148 霧の夜、惑え酒場のタランテラ
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[命もない、魔法も使えない一人の子供が、
目的を果たすためには、ここに居る他なかった。
あれから5年ほど経つ、時が経てば経つほど、
運命的な再会を果たす可能性は低くなる。
正直、焦っている。
でも僕はこの店に運よく相手が来ることを願い、
待ち続ける以外に出来ることはない。
会いたいだけなら、探しに行けばいい。
世界中を探すのは簡単な事ではないけれど、
ただここで待っているよりは、まだ希望がある。
でも厳密に言うと、会う事が目的ではない。
僕が本当に果たしたいのは―――――……。]
[僕だって気付いている。
一寸先は闇。未来はどう転ぶか分からない。
問題の先延ばしをしているだけかもしれない。
運命を変えたはいいが、より悲惨な末路を辿るかもしれない。
知ってしまったからこそ、悲劇が生まれるかもしれない。
占い自体は当たっているのに、
それを伝えることで未来の展開にずれが生じて、
占いが外れてしまったような形になるかもしれない。]
| えーと、ホタテの酒蒸しも頼んでいいかなぁ… [常に大食い、というわけではない。 けれども、食べれる時に食いだめしておく 生存本能 というのか。 ……それとも。 美味しい飲み物を特別仕立てしてくれたり、 あるいは故郷の美しい盛り付けを再現してくれたり、 そんな 心尽くしのおもてなし に甘えてしまったというのか。 エアハートの懐具合にも甘えてしまっている ] あの、お願いしまーす! [もし手の空いている店員がいたら 追加注文するのを躊躇わないだろう]* (43) 2022/05/28(Sat) 0:41:07 |
| [フィアンメッタの前にあったカクテルは >>2:114もう飲み干されていたのかどうだったか。 ──僅かに日の光を含むような海の色だった。 彼女の瞳の色に似た淡く美しい色だ。 …きっとそのカクテルにも、 おもてなし の心が込められていたのだと思う。 フィアンメッタが占い師として優秀…という声が。 >>2:46城下町での、彼女とエアハートの会話を思い出せば、 十分に裏付けられて。 その後も、セーラー服の少年の声は 所々、聞くともなく聞こえていた >>2:92] ……会いたい人がいる…… [その言葉を、小さく復唱してみる。 ……あの日別れたギョクトの生死は不明だ。 けれども、東方諸国を抜けた後、彼の加護の力が感じられない。 アタシを吹き飛ばした空間移動の力。 あんなに力を使って…… あの後、ギョクトが無事だったとは思えない。 ギョクトにもう二度と会えないのか、 僅かでも希望は残っているのか フィアンメッタなら、占えるのだろうか?] (44) 2022/05/28(Sat) 2:37:32 |
| [“不安に思っていることを打ち明けて、 助言を貰って少し前を見られるようになる。” >>2:91少年の言葉が頭の中で何度かリフレインした…… けれども、占ってもらった結果が “不都合な現実”だったとしたら? しばしの逡巡のあと、あの時心に響いたのは フィアンメッタのその後の言葉だ。 「会いたい、と強く願う事よ。 人の想いは時に人智を超えるから。」 >>2:209瞼にほんの少し涙を湛えてしまったのを、 見た者はいただろうか? ……一つの不安は された。 けれども不安は──悩みと言い換えてもいいだろうか? ──それだけではなかった]** (45) 2022/05/28(Sat) 2:44:05 |
―
回想:僕たちの船が沈んだ理由
―
[ウルティマ・トゥーレへと向かう途中に、
僕たちは救援信号を出している船を発見した。
近づいて双眼鏡を覗けば、
船の甲板にがりがりに瘦せ細って、
最早服とは言えないぼろぼろの布を纏った青年が、
膝を抱えているのが見えた。
勿論、僕たちは救助に向かった。
父さんをはじめとした乗組員たちが船を移り、
青年に気をとられている隙に、
僕たちの船に待機していた賊が侵入した。]
[初めに人質に取られたのは、僕より幼い乗客の少女。
そして少女を盾にして、人質は増えていった。
当然、僕もその中に含まれた。
「私たちはどうなってもいい。
どうか乗客の命だけは助けて欲しい」
最後まで懇願する父を無視して、
下卑た笑みを浮かべながら、父の首を撥ねる光景を、
僕の瞳はしっかりと映した。
それを皮切りに、大人の男性は乗組員・乗客を問わず、
