人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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視点:


【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

朝が来る。
一度は正しき正義の刃として猛威を払った取締法という剣が失墜し、嫌疑の薄い者は徐々に釈放され始めた。
捕まったものはノッテファミリーや警察内外ばかりに限らず、まばらにそれ以外の姿もあり、
またある程度取り調べの終わった者たちほど、見送りもそこそこに送り出されていくような状態だった。
おそらくは街の様子も、マフィアも、警察も、緩やかに元に戻っていくのだろう。
ほんの少しの革命で何もかも全てが変わるほど、民衆の日常とは弱い者ではないらしい。

その人並みの中には、ある一人の男が含まれていた。場違いであろうその姿が。
罪を背負った長躯はその日、数日ぶりの太陽を見た。ひどく眩しい朝だった。
秋晴れは路面を艶やかに輝かせ、影を色濃く街を白く照らし出すかのように煌めいていた。
嫌疑をかけられた者の中には家族の迎えがあるものもあり、さまざまに人の行き交いがあった。
非日常と日常とが交差する。世界は引かれた線を曖昧に、混ざり合って当たり前を取り戻しつつあった。

ボーイスカウトのパレードが近くを通る。署から少し離れた通りの方で楽団が横切る。
この日は祝日のようにささやかに賑わっていて、平和の鳩が空に放たれるかのように美しい日だった。
男が空を見上げて、右手を空へとに翳す。
天気予報は、どうやら当たったようだった。

#BlackAndWhiteMovie
(0) 2023/09/26(Tue) 21:45:12

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>3
──パン、と音がする。


ぱっと花びらが幾つか舞った。パレードの列から薔薇の花が散る。
傍で鳴った花火のせいで、もしくは遠くの合図のせいで、銃声は随分と目立たなくなった。
子どもたちの笑顔のはるか上を通って、凶弾は晴れの日の空気を切り裂いて、
それでも他の多くに見咎められるわけでもなく、顧みられることは少なかった。
貴方の別れの言葉は届かなかった。けれど、その"指"は確かに届いた。

着弾の衝撃で長身が二度ほどたたらを踏む。
右胸から遅れて血が流れて、かふと血の匂いの混ざったため息を吐いた。
後ろに一歩、二歩と退いて、ゆっくりと前を向いた。

貴方を見つける。男の瞳は貴方を見据えた。
忘れるはずもない。貴方のことだって、男は覚えていた。
子どもたちの笑顔の傍にいつづけた貴方の優しい表情を、男は忘れていやしなかった。

#BlackAndWhiteMovie
(5) 2023/09/26(Tue) 22:02:28

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>3
男は貴方を見て、眩しそうに目を細めて。
見送るように、笑ったのだ。

#BlackAndWhiteMovie
(6) 2023/09/26(Tue) 22:02:49

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>7
パレードが横切っていく。色とりどりのリボンと花が道を過ぎていった。
道には美しい花の残滓と甘やかな香りだけが残されて、
そこにあった殺意と敵意の痕など多くの足音の後にかき消されてしまった。
貴方の手の内の刃の鋭さを、其れと見咎める者がどれほどいることだろう。

男は酔っ払いのようにふらりとした足取りで路地へと吸い込まれていく。
高い建物の間の小暗い道の、その間に長身が消える。
そこに追いかけるものがあったとして、男の姿を見つけることは出来ないだろう。

代わりに過ぎていくのは、車の走り出す音だけだった。
どこへ行ったかなど、誰が知っているようなことでもない。

#BlackAndWhiteMovie
(14) 2023/09/26(Tue) 22:24:41

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

「……うるさい。随分ご機嫌なようで」

まったく目の前の男は突然口が回る。最悪の気分であろうに、一体どうしてそんなにその威勢を保てるのか。
本当に殺しておけばよかったと思うのはこの先に予知できる破滅の音のせいだろうか。

知ることが好きだ。先がわかることは安心する。
大事な人が知らない場所で死なれるのが嫌だった。
いなくなるぐらいならなら、この手で、目の前で死んでいなくなって欲しい。
何故こんなに執着してしまったのか身体を重ねたからなどではない、と思っている。
ならばやはり、少なからずこの目が貴方をただの悪人と捉えていないからであるのだが。
この感覚は説明できるものではないし、理解されるとも思えず終ぞ口に出されることはなかった。

