「死体を見るのは初めてか。
　無理はしなくていい。

　見届ける役目があるというなら、
　俺はこの場であなたを見守ろう」

　一方的な、意図も不明瞭な宣言だ。

「そうか」

　言葉の意味は正しく伝わっている。
　それでいて掘り下げる気はない。

「俺も初めてじゃない。
　そして加害者でも被害者でも。
　どちらの立場てあったとしても、
　ただのモノと化したものをどう想えばいいかわからない」
　
「独り言だ。聞き流していい」
　

「わかった。金なら工面する」

　明瞭な返事をしつつも、懐の余裕はそうない。
　万が一の手はなくもないが……。

「そちらは一枚岩ではなさそうだな。

　……サダルは殺人者の心を知りたがっていたように見えた。
　であればあなたが向かないのは確かだ。
　優しすぎる」

「『モス』か『ラム』の紹介を頼みたい。
　殺人者であればどちらでも構わない」

心を拐かすものではなく、
関われば無事では済まないものを。
名を明らかにし声を届けるものではなく、
姿を隠すものを。

無理強いは好まない。

深く頭を下げた。

「そうなのか……？」

　盗賊ギルド。その名から裏ギルドに該当することは想像に容易い。
　だが少年の態度はあまりにだったので困惑した。
　しかし本人が言うならばそうなのだろう。

「ふむ。
　求めるのは、ギルドではなくあなた個人か。
　武功。自信。さまざま思いつくが聞いていいものだろうか。

　なに、口外はしない。
　話し相手もまずいない身だ」

「『お暇』であっているよ。
　よく覚えたな」

　語尾に笑い声が混ざる。
　ブラキウムの頭をひと撫でして、
　出ていくのを見送るだろう。

「それではブラキウム、イブ。
　また会おう」

　あなたの去った後、テーブルを片付けて、
　針仕事へ戻った。

「了解した」

　鼻先に触れた指にきょとんとした顔を向ける。

「連絡待っている」

　あなたの去った後、
　ラサルハグもまたその場を後にした。

　サダルの望みの本質をラサルハグは知らない。
　強く求めている、それだけが確かだ。

　大丈夫。
　ラサルハグはレグルスの言葉を信じた。
　自身の感性を疑わずに信じる、
　ラサルハグは両立できる。

「なるほど。中々に欲深い」

　感心したと頷く。
　左手の人差し指─蛇を模した指輪がはめられている─を、
　唇にあてる。きっと、癖だ。

「強い望みを持つものを俺は好む。
」

「であれば『俺が手下となること』か、
　『安眠』を差し出そう」

　ラサルハグにとって、その二つの価値は等しい。