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環 由人は、メモを貼った。 (a1) 2020/09/12(Sat) 14:14:51 |
環 由人は、メモを貼った。 (a2) 2020/09/12(Sat) 14:15:11 |
【人】 環 由人[ 夜と朝の境目。 曖昧にしていてもきっと許される 孤独なひとたちのひととき。 美味しい、なんて言葉を言われたことはない。 いつだってその口からこぼれるのは 恨み言みたいな形をしていて─── それでも、構わなかった。 その言葉の裏に隠されたものは 空っぽになった器に現れていたから。 時折お礼の様にちょっと良いフルーツが>>3 テーブルの上に置かれている時がある。 ただの余り物の処理なんだから、と 一度は伝えたけれど、 気持ちだと言われたのなら そうか、と眉を下げて、それからは もらったフルーツはすぐ食べられるように 向いて、一口大に切ってタッパーに 詰めて冷蔵庫に入れておくようになった。] (37) 2020/09/12(Sat) 20:45:49 |
【人】 環 由人[ 部屋が見つかるまで、という約束だった。 だから、いつかこの日々がなくなるって ぼんやりわかってはいるのに、 どこかでずっとここにいるんじゃないかって そんな幻想を抱いて、そっと、蓋をしたのだ。 そんなある日。 机の上に置かれたガイドブックを見つけた。] ───北海道? [ 旅行にでもいくつもりなのだろうか。 そういえばこの前商店街の福引で 北海道旅行が景品で出ていたらしいが…] ……あ、 [ 合点する、やっと意味がわかった。] (38) 2020/09/12(Sat) 20:46:26 |
【人】 環 由人[ 奥様方になにやら色々言われたのだ。 「お友達よかったわねえ」 「うらやましいわぁ」 けらけら笑う奥様方の会話に、 相変わらず下手くそな愛想笑いを返していた。 それが、つまり、これか。 「よかった」も「うらやましい」も 北海道旅行のことか。 なるほどな、とうなずいて。 ペア旅行券だったとたしか言っていたけれど、 誰といくのだろう、───そういえば、 恋人の話はしたことがないなと思った。 だが、その次の展開は予想外である。 誘われたのは店の従業員でも、 友達でもなく──己だった。] (39) 2020/09/12(Sat) 20:46:46 |
【人】 環 由人え、俺? [ すこし驚いて、目を開いてしまうものの、 嫌かと聞かれたらそんなわけはなく。 旅行なんて久方ぶりだし… そのチケットを見つめて、彼の顔を見つめて、 交互に数度、繰り返してから、 「ほんとに?」と一応確認していた。 俺と彼の関係を表すのならば、同居人。 友達ではないし、もちろん恋人でもない。 知り合い、ではあるけれど、その位置よりも もっと親密なもので───少なくとも、 自分はそうだと思っていて。 そうでありたいと思っていて。 だけど、彼の中で己がどういう位置にあるのか よくわかっていなかったから、 純粋に驚いてしまったのだ。] (40) 2020/09/12(Sat) 20:47:09 |
【人】 環 由人[ もう一度聞かれたら「いや」と前置きを してから、ほんのすこし下手な微笑みを浮かべて。] うれしい、……ありがとう [ と小さく落とすのだった。 まとまった休みが取れるといえば─── 次は年末年始だろうか、と確認を。 北海道なんて、行ったことがなかった。 もっと遠い土地にひとりで行ったことは あるのに、変な話だ。 それから、普段は見ない テレビをわざわざつけてみたり、 彼が買っていたことは別の ガイドブックを買ってみたり、 スマホで北海道旅行について 検索をかけてみたりと、それはそれは わかりやすく楽しみにしてしまう。 あんまりあからさまなのは すこし恥ずかしかったから、 もちろん一人の時に、だけれど、 資料が増えているのは明らかだっただろう。] (41) 2020/09/12(Sat) 20:48:40 |
