【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[そうして得た隙を逃す事無く、数日振りに触れた唇は、彼の忙しない日々を彷彿させるように僅かにかさついて 然し柔らかく甘い。 エレベーターと違って此処では何に遠慮する事もない。 否、一つ挙げるなら何より配慮すべきは彼の許容範囲だが───此方が離れるより早く、後頭部に掛かる手を知った。自然と覚える喜色に、一度は忘れかけた熱を思い出す。許しを得れば抑えが効かなくなり、角度を変えて擦り合わせる唇の、その奥へ忍び込もうとして、] …………、 [―――眼前へ晒された鍵に怯み、動きを止めた。 一拍を置き、まるで此方の挙動を見透かしたような、冗句染みた気遣いを知る。仕舞い込まれる銀色を眺めて、僅かに眉尻が落ちた。] (-21) 2024/04/28(Sun) 21:22:49 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[口角を辿る優しい指へ、己の指を絡める。 爪先、手の甲、順に唇を押し当てて、最後に手頸へ口付けた。] ……あんたは、 何処までを、俺に許してくれるんだろうか。 [何処か希うような声になった。 己と違い、引き返せば充分に日向で胸を張って行ける人間だと理解している。不可能の境界線が在るなら踏み越える前に知らされたかった。 鍵も何もかも。触れてからでは、手離せないだろうから。* ] (-22) 2024/04/28(Sun) 21:25:34 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉俺 は、 [自分がどんな表情を取っているか、思う余裕は無かった。 唯、柔らかな声に指摘されて、また一つ自覚する。 そうか、これは怯えか。 彼の心を疑いたい訳ではなく、彼の言葉を信じていない訳でもない。だが恐ろしかった。あの夜から今日まで、たった数日とは云え、彼の為人を深く感じて来たが故に。 何処までも寛容な腕に、眉が歪んだ。今とて只管に心を砕いてくれている。他者の痛みを何処までも憂う、優しい心根の―――、] ………冬莉、 あんたは、温かいひとだ。 きっとあんた自身が思っている以上に、愛して、愛されて、正しく生きて行ける人間だ。 [そう実感する程に、自分がこれまで歩んで来た後ろめたい人生に、引き摺り込んで許されるのかと耳鳴りがする。 隣を望んでくれる彼を傷付ける事は、何にも勝る大罪に思えた。 ] (-28) 2024/04/29(Mon) 0:28:41 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[深く呼吸する。 寄せられた頬は温かく、視線が合わない事が救いでもあった。出来るだけ私情を挟まず、事実のみ伝える事を努めるように息を逃し、] ……あんたは、男と付き合った事は無いだろう? 多様性が認められて来たからといって、好奇の視線を向けられない訳じゃない。 俺は、高校の時に周囲にバレたんだ。 面白がられたよ。初めて付き合った相手だったが、そのひとだって今如何しているか分からない。 何より、もうずっと、……家族には会っていない。 帰れない。 父を失望させて、母を泣かせて、弟や妹に家業も押し付けてしまった。長男としての責任を、何ひとつ果たさないままだ……。 [過去を話す時が来るとしたら、せめてもっと理性的に伝える心算だった。儘ならない。瞼を落として、目許を押さえる。] 田舎の小さな事業でさえ障りになったんだ。 あんたの立場なら、尚更──…… (-30) 2024/04/29(Mon) 0:31:55 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[―――その先は言えなかった。 やがて目許から外した手で、そっと背を抱き返して撫でる。明るい方向へ話を落とし込めず、緩慢に顔を上げて誤魔化すように笑った。 笑えていたら良い。 ]誰の期待にも応えられないなら、線引きしていた方が楽だったんだが。……あんたの前では、上手く出来なかったな。 あんまり良い男だったから、気付いたら惚れてた。 (-31) 2024/04/29(Mon) 0:33:03 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉……… 好きだ、冬莉。 あんたを幸せにしたい。幸せに、なって欲しい。 だが俺は鍵を受け取ってしまったら、 いつか俺が障害になったとしても、 きっともう、あんたを手離せない。 [だから、*] (-32) 2024/04/29(Mon) 0:34:00 |
