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【赤】 従業員 ルミ[ 噛み締めるように名前を呟いた。 会話で意識を向けさせるためでも何でもない。 ただ、自分が呼びたいから、そう呼んだ。 再会した時は、幼い頃と違って 名前呼び自体を面と向かっては厭われず 表面上は許されたようにも聞こえたけれど ──自分ですらそれが本当に許されるなら 今までの、彼に近しい人たちは、? ] (*41) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:56:06 |
【赤】 従業員 ルミ[ 私にとっての“らいおん”の響きは彼だけ。 そこに肉食獣の影なんてひとつもない。 彼だけ見つめて、彼だけを望んで、 なにもかも煮詰めた砂糖色の声。 まるでわたしはおとぎ話の魔女みたいだ。 甘く美味しく作り上げた死への道。 無警戒な存在に毒林檎を齧らせて、 最後には裁かれてしまう悪いひと。 ] (*42) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:56:20 |
【赤】 従業員 ルミ[ 望まれない命は不幸だ。 今ですら正しく彼を愛せない自分ひとりで何が出来る。 命で縛り付ける気なんてない。 わたしの罪はわたしだけのもの。 ──アフターピル、って便利でしょう? ベッド横のデスクに幾つか予備を置いてある。 わたしは少しづつ兆し始めた熱に触れて、 嬉しさを隠しもせず顔を綻ばせた。 ] 好き、──大好きだよ、お兄さん [ 愛を囁かれても萎えちゃうだけかもね。 どうせ今夜限りの魔法の夜なら 喉すら焼けるような蜜も許してよ。 りんご飴、わたしとなら食べ切れるでしょう? ] (*43) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:56:34 |
【赤】 従業員 ルミこれでもう、わたしを忘れないよね これでもう、綺麗な思い出として消えないよね ────なにかある度に痛む傷になって 忘れたくても忘れられないくらい、 痛くて熱い存在になれるよね? [ 本当にわたしが羊だったら、 本当に貴方が獅子だったら。 食べて貰って貴方の血肉になって そしたら、好きな人の一部として生きていけて ──なんてろくでもないたられば話。 ] (*44) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:56:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の熱芯をやさしく、柔く包み込む。 これは愛を交わす行為ではなくて、 わたしの一方通行で、彼を苦しめるだけ。 過度な愛撫も快楽も必要無い。 あくまで生理的反応で仕方なかった、って 彼が言い切れるように────なんて 加害者がせめてと与えるものなんか、 害を与えた時点で無意味か。 ] ……お兄さん、目、閉じててね [ 挿れる、だけなら不都合ないようになるまで 熱を甘く柔く触れて、擦って、刺激を与えれば わたしは彼の反応も見ずに己の下着をそっとズラした ] (*45) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:57:02 |
【赤】 従業員 ルミ────ッ、 [ ろくに慣らしてもいない中へ熱を入れれば さすがに痛みが訪い、すこし眉を顰めた。 それでも人体とは不思議なもので 防衛本能で分泌される愛液が刺激を緩和し、 膣肉も広がって、熱を難なく飲み込んでいく。 ───これがわたしの、望んだ形。 欲しくて欲しくて仕方なかった熱も やっと手に入れた彼の傷も。 ] (*46) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:57:28 |
【赤】 従業員 ルミ[ 叶っていくのに。叶っているのに。 どうしてこんなに虚しいばかりなのだろう。 ────どうして。 わたしは、 ] ………………っふ、あは、は お兄さん、……だいすき ……あいしてるんだよ、本当に…… [ 目から流れたものはただの汗で、 きっと目を閉じていれば彼は気付かない。 誤魔化すように笑って、身体を動かした。 中に彼の熱を吐き出させるためだけに、 それだけを目的にした虚しい動きで。** ] (*47) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 8:57:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 恋は万有引力なのだと誰かが言っていた。 ツバキの花が落ちるように音もなく、 りんごの実で堕ちたように先もない。 原初の罪というものがある。 禁断の果実を齧って神に背いた二人の話。 彼らには口にせず共に在り続ける未来があったのに 罪を犯してでも手にしたい何かがあった。 それならば、この恋は。 わたしと貴方、原初の罪の ──その対価は。 ] (*55) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:01:58 |