一人残らず命を刈られた。
僕はもうこの時点で、
後生だからいっそ今すぐ僕も殺して欲しいと思ったよ。
けれど、地獄の宴は終わらなかった。]
[次に狙われたのは女性。
「クルーの皆さんが噂しているのを聞いたの。
貴方がとってもお料理上手だって。
プロのお料理も良いけれど、
貴方の作った料理も食べてみたいわ」
どこかで僕の境遇を知って、
優しく接してくれた乗客の奥さんが……。
「私は途中で下船して、恋人の元へ行くの。
二人暮らしが安定したら、結婚するわ。
ハネムーンで、再会できると良いわね」
幸せを約束されていた筈の、乗客のお姉さんが……。]
[他にも船に乗っていた花は一輪残らず、
海賊どもに踏み荒らされた。
奴らが何をしたのか、子供には分からない。
彼女たちが何をされたのか、子供には分からない。
でも、死んだ方がマシな事をされているだろうことは、
分かってしまった……。]
[こんな所に最高にイイ女など居ようものなら、
どんな酷い目に遭ったことか、子供の僕にも知れたこと。
既にこの世に存在しないものを盗むことは出来ない。
だから僕は心の底から、
母さんが生きていなくて良かったなどと、
罰当たりなこと思ったんだ。]
[希望と愛を乗せていた船から、
幸福は残らず奪われた。
最後に僕たちの船は油を撒かれて火をつけられ、
夕日みたいに沈んでいった。
僕たち女子供は、そのまま海賊のアジトへ拉致された。
最早暴れて抵抗する元気を持つ者も、
泣き叫ぶ元気のある者もいなかった。
アジトには他にも何処かで僕たちのように
拉致されてきたのであろう、
女性や子供たちが沢山いた。]
[そして今度は、僕たちを奴隷として売るために、
船で奴隷市場のある場所へと移動する。
不衛生な船室には、絶望に塗れた子供たちが、
ぎゅうぎゅうに犇めき合っていた。
一日に一度、魚に餌をやるように、
パンくずが僕たちの押し込められた
船室にばら撒かれる。
それをわれ先にと、奪い合いながら貪った。
最早、人としてまともに生きているとは、
到底言えない有様だった。]
[いつしか狭い船室内で、しきりに咳をする子供が出てきた。
人数はどんどん増えていき、死者も出始める。
海賊は子供がこと切れているのを確認すると、
面倒くさそうに船室の外へ運んでいった。
まともに葬ってくれるような連中じゃない。
船外へと子供たちの屍は投げ捨てられていたのだろう。
当然医者が診ることなどありえないから、
これは僕の推測だけれど、
あれは恐らく肺結核だったのだと思う。
生きているだけで満身創痍な子供たちに、
病は翼を開く様に軽やかに蔓延した。
当然僕も、同じ病気を患った。]
[高熱に、止まらない咳、血痰……。
最初はすし詰めだった船室内に、
ぽつりぽつりと穴が開いていく。
「助けて」と、声にならない叫びをあげた時、
僕の瞳が捉えたのは、幸せだったころの幻。
助けて欲しいのは、皆の方だったと思う。
僕は今の今まで、のうのうと生きてしまった。]
[高熱で痛む節々に無理をさせ伸ばした手は、
何も掴むことなく沈んでいった。
を叶えることもできず、
を守ることもできず、
に一矢報いることもできなかった。
悪寒で震える体に、熱に浮かされ燃える憎悪。]
[その最期は、さながら沈んでいった僕達の船の様だった。**]
| ──霧の夜:『MiraggiO』店内〜扉付近── [ ──「何故、この酒場に来たのか?」 >>2:38そういえば少し前に、その問いには何て応えたっけ? ──美味しい海鮮料理が出る!って聞いたから。 多分、そんな感じで応えた。 酒場の各テーブルから漏れ聞こえてくる“人”の声を拾えば ゴーストの存在に一番懐疑的だったのは 自分だったのではないかと思う。 それでも、仮にも招かれるに足る要因はあったはず……。 ──「ここには“いいゴースト”しかいない” >>36少年の唇から発せられた“ゴースト”という言葉には 何か暖かいニュアンスが混じっているように感じられた] 強く、願えば、会えるのかな。 生きていても、死んでいても。 例えゴーストになっていたとしても。 [そう、呟く] (59) 2022/05/28(Sat) 15:02:58 |