溢れんばかりの情報を、大雑把に勘だけで見通してきたここ数年間。
ただただこの男が、理由もない大悪党だとは思わないという理由だけで。
本当に今更な感情に振ってくる言葉も途中まで考えられず、最後に漸く顔を上げた。

(-72) 2023/09/28(Thu) 9:18:15

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

「死体……?」

ヘタれた子供と呼ばれた男はうっそりと目を細めた。
それは彼の周りの人間は知らない顔であることを、また彼自身も知ることではない。

「…………」

万が一が起きたその時。
黒眼鏡も、ボスも、必要なのは生死の判断だろう。
もしかしたら死体を傷めつけられたりするかもしれない。
死者を冒涜する人間も晒し者にする存在もいるかもしれない。
自分はそんなことはさせたくはないし、させるつもりもなかった。

「わかった。
 必ず見つけてあんたの墓の常連になってやる」

自分以外が簡単に知ることもないようなその場所に、一体どんな意味があるだろう。
貴方にとってもその墓を懇意にする事実がどういったものをもたらすかもわからない。
しかしまるで望んだ物を手に入れたような様子でルチアーノという男は貴方にうすく笑いかけていた。
(-73) 2023/09/28(Thu) 9:21:56

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[10:00]

よく洗車された白いバンは街の様子によく溶け込んでいた。
賑わいと反対に駆け出していくことを不自然に思うものは殆ど居ない。
未だ街の中央はそわついた雰囲気に満たされている。敷かれた法案を過去にするように。
其れ自体の撤廃は未だ知れたばかりではあるものの、人々の安寧を喜ぶように受け入れられた。
締め付けの強い法案は元より島の雰囲気には合っていなかったのかも知れない。
パレードはそれと関係の無いものの、人々の解放感を受け入れるには十分な土壌だった。

東南アジアの市場を仕切る人間の顔は、三日月島では目立つ。
国外の人間への当たりは著しく強いというわけではないものの、
移民らの比率は印象ほどには多いわけではなく、彼らの顔はありふれてはいない。
人目に触れてはいけないことをするには、顔を知られずにいる必要がある。
自分たちが目立たずに活動をするには、別のシンジケートを経由する必要があった。
テュルク民族の相の色濃い運転手の後頭部を後部座席から見つめる。
日に焼けた色の人相はさほど見咎められることはない。
人間の使い方を心得ているなと、捉えられた男は呑気に考えていた。

警察に己の行為が見咎められた時点で、自分がこうなることはわかっていた。
人間は情報の塊だ。記憶、歩み、所持品、表情、どれ一つ取り上げても何かを得ることが出来る。
世界で一番口の堅い人間が居たとして、そいつの人生は幾らでも隠し事を抽出出来るだろう。
信頼の如何に関わらず、他人のアキレス腱となり得る人間など生かしておく必要がないのだ。
故に口封じは早いほうが良い。叶うなら警察が向かうよりも早く。
恐らくは開放されずとも業を煮やした人間が侵入して男を殺すこともあっただろう。
右肺を貫いた彼女のような感情による逡巡もなく、取りやめる余長さえもない。
かつて協力した人間にとって、ヴィンセンツィオ・ベルティ・デ・マリアは、
全く必然的に死ぬべき、死んでもらわなければ困る人間だったのだ。
(-328) 2023/09/30(Sat) 18:59:15

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[11:00]

バンはやがて川沿いの工場街へと至る。観光資源の豊富な島の中でここは比較的静かだ。
防音設備のしっかりと考えられた無機質な建物が並んでいるのは当たり前で、
車の出入りのあることも、なんら不思議を覚えるものでもない。
バンは町工場めいた小さな企業の並ぶ一角へと吸い込まれていく。
そこは男にとっても見覚えのある場所だった。自分が取引の際に使っていた場所だ。
薬で眠らせ、深い夢の中へと送り出した子供たちを引き渡す場所。
――ここで子供たちは人の形を失くし、島外へと分かたれていく。

