の唇が
開いて、閉じて、やがて問う。]
─────それは、
[我慢、ってなんのことだ、なんて
すっとぼけるのは、無しだ。
─────だって、飛鳥は待ってる。
俺が言葉にしなかった先の言葉を
いつもみたいに、
でもいつもより揺らぐ瞳で、紡いで。]
…………飛鳥に、言わせたくなかったのに
どうにも臆病で、我ながら情けねェや。
[ぼりぼりと、ヘルメットに蒸れた旋毛を掻いて
唇だけ、笑みを形作ってみせた。
イタリアンにいたカップル未満の二人みたいに
間を埋めるだけの空虚な笑みだった。
そう気付いたら、首を横に振って。]
[すっとぼけられるかなって思った。
だけど、今誤魔化されたらもう、進めない気がした。
だからお願い、ちゃんと教えてって
心の中で願っていたの。
そうしたら、彼の口が開いて、それから
情けないと呟いて、下手くそに笑うから
眉を寄せて、そちらをじっと見た。
…そんな顔、しないでほしくて。
レストランで隣にいた少しよそよそしい
カップルを思い出す。…あの2人の方が、
まだ初々しかったような気すらした。
私たちは、もう知っているんだもの。
あの2人よりもきっと、近しいもの。
それでいて、遠いんだもの。]
[ぎゅ、と唇を結んで見つめていたら、
彼が首を横に振る。掴んだ手に力を込めた。
ゆっくりと紡がれていく言の葉。
それは、今まで彼が隠してきた心で。
待ってた、と言われたらきゅん、と
心がときめくように締め付けられる。
解かれた手。もう、怖くなかった。
広げられた腕に、寄り添って、
わたしも彼の背中を優しく抱きしめるの。
胸板から響く声に、黙って、頷く。
優しく髪が梳かれる。そっと、顔だけ離して
彼の表情を見ていたら、わたしの髪がその口元に
近づいて、口付けられるから、そこに視線を
落として、それからまた、上げて。
だけど、視線は合わないし、またぎゅ、と
強く抱きしめられてしまったら、
見ることも叶わなくなって───それでも
問いかけられる言葉に、拒否なんて、
できないし、したくない、から。]
[背中に回した腕を一度解いて、
その首に引っ掛けて、近づいて。]
───だめなわけない。
[と告げて、こちらから背伸びをして、
口づけを贈ってしまおう。
甘い、キスは、触れるだけ。
彼の唇に赤が移ったのが見えたら、
少し眉尻を下げて笑って、その頬に
手のひらを添えて優しく、親指で拭う。
背伸びをやめて、そちらをじっと見つめながら
またそっとまつげを伏せたなら、
今度は彼から口付けてくれるだろうか。
心臓が飛び出してしまいそうなほどドキドキしてる。
ぴったりくっついたからだから、なにもかも
伝わってしまうような気がした。]
………颯介さん、
[いつもよりも、柔く蕩けたような
視線をじっと投げかけて、呼ぶ。]
………お付き合い、してくれますか?
[あのときと同じように、はじめて、
あなたにこの提案をしたときと同じように、
また、わたしは問いかけて。
静かにその答えを待つの。
言い淀むようなら、わらって、
今度聞きにいくねって、腕を緩めるけれど。]*
[欲しかった口付けが、飛鳥の方から送られて
俺はそっと瞼を閉じた。
背伸びしてのそれは、ほんの少し触れるだけ。
移った赤を拭われる前に、
もう一度、今度は俺からキスをしよう。
もう少し深く口付けても
良かったのかもしれないけれど、
まるでキスの仕方も知らないような
掠めるだけのキスだった。
それだけでも、触れ合った身体に
ドキドキと鼓動を伝えてしまう。
……これはどっちのものだろう。]
[蕩けたような甘い声で呼ばれ
俺はほんの少し身を離す。
もう何度も何度も言われてきた告白に
今度はちゃんと頷いた。
ざあ、と吹いた風が御屋敷の松を揺らす。
彼女の祖母から出禁を食らったのを思い出せば
ほんの少し、臆病風が吹く。
でも、もし許されるのならば
彼女と付き合う許しが欲しいし、
……あの骨董品達の評価に
関する誤解も解きたいとも思う。]
飛鳥の、お祖母様は特に
いい顔してくれなさそうだけど……
もう一度、骨董品のことも含めて
チャンスをくれたりしないかねェ。
[だから、飛鳥にも力を貸してほしい、と
少し眉を下げる。
話し合いに努力するのは俺の仕事、
そのきっかけを作ってもらえないか、と。]
[そうしてするりと身体を解いて
バイクに跨り……ふ、と気付く。]
そういや、俺ァ飛鳥の好きな店を
まだ知らねェ気がすンだ。
[天丼もイタリアンも、俺が知ってる店。
『今度』こそ、君の好きな店を
俺にも教えてくれ。
─────そんな約束を取り付けようか。
何処だっていいさ。
ただ、ジンジャークッキーと
カップケーキの出処には、俺は固く
口を閉ざすだろうけれど。]*
[こくりと頷かれたそのとき、どきん、と
心臓が跳ねて、愛おしさが溢れてやまない。
嬉しくて、ぎゅ、とその体を思い切り
抱きしめて「大好き」をその胸に直接
届くように服に吸わせた。
風が吹いた。
ざわつく木の音から逃げるように、
腕の力を一層、強めて。]
───
[帰りたくない、もっとあなたのそばにいたい。
また来週って言わなきゃいけない?
