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【人】 ][『月』 エーリク[ あれが欲しいと願えば、大抵のものは 与えられ 労せずとも、時間になれば食事が 与えられ 誰もが親切。 それで満足できるような清い心をもっていれば 良かったのに。 ] (91) 2022/12/14(Wed) 4:29:39 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 憧れていた人が居た。 座長と共に何度も自分の家に訪れていた 少し年上の少年だった。 彼は座長の一押しの子役であった。 それなり地位のある家だった自分の家は、 その劇団を気に入って、投資していた。 劇場への出資の他に、彼らを取り立てていた。 今をときめく俳優達を家に招いて 食事会をする機会が多かった。 自然と接する機会は増え、六歳の誕生日を前に "君も一緒に演ろう"と誘ってくれた彼に頷き、 己も劇団の仲間となった。 遠慮するような素振りを見せる大人も多く居たが 天真爛漫、何事にも一生懸命取り組む少年に倣い 後をついて回る姿に絆されたこともあり、 また、道楽ではなく、純粋に演じることを愛して いた事もあり、やがて、家族よりも家族に近い 関係を構築していった。 ] (92) 2022/12/14(Wed) 4:29:59 |
【人】 ][『月』 エーリク[ そんなある日のことだった。 初めて、自分の力で主役を勝ち取った日のことだ。 兄のように慕っていた彼は笑顔で、それを祝福してくれた。 端正な顔立ち、街に出れば瞬く間に 人だかりが出来るような人気俳優だった彼に 褒められ、激励され、天にも昇るような心地だった。 余談ではあるが、己の顔立ちは ]"作りやすい"と評判だった。 誰もが振り返るような美貌の持ち合わせは なかったが、それがかえって、仕立てるには最高だと。 没個性の方が、何者にも成り得るのだと。 (93) 2022/12/14(Wed) 4:30:18 |
【人】 ][『月』 エーリク[ そしてまたある日のことだった。 舞台袖で、緊張に震える僕の背を叩いたのも また彼だった。 そして舞台へ歩みだし、順調な滑り出しを 終えたころ、 劇場の舞台は、断頭台へと姿を変えた。 縋るように、また信じられないというように、 彼の姿を見た。 怒りと悲しみの入り混じった歪んだ表情が 今も忘れられない。 証持ちだと暴露したのは、嫉妬と言う名の 化け物たる彼だった――。 ] (94) 2022/12/14(Wed) 4:30:47 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 後に彼は貧民街の出身で、 這い上がってきたことや、 幾人もの女性を不幸にし、 金に困っていたこと、 主役を射止めたことに、 家の口添えがあったのではないかという 疑念に囚われていたことなどを 知らされた。 舞台上で拘束され、証を検められ、 非難と侮蔑と怨嗟を浴びた。 恨むほうが、正しいだろうに ただただ、彼の事が哀れでならなかった。 家族同様に。 ] (95) 2022/12/14(Wed) 4:30:59 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 洋館へ招かれても、 彼はときどき、僕の近くに現れた。 廊下の端、中庭のベンチ、階段の下。 恨みがましい顔をしていたり、 兄のような顔をしていたり、忙しい。 ] (96) 2022/12/14(Wed) 4:31:34 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 祈祷室で、男の隣>>0:21に立ち 共に祈りを捧げている時も 売店の奥>>0:34でお茶を楽しんでいる時も。 没個性とは便利なものだと思う。 邪魔にならない存在として、 洋館には存在していたし、 話しかけられればそれなりに会話をしていたと思う。 彼女がちょっとでかけてきて、 帰った時>>0:44にも、 ] おかえり [ 複雑そうな表情で、挨拶を交わす程度には。 複雑そうな表情と気づく者がいるかどうかは 分からないが。 ] (97) 2022/12/14(Wed) 4:32:01 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 明るく面倒見がよく。 慕われている彼女に何故そのような 表情をしてしまうのか、説明は出来ない。 ただ、漠然と、恐ろしいと思うのだ。 彼女に何をされたわけでもない、 アリスの誕生日を祝おうと皆で歌をと 自ら提案するような>>0:42人だ。 挨拶にしても雑談にしても、 互い顔を合わせれば、多少はあっただろう。 魂が呼応し、恐怖している。 バカバカしいとすら思う。思うが。 彼女もまた証持ちで、そして――。 僕たちは、 『審判』と『月』であるならば。 納得はできずとも、理解は及んだ。 故にすこし、距離を測りかねているとは 言えるだろう。 ] (98) 2022/12/14(Wed) 4:32:43 |