腕で押しても上背のある身体はほとんど動かず、何度か蹴り込んでようやく動いた。
車に乗った時に拘束されたそのままの状態で手術台に座らせられ、
まず手始めにと聞かれたのはなんの意味も成さない問いだった。
警察にはどれくらいのことを話した、と。回答は簡易だった。
全て、だ。取引先の場所、運び込まれた先や関わった人間の個人情報。
今手が回っていないのは一人とて逃さず捕まえる策を練っているからだろう。
「今更お前たちが焦りだしたところで何の意味もないだろう」
そう平然と良い連ねた男の腹に靴裏が叩き込まれる。
肺の底を縮められたような悲鳴と共に体をふたつに折り、寝転ぶように横に倒れ込む。
見下せる位置に引きずり降ろされた男の顔に、腹いせの拳が何度も叩き込まれた。
素手が傷つきにくいよう、周りに並べられた工具へと凶器は入れ替わっていく。
目の前の男を痛めつけたところで自分たちの損失は戻ってこない。
それでも、湧き上がった怒りをぶつけずにはいられないのだろう。

#BlackAndWhiteMovie
(-342) 2023/09/30(Sat) 20:09:46

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[12:00]

三日月島内でノッテファミリーとの関わりを厭う島外の業者は必然的にが内部への伝手を求めた。
陸路の少ない場所は守られているという、それは閉鎖的であるということであるともいう。
内部で起きていることは他に知られにくいことと同義であるともいう。
インターネットが発達した今でさえ、陸の繋がらない場所のことは真に知ると言えもしない。
故に狙うものは多く、そして狙うならば自らの実入りは多いほうがよく好まれた。
ノッテと手を組もうとする業者が己の安定と安寧を求めたのに対し、
その裏に隠れようとする業者はリスクを掛けてでも金を得ることを選び、
そしてそういう者たちは、ノッテと関わりのない男の手を借りることを選ぶが多かった。
その全てが、たった一人の男の零落と共に引きずり込まれて壊れていくのだ。

一人が舌打ちとともに乱闘めいた光景を止めさせた。
言葉に続いたのは電動ドライバーを持ち上げる、硬質のぶつかる小さな音だった。
過ぎてしまったことを責めることは何の意味も持たない。
だからこれからは自分たちが情報を引き出す番だ。
拘束され、殴打を加えられた男の肩を足で押さえつけて電動ドライバーの先を突きつける。
他に手引している組織や、今まで構築したルート。
自分たちが手にすれば今からでも利益を得ることの出来る隠し事。
そういうものをできるだけ多く吐いたほうが傷は少なくて済む、と問う。
できるだけ、というのは相手が満足するまで、という意味だ。

男はそれに、嘲るような笑いで返す。
水っぽい音が響いた。

#BlackAndWhiteMovie
(-347) 2023/09/30(Sat) 20:52:39

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[13:00]

短い時間の間に、的確な暴力が幾つも男の体へと振り下ろされた。
同じ時間を使って、もっと徹底的に人間の体は破壊できる。
そうしなかったのは、吐けば楽になるという意識を高めるためであり、それ以外ではない。
縋れば光があると思い込むことの出来る細道を提示するのは大事なことだ。
眼球の片方が抉られ、濁った体液がとうとうと面の凹凸を流れる。
言え、と言われたのは三度目だったが、男は饒舌を失ったように一言も話さなかった。
次に、右胸に空いた傷にドライバーの先が充てがわれた。
皮膚を突き破り肺を傷つけた銃弾は貫通せずに体の中に残っている。
片肺が残っているとは言え呼吸には著しい不足があり、普通ならば無事では居られない。
めり込んだ破片と熱と器用に傷を塞いでいる間はかろうじて息をして、
そうでない時には逆流するように苦痛が駆け巡り咳き込んでいる。
その、皮下の脂肪組織と筋肉に出来た傷へとぴったりと押し当てられる。
再びに彼らは問いを投げかけた。
男は脂汗を面に滲ませながらも、息だけで嘲弄を表した。

既に薄灰色の組織が絡んだドライバーが回転する。
ぱっぱっと、風に薔薇の花が吹かれるように血とピンク色の肉片が飛んだ。
男がどれだけ大きな声を上げて叫んでも、誰も表情を歪めなかった。自身を含めて。
そこにあるのはこれまでに築いてきたものとその結果であり、理不尽なことはない。
理解しているからにこそ、尋問は淡々と続いた。

