［　伸ばした手を掴んだ人は
　　甘く優しい香りがする人だった。>>10>>12

　　独りかもしれないという恐怖心が
　　少しだけだけど薄らいだ気さえする。
］

　　えっと、とりあえず…大丈夫です。

　　なんか身体はまだ痛いけど
　　まだ耐えられるくらいのものだから。

［　ボクがキミにそう尋ねた時だ。

　　先生がボクの所へやってきて
　　ボクの身に起きたことを説明してくれた。］*

　　


　

［　私は君が無事かどうかで頭がいっぱいで。
　　自分の親のことなんて構ってる場合じゃないって
　　そう思ってしまったから。



　　普通なら真っ先に来るはずの
　　二人がいないってことに。　　］

　

［　君のよそよそしい言葉づかいに
　　私は戸惑ってしまう。

　　どうして、そんな顔してるんだろう。
　　


　　　


［　だから、君に名前を尋ねられて
　　私は頭が真っ白になっちゃったんだ。

　　どうして？
　　

　

［　なんて言ったらいつもの君に戻るのかも
　　わからないまま、名前を言おうとしたら、
　　先生がやってきて、説明してくれた。>>18



　　先生はそんな私をよそに教えてくれた。
　　身体の怪我の方は、ちゃんと治るみたい。
　　でも問題は別にあって……。　］

　

　　

［　それを聞いた時、
　　私はさっきの朝日くんの反応に
　　納得せざるを得なくなるんだ。





　

　　　元親くん……え、っと……。
　　　私の名前、わからない、んだよね。

　　　惜別ハツナ、だよ。
　　　


　

［　そう言って、君の手をぎゅっと握る。
　　信じてほしい、でもいきなりそう言われても
　　君はすぐに理解できないのかもしれない、





　　

　　



［　もしかしたらなにか、
　　記憶の欠片が残ってるかもしれない
　　そう思って、聞いてみるんだけど。
　　

　

［　ボクが彼女の名前を聞いた途端に
　　空気が凍りついたような気がした。>>21

　　ボクの言っていることがおかしいと。
　　信じられないと、そう言いたげな顔で
　　ボクの記憶を否定する。］




［　でも明らかにボクへの意地悪じゃない。
　　本当に、心から信じられないって顔だ。

　　すると決して噛み合わない鎖が
　　先生が繋げてくれた。>>22>>23］

［　何も知らないまま産み落とされた赤子のように
　　右も左も分からないという恐怖心に
　　頭がクラクラと悲鳴をあげてしまう。

　　それでも落ち着いていられたのは
　　ボクと同じくらい真剣な表情で
　　この事態を受け止めている人がいたから。>>24］


　　　あの…先生…

　　　ボクの記憶って…
　　　それに、ボクの父さんと母さんは…


［　ボクの質問に先生が首を横に振る。
　　ボクの記憶が戻る確証はなく、
　　地道に治療を続けていくしかないらしい。
］

　　

***

［　心の整理がつかないことを察してなのか。
　　先生が病室から出ると、彼女と二人きりになって。
　　すると、彼女がさっきのボクの質問に答えてくれる。］


　　　ハツナ、さん…？


［　確かめるように名前を呼んでみて。>>25
　　必死に記憶の中を探ってみても、心当たりがない。


　　でも、ボクの手を握る彼女の言葉に
　　ボクは首を横に振る。>>26

　　予想だにしなくて当然驚いたけど
　　疑うよりも先に、哀しかったんだ。］

［　彼女の微かな望みを断ち切るように
　　ボクはまた、首を横に振る。>>27

］*