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【人】 三月ウサギ生を受けたのは、五人兄妹の真ん中として。 子供が多い家庭の全てがそうとは言わないけど。 どう言い方を繕ったとしても、 うちは、計画性の無さを起因とした大家族。 幼い弟妹は、流石に古すぎて無理なものもあったが。 与えられるものは、ほとんど全て。 あまり歳の離れていない、 上の兄姉からのおさがりだった。 仕方ない。うちにはお金がないんだから。 周囲と比べて、自分の家族は少し違う。 察したのは、早かった。 (205) 2021/07/03(Sat) 18:53:54 |
【人】 三月ウサギだから俺にとって、勉強とはするものではなく しなければならないものだった。 学力を付け、奨学金を勝ち得なければ、 学徒としての席に着くことさえ許されない。 お金を払って勉強なんてする必要はない。 義務教育が終われば、すぐに働けばいいのだから。 進路に悩む俺に、貯金なんて概念を理解しているかも よくわからない表情で、 にこにこと「両親」が笑う。 …… 悪意があるわけではないだろう。 彼らはその生き方しか知らないんだ。 (206) 2021/07/03(Sat) 18:55:06 |
【人】 三月ウサギだからうちにはお金がないんだよ。 罵倒しかけた歯を食いしばり、 言葉をぐっと飲み込んだ。 唇から伝わる鉄の味が、惨めでたまらなかった。 だから勉強した。 親が稼ぐ金だけでは弟妹を養えなかったので 無理やり空けた時間を縫うように、バイトもした。 ─── 恋?─── 青春? 思春期真っ只中の10代の頃。 甘ったるい響きを、贅沢品だと鼻で笑った。 (207) 2021/07/03(Sat) 18:56:02 |
【人】 三月ウサギ奨学金を握りしめ。 なんとか許されたキャンパスライフも 余裕がないのは変わらなかった。 スマホを持ってないのなんて、 学内で自分くらいではないだろうか? だからそのウェブサイトを開いたパソコンも メールを受け取ったメールアドレスも 大学で貸し与えられているものだった。 生きるのに手一杯の毎日。 いつもなら、くだらないと一蹴して。 サイトを閉じ、今日のスケジュールを考えながら、 課題をこなすだけ。 …… そうしなかったのは、 それが「いつも」ではなかったから。 (209) 2021/07/03(Sat) 18:56:32 |
【人】 三月ウサギ…… 大したことことではないと。 何度もそう思い込もうとした。 お下がりだらけの俺の人生。 「名前」すら、誰かさんのお下がりだと知った。 ─── 単に、それだけの話だ。 (210) 2021/07/03(Sat) 18:56:40 |
【人】 三月ウサギサイトを開いてから、ややしてから。 キャンパス内のパソコン室。 一定の速度でカタカタとキーボードを叩く音が響く。 ・名前……三月ウサギ(仮名) ・性別……男 ・連絡先……××××××@×××××.××.×× ・願望…… 手を止めると、徐に唇を開き、 両隣の席にも届かないくらいの声量で 俺は願望を口にした。 (211) 2021/07/03(Sat) 18:57:05 |
【人】 三月ウサギやはり普段に比べて動揺していたらしい。 送信した瞬間に我に返った。 …… こんなサイト。 悪戯か個人情報を抜くために決まっているのに。 本名を晒さなかったのは唯一の幸いだと息を吐く。 それが理性的に行動したわけではなく、 自分の名を忌避した結果だとしても。 だから返信なんて来るとは思わなかった。 (289) 2021/07/04(Sun) 17:38:31 |
【人】 三月ウサギ「 ザ ラピスか …… 」 予想に反して再度届いたメールを一読し、 指定されていた開催場所。 そのまま流れ作業でパソコンで検索して、 ページを開いた瞬間に目が眩んだ。 これまでの人生で縁がなくとも 名前は知ってるレベルの一等地に建っているホテルだ。 外観の写真からでも、圧倒的な存在感を放っていた。 更に細工で美しく装飾された室内は、 飾られた絵画や彫刻の存在もあり それ自体が芸術作品のよう。 まさに贅を尽くした空間。 …… 一泊の宿泊費で何ヶ月暮らせるんだろう。 頭の中で算盤を弾いたら、 ウッ、と唇の端から呻き声を洩らした。 (290) 2021/07/04(Sun) 17:38:46 |
【人】 三月ウサギ思わず着ている服の首回りに指をかけ、 そのままぐいと引っ張った。 選ばれた者しか足を踏み入ることの許されない空間。 対して、自分は ─── ドレスコードの意味は知ってるけど、知ってるだけだ。 兄からもらうお下がりは、 皺が寄っていたり染みがあったり。 新品特有のパリッとした糊のきいた服とは程遠い。 ほつれた部分は繕って、着直しできるようにしたら みっともないと嘲笑と共に指をさされたこともある。 (291) 2021/07/04(Sun) 17:39:21 |
【人】 三月ウサギ「 運賃はないし。 ホテルに着て行くような服もない。 」 相談に乗るから。 そんな主催者の言葉に甘えた返信は恥でしかったけど。 同時に試しの意図もあった。 明らかにたかりの意思を含んだ文だ。 悪戯ならば、これ以上は踏み込んでは来ないだろうと。 ─── 結果がどうだったか。 指定された日時に、ザ ラピスの前の前に俺はいた。 それが、答えだろう。** (292) 2021/07/04(Sun) 17:39:30 |
三月ウサギ は、メモを貼った。 (a17) 2021/07/04(Sun) 17:45:31 |
