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【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ朝が来る。 一度は正しき正義の刃として猛威を払った取締法という剣が失墜し、嫌疑の薄い者は徐々に釈放され始めた。 捕まったものはノッテファミリーや警察内外ばかりに限らず、まばらにそれ以外の姿もあり、 またある程度取り調べの終わった者たちほど、見送りもそこそこに送り出されていくような状態だった。 おそらくは街の様子も、マフィアも、警察も、緩やかに元に戻っていくのだろう。 ほんの少しの革命で何もかも全てが変わるほど、民衆の日常とは弱い者ではないらしい。 その人並みの中には、ある一人の男が含まれていた。場違いであろうその姿が。 罪を背負った長躯はその日、数日ぶりの太陽を見た。ひどく眩しい朝だった。 秋晴れは路面を艶やかに輝かせ、影を色濃く街を白く照らし出すかのように煌めいていた。 嫌疑をかけられた者の中には家族の迎えがあるものもあり、さまざまに人の行き交いがあった。 非日常と日常とが交差する。世界は引かれた線を曖昧に、混ざり合って当たり前を取り戻しつつあった。 ボーイスカウトのパレードが近くを通る。署から少し離れた通りの方で楽団が横切る。 この日は祝日のようにささやかに賑わっていて、平和の鳩が空に放たれるかのように美しい日だった。 男が空を見上げて、右手を空へとに翳す。 天気予報は、どうやら当たったようだった。 (0) 2023/09/26(Tue) 21:45:12 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>3 ──パン、と音がする。 ぱっと花びらが幾つか舞った。パレードの列から薔薇の花が散る。 傍で鳴った花火のせいで、もしくは遠くの合図のせいで、銃声は随分と目立たなくなった。 子どもたちの笑顔のはるか上を通って、凶弾は晴れの日の空気を切り裂いて、 それでも他の多くに見咎められるわけでもなく、顧みられることは少なかった。 貴方の別れの言葉は届かなかった。けれど、その"指"は確かに届いた。 着弾の衝撃で長身が二度ほどたたらを踏む。 右胸から遅れて血が流れて、かふと血の匂いの混ざったため息を吐いた。 後ろに一歩、二歩と退いて、ゆっくりと前を向いた。 貴方を見つける。男の瞳は貴方を見据えた。 忘れるはずもない。貴方のことだって、男は覚えていた。 子どもたちの笑顔の傍にいつづけた貴方の優しい表情を、男は忘れていやしなかった。 (5) 2023/09/26(Tue) 22:02:28 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>7 パレードが横切っていく。色とりどりのリボンと花が道を過ぎていった。 道には美しい花の残滓と甘やかな香りだけが残されて、 そこにあった殺意と敵意の痕など多くの足音の後にかき消されてしまった。 貴方の手の内の刃の鋭さを、其れと見咎める者がどれほどいることだろう。 男は酔っ払いのようにふらりとした足取りで路地へと吸い込まれていく。 高い建物の間の小暗い道の、その間に長身が消える。 そこに追いかけるものがあったとして、男の姿を見つけることは出来ないだろう。 代わりに過ぎていくのは、車の走り出す音だけだった。 どこへ行ったかなど、誰が知っているようなことでもない。 (14) 2023/09/26(Tue) 22:24:41 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 [16:00] ノッテの構成員が殴り込んできたときよりも大胆な音が響く。 此れより先に追いかけっこに加わるものなんて警察ぐらいしかありはしない。 その筈だった。そうだとしたなら、こんな荒っぽい手立ては取らない。 他の誰が在るというのか。彼らの手を迷わせたのはそうした困惑もあったのだろう。 目を向けるべき相手を誤らせ、その視界を暗く潰した。 男の反応は緩慢だった。薄く雲が張ったような、空の色が向けられる。 人の死体がいくら増えようが男の注意を引くことはない。そうだった。 それが、乱入した男の顔を見て僅かに目を見開く。 確か当初乗り込んで来た構成員達は、ある男の部下だった筈だった。 秘密主義のマフィアたちであっても、多少顔の割れている人間はいる。 そうした者たちの幾らかは、一人の男を信奉めいて仰いでいた筈だった。 少なくとも自分が罪を暴かれ情報から隔離される前はそうだった。 → (101) 2023/09/30(Sat) 23:27:35 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>96 >>97 その男の顔を見上げて、満身創痍の男は笑った。 息だけで、けれどもそこにあるのは嘲弄とはまた違うものだった。 仕方ないものでも見るような、怪訝と皮肉の混じったそれだ。 「……はっ、はは」 「迎えの趣味が派手だな、アレッサンドロ」 (102) 2023/09/30(Sat) 23:28:17 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>103 頬骨に堅いフレームが擦り合わされる感覚があった。 既に大分張られて腫れた頬に、今までの痛みを再生するように神経が痛んだ。 軽く咳き込んで血塊を吐き出す。喘鳴は荒れたものの、悲鳴はあげなかった。 衝撃に流される前に向こうを向いて金属製の扉に叩きつけられた頭は、 まず視線を貴方へと向けて、それを追うように頭そのものが前を向く。 「他人行儀に呼ばれる方が、お前はよっぽど好みじゃないだろう」 立ち上がろうともしなければ、反撃の姿勢も見せない。 ただ、大混乱のさなかにある町工場の中の景色を背景に見上げて、 叩きつけられた言葉と態度を映画のスクリーンのように眺めているだけだ。 それで満足するのなら、それで構わないだろう。 けれどもそれで腹の虫が治まらないのなら、それはきっと不満だ、そうだろう。 「一方的に殴りつけて気が済むんだったらこのまま付き合ってやる。 で? それでお前は構わないのか?」 (104) 2023/10/01(Sun) 0:02:08 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>105 上体さえ浮き上がらせられたなら、それに追従しないわけでもなかった。 何もかもに無気力であるのとは異なる、他から見て違いはわからずとも。 打撲程度の損耗はあるものの無事な方の腕で体を支えて立ち上がる。 片足は引きずり気味ではあるものの、体重を支えられないわけではない。 点々と血が尾を引く足跡を残しながら、助手席の方へと歩いていく。 時間が無いのは確かだ。そして目の前の相手を見れば、互いにそうなのも確かだった。 皮肉るような物言いはされど相手の提案を蹴って立ち止まったりするものではない。 そればっかりが事実であって、心中の内を饒舌に語ったりはしない。 「話くらいは聞いていけよ。何も聞きたくないわけじゃあないだろ。 もしそれくらい呆れてるなら、お前は此処にわざわざ来ない」 決めつけるような物言いのどれだけが真を得ているのだろう。 長い月日の中で互いがどういう人間か霞んだか、或いは。 少なくとも、聞けと言うほど自分から話したりというのも、男はやはりしなかった。 「……お前の運転する車に乗るのは、そういや初めてだったかな」 (106) 2023/10/01(Sun) 0:26:40 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>107 その日の空は晴れていた。 緞帳を割るように光は破砕された開口部を割って差し込む。 パレードが幕を開けた頃に比べれば随分と光は色を帯びていて、 道向こうの目的地であるように主張する夕の色がやけに視界に眩しかった。 僅かな隙間を縫って吹き抜ける風が傷をひりひりと傷ませる。 「お前をパトロールカーに乗せてやることはしょっちゅうだったけれどな。 性懲りも無い暴れ方ばかりするもんだから、ガソリン代を請求してやりたかったくらいだ」 まだお互いが若く未熟で、ちょうど今の夕焼けのように昼と夜の交わりとの関わり合いを、 どんなふうに図るべきなのか探るようにしていた頃の話だ。 今、或いはこうなる直前よりもずっと上手く切り抜ける方法なんざ知らなくて、 どちらも自分の上、社会だとかそういうものに叱られため息を吐かれていた、 あの頃の夕日が一番眩しかった。 「お前は引き継ぎは終えてきたのか。どうせろくに話もしてないんだろう。 口を開かないことばかり得意になっちまったもんだな」 (108) 2023/10/01(Sun) 0:59:55 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>109 ゆっくりとカーブを曲がり、建物の間から遠くに海が見える。夕暮れの色に照らされた美しい海。 いつもだったらそれを楽しむ余裕があったかもしれないし、 その向こうにあるのだろう本土の岸辺を想像することもあるのかもしれない。 