#BlackAndWhiteMovie
(-352) 2023/09/30(Sat) 21:48:56

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[14:00]

街は賑わいの波も高く、パレードはメインイベントに入ったらしい。
そうした市街の様子はこんなところまでは届かない。逆も同じくだろう。
質問への回答を拒否している間に、貫通痕はあちこちと増えた。
関節部をやれば幾らも動きを封じることは出来るだろうがそうしないのは、
聞き出した話の内容によっては殺す前に実情を確かめる必要があるかもしれないからだ。
それでも、沈黙が続けば業を煮やす。傷は段々と粗雑な出来になってきた。
脇腹や腿を削り取り、筋肉を破らないようにしても出血はひどくなる。
自分たちが逃げ出すことの出来る時間をどれだけ確保できるか。
焦りは、彼らの注意を鈍らせ眼の前に集中させ始めていた。
外を走る車の走行音と、傍に着ける車の音の違いもわからないほどには。

表扉がドアノブを破壊するようにして開かれる。
注意を向けるのと銃を手に持つのとを同時に行うには警戒が足りていなかった。
犯罪グループの男たちが応戦の姿勢を整える前に乗り込んできたのは、
毛嫌いするようにその影を遠巻きにしてきたノッテの構成員達だ。
今頃はアジトが散々な混乱の内にあるかも知れないが、
それを知らないのか、だからこそ明確に目先に見える手柄に手をつけたのかはわからない。

彼らは品行方正な警察ではない。動くな、と銃を突きつけるようなことはしない。
構成員たちはまず下っ端と見られる手前の見張りの頭を吹き飛ばした。
工場内の機材を散弾銃が轢き潰し、天井の明かりを使い物にならなくした。
それだけやってもいいと踏んだのは、この建物ごと消却するつもりだからなのだろう。
混乱が場を締めている間に全てを掃討しようとするように、
彼らのよくよく磨かれた革靴が一気に建物内へと踏み込んだ。

#BlackAndWhiteMovie
(-360) 2023/09/30(Sat) 22:31:14

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[15:00]

手術台そのものに拘束されていないのは男にとって幸いだった。
周囲の注意が逸れたのをいいことに寝台の上から床へ転がると、
射線から逃れるように機材置きの後ろへと潜んだ。その際に肘を捻ったが、その程度だった。
撃ち合いに巻き込まれるのは御免だという意識くらいは持ち合わせていたらしい。
されど生きたいから、ではない。何も知らない内に死ぬのでは望みに足らないからだ。

撃ち合いは暫く続いたものの、勝敗は明らかだった。
奇襲に成功し予期した武装を手にしているノッテの構成員と、
街の賑わいから逃げおおせたつもりでいて危機の迫るのをずっと先だと思っていた、
犯罪グループの人間とでは準備の段階で差が出ていた。
尤もこんなところまで出向している人間でなく、彼らの母体なら結果は違っただろうが。

構成員達は床に転げたヴィンセンツィオの肩口を掴むと、壁の薬品庫へと寄りかからせた。
既に打撲で腫れ上がっていた肩に銃口が向けられる。質問の内容が少しだけ変わる。
尋問をする人間が、代わる代わるに入れ替わっただけに過ぎない。
今までこの島に手を出そうとした人間たちの居所、そういった情報を彼らは欲しがった。
それでもやはり、男は口を割ろうとはせずに笑うだけだった。
相手が"犯罪者"である限り、男は必要なことを喋ろうとはしなかった。

#BlackAndWhiteMovie
(-362) 2023/09/30(Sat) 22:51:44

【独】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

[16:00]

肩の肉が弾け飛んで、壁に放射状にぶち撒けられる。
彼らにとってヴィンセンツィオは、壊しても構わない尋問相手だった。

#BlackAndWhiteMovie
(-363) 2023/09/30(Sat) 22:52:38

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>96 >>97
[16:00]

ノッテの構成員が殴り込んできたときよりも大胆な音が響く。
此れより先に追いかけっこに加わるものなんて警察ぐらいしかありはしない。
その筈だった。そうだとしたなら、こんな荒っぽい手立ては取らない。
他の誰が在るというのか。彼らの手を迷わせたのはそうした困惑もあったのだろう。
目を向けるべき相手を誤らせ、その視界を暗く潰した。