触れてほしい、あなたに、触れたいって
そう、願っていたら彼の声が響いたから
顎をピッタリその体につけたまま、顔を
真上に向けて彼のことを見上げた。]
[眉尻を下げるその表情に眦を細めて]
…おばあさま、私には弱いから。
言っておいてあげる。
…私の頑固さを一番知ってるのも
おばあさまだもの。
[と口端を上げた。
する、と解かれた腕に、寂しさを感じて、
もう一度だけ力を込めて、緩めて、
それから離れた。
自然と呼ばれるようになった名前に、
彼の方からされた『今度』の話に
口元を綻ばせ、わたしは彼の方を見つめ]
わたしの好きな店はね、
『伽藍堂』って名前なの。
[そう笑いかけて、触れるだけの口づけを
もう一度だけおくって、数歩下がった。]
だから、また行くね。
[そう伝えて、寂しさを押し殺して、
わたしは彼のことを見送るのです。
ふかして去っていくエンジン音が、
遠く、書き消えてしまうまで、
その背の過ぎた場所を見つめて。]*
[このままずっと一緒にいたい。
共に迎えた朝日の下で、
君の顔はどんな色に染まるのか
もっと知りたい気持ちは、ある。
けど、嫁入り前のお嬢さんと
会ったその日に共寝をしけこむような
不埒を働くつもりもなく。
時間はかかっても、
ちゃんと納得してもらえるよう
努力するのも大事なことか。]
おい、あんまり虐めたらダメだぜ。
[くすり、と笑みを漏らして
抱き寄せる腕へ最後にく、と力を込めて
それから、離す。]
[クラブに行くのか、
はたまた流行りのスイーツの店か、
次の話をしようと思ったが
飛鳥の好きな店を聞けば
きょとん、と目を丸くして……
それから、くすりと笑みを漏らす。]
そいつァ、光栄。
[触れるだけ口付けを追って
もう一度、抱きすくめて此方からキスを送る。]
……愛してる。
[ありがとう、とか、待ってる、とか
言いたいことは沢山あったが、
そういうのを全部ひっくるめて囁いた。
そうして改めてバイクに跨り直すと
俺は西園寺邸を跡にする。]
[ケーキ用プレートの納品に
店を訪れた時、紅茶専門店の店主は
カウンターの奥からにじり寄ってきた。]
「ねえ、うまくいった?
