会議の後、ラサルハグは自店舗へ帰宅していた。
　
　部屋の真ん中は丸テーブルと4脚の椅子があり、
　両脇の壁掛け棚には種々のぬいぐるみが飾られている。
　あなたの訪問に気づけば、
　奥のカウンターから続く扉から姿を表した。

「いらっしゃい。
　修繕の仕事を持ってきてくれたのか」

　ラサルハグは死体現場のやり取りを覚えている。
　それでいて本業とそうでないものを切り分けられる性分だった。
　

　あなたの初心な反応に気づくことはなかった。
　気づいたとしても、何も感じることはなかったろう。
　なぜなら……そうした方面に鈍感なので……。



　レグルスの手下になった後の日々を夢想して
　漏れた言葉だった。
　シンクロ。偶然。万分の一の確率。
　相性は……案外良いのかも……しれない……。

「安眠を望むならあなたの睡眠環境の改善を。

　敷布団から見直そう。
　成長途上の体格は固く身を包むものが好ましい。

　枕は……寝る様子を確認してからがいいか。
　寝返りが多ければ抱き枕が向く。

　ああ。あなたの首を狙う輩からの守りも必要か。
　
　」

　疑問に頷く。

「違うよ。
　あなたは同じと捉えても、俺は違うと捉える。

　死んでしまえば、姿が見えなくなる」

　ではない。
　その意味があなたにも伝わると思っている。

「会話できなくなる。
　なにより死体は動かない」

「俺もあなたに聞きたいことがあるんだ。
　だがどう尋ねたものかな。
　あなたの知らない話だろうし……」

　勿体ぶった言い方は、単刀直入を好むラサルハグらしくない。
　まるで、聞き耳を立てた誰かに聞かれたくないように。
　質問次第では、あなたが口にする言葉によって、
　あなた自身が不利益を被る可能性を知っているかのように。

「俺の質問に『回答しない』という選択を取れるか？」

「気にしているのは俺か？　それともあなたか」

　潜めた声で、首をかしげる。

「なにか、気になる点でもあったのか」

　これはあなたが"薬"をどう思っているか、という疑問だ。

「……！
　感謝する。ありがとう」

　立ち止まり、会釈する。
　珍しい組み合わせだが、娼館主と成人男性だ。
　そう怪しまれない組み合わせだろう。

「アンタレス。
　あなたのもうひとつの名を聞かせ願えないか
　……『貸し』の保険のため」

「混乱？
　ああ、キューの薬と変死体を結びつけるためか。
　
　キューは……、」

　ためらう。

「俺からキューに聞いてみる。
　情報ありがとう」

（回答しない選択は取れないのか）

　ラサルハグは、キューが『等価交換』と取引の結果、
　『キュー』の喋る間の記憶を
　ある程度有することを知っている。
　だから"壊れた時報"の不利益を危惧している。

「……？」

　彼が自身を『キュー』と呼んだ記憶はない。
　まるで他者を差すかのような物言いだ。

「サダルから聞いた。
　やくしの『トルキではないもの』から贈られた薬は、
　キューが用意したものだと。
　
　『あの薬はみんなを幸せにするものだろうか？』」

（嘘をつかれている……？）

　普段のキューの喋りから推測して意味を読み解けば、
　キューとサダルの証言は食い違っている。
　
　だがサダルはブラキウムではない。
　彼の生真面目さから勘違いは考えづらく……。

「あなた『我々』か？」

　見下ろしたまま、静かに尋ねた。