男の反応は緩慢だった。薄く雲が張ったような、空の色が向けられる。
人の死体がいくら増えようが男の注意を引くことはない。そうだった。
それが、乱入した男の顔を見て僅かに目を見開く。
確か当初乗り込んで来た構成員達は、ある男の部下だった筈だった。
秘密主義のマフィアたちであっても、多少顔の割れている人間はいる。
そうした者たちの幾らかは、一人の男を信奉めいて仰いでいた筈だった。
少なくとも自分が罪を暴かれ情報から隔離される前はそうだった。

#BlackAndWhiteMovie
(101) 2023/09/30(Sat) 23:27:35

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>96 >>97

その男の顔を見上げて、満身創痍の男は笑った。
息だけで、けれどもそこにあるのは嘲弄とはまた違うものだった。
仕方ないものでも見るような、怪訝と皮肉の混じったそれだ。

「……はっ、はは」

「迎えの趣味が派手だな、アレッサンドロ・・・・・・・

#BlackAndWhiteMovie
(102) 2023/09/30(Sat) 23:28:17

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>103

頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。
既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。
軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。
衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、
まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。

「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」

立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。
ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、
叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。
それで満足するのなら、それで構わないだろう。
けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。

「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。
 で? それでお前は構わないのか?」

#BlackAndWhiteMovie
(104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>105
上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。
何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。
打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。
片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。

点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。
時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。
皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。
そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。

「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。
 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」

決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。
長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。
少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。

「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」

#BlackAndWhiteMovie
(106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>107

その日の空は晴れていた。
緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。
パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、
道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。
僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。

「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。
 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」

まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、
どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。
今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、
どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、
あの頃の夕日が一番眩しかった。

「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。
 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」

#BlackAndWhiteMovie
(108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>109

ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。
いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、
その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。
街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。
そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。

「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。
 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」

果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。
少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、
彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。

痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。
湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。
あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。
それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。

「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」

#BlackAndWhiteMovie
(110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>111

「っ、はははは。
 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」

空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。
張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。
背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。
残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。
それでよかった。

スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。
話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。
たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。

車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。
景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。
それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、
沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。

体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。
全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。
外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。
一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。
今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。

#BlackAndWhiteMovie
(112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>113

懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、
おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。
ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。
幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、
直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。

「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、
 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」

保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。
しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。
こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、
痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。

「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、
 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」

「けれど、お前は追ってきた」

喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。
車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。
遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。
ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。

自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ


#BlackAndWhiteMovie
(114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>115

「俺は変わっちゃいねえよ。周りが自分よりガキばっかりになっただけだ。
 だから面倒を見てやらなきゃいけない数が増えた、それだけの違いしかない」

自分が、自分たちが若い頃も、自分より年少の人間は面倒を見てやった筈だ。
その数が増えただけ。目下のように振る舞う機会なぞありはしない。
それでも、根底にあるものは変わらないままだ。

哄笑を聞いて、ひとたび眉を顰めて。それから、また仕方なさそうに口角を吊り上げた。
次第にそれは同じような高笑いに変わって、港にどうしようもない馬鹿笑いが響いた。
笑えば傷がずきりと痛む。体の震えに伴って新しく血が吹き出した。
そんな無粋の一つ一つが、奇妙な高揚の後ろに押し流されていく。
頭の中が晴れていくような清々しい興奮が、片方だけの瞳を爛々と輝かせた。

「――葉巻はゆっくり吸うもんだろ、小僧。
 ……だから此れはお前が台無しにしたことにしてやる」

親指が下から葉巻の胴を弾いた。燻った珈琲やナッツのような香りが舞う。
手元から離れた一本がくるくると回転しながら地面に落ちていき――

トッ、と小さな音を立てて路面にぶつかる。
それを合図とするように、車に体重を殆ど預けて予備動作を消して、
右足を大きく振り上げて蹴り上げた。距離が足りれば体の中央、
そうでなくとも当たれば顎は刈れる。