カップケーキ、どうだった?」
[眼鏡の奥から好奇心を覗かせてくるのを
はてさて、どう答えたものか。
多分恋の行方が気になっているのと
自分の手製のスイーツがそれに一役買えたのと
どっちも気になってる、って顔。
「まあまあ、ってやつだ」と答えると
「ああ!惨敗じゃなかったんだ!」なんて
ぴょんぴょん跳ねながら嫌なことを言う。
まだ、付き合い始めて、キスをして
抱き合っただけ。それも、一日だけ。
年月を重ねてそれが確固たるものになったら
今度はちゃんと、飛鳥と一緒に来ようと思う。]
[俺の頭を読んだか知らないが
店主はにっと笑ってみせて]
「君がいいと思った人だもの。
僕はその人が男の人だろうと、
どこかの国の王女様だろうと、
どんな人だって祝福するよ」
[そう、笑って見せたのだった。]
| ー 『伽藍堂』ー
[あの日を境に、俺の店の入り口を眺める頻度は さらに高くなっていった。 (連絡先の交換をし損ねたせいだ)
いつ来るか、それとももう来ないのか 首を長くして待とう。 この気が気じゃない時間が過ぎていくのは どうにも俺は「待つ」というのが苦手らしい。
紅茶屋の店主が持たせてくれた パウンドケーキを傍らに。 また飛鳥が店に来てくれたら、 待ち時間の恨み言抜きに歓迎しよう、と。]* (17) 2021/05/27(Thu) 9:22:48 |
いじめるなんて、人聞き悪い。
…そんなことしないよ、
わたしの道を、認めてもらうだけ。
[そういって、もう一度抱擁を交わし、
離れた熱に少しだけ、寂しさを覚えた。
わたしの好きな店なんて、決まりきってる。
だって、そこにはわたしのW何より好きなものW
がいつだってあるんだから。
本心を当たり前に告げただけなのに、
彼が目を丸くして、それから笑うから、
わたしも微笑みかけて、贈った口づけを
追うようにまたくっつく体。
落とされる愛の言葉にふわ、と体温が
一度上がるような気がした。
にへら、と微笑みかけて。]
───わたしも
[と返せば、幸福感に全身が
満たされるのがわかった。
どうしよう、幸せ。
世界中に叫んでまわりたいくらい。
この人、わたしの大好きな人でね、
それでね、わたしの恋人なんだよって。
諦めなくて、よかった。
ちゃんと、あなたに向き合って、それで、
真っ直ぐにあなただけを見つめて、
突き進んできてよかった。
そう心の中で噛み締めながら、
今日はその背を見送るのです。]
| [首を長ーーーくして待って (1)1d5日、 飛鳥の声が入口から聞こえた時 俺はカウンターから半身を乗り出して その声の主が想い人か確かめようとしただろう。 「颯介さん」と呼ばれたら、咳払いひとつ。] ……いらっしゃい、 飛鳥 [他に客もいないのに 声を潜めて、呼ぶ。 日を改めてみると、ああ、本当に飛鳥の 気持ちを受け止める立場にいるんだ、って 実感出来て、耳がジン、と熱くなる。] (21) 2021/05/27(Thu) 22:26:10 |
| [飛鳥が近くによると、微かに紅茶が香る。 伏せられた睫毛を見下ろして その意図に気付いたものの、]
おいおい、俺が紅付けて店にいたんじゃ もっと人が寄り付かねェや。
[そう、笑う。 それでもキスをしようとするなら 俺から宥めるように、鼻先へひとつ。
閑古鳥の鳴く店だ、どれだけ居てもいい。 けど店主が紅つけて客と戯れてちゃ 商売になりはしないのだ、と ちゃんと大人の理屈を述べて。
それに納得してくれたなら その手から香りのいい 紅茶のカップを受け取ろう。] (22) 2021/05/27(Thu) 22:27:13 |
| [パウンドケーキを、黒釉の皿に載せて出すと 飛鳥が奇妙なことを言う。 このケーキも、あのクッキーも 古い馴染みの作ったもので、 あのたぬき顔は良い奴ではあるけれど 恋仲になるのは、百ぺん死んでも御免だった。
だから、俺には「まさか」の先が分からない。 はは、と軽く笑いながら]
俺が甘ェモン焼くタマに見えるかい? 知り合いの店のだよ。
[そう流す。
気になるなら行ってみるかい?と聞こうとして ふと、あいつの店を思い浮かべる。 アンティーク屋のような店内に 花咲くイングリッシュガーデン。 話好きで、くるくる笑って 紅茶占いなんかしたりして……] (23) 2021/05/27(Thu) 22:27:39 |
|
…………そのうち、な。
[カップの中から、呻く。 飛鳥とあいつが一緒になって遊んで、 楽しげに笑っている光景を想像すると 俺の位置はどうやっても蚊帳の外。 そんなの、嫌だった。 飛鳥をあの店に連れていくのは もっともっと飛鳥との仲を深めてからがいい。