【人】 ][『月』 エーリク[ アリスの誕生日前の準備は 滞りなく行われただろうか。 喜ぶだろうかと、本人よりも 楽しげに走り回っている姿>>0:97に 何か手伝う?と問うたこともある。 談笑に勤しむ誰か>>0:116と誰か>>0:167が いたようなら、そっと霞んで消えて いったこともある。 ――が、その存在感故に、 相手に存在を認識されていたか どうかは、怪しくもあっただろう。* ] (99) 2022/12/14(Wed) 4:33:02 |
【人】 ][『月』 エーリク―― 世界の来訪 ―― ………、 [ 死んでいたものと思っていた。 または誰かがそう言っていたなら、 そうだと思いこんでいただろう。 しかし、その存在は失われていなかった。 正直、複雑な気持ちだった。 証持ちが揃えば世界は崩壊する>>0:n8 そう聞かされていた。そう認識していた。 もしも本当にそんなことが起こるなら――……… ] (100) 2022/12/14(Wed) 4:33:21 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 嗚呼、なんて恐ろしいことを 考えてしまったのだろう。 己の苦しみが消えることと 天秤にかけるには、重すぎる事象を 考えてしまうだけでも、 身が凍る。 ] (101) 2022/12/14(Wed) 4:33:41 |
【人】 ][『月』 エーリク[ やがて皆が玄関ホールに集められ>>1:3 『世界』が、否、我らが信ずるべき、愛するべき 『箱庭の神>>1:6>>1:7』が口を開く>>1:5 ] ……はじめまして [ 会いたかった>>1:8と口にする彼そのものとは 会ったことはなかったはずだが、 自然と、久しぶりと言われれば、 そのような気持ちになってきた。 "会いたかった"もまたそうだ 初めて会う人に会いたかったと 言われたところで、なんだそれはと 思うべきところ、自らもまたそうだったのでは そうかもしれない、そうに違いないとまで 思わせられてくる。 足元が崩れて落ちていくような、気持ちだった。 ] (102) 2022/12/14(Wed) 4:34:05 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 続いた言葉は呆然としたまま、 耳だけ、入れた。 壊してしまおう 止めにしよう その二つの言葉だけが、 ぐるぐると、じわじわと、自分の中を 巡っていった。 やがて『世界』は『箱庭の神』は 外へと去っていく>>12 愚者、皇帝、戦車はそれぞれ 三者三様の反応をしていたのが見て取れた。 アリアの声>>1:46が届き、は、と我に返るように ゆっくりと瞬きを一つ。目を見開きすぎて、 ほろりと涙が両目から落ちた。 そう、そう言うのがきっと正しい。 慌てて、 ] ああ、驚きすぎて 瞬きするのを忘れていた [ 涙に気づく者がいたならそう言い訳をした ] (103) 2022/12/14(Wed) 4:34:24 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 少しの間、皆がどこかへ 場所を移すことがあっても、 呆然と玄関ホールに立っていた。 何も言わずにただ立っているだけのほうが 存在感が在るというのは皮肉にも ほどがあるが。 近くにいた誰かの袖を、無意識に 引いてしまうこともあったかもしれないな。* ] (104) 2022/12/14(Wed) 4:36:10 |
][『月』 エーリクは、メモを貼った。 (a13) 2022/12/14(Wed) 4:40:15 |
【人】 ][『月』 エーリク―― 誕生日会 ―― うん、僕から。 [ 何を贈ればいいか、たくさん考えたよ。 ……嘘だけど。 抜け出した際、同じ年頃の子が 母親に強請っていたものを、購入した。 使い道のない、給金でね。 自分で作れるクッキーの材料セットだったかな。 聞かれれば悪びれずだれにでもそう答えたはず。 ところで>>0:377歌えるなら全員でと 願う誰かがいたらしい。 全員、僕も入っているかな。 積極的に自分から挙手はしなかったと 思うけれど、だれかに声を掛けられたら 多分末席にお邪魔していたと思うんだ。 そうじゃなければ手拍子くらい参加していたかも。 ] (105) 2022/12/14(Wed) 5:18:48 |
【人】 ][『月』 エーリク[ アリスに限らず、他の誰かの誕生会や お茶会、食事会、名目はどうあれ、 義務であれ温情であれ、声を掛けられて いたなら、参加し、馴染もうという努力は していたはずだが。 どこかしらぎこちなく、あったことは 己を迎えに来てくれたカルクドラには 知られていたかもしれないし、 馴染もうと努力はしていると言い訳すら していたかもしれないな。* ] (106) 2022/12/14(Wed) 5:19:09 |
【人】 ][『月』 エーリク ―― 『月』 ―― 月はただそこに在りました。 在るだけのことも、ままありました。 友が訪ねてくれば、迎えましたが 訪ねてきた友に、世話を焼かれることが 多くありました。 箱庭の平穏が崩れ去った時にもまた ただ、在るだけでした。 衝突し合い、殺し、殺され やがて、審判が月を殺しました 自分を良く思わなかった審判に 殺されましたが どこか常と違う様子であったように 思っていたのでその瞬間まで 恨む気持ちや憎しみよりも、 恐怖が勝っていたのかもしれません そうして月は 在らずになりました。* (107) 2022/12/14(Wed) 5:30:06 |