街の景色が遠ざかっていき、見えるものの色数ばかりが少なくなっていく。 そう遠くもないうちに、この車は港へと着くのだろう。 「俺の部下に引き継ぎなんざ必要ないさ。普段からなんでも教えてやっている。 お前と違って上に立つものも一人きりてなわけじゃない……うまくやるだろうさ」 果たして当人らにとって適切な引き継ぎがあったかなんて想像はしない。 少なくとも今から間に合わせることなんてのはお互いに出来やしないのだから、 彼らの身になって考えるなんてことに意味があるわけではない。 痛んでいない右腕を動かす。ポケットから抜き取られたのは一本の葉巻だ。 湿気の管理もされていなければ剥き身のままほっとかれてラッパーに皺が寄っている。 あの日、餞別として貴方から強奪したものだ。 それが見えるように片手で掲げてから口に咥える。 「……火貸してくれ。シガーライターくらいあるだろ、この車」 (110) 2023/10/01(Sun) 1:29:23 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>111 「っ、はははは。 物知らずが店一つ任されるくらいだ、それくらい教えられてりゃ問題ないだろうよ」 空笑いが返る。くるくると葉巻を回してポケットへとしまいこんだ。 張り合って上げる大げさな声も、突き放すような物言いも、やけに満足そうに耳を傾ける。 背中の向こう、振り返らなければわからない街の様子などわからない。 残された彼らがどうしているかなど知る術もなく、知らせる者もいない。 それでよかった。 スピードを上げる車とは裏腹に、悠揚と構えて眼の前を見ていた。 話す相手に目を向けるのでもなく、ただ紫色を帯びていくオレンジを見ていた。 たかだかの干渉に集約してしまうには、男のほうは、今にすっかり満足していた。 車が停まれば扉を開けて助手席から外へ逃れ出る。 景色を見に来た、だなんて。そんなことは欠片も思っちゃいない。 それでも求めるものを提示されるまでは、開け放った扉に手を掛けて、 沈みゆく夕日が海を照らしているのばかりを見ていた。 体重を他に預けて構える、その片目は失われていた。 全身打撲の状態であちこちに殴打の痕があり、片足は半ば引きずっていた。 外套の内側からは血が流れ出す。左肩は粉砕され、脇腹はじんわりと血を吹いていた。 一番顕著であるのは右胸の傷で、すっかり黒くなった血の跡を染めるように新たな血が流れる。 今は空にされた助手席のシートが、凄惨さを物語っていた。 (112) 2023/10/01(Sun) 2:16:30 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>113 懐からナイフの一本を取り出す。手入れはされているが汚れているそれは、 おそらく手癖も悪く先の町工場内部から拾ってきたものなんだろう。 ひしゃげた葉巻を乱暴にカットすると、煙草のボタンを押して起動させる。 幸いシガーソケットに歪みは無かった。ライターを取り出して赤熱面に押し当てるも、 直火でないから火がついて炙られるまでにはさんざ苦労をした。 「……初めはお前は随分大人びちまったから、裏切られたと知ったら切り捨てて、 あとはそれきり、自分の部下かなにかにでも始末を任せるものかと思っていたよ」 保管状況も火付けも何もかも悪い葉巻は、パルタガスの良さを台無しにしている。 しばし車に体重を預けながら、夕日が沈んでいくのを見ていた。 こんなところまで追ってくるのがいたとして、アジトやあちこちが散々な今、 痕跡を追ってやってくるとしたって日が昇ってからだろう――唯唯彼を追うふたりは別として。 「何かに付けて突っかかってくるようなガキの時分じゃなきゃ、 自分の手でケリつけようなんざしないだろうと思っていた」 「けれど、お前は追ってきた」 喉の奥から喘鳴混じりの笑い声を吐く。 車を挟んで並ぶ男の顔を見て、目を細めて笑っていた。 遠いものになってしまった景色を眺めるような、懐かしむような目。 ころりと首を傾げて、可笑しそうに、いつかのように頬を緩める。 「 自分を殺す凶器を選べるなら、お前がいいとずっと思っていたよ 」 (114) 2023/10/01(Sun) 9:11:51 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>115 「俺は変わっちゃいねえよ。周りが自分よりガキばっかりになっただけだ。 だから面倒を見てやらなきゃいけない数が増えた、それだけの違いしかない」 自分が、自分たちが若い頃も、自分より年少の人間は面倒を見てやった筈だ。 その数が増えただけ。