【人】 環 由人[ 見てはいけない気がした。 わかってた、はずなのに、 どうしてか出してしまった。 蓋をして、そのままにしてた。 なあなあにしててもいいと思ってた。 初めに提示した条件も、なにもかも。 しばらく、じっとそれを見つめて。 ああ、うん、そうだな、 その方がいいに決まってる。 その内容は見なかったことにしようか、 なんて考えながらそっとしまった。 その日ばかりは己の無愛想さに 感謝した。</gray>───うまくできていたかは 定かではないのだけれど。</gray>] (43) 2020/09/12(Sat) 20:49:36 |
【人】 環 由人[ ただその日は、曖昧に濁した答えが 出せなくて、彼が切り出すよりも早く、 「今日は、眠れそうにない」なんて、 下手くそな誘い文句をかけてしまったから、 変に思われたかもしれない。]* (44) 2020/09/12(Sat) 20:50:03 |
【人】 環 由人[ だって、よく知らないのだ。 面と向かってきちんと話をするだとか、 あまりしてこなかった。 ほんの数時間、正面に座って食事をして、 あとは一緒にただ眠るだけだ。 ただ、それだけの、同居人。 きっと彼にとって人生において W間借りWしている存在だろう、と。 だけど、もしも自惚れるのならば、 自分が彼と逆の立場だったならば、 同じように、彼を誘っただろう。 友達と呼べる人もいない。 恋人も、いない。] (55) 2020/09/13(Sun) 0:44:56 |
【人】 環 由人[ WマリィWなんて名前にそぐわないほど 骨張った男の手が前髪を梳く。 そっと頬に降りて、ぴく、と 触れられていないとわからないほど 微かに体が揺れた。 顎を軽く二度浮かすみたいに頷いて、 眉尻をすこしだけ下げた。 『当たり前だろ』と言わんばかりに。] (56) 2020/09/13(Sun) 0:46:09 |
【人】 環 由人WのぼりべつWだな、 あー、いい、うん、温泉、行きたい [ 最近知った読み方の地名。 北海道にある温泉地らしく、 調べたときにはそれはそれは様々な 宿が出てきたものだ。 提示されたホテルに頷いて、覗き込む。 近頃二人で話すことが前より増えた。 大抵は旅行に関すること。 机の上に広げられたガイドブックは、 たぶんお互いすでに数度目を通してる。 ときどき調べた知識やら、 ネットで見つけた行きたい場所を 横から挟み込んではプランを練っていた。] (57) 2020/09/13(Sun) 0:46:33 |
【人】 環 由人[ そんな日々の中で見つけたのだ。 例の、茶封筒を。 無愛想と仏頂面を体現したような 顔をしていると自分でも よくわかっているから、そのおかげで きっと気付かれてないと思ってた。 彼がいつになく、己の料理に 前向きなコメントをくれたのに、 「そう」と頷くことしかできなくて。 どうしても考えてしまう。] (58) 2020/09/13(Sun) 0:47:03 |
【人】 環 由人[ またあのラジオの声をひとりで聴きながら、 寂寞に飲まれて潰されそうになる夜を 過ごすことになるのかもしれない、と。 わかってたのに、自分で、蓋をして 見ないフリばかりしていた。 もっとはやくから向き合っていれば 大丈夫だったかもしれないのに、 あまりに訪れがいきなりで。 やっぱりきっと、自惚れてた。 本当は、温もりのなくなる日々を 想定して、あの曖昧な返事を きっぱりとしたものにかえて、 一人で眠ろうかとも思った。 だけど───だけど。 口から出たのは、真反対の言葉だった。] (59) 2020/09/13(Sun) 0:47:40 |
【人】 環 由人[ 問いかけられたことにそっと目を伏せて、 それから小さく、頷いた。 嘘はついてない。 たぶん、今日は眠れない。 明日も、明後日も、もしかしたら─── 伏せた瞳を覗き込まれるから、 ゆっくりと瞬きをしながら視線をあげた。] (60) 2020/09/13(Sun) 0:48:04 |
【赤】 環 由人[ 続けられた問いかけに揺れる。 いつだって触れられるのは、 体と髪だけだったのに。 親指が唇をなぞる。 ぞく、として、どくん、と打って。 そんな雰囲気になったことは 今までなかったし、彼がどっちなのか、 そんなことすら知らないのだとわかる。 その熱を識りたいと思う自分と 識るのが怖いと思う自分がいて ただ、おずおずと重なった唇の 柔らかさは、とても好きだった。 絡んだ舌先の甘さも、同じ。 微かに歯磨き粉のミントが抜ける。] (*2) 2020/09/13(Sun) 0:48:42 |