【人】 ][『月』 エーリク―― どこかで ―― [ 例えば洋館を抜け出す直前だとか。 例えば草むしりをしていただとか。 どこかの機会で『審判』とふたり という状況になったとしたら ] ――来ないで!! [ とっさにそう口から飛び出していた。 更には、そう言ってしまったことを 自分でもよく分からないという顔をしたまま ] ごめん、少し汚れているんだ [ そう言い訳をした。 何かしらの反応があったら、それがどうであれ 後悔を募らせた事だろう。 大きな声も、拒絶も、常日頃ないことだったし 拒絶されることで傷つくことだって、 僕は知っていたから。* ] (108) 2022/12/14(Wed) 5:37:34 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 昼であれ、夜であれ その場所がどこであれ。 時折、霞んで消えるように 存在感が揺らぐことがある ああ、落っこちてしまう そんな時、誰彼構わず、そばにいて欲しいと 袖を掴む事がある。 そうして気の済むまで震え、時折は はらはらと涙を流し落ち着けば 謝罪をしてその場を去っていた。 回数で言えばカルクドラが群を抜いて いただろうが。 足元はいつだって、脆く崩れやすい ものだから。** ] (109) 2022/12/14(Wed) 5:55:20 |
【人】 ][『月』 エーリク―― 回想:『教皇』との邂逅 ―― [ 屋敷と呼んでも差し支えない家は 外側こそ変わらぬままだったが、 内側は人様に見せられるようなものではなかった。 外された絵画の痕、必要最低限の調度品と家具。 帰る場所がないために残された使用人、 一番は身なりに気を使わなくなり、罵り合う父母だったか。 それでも彼らは諸手を挙げて、彼の来訪>>0:610を 喜んだ。 茶を出すことも、応接間に案内することもなく、 少年を突き出した。 久方ぶりに見た父母の笑顔だったのに、 僕はそれを醜く思った。 差し出せば全て元通りとはいかぬだろうに。 ] (110) 2022/12/14(Wed) 6:29:25 |
【人】 ][『月』 エーリク あぁ………、 うん そう ――……そうなんだね [ 押し出すように突き出された体は 吸い込まれるように彼との距離を零にした。 涙は流れなかったが。 血は全身を駆け巡った。 体温を思い出したような気すらした。 手を握られ>>611よりいっそうに。 陶器のような白い肌に、赤みが差した。 生きていることを思い出すように、体温が上がる。 それを見て、両親は一度我に返った。 私達が生み育てた子だと主張した。 ] (111) 2022/12/14(Wed) 6:29:45 |
【人】 ][『月』 エーリク 父さん、母さん 聞いてください。 僕は今後何があろうとも、 今まで何があったとしても、 あなた方に感謝こそすれ、 恨みはしません この家に産まれ、あなた方と過ごしたことを 恨みはしません [ その言葉が彼らにどう届いたかは、 分からない、ただ玄関を過ぎ去った後、 泣き叫ぶ母の声が耳に残った。 そして最後に"いかないで"と彼女はいった。 最後に見た彼女たちの姿が、 ただ我が子を慈しみ愛した姿だったのは この上ない、幸運だったのだろうと思う。 ] (112) 2022/12/14(Wed) 6:30:04 |
【人】 ][『月』 エーリク うん [ 橙色の空模様も、 同行の職員がいなくなったことも、 もう目には入っていなかった。 ただ、共に歩く彼の姿>>0:612をみつめ 生返事のような声を返すだけだった。 別に味方でなくても、 仲間でなくても、 友人でなくても、良かった。 その言葉を信じられないと思ったわけではない。 ただ、彼が側に在る、それがその時の、 僕の全てであった。 ] (113) 2022/12/14(Wed) 6:30:16 |
【人】 ][『月』 エーリク[ "幸せになって欲しいから"とカルクドラは言う。 それをいつだって申し訳なく思った。 だって僕は、僕がどうなれば、どうしたら 何があれば幸せか、わからなくなっていた。 ] ………なにかしていないと落ち着かなくて みえるんだ、あいつが こわい こわいよ [ 洋館を抜け出すことを咎められることはなかった その理由まではきっと知らなかっただろうが。 優しくされることに違和感を覚えなくなれば 戻ったら彼のもとへ向かう事も日課になった。 時折は、錯乱したように、夜中彼を訪ね ] (114) 2022/12/14(Wed) 6:30:30 |
【人】 ][『月』 エーリク ねえ いかないで どこにもいかないで ここにいて ねえ いかないで いかないでよ [ 泣き縋る事もあった。 それも、洋館に住み始め一年も経てば ほぼなくなっていたが。 ] (115) 2022/12/14(Wed) 6:31:04 |
【人】 ][『月』 エーリク[ この洋館で、彼の姿があれば ほっとした。 ――その気持ちつける名前を 僕は知らないし、 これからもきっと知ることはないだろう。 ただ在ることを、ひたすらに、願うのみ。** ] (116) 2022/12/14(Wed) 6:31:16 |
][『月』 エーリクは、メモを貼った。 (a15) 2022/12/14(Wed) 6:33:03 |
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