【赤】 従業員 ルミ[ 初めて食べたアイスの甘さも。 焼き芋の舌を焦がすような熱も。 名前を呼ばれることの嬉しさも。 誰かに花をあげることの情動も。 貴方と同じ名前の生き物がいることも。 痛みも苦しみも愛しさもなにもかも。 貴方が与えて、貴方は消えた。 ────忘れようとするたびに、あなたを思い出す。 ] …………なぁに? これでもまだ名前で呼んでくれるんだ。 そうすれば逃げられるとでも思ってる? [ 力も抜けて上手く喋れない状況なら、 いっそわたしに絆された振りをして 隙を突いて逃げる方が現実的かもしれないものね? ] (*56) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:02:33 |
【赤】 従業員 ルミ[ 今更男と女として知り合うなんて出来やしない。 もう一度最初からの幻想は夢のまま。 出会い方が選べないなら、 手離し方は選べるのが人間だよね? ────今度はわたしがそうする番。 一緒に同じ傷を負って。 何を見ても、なにに触れても、どんな日常でも わたしを思い出して、──死ぬまで傷の中で会おうよ。 制止の言葉は聞いてあげない。 かさぶたを剥がして傷口を抉って貴方を手にする。 夢すら果てる程に焦がれたこの結末が、 ──きっと何よりも喜べるはず、だった のに、 ] (*57) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:02:38 |
【赤】 従業員 ルミ…………? ……あぁ お兄さん、薬切れ始めちゃった……? [ 先程よりも明確な音になった言葉を耳に入れ、 わたしは問いに答えず小さく呟いた。 視界の端で彼の手がすこしずつ動いている。 身体でも押すか、力に任せて暴れるか。 薬剤の追加投与なんて危うい真似は出来っこない。 ならばと抑えつけるために、彼の肩へ そっと手を伸ばそうとして── ] (*58) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:08 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩──────……、 は……? [ 虚空を撫ぜて落ちる手を見届けながら わたしは水面を波打たせるように声を震わせる。 ] (-22) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:14 |
【赤】 従業員 ルミ[ 真意が読めなくて、わたしは目を細めて動きを止めた。 滲んだ視界を晴らすように眦を拭ってから、 途切れ途切れに紡がれる言葉へ耳を傾ける。 ] 嘘つき。 そうやって、またわたしから逃げるくせに。 ストーカーにそんなこと言ってまで逃げたいの? ──殺さないって最初から言ってるじゃない。 ああもう、どいつもこいつも、そうやって……!! [ 唇を噛み締めて、自分の腕に爪を立てた。 傷付いてくれと願った以上大差はないだろうけれど、 物理的に傷を負わせたいなんて思ってはいない。 行き場のない激情を彷徨わせながら、 わたしはもう一度、彼の顔を じ、と見下ろして。 ] (*59) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:42 |
【赤】 従業員 ルミ………………………。 …………逃げたら死んでやるから。 [ 目論見通りにはいかないと続けることは出来ただろう。 けれど同時に、彼の幻影を、貴方へ見ていた。 撫でられたかったわけじゃない。 そんな夢はもう小人たちの家に置いてきた。 ただ、もしかすれば、と微かな蜘蛛の糸を手繰ったの。 わたしから逃げないお兄さん。 わたしを、忘れないでいてくれる、お兄さん。 ] (*60) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:03:52 |
【秘】 従業員 ルミ → 会社員 雷恩[ この期に及んでわたしは、 思い出として留めるべき過去を捨てられなかった。 昔の幻影に現在を重ねる。 ──ただ行為から逃れるための計算の色が、 彼にないことくらい分かっていた。 ] (-23) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:04:00 |
【赤】 従業員 ルミ[ 熱を引き抜き、けれど警戒するように跨ったままで わたしは動向を見守った。 撫でられたかったわけじゃない。 だって、この恋が実らないのと同じで 撫でて貰えるわけがないって理解してるから。 撫でて欲しいなんて望めない。 * ]それだけのことをしてるって、分かってるから。 (*61) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 20:07:27 |
【赤】 従業員 ルミ[ あの時間を忘れて、過去の貴方を記憶に埋めて。 きっとそうするのが一番良い道だったかもしれない。 わたしは貴方を傷付けないし、 貴方も忘れた過去を思い出すこともない。 諦めるのは生きていくだけならとても楽で、 ]けれど選べたのは無様でも縋りつくいばらの道。 思い出すたびに惨めで痛くて腕を切った。 血を流すたびに生きている実感があって でも、そこにはいつも、貴方はいない。 (*68) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:31 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の声は震えながらも、言葉の輪郭を形作る。 持ち上げられた手を見やり、動向を注視しながら うそではないと紡ぐ声へ目を細めた。 ] そう思わせて逃げる算段かもしれないじゃない。 [ 理性では彼の言うことが正しいと分かっている。 感情が、一度消えた相手のことを信用できないだけだ。 ちがう。 信用できないという言葉すらも正しくはない。 これ以上、期待して傷付きたくないと 自己防衛に徹しているだけ。 ] (*70) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:41 |