そんなわがままを。]
(24) 2021/05/27(Thu) 22:28:02 |
| [ところで─────]
遅くなる、って言ったって、 俺のところにいる、とは言ってねェだろ。
[バレたらそれこそ無理にでも 引き裂かれてしまう気がして。 眉を下げたまま、弱音を吐いた。
でも、西園寺家にご挨拶にうかがうのは それこそ時期尚早、というやつか。
ご挨拶をゆくゆくのイベントにするのなら 目先の、一緒にいられる時間を大事にしたい。 店だとこの間みたいにくっついて、キスをして 思うがままの気持ちを伝えられない。
笑顔のままじ、と此方を見下ろす恵比寿天に 臀をもぞもぞ動かして、]
早く閉店時間になンねェかな。
[なんて軽口を叩く。]* (25) 2021/05/27(Thu) 22:34:54 |
| [焼き菓子の出処をぼかして笑っても 飛鳥はぴくりとも笑ってくれず 目だけが、細く細く、鋭利に尖る。
そうして、「女の人?」と聞かれて始めて 俺は彼女の意図を察して、 ぐふ、と紅茶を噎せさせた。]
……そうだな、焼き菓子焼くのが好きで 俺と一緒で骨董品…… アンティークのティーカップなんか集めてて 占いや、ガーデニングなんかが好きな……
─────そういう男だよ。
[彼は彼で、気になる人がいるらしく 俺達のことも「いつか一緒に来てね」とか 言っていた、とまで言えば きっと誤解は解けたろう。] (49) 2021/05/28(Fri) 18:48:56 |
|
なァんだ、菓子より綺麗にやけてんな。
[飛鳥の柔い頬をつん、とつついて揶揄うと カウンターに片肘ついて、頬を預けた。 「からかってるの?」なんて聞かれたら 「バァカ、嬉しンだよ」と小声で返そう。]
あいつが万が一にも俺の事好きとか言っても 俺は断るよ。
[飛鳥を捨てて、靡く場所もない。 唇を避け、額にキスを落とすと にっ、と笑ってみせようか。 ちゃんと彼女の気持ちに応えるつもりがある、と 誰よりまず飛鳥に信じてもらえるよう、 これから共に過ごす時間を尽くそう。 ─────そう、思う。]
(50) 2021/05/28(Fri) 18:50:08 |
| [まず恋仲になって、 ハグをして、キスをして…… その先、と考える。
万が一にも結婚を許してもらえなかったら? 他に婚約者を立てられたら? ……また弱虫が頭をもたげたのを押し殺す。
閉店までの時間はまだまだあるから 万年閑古鳥の骨董品屋の主人よろしく 離れかけた飛鳥の肩を引き寄せて]
そうかィ、じゃあ商売人やめて 今から俺が先生しようか。
[所狭しと物が置かれた店内の中、 ぴ、とそれを指差し、指し示す。] (51) 2021/05/28(Fri) 18:50:38 |
|
アレぁ、柘植の櫛だ。 椿の掘りがしてあンだろ。 江戸時代には櫛を女性に贈るのが 所謂プロポーズ、ってやつだった。
[苦死を共にしよう、という 江戸らしい洒落っ気だ。 次に示したのは、アンティークの指輪。]
プロポーズを指輪でしていたのは 古代ギリシアの頃。 ……つっても、当時は売買婚。 夫の家が妻の家に金ェ払って 夫が妻の父親に贈る。 言わば領収書、ってやつ。
[今はそんな慣習もなく、 共に惹かれあって結ばれる恋愛婚は一般的。 突然のプロポーズの歴史講座に ちゃんとついてこられているか ちら、と斜め下を見下ろして。]
(52) 2021/05/28(Fri) 18:51:00 |
|
江戸より昔の日本だと…… ほら、習ったかな。 平安時代は和歌を読むンだ。
…………じゃあ、問題。 そのもーっと昔……古墳時代は どうやってプロポーズしてたか。
[どうかな、飛鳥。って、 少し笑って、髪を梳きながら答えを待とう。 正解したら、どうしようかな。]
(53) 2021/05/28(Fri) 18:51:35 |
| [けれど、今は和歌も読まなければ 櫛も贈らない。 言葉にして、気持ちを伝えて、 元の意味とは違う意味で指輪を贈ったり。
……今の俺に必要なのは、物とかじゃなく もっとちゃんと素直に 自分の気持ちを伝えることか。
悪い大人は閉店時間の10分前には店を締め 裏手に停めた愛機へと また飛鳥を誘うだろう。]
ちょっと付き合ってくれると、嬉しい。
[また夕暮れ空の下をツーリング。 さっきの問題が正解でも、不正解でも、 俺が君にキスがしたいのだ、と。]* (54) 2021/05/28(Fri) 18:52:32 |
|
さて……何だろうね、飛鳥。
[原始人じゃなく、文明を築き上げようとした人らの 恋の気持ちを伝える方法とは。 くるくると思考を廻らす飛鳥を見て 俺はそっと微笑み名を呼ばう。
