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【赤】 会社員 雷恩[外気に晒された下着は濡れシミもなければその下の形が はっきり見える訳でもないのに、羞恥で思わず目を閉じた。 意識的に閉じてしまえば二度と目が開かなくなる気がしたが、 初めて味わう屈辱的な状況に、もう耐えていられなかった。 ルミは甘ったるく言葉を紡ぐ。 別れた彼女が同僚だったことまで知っているとは。 どこでどうやって知ったかは知らないが] ス、ススストー、k、 [ストーカーは彼女自身だったのだろう。 わかったところでもうどうしようもないが。 ただ祈るしかできない。 上手く動かせない身体が、これから行われるだろう ストーカー女の愛撫に反応しないことを。*] (*22) 2024/05/07(Tue) 23:21:12 |
【赤】 従業員 ルミ……あ、お兄さん、吐きそう? 気分悪いかな。大丈夫……じゃないよね。 大丈夫、殺したりしないから。 …………そんなことしないよ。 [ 流石の自分にも、殺人には躊躇いがある。 夜の街では当たり前のように殺傷沙汰が起きているが、 刃を他人に向けるほど壊れてはいないつもりだ。 ──薬を飲ませるのはどうなんだと言われてしまえば、 言い返す余地もないけれども。 時計の針は逆向きに回らない。 砂時計の落ちた砂は元には戻らない。 犯した罪も愚行も、消えやしないのに。 ] (*23) 2024/05/08(Wed) 0:00:24 |
【赤】 従業員 ルミ[ 一般的な話に興味はない。 そんな物差しで関係性の普遍を決められたくないから。 世間がなんだというのだろう。 だから仕方ないことだとでも解かれるのだろうか。 くだらない、くだらない、くだらない。 歳を重ねたから? 話も遊び方も合わなくなったから? それじゃあ××はどうすれば良かったの。 片方の都合で、もう片方をないがしろにするのが、 ────それが一般的な世界なのか。 まるで女の両親さながらではないか。 ] (*24) 2024/05/08(Wed) 0:01:00 |
【赤】 従業員 ルミ[ これは確かに、紛うことのない、恋だ。 楽しくて声を上げて笑ったのも。 美味しいものを分け合う幸せを知ったのも。 彼と同じ名前の生き物を覚えたのも。 明日が来るのが、初めて待ち遠しいと感じたのも。 あの日々が恋じゃなかったというのなら、 わたしは二度と本当の恋なんて知らなくていい。 ] (*25) 2024/05/08(Wed) 0:01:12 |
【赤】 従業員 ルミ[ 言葉を交わす暇さえあったなら、 今何かが違ってくれていたのだろうか。 早々に話を切り上げてバイバイなんて、もう御免だ。 それならなにもかも封じてしまって ────加害者と被害者になるしかないのに。 ] もう! ひどい! ストーカー……むぅ、言われてみればそうかもね。 だって、お兄さんのこと、なんでも知りたいから ────大好きだから。 [ とはいえこれが犯罪だとは自分でも分かっている。 これは線引きだ。 わたしは加害者。 貴方はストーカーに好かれた可哀想な被害者で、 ────……。 ] (*26) 2024/05/08(Wed) 0:02:39 |
【赤】 従業員 ルミ[ 呟いて、目を閉じたお兄さんの顔を見つめる。 無理に開けさせることなんてしなかった。 それでいいと言ったのは自分なのに、 どうしようもなく胸が痛くて、唇を噛む。 でもここまで来れば戻れない。 優しい、牙のない肉食獣が、哀れな檻の中。 ] ────……嫌だよね。 だってこういうことは、好きな人とするんでしょう? お兄さんは、わたしのこと、嫌いだもんね? [ 呟いて、彼の芯へ布越しに触れる。 果たしてこんな状況下で反応するかも怪しいけれど 丁寧に、痛みなど与えないように、 やわく握って手で擦った。 ] (*28) 2024/05/08(Wed) 0:02:55 |