#BlackAndWhiteMovie
(116) 2023/10/01(Sun) 10:14:07

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>117

躱された脚を引く力に任せて上体を引く。
大仰な動きは、それが本命でないのも相俟って適切な間合いで避けられた。
問題はその次だ。

「っ、」

片目を庇うように瞑る。視界は一時的に制限されはしたものの、恒久的にそうなるよりはいい。
避けようもない攻撃は顔面に降り注ぎ、交通事故にでもあったように傷に金属片が食い込んだ。
見えないものを、やり過ごしきったと判断するのは難しい。
目を開くことが出来るのはもう一手先だ、故に。
見えずとも当たることが予測できるものを狙わなければならない。

流れるように殴りつけにかかったのは足刀、過ぎ去った右足の膝裏だ。
勢い、空中から地面に引きずり下ろすようにしながら自身も背中を丸め、
頭上からの奇襲が追撃されることを防いだ。
握り込めるならばそのまま膝裏の布を引っ掴めたならいい。
そうしたなら落下する体の支点は言いようもなくめちゃくちゃになる。

#BlackAndWhiteMovie
(118) 2023/10/01(Sun) 10:39:48

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>119

引っ掴んで頭を地面に叩きつけさせてやるには至らず、指はぱっと離される。
その代わり、指が潰れるほどではなかったのが幸いだ。
相手の不利を狙って畳み掛けるのが承知の人間が着地を見守っているか。
そんな筈はない。地面に落ちた雁を狙わない銃口は無い。

追う脚が一歩を大きく切り詰める。
互いに考えることは同じらしかった。
息をする間も与えまいと、両拳を使って顎下から肩、肋の合わせ、
そうでなければそれこそ向かってくる拳に平然と合わせて殴打を叩き込む。
それでもどうしたって肩の潰れた左腕は動きも鈍く痛みも走る。
右拳のように、相手の卑怯をお構い無しに血を上げながら迎え打つなんてのは出来ない。
そうしている間にも相手の左拳に挟んだ鈍い刃は己の拳や顔面を裂いていた。
新しく出来た傷口にまで、先に降り注がれたアルミ片が皮膚から剥がれ落ちて潜り込む。
いずれは勢いを失わざるを得ないのは必至だった。

だからそれを補うものが必要だ。
シガーカッター代わりのナイフはまだ左手にぶら下げられている。
勢いの無い左拳は代わりに、右拳に紛れて相手の上体を裂きに掛かる。
別段手段を選ばないのはそちらばかりでもない。

そして連撃の迫間、左手が引きに入った瞬間を見計らうと、
点対称の右足は視界の外より、相手の左足の肘を踏み付けにするように蹴り込んだ。
次に何が来るか予測するように、僅かに長身の背が曲がる。

#BlackAndWhiteMovie
(120) 2023/10/01(Sun) 11:23:16

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>121

眼前を血しぶきが舞う。鈍くえぐれた傷口は鮮やかな肉を垣間見せ、直に赤を滲ませた。
段々と温む拳と襟首がその凄惨さと、負ったダメージを物語っていた。
休みの一つも挟まない連打は徐々に勢いは鈍っていく、故に仕切り直しの蹴りを放ったのだ。
持っていけなかったのなら足は弾むように引き戻されて地面を叩く。
その勢いのままに体は沈み込み、肩より下まで降りた。
幸いであったか不幸であったか、予測による行動が拳の当たる先を決めた。

「ぐ、」

ジャブは傷ついた右目の端を掠めた――正確には掠めただけで十分だった。
瞼の横手を叩いた拳は元よりあった傷を広げ、こめかみまで薄い肉を切開した。
潰れて瞼の中に溜まっていた、眼球だったのだろうものがどろりと頬を落ちる。

沈んだ体はナイフを握った左手を回すように後方まで引き絞らせる。
胴を狙うか、脚を狙うか。選んだのはそれ以外だった。
顎下を見上げられるくらいまで沈み込んだ姿勢から焦点を合わせる。
アッパーカットの要領で、逆手に構えたナイフを腹部から頭部まで駆け上がるように振り上げた。
深く当たれば骨に当たって止まる。浅ければ傷は広がる。
逆手に持ったのは射程を腕の長さより外へと伸ばすためだ。