【独】 葛切 幸春/* 弱った状態でのターン経過が申し訳ない気持ちと、冬莉のひとの手腕に感服する気持ちが綯い交ぜになる。[胸を押さえた。] そして俺は集中し過ぎて独り言が飛ぶ。 掬い方が凄くないか、凄いな……。 (-33) 2024/04/29(Mon) 0:38:18 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[取り留めの無い吐露は、出口を欠いた迷路に似る。 付き合って楽しい訳が無い、のに、その渦中においても彼の体温と言葉は真摯だった。 ―――目の奥が熱くなる。 耐えた心算になっていた涙の発露を、相手の指に知って眉宇が歪んだ。弱音は彼と出逢ったあの夜に置いて来た筈だった。にも拘わらず容易く振れる己の軸を恥じる他無い。 その上で、共に立ち止まり・振り返ってくれる存在を、稀有に思う。] ………礼を言うのは、俺の方だろう? [笑みが更に不格好になったのは見逃して欲しかった。] (-41) 2024/04/29(Mon) 16:43:18 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[――― 俺等の関係がバレたら 、 一寸身が強張る。息を詰めて、それから、] は? [続きを暫し固まって聞いた。 否、そんな未来を選ばせる訳にはいかない。 長い時間辛酸を舐めて耐え抜いた彼の軌跡を、築かれた“今”を、決して捨てさせてはならない。 そう訴える理性が在りながら、然れど何処か許しを得たような心地になるのは──屹度。眼前の彼が余りにも自然な促しで、己を含めた選択肢を広げてくれるからだった。] ……… ふ、 [肩が揺れる。思わず破顔して、押し出されるように漏れる笑みを手で押さえた。] はは、そんなの、 [あんたが居るなら、何処にだって。] ……あんたには、敵わないな。 (-42) 2024/04/29(Mon) 16:46:50 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[唇が離れる前に一度甘噛んで。そうして間近の――眼鏡越しに覗いた彼の双眸は、きっとあの犬を見付けた己と似た色をしていた。] ……、思い出す事なんてそう無いんだ。 付き合ったというより、あれは、男同士の付き合い方を教わった程度で。 [元恋人の話など配慮を欠いた行いだったと遅れて認識し、付け足す言葉が偽りに聞こえない事を願う。実際未練は何も無い。高校生の己と違って、OBだった相手の方がその後に支障が出てはいないかと危惧する位だ。 これ以上他者の話で相手の気持ちを乱す事は憚られて、代わりに絡めた指へ込める力を深める。だが、] ………あんたも、嫉妬するんだな。 [可愛い。場違いに、溢れた言葉を飲み込み損ねた。 彼の鷹揚さを人として尊敬さえしながら、一方で、数少ない狭量さを嬉しく思う等性質が悪いと自嘲する。それでも、傾けられる情が愛惜しかった。] (-43) 2024/04/29(Mon) 16:53:34 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉……あんたの全部、俺にくれるか。 俺もあんたを、一人にしないから。 [あの夜の言葉をなぞるように囁いて、眦を弛めた。] (-44) 2024/04/29(Mon) 16:55:45 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[労わるように頭を滑る指先が在る。慣れない感触に一時彷徨わせた視線を やがて指の主へと落ち着かせた。 当然に“これから”を差し出してくれる彼への、敬意としても。] 指標……。 [考えた事もない話だった。己にとって周囲の環境は絶対であり、世論の――或いは内に籠った自分自身が創り上げた“普通”を基準にして 生きていく事しか考えては居なかった。 差し出される真摯さを取り零すまいと、頭の中で言葉を噛み砕く。幾許かの間。反芻する内に 狭く暗かった視界が開けていくようにさえ覚えた。] (-55) 2024/04/29(Mon) 22:46:06 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[目を伏せる。] あんたは、北極星のようだな。 [彼を知る程に、彼を称する言葉が増えて行く。] 冬莉が居てくれるなら、俺は屹度、 この先を迷わずに行けるんだろう。 あんたが俺を想ってくれるように、 俺も、あんたを大事にしたい。 [傍に居ない事が、本来は一番だと思っていた。だが、] ―――傍に居るからこそ出来る方法で。 (-56) 2024/04/29(Mon) 22:48:09 |
【秘】 葛切 幸春 → 靖国 冬莉[視線を起こす。小首を傾ぐ所作が可愛らしいのに様になっている。良い男は狡いな、とまた少しだけ笑って、促される儘に口を覆っていた指先を外す。意識して表情を晒す事に幾許かの掻痒感があろうと、優しい強請りに抗う意志はなかった。代わりに、秘め事を共有するように口を開く。] 俺はあんたのどの顔も好きだ。 それに、未だ見た事のない顔も見たい。 [解かれ行くネクタイには視線を向けず、それを為す相手だけを唯見詰めて――そうして聴く肯定に、心が震えた。 首筋に埋まる後頭部を腕に抱き、指を挿し入れて髪を撫ぜる。 硬質な感触、微かに走る痛みに喉が鳴った。相手の色香に中てられて上がった熱を自覚する。呼気を逃し、伸べる掌で相手が離れるのを止めた。] 知っていてくれ。俺の全ても、あんたのものだ。 ……愛してる、冬莉。 [笑みを形作る唇を吸って、互いの呼気が混ざる距離で、] (-57) 2024/04/29(Mon) 22:59:46 |
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