ヒントを求められたなら スマホに頼らないその度量を買って 「今俺も飛鳥も普通にしてる事だよ」と。 当てられたなら、おでこにもう一つキスを落とそう。 どうしても分からないなら此方から正解を。]
名前を呼ぶこと。 ……もっとも、婚姻制度が今と違うから そんなに重々しいものじゃなかったらしいけど。
[でも「お嬢さん」から「飛鳥」へ 「江戸川さん」から「颯介さん」に 互いの呼び名を変えた今なら、少しわかる気がする。 自分、というのをもっと相手に 深く受け入れてもらったような…… 1歩ずつお互い近付いた感じがする。]
(68) 2021/05/29(Sat) 11:14:15 |
| [さて、閉店時間10分前にふけるわるい大人は 健全な若人からの指摘に、にひ、と笑って]
いいじゃねェの。客来なかったろ? 今日だけだよ、今日だけ。
[良いから行こうぜ、と手を引いて バイクに跨り、街へ。 行先も告げないまま走り出しても、 背中から回る腕の確かさには変わりがなくて。 そこからもあすかの信頼が伝わって ヘルメットの中、ひとり口角を上げた。] (69) 2021/05/29(Sat) 11:48:59 |
| [バイクを走らせ10数分。 やってきたのは、街の外れにある 高台の公園だった。
季節になれば夜桜を楽しむ人や バラ園をスケッチする人で賑わうだろうが 空にちりばめられた星がうっすら透ける 夕暮れ時というのもあってか、 数組のカップルが過ぎると気を惜しむような速さで ライトアップされた紫陽花の小路を歩いている。]
……くらぶ、?とか、他にも 飛鳥の好きな場所があるかもしれねェけど それも今度教えてくれや。
[今日はもう一つ、俺の好きな場所。 喧騒のない静かな公園で 二人きりの時を紡げたら、なんて思うんだ。
バイクを停めたら、手を差し伸べて 花の小路へ誘おうかと。]* (70) 2021/05/29(Sat) 12:00:12 |
| [くらぶにいってなんぱをされる俺……? 正直、想像が出来ない。 若人の中、浮いてしまいやしないか。 また、隅っこでひとりぽつんとなって 若い男から声をかけられる飛鳥を見ては 頬を膨らませる時間を過ごしそうな。]
でも、飛鳥の好きを、もっと知りてェ。
[紫陽花の花の間をゆっくりと縫って歩く。 下から照る光に浮かぶ 飛鳥の顔を覗いて、そう乞うた。 でも、飛鳥が行きたくないなら もっと別なところですごしたっていい。] (79) 2021/05/29(Sat) 20:45:47 |
| [さっきの話のせいか、 歩きながら飛鳥が名前を呼ぶ。 何度も何度も、弾むように。
キスのために立ち止まることも無く、 呼ばれる度に、繋いだ手に、 きゅ、と力を込めて返す。]
ここにいるよ、飛鳥。
[多分あの時、飛鳥が向き合ってくれなくちゃ 俺はここにいなかった。 祝福してもらえない、君の未来を壊してしまう、と ひとりいない敵に怯えて過ごしてた。 だから、何気ないこの時間が 俺にはひどく嬉しくて。] (80) 2021/05/29(Sat) 20:46:04 |
| [やがて、紫陽花の道が開けて 街の夜景が一望出来る広場へと辿り着く。
空の星と、地上の人の営みと 目の前がちかちかと眩むよう。]
古墳時代には見えなかった光景だなァ。
[時代は変わって、名前を呼ぶだけじゃ 確固として結ばれるわけじゃない。 身分や歳の差、たくさんのしがらみに阻まれ 結ばれない恋も、世の中には沢山あって。
握った手の中、指先で飛鳥の掌を掃いて そっと腕の中へと招き入れよう。]
俺の気持ちは…………まだ、充分に 飛鳥に伝えきってねェと思う。 名前を呼ぶだけ、花を送るだけ 口を合わせるだけじゃ、まだ この気持ちには全然足りねンだ。
[鼓動をひとつに溶け合わせるように きつく抱き合ったって、多分。] (81) 2021/05/29(Sat) 21:06:00 |
| [ここにきて、他のカップル達と混じって 二人過ごしてみて、少しずつ俺の中の 不安は溶けていく。]
なあ、聞いてくれ。
[言えるだろうか、飛鳥の恋人として。]
まだ俺たちは恋仲になって浅いが、 少しずつ、もっとお互い知り合って …………そしたら、改めて言わせて欲しンだ。
俺の言葉で、飛鳥と共に行きたい、って。
[そう言ってから、これってもう 言ったも同然かも、って気が付いて 少し照れの滲む顔で笑った。]* (82) 2021/05/29(Sat) 21:17:57 |
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