【赤】 環 由人…ま、さ はる───、 [ 知ってはいたけれど、一度も 口にしたことのなかった本名を その震える声に乗せる。 見上げた瞳に、灯るのは何色なのだろう。] (*3) 2020/09/13(Sun) 0:49:43 |
【人】 環 由人───ごめん、 変なこと言った、忘れて。 コンビニ行ってくる、 [ そう落として部屋から出る。 居た堪れなかった。 俺と彼はただの同居人。 友達でもなければ、もちろん恋人でもない。 知り合いの延長線上の、否、ほんとは─── その先を望むのが、怖かった。]* (62) 2020/09/13(Sun) 1:02:16 |
【人】 環 由人[ 秋の夜は、思っていたよりも寒い。 さっきまで火照っていた体が、 風にさらわれて熱ごと奪われていく。 徐々に頭がはっきりしていく。] バっ…カだなぁ…… [ どうせさらわれて消えるから、 小さな声で呟いて、自嘲するみたいな 笑みを浮かべた。 なにも持たずに飛び出したから、 コンビニには行けなくて、ぼんやりと 歩いていたら辿り着いたのは、 あの日彼を見つけた公園だった。] (114) 2020/09/13(Sun) 19:16:41 |
【人】 環 由人[ 外灯が照らす砂利がぼんやり、 浮かび上がるみたい。 なんとなくそちらに足を向けて─── あの日と同じブランコに腰かけたら、 鎖がまた、ぎぃ、と小さく音を立てた。 あの距離感が必要だったんじゃないのか。 ただ、一緒に飯を食って、 隣で眠るだけの関係でよかったんだろ。 それ以上を求めるつもりなんてなくて、 ───ちがう、結局自分本位なんだ。 一度知ってしまった熱をまた 求めてしまいそうになるのが怖い。 期限が、すぐそこまで迫ってるのに、 今更関係を変えてしまうのが怖い。] (115) 2020/09/13(Sun) 19:17:08 |
【人】 環 由人[ ───離れたくないだとか、 ここにいてくれだとか、 そんなことを言える立場じゃない。 救われたのは───俺だったから。 結局コンビニには寄らずに、 しばらくぼんやりしたあと、 夜風の冷たさに震えが走ったから 自宅に帰った。 リビングにある背中に、唇を結ぶ。 声をかけてはいけない、きっと。 ごめんって声をかけそうになったから、 飲み込んだ。その意味を悟られることは きっとないのだろうから。] (116) 2020/09/13(Sun) 19:17:35 |
【人】 環 由人[ ひとりぼっちでベッドに入った夜は、 やっぱり思った通り、寝られなかった。 朝起きたら寝不足で気分は悪いし、 なんだか頭は痛いし───散々で。 それでも店は開けなきゃいけないし、 接客もしなければいけない。 おばさま方には「顔色悪いわよ」と 言われてしまったけれど笑って誤魔化した。 それからも、ずっとWいつも通りWだ。 相変わらず美味いとはいわない男に 余り物の処理を手伝わせて。 あの日のことには触れないまま。 ただ一つ変わったのは、あの日からずっと、 狭いベッドの右側をあけたままひとり、 丸まって眠るようになったことだけ。] (117) 2020/09/13(Sun) 19:18:14 |
【人】 環 由人[ 季節が変わっていく。 白菜と鳥もも肉とジャガイモのクリーム煮 ベビーほたてのしょうゆ炊き込みご飯 鮭のちゃんちゃん焼き 大根とえのきの肉巻き照り焼き とうふのあんかけそぼろ かぶと鶏団子のとろとろ中華スープ ごぼうとにんじんのサラダ ピリ辛ネギチャーチュー レンコン入りしゃきしゃきつくね ほかほかあったかい料理に変わる 惣菜のラインナップとは裏腹に、 どこかぎこちなくなってしまったけれど、 それでも旅行は楽しみだった。 ───いつあの茶封筒の話を 切り出されるのだろうかと、 半ば生殺しのような気持ちは 拭えないままだが。] (118) 2020/09/13(Sun) 19:18:41 |