今の状況において表情を緩めていられるほど余裕があるわけではない、というのは、
筋肉を緊張させておく必要があるからだ。そうでなきゃ、笑っていた。
これが楽しくない筈がない。

#BlackAndWhiteMovie
(122) 2023/10/01(Sun) 12:10:40

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>123

ぎ、と歯ぎしりをする音が鳴る。肩を砕かれている左腕を固められれば、
どうしたって押し引きに依る力の均衡は負傷した部位に集められる。
呼吸が乱されれば攻防のリズムも自然と崩れる。

掴まれた腕を引いて振りほどこうとして、軸足に体重を掛けた、
その瞬間に破裂音じみたものが響いた。
体重の乗った一撃は頬を殴りつけ、ぐらりと首から上を揺らした。
まともに食らえば隙を生じる。ふ、と体から力が一瞬抜けた。
それしきで降参なんてつもりはないが、一手分の空隙を晒すには十分だった。

密着した体の間で、からんとナイフが地面に落ちる。
一瞬吹き飛んだ頭の中身を引き戻して攻め手を考えるにしたって、
どうしたところで相手の次撃が先になる。

#BlackAndWhiteMovie
(124) 2023/10/01(Sun) 12:43:24

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>125

数度に渡り拳が頭部を殴りつける。頭を上げはしない。
上げられないのは顎を打たれるのを厭んで、頭蓋の丸みで受けているからだ。
それだって苦し紛れのやり過ごしであって、ガードしたほうが良いのは確かだ。
顎を引き、狭い視界で相手の拳の動きを潜り込むように見遣る。
それでもまだ尚眼光は諦念を宿しては居なかった。
いつも日常を過ごし、他人と過ごしている時よりもよほど活き活きと殺意に燃えていた。

「っ、づきは」

攻め手を変えた動きを、見ていた。
ふらつく頭をどうにか押し戻し、屈めた姿勢は蹴り"に"立ち向かった。
傷ついた左手が脛を掌底で受け、浮き上がらせた膝の下に肩を半ば差し込む。
重心を上にずらさせながらに踏み込んだ体は右肘を前に出して滑空し、
全体重を肩から肘の上腕筋に乗せて鳩尾めがけて倒れ込むような、
頭上まで持ち上げない形のパワーボムだ。

「地獄か、――」

日の頂点の沈みつつある、海の音が近かった。
踏みとどまることが叶わなければ互いの体は、海の中へと落ちる。

#BlackAndWhiteMovie
(126) 2023/10/01(Sun) 18:47:05

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>127

血の絡んだ髪が引きちぎられて頭皮が飛び、切れた瞼の下からは白い骨が見える。
鼻骨は折れて元の面影を残す面は少しずつ削られて尚、スカイブルーが貴方を見ていた。
しっかり組み付き切った膝は肩でホールドしたまま。
脚が地面を蹴る。二人分の重さが急に重力を失ったようにふっと軽くなって、
きらきらと海面の光る水の上へと投げ出された。

それでも尚視界に迫る膝を見て咄嗟に出来たことと言ったら。
勢いをつけた殴打は手段としては取れない。
基点となっている肘をぐるりと回して、指が伸べられたのは、
包帯で塞がれた、傷ついた眼窩の内側だった。

どっちが有効打であったのかが判明するよりも早くに、
スローモーションで動く秋の海の冷たさが迫ってきていた。

#BlackAndWhiteMovie

(128) 2023/10/01(Sun) 19:11:27

【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

>>127

――続きは。

「海の底で、やるか」

これで決着がついたとは思わない。相打ちだとも思わない。
だったらこれから先の予定なんてのも決まっている。
それを未だ楽しみだと思えることにか、まだ互いを付き合わせていけることにか。
着水の瞬間、ようやく頬を緩めた。

果ては地獄の底でさえあっても。

#BlackAndWhiteMovie
(129) 2023/10/01(Sun) 19:11:38

【置】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

本名:ヴィンセンツィオ・ベルティ・デ・マリア(Vincenzo Berti di Maria)
死因:■■■■■■
発見場所:■■■■■■■
遺体の様子:
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(L6) 2023/10/01(Sun) 20:59:15
公開: 2023/10/01(Sun) 21:00:00
 


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