【赤】 従業員 ルミお兄さん、相変わらず優しいね。 無防備で。 悪い人の存在を人に説くのに、自分は無警戒で。 ────昔からずっと、優しいもんね、お兄さんは。 ごめんね。逆手に取るようなことしちゃって。 ……いくら謝っても無駄か。 うん、……頭のおかしいストーカーだと思っててよ。 [ 昔を懐かしむたびに、愛しさで手先が鈍るから。 わたしは布越しにカリ、と先端を甘く引っ掻いた。 そのままするりと下着を下げる。 悠長にしている時間もあまりない。 人体を害さないように、微量しか使えていないのだ。 じきに口の縺れが収まることから始まって、 四肢も動くようになってしまうはず。 そうなる前に、この執愛の蜘蛛の糸で彼を搦めて ──目的を成さねばならないから。** ] (*29) 2024/05/08(Wed) 0:03:04 |
【赤】 会社員 雷恩[殺さない、なんてのは、ニュースで知る殺人犯の 「殺すつもりはなかった」と同じ意味だろう。 歌舞伎町で出回るような、身体の自由を奪う薬が 臓器にも作用したら人体は簡単に生命活動を止める。 心臓や脳のバックアップは存在しないのだから。 泣くことも震えることも罵倒することも出来ない。 だが意識を手放すことも出来ない。 とんだ地獄だ。] (*30) 2024/05/08(Wed) 0:50:37 |
【赤】 会社員 雷恩[持っている物差しが違えば、 同じ事象を測っても異なる結果が出る。 ルミにとって一般論が響かないこと同様に、 男には一般論がよく理解出来た。 当時やさしくしたのが自分だったから恋したと 聞けば、それはインプリンティングではないかと 答えたくなる。 だが自分もよく知る恋に堕ちる理由だって、 最初は「やさしくしてくれた」とか 「一緒にいて楽しかったから」とかなのだ。 インプリンティングだから恋ではないと 断じることは出来ない。 口が利けたとして、彼女の恋心を否定しなかっただろう。] (*31) 2024/05/08(Wed) 0:51:23 |
【赤】 会社員 雷恩[ストーカー呼ばわりで怒らせても、 今度は許しを乞わなかった。 訂正をする気はない。 その「好き」は、自分が思っているものとは違う。] (*32) 2024/05/08(Wed) 0:53:22 |
【赤】 会社員 雷恩[目が開けられないというのは自己催眠かもしれないが 実際に瞼は強く閉じられてしまった。 衣擦れの音や陰茎に触れられる感触で恐怖が煽られる。 何度か擦られたがそこは芯を持たないままだ。] ル、ミ………… [首を横に振って否定したかったのは何か 自分でもわからなくなっていた。 先端に爪が食い込むと痛みを感じる。 動けないのに痛覚は通っているのか。理不尽だ。 それとも薬は本当に効果が人体に害とならないように 濃度は抑えられていて、下肢に感覚が戻り始めているのか。] (*34) 2024/05/08(Wed) 0:54:13 |
【赤】 会社員 雷恩ルミ、 [そのまま続けて、行為が可能な形を作ったとして、 ルミはそこに跨るのだろうか。 もしかすると、それが命に繋がるかもしれないのに。 望まれないで生まれてしまう命がどうなるのか ルミが一番よく知っているのに、 自分と繋がることだけを目的としているから、 そのリスクは考えていないのか 何れにせよ、本懐を遂げられてしまうのだろうとは思う。 頭ではどんなに拒否していても、身体は少しずつ 生理的反応を見せてしまっている。**] (*35) 2024/05/08(Wed) 0:55:05 |