【人】 環 由人[ 海外用のでかいスーツケースは さすがに邪魔だなと思ったから、 小さなボストンバッグに詰めた、 いつもの服や下着。 チケット類は忘れないように 手持ちの鞄に詰めた。 出発前夜。 またいつもと同じほうじ茶をいれる。 なんとなく、本を読むのはやめて、 彼が食べている様子を見ていた。 別に意味はない。ただ、見たかっただけ。 だから、なにを聞かれたって「別に」と しか答えることはしないだろう。 空になった器を片して、 今日もまた、あのベッドの左側で眠る。] (119) 2020/09/13(Sun) 19:19:24 |
【人】 環 由人* [ 新千歳空港までは1時間30分。 最大で350トンにもなるという 人と貨物を乗せた金属の塊は、 白い雲を抜け、青い空を横切って 北の大地に降り立った。 光の差し込む近未来的な建物に、 「おお」と小さく声を漏らして。 予約していたレンタカーを借りに 受付のカウンターまで向かう。 借りるのはブルーのエコカー。 陽の光をうけてきらりと光った車体に、 荷物を詰め込んで、運転席のドアを開いた。 体を滑り込ませて、扉を閉め、 シートベルトをして、エンジンをかけた。 ナビを操作する。] (120) 2020/09/13(Sun) 19:20:11 |
【人】 環 由人───チーズ食いにいかない? [ そう提案するのは、ガイドブックの 付箋の一つ、富良野のチーズ工房。 ピザが美味いというその場所に いくのはどうかと。]* (121) 2020/09/13(Sun) 19:20:25 |
【人】 環 由人[ その地に降り立った瞬間響き渡った となりの男の野太い声に、 眉根を寄せて、それから ふは、と噴き出して笑った。 「声がでけえ」と呟いて、さっさと 受付の方へと向かってしまおうか。 伸ばされた手が繋がれる。 ───こんなふうに誰かと外で手を繋いで 歩いたことなんて、一度たりとも なかったのに、気恥ずかしくも嬉しくて、 振り解いたりはせずそのまま繋いでいた。 外に出ると刺すような寒さが 体を覆うから、思わず小さく 「さむ」と呟いた。 借りた車に体を滑り込ませれば、 温められた車内に、ため息が溢れた。] (160) 2020/09/14(Mon) 13:06:59 |
【人】 環 由人[ このまま二人、乗っていたらきっと 外気との温度差にそのうち車窓は 結露して、曇るんだろう。 提案が受け入れられればほんのり微笑んで ナビに場所を入力する。 ブレーキを踏んで、サイドブレーキを外し、 ギアをドライブに入れれば、 スタッドレスのタイヤを履いた青い車体は 広い大地に敷かれたアスファルトへと 滑り出していくのだった。] (161) 2020/09/14(Mon) 13:07:15 |
【人】 環 由人 ───チーズ工房 [ 銀世界の中にたたずむ建物は、 実際に見ると、男二人でくるには かわいらしすぎるなと思った。 大きな牛のオブジェを横目に、 説明を一通り聞き終われば、 悪戯っぽくされたおねだりに、 眉尻を下げて、困ったように笑った。] ピザは作ったことないな [ くるくる生地を回すイメージはある。 ただそれが自分にできるとは思えない。 絶対プロが作った方がうまいだろ、と 思ってしまうから断ろうとしたのに。 そんなことを言われたら、 うまくいえないじゃないか。] (162) 2020/09/14(Mon) 13:07:45 |
【人】 環 由人[ 「いつも食ってるだろ」と言いそうに なった唇をそっとつぐんで、代わりに] わぁかったよ [ と了承して、申し込んだ。 メニューは3種類あるらしいが、 スタンダードにマルゲリータを選ぶ。 通された工房で教えてもらいながら 作るピッツァは案外たのしくて。 残念ながら回すのは全く出来なかったが、 麺棒で伸ばした生地がうまく 均等になったときは誇らしくもさえあった。 窯から銀が色の大きなヘラで 網ごと取り出されたときは、 思わず「おお」と声を上げたものだ。 香ばしい小麦の匂いと、トマト、バジル、 チーズのいい香りが混ざって、食欲をそそる。 もう一つ、特製のチーズが5種類 乗っているというピッツァも注文して、 席に着いた。] (163) 2020/09/14(Mon) 13:08:17 |
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