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【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニーその昔、冷たい風が肌を撫でる季節。 春の訪れがまだ見えないのをいいことに暖炉にくべる薪を増やして、男は部屋に引きこもる準備をしていた。 外回りをするといって定期的に向かういくつかの隠れ家、人の暮らしている形跡を普段から残しながら使わないと脆く朽ちていく家具たちを消費する。掃除は嫌いだからハウスキーパーを雇いつつ、だ。 一息ついたところで鳴り響くインターホン、体を動かさずともスマートフォンから監視カメラの映像を確認する。映ったのは嫌でも心を揺さぶらせる子供の姿だ。子供、なんて言ってもとうに成人してから2年は経っている、立派な――社会の一員になるべき俺の駒の一人。 「あいつ、今の状態の俺に会いにくるなんて。 どれだけツいてないんだ」 居留守を使うにも幹部として確かめなければいけないことがある、今この目の前の子供が敵であるか。排除しなければいけない対象であるのか。 家具の隙間に隠してある拳銃の弾の段数を確認して再び戻し、数秒数えてため息をつけばネクタイを緩めて玄関へと向かう。 あのニュースにもならないような情報がひどく頭で響いていた。 「ごきげんよう、ソニー。 ……仕事終わりで今から休むところなんだ、風呂に入りたいんだが話は長くなるか?」 (-2) 2022/08/24(Wed) 23:58:00 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー(ここも引っ越して…… あえて残して仕事場に泊まっていることにするか? いや、完全に姿を消すような真似は怪しまれるな) 見える範囲のスキンシップは激しくなってきて、つるんでる連中の色も怪しい。おまけに色事がなんとも褒められたものではない噂が飛び込んできたんだが、信じられなくて監視の目を閉じてからもうどれぐらい過ぎたか。仕方ない身分なのはしっているが、本当に苦い虫を噛んでる気分には変わらない。 そんないつでも己の懐に入って幹部様を刺せそうな子供が差し出すのは白い花だ。警戒する方がバカらしくなってくる。 「……用が済んだら帰れよお」 頬に口づけを返して家に招いてやる。暖まった空気が余所者を迎え、玄関に向かう前に電源をつけておいたコーヒーメーカーから豆がが薫っているリビング。 ソファーにその疲れきったを沈めれば隣を開けてやった。 「話したいことって?例の話だったら すまないな 。あのしつこい就職の催促なら俺のせいだ。 この間ソニーが早く自立している姿が見たいと愚痴ってやったからな、次にあったら叱ってやると息巻いていた」 (-6) 2022/08/25(Thu) 1:01:37 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー「ああ、早く一人前になって」 ノッテの刺客かと疑われたソニーのファミリー加入は容易でなかった。孤児院はマークされているし、なによりも俺と仲がいいことぐらい監視の目があればいくら誤魔化しても知られるのだ。 「まともな金を稼いで、家族たちに出来るようになれ。 懐の余裕は心の余裕だ。しっかり背広を着こなすお前はそれはいかした男になるだろう」 であればできることは余計な接触を持たず、子供たちがいる所でのみ会話し、こうした密会など持っての他で、とっくに気づいているその熱のこもった瞳を見つめ返さないようにすることだ。 あの事件さえなければ変わっていた距離感に気づいてはいけない。 うまくいったのはたったひとつのコネだ。 先代が救ったアルバの知人はひとつだけ何かを融通をしてくれると約束をしていた。彼が亡き今通用するとも思わなかったその願いを聞いてくれたときは、ただではつぶれない組織になると感嘆したものだ。合併の推進派はすでに押し込まれて、互いに敵対をしている立場。互いの信用と誓いの証は、二度と接触をせず全て管理を任せ、情報を渡し合うことをしないことに収まった。 「なんだ?今さらか、お前の振るまいには困ってたさ」 視線は白い花に注がれている、さてこいつの種類はなんだったか。手は伸ばさずにただただ見ている。 「なんせ俺はお前をずっと見てきたんだからな、 この間だって医者に胃に穴が開く寸前だと言われた」 誤魔化してばかりの人生だったが、これは真実である。 (-12) 2022/08/25(Thu) 10:06:59 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー小さな重さを受け止めつつ、一瞬上がった熱を感じながら深呼吸をした。 鼓動がいつもより早くなりそうで自分でも驚いた、油断すれば――その距離が0になってしまうのも時間の問題だったのだ。 一度過ちでも犯してしまった方が楽なのかと思考が走り、この子供が大人しくなる光景が浮かばない。与えるのは甘くて溶けるような、そんなドルチェだけでいい、そう繰り返してため息をついた。 「雇ってもらえただけありがたく思え。 そう簡単に選べる立場でもないだろお? もっとお前自身がしっかりして、 雇い先が潰れでもしたら次の仕事を斡旋してやるよ」 子猫のように部屋を見る貴方を暫く眺めていてもよかったが、小腹をすかせ過ぎるのも困り者だ。 懐から出すのは変哲もないキャンディで。 包装を外し、フルーツのフレーバーをした雫を人差し指と親指でつまめば餌を求める口元へと連れていってやった。 「もっと美味しいのは冷蔵庫だ、今はこれで我慢できるか?」 