【赤】 従業員 ルミ[ 恋にもっと理由は必要なのだろうか。 ただあの時わたしに優しくしてくれたから、 だから彼を好きになったでは足りないのか。 インプリンティングと言われればその通りで、 けれど女は確かに己の意思で恋をしている。 毒林檎からキスで目を覚ましてくれたから? 或いはガラスの靴を届けてくれたから? お姫様たちの恋だって、 始まりは皆思ったよりも大仰では無いのに ] (*36) 2024/05/08(Wed) 8:54:55 |
【赤】 従業員 ルミ[ 相手を傷付けないのが愛ならば 自分にはやっぱり人を愛する資格が無いのだ。 彼は今度は許してと甘えなかった。 過去すら容易く掘り起こすあの惨さはなく、 代わりに別の痛みが横たわっている。 ] (*37) 2024/05/08(Wed) 8:55:11 |
【赤】 従業員 ルミ………綺麗な思い出として忘れられるくらいなら 私みたいに、痛いってこと、覚えててよ ふふ、名前ばっかり呼んでどうしたの? ルミだよ。 …………嬉しいな 久しぶりに名前、いっぱい呼んでくれた。 [ 働き始めてからは源氏名でしか呼ばれず、 ルミという名前で呼ぶ存在もいなかった。 ひつじが良かった、と憧れた少女はそこにおらず いるのはボタンを掛け違えた亡霊だけ。 ──ああ、こんなことなら 正しく愛する方法を知っておけばよかった。 傷付け方なら、いくらだって分かるのに。 ] (*38) 2024/05/08(Wed) 8:55:26 |
【赤】 従業員 ルミ…………………雷恩お兄さん [ ライ、は他の人も呼んでいるから嫌だった。 けれど雷恩と呼ばれるのを厭われてしまえば 我儘だけで通せる呼び名でも無かった。 別れた理由なんてどんなものでも知っている ──そうなるように仕向けたんだから。 呼び方なんて小さいことに拘るのが不満だと そう言っていたのは何番目の女だったか。 わたしはただ、呼び出した場所で ブランドバッグを差し出してお願いしただけ。 ] (*39) 2024/05/08(Wed) 8:55:39 |
【赤】 従業員 ルミ[ 噛み締めるように名前を呟いた。 会話で意識を向けさせるためでも何でもない。 ただ、自分が呼びたいから、そう呼んだ。 再会した時は、幼い頃と違って 名前呼び自体を面と向かっては厭われず 表面上は許されたようにも聞こえたけれど ──自分ですらそれが本当に許されるなら 今までの、彼に近しい人たちは、? ] (*41) 2024/05/08(Wed) 8:56:06 |
【赤】 従業員 ルミ[ 私にとっての“らいおん”の響きは彼だけ。 そこに肉食獣の影なんてひとつもない。 彼だけ見つめて、彼だけを望んで、 なにもかも煮詰めた砂糖色の声。 まるでわたしはおとぎ話の魔女みたいだ。 甘く美味しく作り上げた死への道。 無警戒な存在に毒林檎を齧らせて、 最後には裁かれてしまう悪いひと。 ] (*42) 2024/05/08(Wed) 8:56:20 |
【赤】 従業員 ルミ[ 望まれない命は不幸だ。 今ですら正しく彼を愛せない自分ひとりで何が出来る。 命で縛り付ける気なんてない。 わたしの罪はわたしだけのもの。 ──アフターピル、って便利でしょう? ベッド横のデスクに幾つか予備を置いてある。 わたしは少しづつ兆し始めた熱に触れて、 嬉しさを隠しもせず顔を綻ばせた。 ] 好き、──大好きだよ、お兄さん [ 愛を囁かれても萎えちゃうだけかもね。 どうせ今夜限りの魔法の夜なら 喉すら焼けるような蜜も許してよ。 りんご飴、わたしとなら食べ切れるでしょう? ] (*43) 2024/05/08(Wed) 8:56:34 |
