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【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ「あんたが正論を言ってると、 鼻をつままれたような気分になるよ」 ははは、と笑い声を放り投げる。 間に置かれた距離はちょうどよくて、 それでもきっと短すぎる。 「はいよ。 じゃあちょっと準備するから、大人しく座っててくれますかね」 店ならサイフォンを火にかけたりしはじめるところだが、 裏口から入れば店の外観からは想像もできないほど 狭くぎゅうぎゅうと物が押し込まれた部屋がひとつ。 あなたも何度か覗いた事くらいはある、事務所兼黒眼鏡の私室だ。 スチールデスクの上に置いてあった電気ケトルのスイッチを ぱちんと指で弾きながら、 「あんたからなんか持ってくるなんて、 明日は海が荒れるな。 船は出すなといっておかにゃ」 二つ置かれたカップのひとつをひっくり返して、 口許だけで笑った。 「で、ご注文は?」 珈琲ではなく、と。黒眼鏡の隙間から、瞳が覗いた。 #Mazzetto (-5) gt 2023/09/11(Mon) 21:20:14 |
【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ「そうとも。似合わないさ」 湯が沸く音、インスタントの珈琲が注がれる音、部屋を歩く軽い足音。 部屋は狭いなりに雑多な荷物が押し込まれていて、 いうなれば狭苦しい。 だが机の上はきちんと開けていて、 無秩序にちらかされているわけではないことは分かるだろう。 「皿」 さほどの時も置かず、コーヒーカップを二つ片手で鷲掴みに持ってきて、 もう片方の手で皿を一枚机の上にかちゃんと放る。 コーヒーカップもことり、と続き、 やっと空いた手でビニエの袋を吊り上げて、中を取り出し一つを皿の上に乗せた。 雑に手で押しやるように、その皿をあなたのほうに差し出す。 「――なんだ、ついに辞めンのかね。 それとも転勤? 勤め人は大変だね、旦那」 がぶり、とビニエにかぶりついて、瞳を合わせる。 視線が合わない時は一切合わないし、 合ったのなら外すことはない。当然だ。 #Mazzetto (-30) gt 2023/09/12(Tue) 2:08:27 |
【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ「そうだったり、そうじゃなかったり」 ここにあるから渡している――だけではなく、新たに買ったりしているらしい。 意味不明だ。 彼自身が使っている電気ケトルなどは、簡素でシンプルなものでしかない。 目を合わせて、言葉もなくじいと視線が交わされて── 肩を竦める。 不十分だ。 だが、十分だった。 「客は来るよ。こないだも、警官さんが来たぜ。 まったく、人気店は困るね」 客が来るのは当然のことだ。 珈琲については自分も口にして、眉だけをあげて、 …少しだけ笑ってから、腕を組んで。 「……うちは流通だ。 何もなくつつがなく、ただ流しているのが一番儲かる。リスクもなくな。 しばらくはやりづらいだろうな。 俺の好みじゃない」 10年カポとして"真面目に"やってきた男の手腕は、 驚くほどに保守的で慎重なものだ。リスクを最も嫌う。 今の状況は、彼の指揮する"港"にとってはあまり好ましいものではないのだろう。 #Mazzetto (-38) gt 2023/09/12(Tue) 8:26:54 |
【人】 黒眼鏡>>48 エルヴィーノ 「珈琲をきちんと飲んでくれるやつは、皆上客だ」 自動車修理業のほうと喫茶店、店の内装はそれを半々につなぎ合わせたようで妙なものだ。 なんともハードルが低いことを口にしながら、代金を受け取る。 ついでに、と包みに入ったものをいくつか、一緒に渡す。 「ついでにこれとこれ。 あー、正真正銘ただの菓子だ。 そっちは飴で、そっちが焼き菓子だったかな」 ここで買い物をすると、たまにこうして何かを押し付けられることがある。 別に断っても、「そう?」と引き下がるだけだ。 「ちゃんと寝るのは大事だからな。 体には気を付けろよ」 ついでに、お節介もひとつ。 #Mazzetto (49) gt 2023/09/12(Tue) 12:45:15 |
【人】 黒眼鏡>>65 エルヴィーノ 「そうだろうそうだろ、 持ちつ持たれつというやつ」 なんとも楽しそうに笑う。 若者と話すと楽しい、などと前にこぼしたことがあるが、 本気だったのだろうか。 「万が一俺がいなくなっても、 引き継げるようにはするがね。 そこは…アフターサービスだ」 物騒なことを口に出しつつ、 無害をアピールするように両手を挙げて。 店の扉をからん、と空ける。 「そうしてくれ。 情報もうちの商いだが、これはいつ入るかわからない。 気長に待っていてくれ」 よほど暇なのか、店の外まで出てあなたの車を見送る。 手を振るでもなく声をかけるでもなく、 あなたの姿が見えなくなるまで見送っていた。 #Mazzetto (71) gt 2023/09/12(Tue) 21:44:21 |
