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【人】 高井 柊[ すれ違っていたか。 それは夢ではなかったし、戸惑いや迷いがなかったと言えば嘘だけど、決して夢の中で告げた言葉ではなかった。 雪奈もそうだと思っていた。思っていたかった。 友人には戻れない。 なら進むしかない。 それが恋ではなくても、愛情は確かにあったと信じたかった。 友情から変化したものであっても。 だからこそ 形 を作りたかったのかもしれない。でも、だけど、熱が冷めてしまえば───… ] (0) 2024/01/10(Wed) 20:53:19 |
【人】 高井 柊[ 雪奈が眠ったのを確認すると、ベッドから抜け出して、部屋から抜け出して、自分の部屋に戻った。 冬の寒さが部屋の空気を冷たくしていた。 そこで初めて泣いた。 先輩に振られてから、初めて涙を流して泣いた。 届かなかった想い。 浮かし切れなかった熱。 押し寄せる後悔に苛まれるように。 静かに泣いた。 残ったのは自己嫌悪と、罪悪感だけ。] (1) 2024/01/10(Wed) 20:53:47 |
【人】 松場 雪奈[目が覚めれば、一人だけ。 昨夜の事は、夢か幻かと思いたいが、身体の重さも、違和感も、それが夢ではないと教えてくれる。 だけど、一人残された…それが答えと。 流されるまま、うんと言えればよかった。 だけど、それはいろんなものから目を背けての事だと思った。 そしていつかそれは──。 これは遅かれ早かれ…ただその違いだけだと… もしかしたら、目を背けた先よりはましなのかもしれない。 そう…そう思いたいのに……。 罪悪感が押し寄せる。自己嫌悪が溢れていやになる。 そんな事はない。そんな事はないはず……。 何か──言い訳をして、でも会いに行く勇気がなくて、一言だけメッセージを送る。 柊と…。 何を言えば良いのか解らず、ただ縋るように名前を送る。] (3) 2024/01/10(Wed) 22:01:47 |
【人】 松場 雪奈[──でも、返事はなかった。 それが答え。 求めて、求めて…自分の恋心を汚しても、求めたけど、やはり無理だったと。 決定的に、振られたと自覚するしかなかった。 何もかも粉々になってしまう覚悟は、あったつもりであった。 だけど実際そうなったら、覚悟なんて何もなかった…。 胸に穴が開いたようで、身体にも力が抜けるような喪失感。 泣くのは違うと思っても、失ってしまったものが大きすぎて、涙は止まらなかった。] (4) 2024/01/10(Wed) 22:02:16 |
【人】 松場 雪奈[その後…もしかしてと、朝、合わせていた時間に出社してみたが、その扉が開く事はなかった。 メッセージも何もない。 ──避けられているんだと、嫌でも解った。 避けられるのは、悲しくて苦しい…でもそうなる事をしてしまったんだと改めて、思い知らされる。 それでも忘れられない。 それどころか、柊の背中を追いかける夢、あの日の事の夢…でもどちらも最後は柊が消えてしまう、そんな夢。 何度も泣いて起きて、そして自己嫌悪と罪悪感に苛まれる。 それでも消えない。なくならない、彼への想い。 避けられても、嫌われたと思っても…それだけ呆れるくらいずっと想ってきたから。 ───私は、柊に何をしてあげられるだろうか。 そう考えて出した答え…。] (5) 2024/01/10(Wed) 22:03:00 |
【人】 松場 雪奈[柊と会えなくなって、半月がたって、休みの日、不動産屋に訪れていた。 隣と言う距離。避けていたとしても、近い距離。 意識するつもりが無くても、意識してしまうだろうから…と新しい部屋を探そうと思って。*] (6) 2024/01/10(Wed) 22:03:16 |
【人】 高井 柊[ 傷 は癒える。時間と共に、失ったもの、空いた穴を塞ぐように何かで埋めていく。 埋める何かは何でもいい。 人の心はそう強くはないのだから。 ドラマチックでもヒロイックでもなく、ただ時間と共にそれは日常へと戻っていく。 雪奈との一夜から半年が経った。 先輩との関係は良好だ。 元々泥沼になりようのない関係性。素敵な女性に憧れた年下の男がいただけで、何も関係性なんて生まれてすらいなかったから。 仕事ではよき先輩と、その後輩。 失恋の痛みが消えるにはそう時間は要らなかった。 確かに好きだった。 でも、終わってみれば、痛みが消えて仕舞えばただそれだけのこと。 大人になりかけの、まだ青い恋がひとつ浮かんで消えた。 それだけのこと。 そして、大切な友人を失った。 その事実だけは消えることなく大きな穴を空けた。 それもまた日常の中で少しずつ埋めていく。きっと出会ってから失うまでと同じだけの時間をかけて癒えていくのだろうと、そう漠然と考えていた。]* (7) 2024/01/11(Thu) 19:39:16 |
【人】 松場 雪奈[今の部屋を見つけた時、すんなり見つけれたから、すんなり見つけれるものと思ったがそうではなかった。 離れるべき…そう思っても、離れてしまったら、それこそ何もかもなくなる。 そう思うと、怖くて、無理だと思っても、縋ってしまい一歩が踏み出せない。 傷は癒える事はない。 時が癒してくれるというが、自分にはそれが当てはまらない。 失ったものが大きすぎて……。 夢を見て、泣く頻度は減っていくが、もうずっと笑っていない。 笑い方なんて、忘れてしまった。出来るのは愛想笑い位。 ──あれから半年。 半月会えなくても、辛かった…半年も経てば、会えない事が当たり前になっていた。 それでも、彼の事を考えない日などはなかった。 いつも、考え、もしかしてを期待し、これではだめだとあきらめて…。 半年たって、改めてこれではだめだと思った。 だから改めて、部屋を探す。 半年も会っていない、言葉も交わしてない。だからいなくなっても、何も思わないかもしれない。 でも何も言わずに、引っ越すのも、傷つけるような気がしてしまう。 そう思いたい、思う事で、奮い立たせる、ただのけじめだったのかもしれない。] (8) 2024/01/11(Thu) 20:45:50 |
【人】 松場 雪奈[だから手紙を書く。 メッセージだと読んでもらえないかもしれないから。 …手紙でも同じだが、それでも電子の文字より、自分で書き綴った文字にしたかったから。] (9) 2024/01/11(Thu) 20:46:05 |
【人】 松場 雪奈[書きたい事は、いろいろあったのに、結局書けたのは、用件だけであった。 それでも、何度も書き直す、涙が落ちたり、震えたりしてしまったせいで。 その日は、ちょうど休みの日。 手紙を柊の部屋のポストに投函すると、部屋の内覧の為に出掛けたのであった。*] (10) 2024/01/11(Thu) 20:47:28 |
【人】 松場 雪奈[内覧した部屋は、今のアパートと会社までの距離は一緒だが、 会社を挟んで逆側。 そこに決めてしまえばいいが、もう少し他もと言うのは、やはり未練。 その未練を断ち切るように、手紙を入れたのに、いざ決めてしまおうとすると躊躇してしまう。 夕方…帰ってきた時、彼の部屋前で足を止めてしまう。 会いたい…そう思って、何度足が止まった事か。 でも何か出来るわけではなく、とぼとぼとした足取りの、自分の部屋に戻る。 引っ越しの準備とばかりに、片づけるが、これは…とか、何かについて浮かんでしまう。 本当にこの部屋には、柊との思い出が溢れていると、改めて実感させられる。 会わなくなって、半年も経っているのに、いまだふっと思い出しては、泣けそうになる。] (11) 2024/01/12(Fri) 21:32:42 |
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