【赤】 従業員 ルミこれでもう、わたしを忘れないよね これでもう、綺麗な思い出として消えないよね ────なにかある度に痛む傷になって 忘れたくても忘れられないくらい、 痛くて熱い存在になれるよね? [ 本当にわたしが羊だったら、 本当に貴方が獅子だったら。 食べて貰って貴方の血肉になって そしたら、好きな人の一部として生きていけて ──なんてろくでもないたられば話。 ] (*44) 2024/05/08(Wed) 8:56:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の熱芯をやさしく、柔く包み込む。 これは愛を交わす行為ではなくて、 わたしの一方通行で、彼を苦しめるだけ。 過度な愛撫も快楽も必要無い。 あくまで生理的反応で仕方なかった、って 彼が言い切れるように────なんて 加害者がせめてと与えるものなんか、 害を与えた時点で無意味か。 ] ……お兄さん、目、閉じててね [ 挿れる、だけなら不都合ないようになるまで 熱を甘く柔く触れて、擦って、刺激を与えれば わたしは彼の反応も見ずに己の下着をそっとズラした ] (*45) 2024/05/08(Wed) 8:57:02 |
【赤】 従業員 ルミ────ッ、 [ ろくに慣らしてもいない中へ熱を入れれば さすがに痛みが訪い、すこし眉を顰めた。 それでも人体とは不思議なもので 防衛本能で分泌される愛液が刺激を緩和し、 膣肉も広がって、熱を難なく飲み込んでいく。 ───これがわたしの、望んだ形。 欲しくて欲しくて仕方なかった熱も やっと手に入れた彼の傷も。 ] (*46) 2024/05/08(Wed) 8:57:28 |
【赤】 従業員 ルミ[ 叶っていくのに。叶っているのに。 どうしてこんなに虚しいばかりなのだろう。 ────どうして。 わたしは、 ] ………………っふ、あは、は お兄さん、……だいすき ……あいしてるんだよ、本当に…… [ 目から流れたものはただの汗で、 きっと目を閉じていれば彼は気付かない。 誤魔化すように笑って、身体を動かした。 中に彼の熱を吐き出させるためだけに、 それだけを目的にした虚しい動きで。** ] (*47) 2024/05/08(Wed) 8:57:47 |
【赤】 会社員 雷恩[白雪姫は毒林檎から救ってくれた王子に惚れた。 殺害を命じられても、自らが罰を受けるかもしれないのに 見逃してくれた狩人でもなく、 森の中で出会った自分の何倍も大きな姫に 衣食住を提供してくれた小人たちでもなく。 恋とはそういうものなのだろう。 ルミの人生で、自分と過ごした時間よりも 長く見知った顔もあったかもしれないが 恋をしたのは自分だった。 それ自体には何の罪もないが、 そこから王子は白雪姫の手を取ったのに対し 自分はルミの手を握ったままでいられなかったから 物語は誤った方向に進んでしまったのだ。] (*48) 2024/05/08(Wed) 17:23:58 |
【赤】 会社員 雷恩[過去には自分がたくさん呼んでやると言った名前を この10数年で口にしたことはあっただろうか。 自分の名前程人名として珍しい訳でもないが 親しくした中に同じ名前の女性はいなかった。 別の人間を「ルミ」と呼ぶことを 無意識に忌避していたのかもしれないが、 そんなことは目の前の「ルミ」の気持ちの慰めにも ならないだろう。] ……っ、 [ああ彼女は痛かったのか。 他に誰も彼女の痛みを手当てする人間はいなかったから 自分にとって「思い出」とカテゴライズされた日々は 彼女にとってはまだ鮮明な「今」なのかもしれない。] (*49) 2024/05/08(Wed) 17:24:24 |
【赤】 会社員 雷恩…………………うん [きっと後にも先にもその呼称を許すのは彼女にだけだ。 甥が喋るようになっても「おじさん」と呼ばせる心算だから。 「お兄さん」が後ろにつくなら名前も平気な気がした。 実際には、ルミにとって初めて触れた「らいおん」が 自分の名前だったから許せただけかもしれないが。] (*50) 2024/05/08(Wed) 17:24:47 |