【赤】 従業員 ルミ……諦めさせたのはお兄さんなのに、 なんでそんなこと言うの? わたしから離れて、勝手に消えて、逃げて 新しく女まで作って幸せそうで── 忘れてしまえるような昔の子どもひとりが、 …………ッお兄さんには他にたくさんの人がいても わたしには、わたしにはずっと、 昔のお兄さんしかいないのに!! [ どうして勝手に大人になったの。 どうしてわたしの知らない顔を他の女に見せてるの。 今からの貴方を諦めなかったとして、 貴方はわたしのモノになってくれるの? ] (*71) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:47 |
【赤】 従業員 ルミ[ 叶わない夢なら最初から星屑になって落ちてしまえ。 咲かない花なら最初から枯れて朽ちて消えてしまえ。 わたしのものにならないお兄さんなら、 いっそ過去に執着していた方が楽だった。 ────なのに結局今の貴方の傷を欲しがっている。 相反した感情と憎悪と愛情。 矛盾を抱えていることくらい分かっていて、 途方もない夢だけは見ないように自制して。 ] (*72) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:48:50 |
【赤】 従業員 ルミ…………おかげさまで。 [ ここで可愛く愛想を撒けるような女の子だったら、 ここで、強がって突き放せるくらい強ければ。 なにかを探すように持ち上げられる腕を見やり、 そ、とすこしだけ頭を下げる。 ────撫でられたいなんて、思う資格はないけれど ふれられたいと、願ってしまって。* ] (*73) 鬼葉 2024/05/08(Wed) 22:52:34 |
【秘】 会社員 雷恩 → 従業員 ルミ いーたいの、いーたいの、 おーれがたーべた! これでどっかに飛んでることないから、 痛いの戻ってこないよ。 ルミの痛いの、俺がうんこにして流してやる。 [小学生らしく排泄物の名前を軽々しく口にして笑った。 転んだ時も、傷を負った現場にいなくて後から気づいた時も、 撫でて拭った痛みの概念を どこにも飛ばさずに咀嚼したものだった。] (-24) Ellie 2024/05/08(Wed) 23:41:17 |
【赤】 従業員 ルミ[ 女は彼と違って、経験してきた物事が少ない。 生きてきた世界とてそもそも狭いような生き物だ。 多くの人々と経験を知るよりも、 閉じ切った閉鎖的な世界で身を守ることを好んだ。 思い出のウェイトは過去に寄り過ぎた。 痛みも重みも麻痺するほどに時を重ねて、 昔を反芻し、飲み込み、追体験でこころを誤魔化す。 過去を今に当てはめて息をしているだけ。 そうするのが楽で、なにも傷付かずにいられるから。 ] (*80) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:41:48 |
【赤】 従業員 ルミ…………なにそれ。 今更そんな、 体のいい言葉で騙されたりなんか…… [ ────死んでしまうのが一番楽だと考えたこともある。 こころを殺して生きていくより、 身体ごと死んでしまえばいいのかと。 けれど。 どうして苦しいばかりの世界で生きて来たのか。 死ぬことを別に恐ろしいとは思わなかったのに ──……それならば、なぜ。 ] …… [ 愛されようと色んな人に愛想を振り撒いて、愛を買った。 金を渡して夢を買った。 いくら繰り返しても満たされないまま大人になって、 ] (*81) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:09 |
【赤】 従業員 ルミ[ 目的もなく生きていくのなら、それでも良かっただろう。 けれど傷を付けながら、 生きるために彼のアカウントを探って彼を見続けた。 それは間違っても感動する類の話ではない。 犯罪として背筋を凍らせることはあったとしても、だ。 ] ……べつに、最初から泣いてない。 [ 嘘だ。今更繕っても意味のないこと。 涙で罪を誤魔化すみたいで、それは── そんなことはしたくないだけ。 ちっぽけなプライドだ。 わたしが泣いて許されるのは簡単だけれど それを見せられる彼の気持ちはどこにいく? ] (*82) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:32 |
【赤】 従業員 ルミ[ 彼の手が僅かだけ、体温も移らないほどかすかに触れる。 頭を少し下げただけでは届かなかったのか、 力の抜けた腕は、頭の代わりに醜いわたしの手首を撫ぜる。 長袖を着て見えないように誤魔化した過去の傷痕。 現在を生きるために過去で裂いた血肉の痕。 ────ひきつれた皮膚越しに感じた彼の指は おんぶして背負ってくれた時とは程遠い。 弱々しさだけが胸を打つ。 ] ────────……ッ [ なにをするのかと見ていれば、貴方は。 あの甘えとはまた違う懐古を連れてくる。 ] (*83) 鬼葉 2024/05/09(Thu) 0:42:48 |
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