【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ菓子。電化製品。装飾品。酒。 高価なものから安価なものまで。共通点はない。 あえていうなら、必要とされていない、そのくらいだ。 当時から、飾り気や色気には興味のない男だった。 けれどそれは、先を焦り、目を向ける余裕がないだけだった。今は。 「税金は払えてるさ。…ンまあ、そうだな、長く続くとは思えない。せいぜい、身をかがめてドアをくぐるさ」 額をぶつけないようにな、と身をかがめる仕草。 ばり、と口の周りが汚れるのも気にせずに生地を噛んで、 少し溢れたバニラクリームが唇にしがみつく。 それをぺろりと舌先でなめとりながら、 ほんの3口程で食べ歩きの林檎のようにビニエを平らげてしまった。 味わう、という言葉とは程遠い。 「いつも警察の皆さんには、お世話になってます。ははは、そう、イレネオくん。 "表"の仕事してるときにまで、港に張り込みに来てたらしいよ。 国税局に転職したほうがいいんじゃないか、あの真面目さは」 言葉の内容ほどにはあざける様子はなく、むしろ好ましそうな語り口。 頑張っている若者。この男が明確に好意を示す、数少ないものだ。 「……で?」 そこでぱた、と笑顔を止めて。 「忠告は分かったけど。旦那はどうすんだい」 #Mazzetto (-117) gt 2023/09/13(Wed) 9:17:10 |
【人】 黒眼鏡>>120 >>121 「おう、喰え喰え」 黒眼鏡の生態として、 若いのが飯を食っていると嬉しそうにする。 もしかしたらおじさん全体の生態かもしれないが。 片付けに関しては「気にするな」と手をふって、 ダヴィードに座るよう促した。 「いつも通りが一番だ、商売も人生もなんもかも」 含蓄があるんだかないんだか、わからないことをいいながら。 「アマラントか、最近行ってないな。 行ってみるか」 自分の分の珈琲も準備し終わって、カウンターに肘をつく。 「俺も……特にはねえな。 なんだか騒がしくなりそうだが、 デキる男の俺は仕事に常に余裕を持っている。 つまりは問題なしってコト」 ず、と珈琲を傾けて。 「まぁそんな忙しさに向けて、お前らの様子を見たかっただけだ」 #Mazzetto (122) gt 2023/09/13(Wed) 21:38:54 |
【人】 黒眼鏡>>123 >>127 カフェ 「そーかそーか。 なんもねえなら、それでいい」 …もう用件は終わったのだろうか? うんうんと頷くと、ふたりの話に耳を傾ける。 「ああ、なんかあったら呼ぶよ。 クソ重たいガソリン缶が届いた時とかな」 ダヴィードにはそう、軽口で――けれど頼もしげに頷いて。 「お前は変なことに首を突っ込みそうだからな。 そもそもマジで通るのかわからんが、 どちらにせよ何か動きはあるだろう。 しばらくは大人しくしておけ」 珈琲についても、いつも通り。 良くも悪くも特に何か変わったことがないのは、いいことなのかどうなのか。 「そうだお前ら。 レストア終わった車が一台あるんだが? どっちか要るか? 足が多くて困ることはないだろ」 ……なくはなさそうだが。 #Mazzetto (138) gt 2023/09/14(Thu) 2:13:46 |
【秘】 黒眼鏡 → Isp. Sup. s. U.P.S. ヴィンセンツィオ言葉も四肢も、その間に立ち塞がるものを埋めようとはしなかった。 ただ視線だけが互いの色を、その粒子のひとつぶひとつぶを見極めるように交差する。 直接その双眸を見やること、それすらも最近はできてはいなかっただろうから。 「いじめたように言ってくれるなよ、こっちはオフの日に話しかけられたから応じただけだって。 旦那の教育方針を疑うわけじゃないが、あれはそのうち痛い目見るぞ。 普段ならともかく、今はいささか状況が悪い。 怪我せず転べないのなら、子供の手は握るべきじゃないか」 年を取ったなあ、などと柄にもない言葉が意識をかすめる。 そしてそれはきっと自分もそうなのだと思い、 苦笑しながら黒眼鏡を指で押さえた。 「それも、そうか」 だから、帰ってくる言葉も素直にすとんと、腹の奥に落ちてくる。 そういうものだ。 「じゃあしょうがねえな。 何かやることは?」 明日の話はできない。 だから、とりあえずは今の話をしようと思った。 #Mazzetto (-235) gt 2023/09/14(Thu) 5:39:28 |
【人】 黒眼鏡>>139 >>140 カフェ 「このトシで運ぶのキツくなってきてな〜〜。 おーしおし、偉いぞダヴィード。体を鍛えて悪いことはない」 ダヴィードの腕を見て、ぱんぱんと嬉しそうに手を叩く。 「ああ、ふたりともそうしてくれ。 ……いうまでもないと思うが、情報共有もしっかりな」 やっとカポらしいことを言ってから、 壁のボードにかけられたキーを指先でひっかける。 「いざという時エンジンくらいはかけられるようになっとけよ? 俺は14の時にもう運転してたぞ」 おっさんのヤンチャ自慢が始まりつつ、キーを投げ渡す。 「じゃあペネロペ、お前持ってけ。 で、どこでもいいから停めとけ」 どうやら、逃走手段みたいな話のようだ…。 #Mazzetto (144) gt 2023/09/14(Thu) 10:43:57 |
【人】 黒眼鏡>>145 ペネロペ 「行けるうちに行っとけよ。 俺なんか腰が重くなっちまってもう」 ここ以外ではほとんど見かけることがない男は、 のんびりとカウンターに肘をつく。 君たちを見送る構えのようだ。 短いやりとりで、"仕事"上必要なことが含まれていたようには思えない。 となればやはり、顔を見たかったというのが本音なのだろう。 そのくせ、来たら来たでこの調子なのだから、 なんとも放任主義がサンダルを履いて歩いているような男である。 「ああ、知ってるよ。必要なことは言うだろう」 お前ならな、と付け加えながら…お代と言われて、手のひらを突き出す。 「いくらだっけな? 忘れたな。 次もちゃんと顔だしたら、その時払ってもらおうか」 …おごり癖が出た。 #Mazzetto (146) gt 2023/09/14(Thu) 14:24:30 |
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