差し出しながら立ち上がり、座って待っていろと視線を他所へと向けた。 こんな四年後の男が見ても甘すぎる態度。今の男が四年後を見ても、触らなくなっただけじゃないかと乾いた笑いを溢す仕草。どうしようもないほど甘くて、他のもので中和するのに一苦労している。 薄く香る白い花も、二つ分の温度もこの家にはあまりに余分すぎる。祭りだからいいか、と納得付けるにもこの街では何度祭りが行われるかなんてわかりきっている頭では、いつまでたっても離れてくれないことを示していた。 貴方にとって我慢できない時間と、男にとって我慢できない時間が違いすぎる。わかっていて押し付けた関係、いつ殺されても仕方ないなと気付いていたのはこの頃からだっただろうか。 (-39) 2022/08/26(Fri) 11:55:14 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 愚者 フィオレロ「変なやつといい仲になるのがうまいなあ……違和感を感じたのがその辺りだったんだよ。 たらい回しにするつもりはなかったぞ、斡旋というんだ」 愛の形に趣味がありすぎた、普通を求めるのなら、なんて。そんなことを説教連ねたって仕方ない。 「喜ばせるのが上手かったら、少なくとも部下をこんなめに合わせることにはならなかったんだ。頭がいたくなる説教だ」 死なせることもなかった。 共に並んで好きなことができて。 未練を残させることもなかった。 これは身勝手な、贖罪。 「おう。 ……まあ俺を"待っている"やつなんて何処にも居ないがな」 大切なものを守りたくて。 手を伸ばされても掴めない場所に全て置いてきた。 だから今だって、また一つ手離す。 「フィオレロ」 それでも俺たちが遺したものは確かな形になるだろう。 生きている兄弟の手によって。 「もう迷子になんなよ。 お前は生涯ノッテだったんだからな」 ごきげんよう、手をあげながら何処へともなく男は足を向けた。 (-66) 2022/08/27(Sat) 15:17:01 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー噛まれた指をわざとらしく痛そうに振って立ち上がった。 冷蔵庫に入っていたのは男の得意料理。あえて教えてもいないが主食であり娯楽のひとつであるのは既に知られてもおかしくはない。 もっとも仕事ですら分け与えているのは20年来の友人と直属の部下ぐらいであり、プライベートでの付き合いなんて当の昔に潰してる上に、今では足を揺らして座っている子供ぐらいとしか面と向かって話さないのをきっと彼は知らない。 電話で今では何でもすむ、聞かれてもいい内容だけを話すのは厄介だが少しでも接点を作らないことが他人に疑われない秘訣だ。 伝えてやる機会なんて早々ないだろう、関係はないと言うにはあまりに冷たいがこれから離れ離れになっておかしくないのだ。向こうもファミリーからノッテの悪態をどれほど吹き込まれるかわかったもんじゃない。 「ブラーヴォ、ソニー。 相変わらず花が好きだなお前は、祭りならどこでも花が見れるだろ……まあ暖かくなってくるこの時期は嫌いじゃねえけどよ」 食べかけのタルトタタンを取り出し調理台の上に乗せ、一人分を綺麗に切り取れば残りの半人前は全部自分用に。 食事代わりにもしている甘味は、林檎の蕩けた甘味が凝縮されたような琥珀色をしていて作りなれているのがよくわかる。 「なんだ、まだ何かあったのか? 思い付かないな……教えてくれ」 表情からしていい報告なのだろうか。 お互いの機嫌や回りの視線を気にしなくていい最後の時間かもしれない、そう思っていた男は努めて気さくに。普段通りと、名残惜しさを含めて再び隣へと向かう。 銀のフォークを並べる頃にはその顔を覗き込もうとした仕草を抑えて、時間をかけて挽かれた珈琲へと手を伸ばしていた。 (-77) 2022/08/27(Sat) 21:21:28 |
【秘】 デッド・ベッド ヴェネリオ → 天使の子供 ソニー「なっ、お前」 花を与えることなんてしなければ。そんなこと、渡してやった花束をいちいち見せに来るその姿ですべてお釣りが帰ってきた。 お前ってやつはと頭を抱えてこずいたこの気持ちは 思惑通りとうとう永遠に知られないままになる。 親にもなれない、友にもなれない、恋人にもなれない、こんな中途半端な男の気持ちなんて伝わない方が幸せだと思い込んでいた。結ばれもしない、共に過ごすこともできない仲なんてすぐにその傷は癒えてしまうと信じつつも、苦い甘さを残し続けた。 「いいか、ソニー」 俺はお前の親でも何でもないし、 教鞭を振るう教師でもない。 それでもお前のことを心配している、ただの 「…… 似合ってる。 だからもう見せるな。 大人は頭が固いんだ」落ち着かない、甘い香りがいつのまにかひとつの印象しか与えなくなる頃には、脳が誰かを訴えることをやめない。 とっくにこれ以上上回ることのないお前への心が、態度が。 「歳を食っても変われない俺なんて気にせず。 バレないように、黙って好きなことしていろ」 怒気と呆れを含んだような声色は出せていたか。 視線をそらして見つめた先には白い花が置かれていて。 逃げ道がすくないその空間で人差し指を口許に当てて考え込む仕草をする。噛み跡がついておらずとも、そこにはすでにあなたを感じていた。 可愛げもない、素直でもない態度で吸い込むのはアーモンドの香り。そうして甘味で満たされた腹をどうしてやろうかとため息をついた。 (-129) 2022/08/29(Mon) 4:50:50 |
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