【人】 三月ウサギ俺にはお金がありません。 ずばり、そんな情けない要望を送りつけて。 犯罪の類を警戒するこちらに対し、 主催者を名乗る人物は、至極当然とばかりに姿を現した。 その常人離れの美貌にも驚かされたが。 手渡された封筒に入っていた、 帯で封をされている札束。 数えなくともその金額を教えてくれた。 (370) 2021/07/05(Mon) 21:06:58 |
【人】 三月ウサギ「 ひゃくま、……??? 」 俺の認識では、運賃や服を買うのに使う額ではない。 慌てて数枚だけ抜き取ると、 残りは用は済んだとばかりに その割には、何故か大学内へと向かう背に向かって。 ねだったのはこちらとはいえ、 百万円なんてぽんと貰えるはずがなく。 勿論残りの数万円にしたって 自分に受け取る正当な権利があるとは、 とても思えなかったけれど。 (371) 2021/07/05(Mon) 21:09:03 |
【人】 三月ウサギとりあえず、俺が知る限り、 一番高価な服が売っている店に行き。 そのまま店員に見繕ったもらった。 肌触りがよく、光沢のある生地は 逆にどうも着心地が悪く。 服に着られる形になったかどうかは、 ─── 自分ではよくわからない。 (372) 2021/07/05(Mon) 21:09:33 |
【人】 三月ウサギそんな心理だから、いざザ ラピスの前に立っても。 なかなか一歩を踏み込むことができないで。 場違い、そんな3文字と共に。 しばらくその場に立ち尽くしていた。 そのまま家に残してきた、家族のことを。 薄ぼんやりとした思考で、考えていたのなら。 …… そう言えばもうすぐ、 20歳の誕生日だったな。 玄関で履き慣れない靴に悪戦苦闘していた背中へと。 不意に投げられた、おめでとうの声を思い出した。 (374) 2021/07/05(Mon) 21:10:35 |
【人】 三月ウサギとはいえ、ケーキやご馳走、 ましてやプレゼントなど無縁な家庭。 そのまま歳を重ねる以外の意味は持たない日。 友人の誕生パーティに招かれても、 贈る物を用意できなかったから。 苦い思い出の方が多い。 (375) 2021/07/05(Mon) 21:10:58 |
【人】 三月ウサギはぁ、と嘆息と共に、意識を逸らした瞬間。 胸元のリボンが、するりと解け、空中にこぼれた。 気慣れない服。どうやら結びが甘かったらしい。 逃げたそいつを掴むため、屈もうとした耳の横を、 アスファルトの地面を渡る風が、さぁっと通り抜けた。 そのままふわり、風に攫われるリボン。 視界の端に捉えれば、 …… 自身の双眸は無意識に、 リボンではない別の何かを求めるように、 (378) 2021/07/05(Mon) 21:17:24 |
【人】 三月ウサギ「 え、ちょ。君? 」 続いて飛び出た戸惑いを含んだ言葉。 言い終える暇もないほど鮮やかな手つきだった。 戻って来たリボンは再び攫われて、 あっという間に、自身の胸元を飾った。 呆然としているうちに、 彼女は颯爽とこちらに背を向けて。 その視線の先には ───。 (401) 2021/07/05(Mon) 23:17:07 |
【人】 三月ウサギこくんと、喉を鳴らす。 …… 場違いだと、気後れする気持ちはまだある。 しかし中身が伴わずとも、 装いがもたらす力はそれなりで。 何より美しく整えられた胸元が、 自身の背を後押ししてくれた気がしたから。 (402) 2021/07/05(Mon) 23:17:11 |
【人】 三月ウサギ「 すみません。 1010号室を予約してるはずなんですが。 」 ようやくホテルに入り、自身の姿が映るほど 美しく磨かれた大理石の壁、なんてものがあれば。 精一杯気にしてない風を装い、豪華なロビーを進む。 そうしてフロントでチェック・インを済ませれば、 先程の少女はどうしていただろう? とりあえず、「宿泊料金?支払われてませんよ」 にこやかに微笑むホテルスタッフの口から そんな言葉が出れば、脱兎の如く逃げるつもりで。** (403) 2021/07/05(Mon) 23:17:43 |
【人】 三月ウサギ「 えっ ……? 」 振り向く彼女と俺の視線が交差する。 まるで一瞬にも永遠にも感じられて。 浮かべた疑問符と同時に納得もする。 豪華なホテルにも物怖じしない態度。 審美眼に優れているわけでもない自分ですら 彼女の纏う紫色のワンピースが、 質の良いものであるとわかる。 (459) 2021/07/06(Tue) 20:02:58 |
【人】 三月ウサギエレベーターに乗り込み、二人きりになれば、 少し躊躇ってから、10Fのランプを灯す。 同時に、困ったように頭をかいてから。 「 まさか君みたいな若くて …… 可愛い 女の子が来るとは思わなかった。 ええと。 俺のマッチング希望通りなら、君は ─── 」 お金持ち、とは流石に口にはしなかったが。 ここまでに察せられる要素はあっただろうか? 裕福で可愛い女の子が、初対面の相手と二人きり。 鴨がネギどころの話ではない。 (461) 2021/07/06(Tue) 20:04:13 |
【人】 三月ウサギ「 ご両親は知ってるの? 君が何か事件に巻き込まれれば。 心配するのも被害を被るのは、君の家族だ。 」 音もなくエレベータが上昇するのを感じながら。 ─── ずくり、と胸を刺すような痛みが走る。 …… これは気のせいだ。 心配する家族なんて、俺とは無関係だから。 説教じみた台詞は全てこちらに帰るブーメラン。 仮に指摘されれば、子供のような反論を返そう。 (463) 2021/07/06(Tue) 20:05:21 |
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