| [……ふと、風にあたりたくなって、席を立った。 出口の扉に近づく。 今日という日でなくても。 例えば100年後の来世でも、もし…… 扉に手をかけた時 少し前に聞こえたターバンの男性の話を思い出した。 ターバンの男性にも、ゴーストの友人がいるのだという話だ >>1:234でも、「顔は焼けただれて」…… >>1:234もしあの美しい顔が焼け爛れていたら。 アタシは子供の頃と同様に 迷いなくギョクトの腕に飛び込めるのだろうか?] (67) 2022/05/28(Sat) 15:08:39 |
| [僅かの逡巡の後、思い切って扉を開ける]
──……………っ。
[密度を増した濃い霧が、立ち込めるばかり]**
(68) 2022/05/28(Sat) 15:09:30 |
| [全てを覆いつくすような霧。 それは怖い? いや、どこか優しかった。 先を見通すほどに濃く深く しろねず色 から に近くなってゆく。 ……ギョクトの真名は 真白。 一度は堪えた涙だった。 でも今、はたりと。 涙が一粒零れた。 と、その時。 背後から声がかかったのだ] 「帰りたいと思うか? 今でも、その場所に」 >>70[……アタシが後ろを取られるなんて。 さすが、神出鬼没のゴーストだね?] (82) 2022/05/28(Sat) 21:12:00 |
| 「恋しいのなら 確かめに行ったら良い」 [ ……うん、恋しいよ。 でもね、私は東へ征けなかった。 いつもアタシは逃げていた。 追いかけて来るんだ。 『抜け忍』は許されないこと。 アタシの頭の中の情報がアタシを殺す] 「同じ道にはもう戻れない 同じ場所には帰れない だからこそ前に一歩踏み出せ」 >>71 [ゴーストのお兄さんの言葉は続く。 扉の外を向いたままの、肩が震える] (83) 2022/05/28(Sat) 21:17:13 |
| [だっておかしいよね? ……まさかゴーストに 生きるための背中を押されるなんて] お兄さん、やっぱり貴方は “いいゴースト” だね。 ねえ、お兄さん。良ければ貴方の名前を教えて? ……貴方のことを覚えていたい。 ── 今日の出逢いを覚えていたい。 この地で旅が終わっても、終わらなくても。 [──しまった。 人に名前を聞くには、まず自分から名乗らなければ] (84) 2022/05/28(Sat) 21:18:34 |
| アタシはキンウ。 でも、それはこっちでいうミドルネームみたいなもので。 ファーストネームはね、“陽葵”
[振り向いた顔には、もう涙の痕はない。 それから、こころもち顔をあげて]*
(85) 2022/05/28(Sat) 21:20:30 |
| [それからしばらくして、アタシは化粧室へと向かった。 鏡の前で、パン、と両の頬を叩く] あーーーー、勢いで真名を明かしちゃったなぁ。 >>85 腹を割って話そう、どころか、 犬が腹を見せるようなことをやってしまった…… ……だって、優しいんだもの。 [真名を呼ばれると魔に引き込まれるという言い伝え。 >>0:189ギョクトもアタシを飛ばした時は真名を呼んだ >>0:478ダイジョウブダヨネ?ミンナ、イイゴーストサンダヨネ? 言い伝えは日輪の国独自のものかもしれないし。 そもそもあの時、ギョクトが真名を呼んだのだって 咄嗟だったからかもしれないし…] でも、フィアンメッタには言わなくちゃ。 友達になりたいんだもの。 [そんな風に独り言を言っていた所に もしもフィアンメッタが来合わせたなら 真っ赤になってしまったかもしれないね? とにもかくにも、その後アタシはテーブル席に戻った]** (88) 2022/05/28(Sat) 23:39:18 |
私が行動を起こして、もし未来が変わっていたならば
セシリーが、生きている未来があるならば。
一つの国が混乱に陥っていたかもしれない。
二人が幸せになる未来
が招くのは
大勢が不幸になる未来
。
私は、選んでしまったの。
未来を変えないことを。
セシリーが殺されたと聞かされた時
私は涙を
流さなかった。
流せなかった。
絶望に心が麻痺したから、とかならよかったのに。
どこか、受け入れてしまった私のせいで
私は泣けなかったの。
セシリーはもういない。
何処にも、いない。
目をそむけたくなるほどの
残酷な現実。
涙ひとつ見せず。
その時、教えてくれた兵士に向かって
微かに
笑
いさえした私は、
間違っても妹になんて見えなかっただろう。
泣いたのは夢の中でだけ。
[生きている間に、終ぞ叶えることが出来なかった。
―――
復讐
を果たすことが出来る。]
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