目下のように振る舞う機会なぞありはしない。 それでも、根底にあるものは変わらないままだ。 哄笑を聞いて、ひとたび眉を顰めて。それから、また仕方なさそうに口角を吊り上げた。 次第にそれは同じような高笑いに変わって、港にどうしようもない馬鹿笑いが響いた。 笑えば傷がずきりと痛む。体の震えに伴って新しく血が吹き出した。 そんな無粋の一つ一つが、奇妙な高揚の後ろに押し流されていく。 頭の中が晴れていくような清々しい興奮が、片方だけの瞳を爛々と輝かせた。 「――葉巻はゆっくり吸うもんだろ、小僧。 ……だから此れはお前が台無しにしたことにしてやる」 親指が下から葉巻の胴を弾いた。燻った珈琲やナッツのような香りが舞う。 手元から離れた一本がくるくると回転しながら地面に落ちていき―― トッ、と小さな音を立てて路面にぶつかる。 それを合図とするように、車に体重を殆ど預けて予備動作を消して、 右足を大きく振り上げて蹴り上げた。距離が足りれば体の中央、 そうでなくとも当たれば顎は刈れる。 (116) 2023/10/01(Sun) 10:14:07 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>117 躱された脚を引く力に任せて上体を引く。 大仰な動きは、それが本命でないのも相俟って適切な間合いで避けられた。 問題はその次だ。 「っ、」 片目を庇うように瞑る。視界は一時的に制限されはしたものの、恒久的にそうなるよりはいい。 避けようもない攻撃は顔面に降り注ぎ、交通事故にでもあったように傷に金属片が食い込んだ。 見えないものを、やり過ごしきったと判断するのは難しい。 目を開くことが出来るのはもう一手先だ、故に。 見えずとも当たることが予測できるものを狙わなければならない。 流れるように殴りつけにかかったのは足刀、過ぎ去った右足の膝裏だ。 勢い、空中から地面に引きずり下ろすようにしながら自身も背中を丸め、 頭上からの奇襲が追撃されることを防いだ。 握り込めるならばそのまま膝裏の布を引っ掴めたならいい。 そうしたなら落下する体の支点は言いようもなくめちゃくちゃになる。 (118) 2023/10/01(Sun) 10:39:48 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>119 引っ掴んで頭を地面に叩きつけさせてやるには至らず、指はぱっと離される。 その代わり、指が潰れるほどではなかったのが幸いだ。 相手の不利を狙って畳み掛けるのが承知の人間が着地を見守っているか。 そんな筈はない。地面に落ちた雁を狙わない銃口は無い。 追う脚が一歩を大きく切り詰める。 互いに考えることは同じらしかった。 息をする間も与えまいと、両拳を使って顎下から肩、肋の合わせ、 そうでなければそれこそ向かってくる拳に平然と合わせて殴打を叩き込む。 それでもどうしたって肩の潰れた左腕は動きも鈍く痛みも走る。 右拳のように、相手の卑怯をお構い無しに血を上げながら迎え打つなんてのは出来ない。 そうしている間にも相手の左拳に挟んだ鈍い刃は己の拳や顔面を裂いていた。 新しく出来た傷口にまで、先に降り注がれたアルミ片が皮膚から剥がれ落ちて潜り込む。 いずれは勢いを失わざるを得ないのは必至だった。 だからそれを補うものが必要だ。 シガーカッター代わりのナイフはまだ左手にぶら下げられている。 勢いの無い左拳は代わりに、右拳に紛れて相手の上体を裂きに掛かる。 別段手段を選ばないのはそちらばかりでもない。 そして連撃の迫間、左手が引きに入った瞬間を見計らうと、 点対称の右足は視界の外より、相手の左足の肘を踏み付けにするように蹴り込んだ。 次に何が来るか予測するように、僅かに長身の背が曲がる。 (120) 2023/10/01(Sun) 11:23:16 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>121 眼前を血しぶきが舞う。鈍くえぐれた傷口は鮮やかな肉を垣間見せ、直に赤を滲ませた。 段々と温む拳と襟首がその凄惨さと、負ったダメージを物語っていた。 休みの一つも挟まない連打は徐々に勢いは鈍っていく、故に仕切り直しの蹴りを放ったのだ。 持っていけなかったのなら足は弾むように引き戻されて地面を叩く。 その勢いのままに体は沈み込み、肩より下まで降りた。 幸いであったか不幸であったか、予測による行動が拳の当たる先を決めた。 「ぐ、」 ジャブは傷ついた右目の端を掠めた――正確には掠めただけで十分だった。 瞼の横手を叩いた拳は元よりあった傷を広げ、こめかみまで薄い肉を切開した。 潰れて瞼の中に溜まっていた、眼球だったのだろうものがどろりと頬を落ちる。 沈んだ体はナイフを握った左手を回すように後方まで引き絞らせる。 胴を狙うか、脚を狙うか。選んだのはそれ以外だった。 顎下を見上げられるくらいまで沈み込んだ姿勢から焦点を合わせる。 アッパーカットの要領で、逆手に構えたナイフを腹部から頭部まで駆け上がるように振り上げた。 深く当たれば骨に当たって止まる。浅ければ傷は広がる。 逆手に持ったのは射程を腕の長さより外へと伸ばすためだ。 今の状況において表情を緩めていられるほど余裕があるわけではない、というのは、 筋肉を緊張させておく必要があるからだ。そうでなきゃ、笑っていた。 これが楽しくない筈がない。 (122) 2023/10/01(Sun) 12:10:40 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>123 ぎ、と歯ぎしりをする音が鳴る。肩を砕かれている左腕を固められれば、 どうしたって押し引きに依る力の均衡は負傷した部位に集められる。 呼吸が乱されれば攻防のリズムも自然と崩れる。 掴まれた腕を引いて振りほどこうとして、軸足に体重を掛けた、 その瞬間に破裂音じみたものが響いた。 体重の乗った一撃は頬を殴りつけ、ぐらりと首から上を揺らした。 まともに食らえば隙を生じる。ふ、と体から力が一瞬抜けた。 それしきで降参なんてつもりはないが、一手分の空隙を晒すには十分だった。 密着した体の間で、からんとナイフが地面に落ちる。 一瞬吹き飛んだ頭の中身を引き戻して攻め手を考えるにしたって、 どうしたところで相手の次撃が先になる。 (124) 2023/10/01(Sun) 12:43:24 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>125 数度に渡り拳が頭部を殴りつける。頭を上げはしない。 上げられないのは顎を打たれるのを厭んで、頭蓋の丸みで受けているからだ。 それだって苦し紛れのやり過ごしであって、ガードしたほうが良いのは確かだ。 顎を引き、狭い視界で相手の拳の動きを潜り込むように見遣る。 それでもまだ尚眼光は諦念を宿しては居なかった。 いつも日常を過ごし、他人と過ごしている時よりもよほど活き活きと殺意に燃えていた。 「っ、づきは」 攻め手を変えた動きを、見ていた。 ふらつく頭をどうにか押し戻し、屈めた姿勢は蹴り"に"立ち向かった。 傷ついた左手が脛を掌底で受け、浮き上がらせた膝の下に肩を半ば差し込む。 重心を上にずらさせながらに踏み込んだ体は右肘を前に出して滑空し、 全体重を肩から肘の上腕筋に乗せて鳩尾めがけて倒れ込むような、 頭上まで持ち上げない形のパワーボムだ。 「地獄か、――」 日の頂点の沈みつつある、海の音が近かった。 踏みとどまることが叶わなければ互いの体は、海の中へと落ちる。 (126) 2023/10/01(Sun) 18:47:05 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 血の絡んだ髪が引きちぎられて頭皮が飛び、切れた瞼の下からは白い骨が見える。 鼻骨は折れて元の面影を残す面は少しずつ削られて尚、スカイブルーが貴方を見ていた。 しっかり組み付き切った膝は肩でホールドしたまま。 脚が地面を蹴る。二人分の重さが急に重力を失ったようにふっと軽くなって、 きらきらと海面の光る水の上へと投げ出された。 それでも尚視界に迫る膝を見て咄嗟に出来たことと言ったら。 勢いをつけた殴打は手段としては取れない。 基点となっている肘をぐるりと回して、指が伸べられたのは、 包帯で塞がれた、傷ついた眼窩の内側だった。 どっちが有効打であったのかが判明するよりも早くに、 スローモーションで動く秋の海の冷たさが迫ってきていた。 → (128) 2023/10/01(Sun) 19:11:27 |
【人】 Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ>>127 ――続きは。 「海の底で、やるか」 これで決着がついたとは思わない。相打ちだとも思わない。 だったらこれから先の予定なんてのも決まっている。 それを未だ楽しみだと思えることにか、まだ互いを付き合わせていけることにか。 着水の瞬間、ようやく頬を緩めた。 果ては地獄の底でさえあっても。 (129) 2023/10/01(Sun) 19:11:38 |
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