45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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へんな話してごめん、
……また仕事終わってからくるから
[きびすを返した顔は
傍目からも赤くなっているのがわかるだろう。
そのまま出て行こうとして、
ドアの押し引きを間違えて顔をぶつけてた**]
[言葉どおり
全部見せてくれようとしていたのだと
期待してしまう自分も居る。
けれども、油断させるためという線を
どうしても消せないのは
(………きっと、これのせいだ、)
チャリ、…
外したチェーンを持ち上げる。
こんなモノでは
貴方の体は繋げても
心まで縛ることは出来ない。]
[椅子の上にまっすぐ伸ばした
白さと長さが際立つ脚を
ぬくもりが移るくらいのゆっくりとした速度で
惜しむように撫で上げて
それから、レースの上を
へその窪みを
紅の模様を崩してしまわないように
避けながら胸を遡り
俺にはある喉の突起を
探るように首を滑らせてから
最後にまた、頬をふたつの掌で包み込んだ。]
[眠り姫に口づけて起こす絵本など
見たことも読んだことも
まるで無いまま、虫に狂って育った男は]
ずっと…、居て、 俺と
[不器用に望んでから
下着とお揃いのレースの手袋を切なく見つめつつ
残った2本の鎖も外して
ただ、静かに
その目が開いて
また自分を見つめてくれるまで、待った。]
――……、……
はぁ
[目蓋を持ち上げ、真っ先にしたことは
まだそこに居てくれた彼を二つの瞳で捕まえて
安堵の吐息を漏らすこと。
それから、穏やかに微笑いかけ]
……!
[手が自然に彼に伸びて気づく。
枷はそのままだが、鎖が外されている。
彼が外してくれたのだ。
……、信用してくれたのだろうか。
手袋を外し、引き締めた腹の上に置くと
改めて彼へと生身の手を伸ばす。]
[拒まれなければ片手を頬に添え
親指が輪郭を撫ぜるだろう。
生きたひとは温かい……、なんて
当たり前なことを識りながら。]
……ずっと一緒、だよ
治人が手放さない限り、ね
[聴いたのは果たして夢か現か。
判らないけれど、何度口にしても良いと思う。
信じて貰えるその日が来るまで――、
来た後も、貴方の隣で命在る限り、何度でも。]
[それから、
話すことが許される雰囲気なら
ひとつ願い出るだろう。]
仕上げて貰う前に
逢わせたいひとがいるんだ
ここを出られたら……
僕の家に、来てくれる?
[勿論、海外である。
明日にも……、という訳にはいかない。
都合を訊き、数日の後に招待することになるが
貴方はそれを許してくれるかな。**]
[眠っている間に施された処置は目覚めた時に説明されただろうが、傍で寄り添ってくれていた彼女の事をわざわざ教えてくれる様な人は居なかったか。
侍女の意味ありげな言葉も聞こえてはいたが、
そこから思い至れる迄はいかなかった。
それより、彼女が生きてそこにいる事に感謝したものだし。
扉を開けて入って来た彼女の顔は
嬉しそうというより、心配そうだった。
手の痛みから、己はただ疲れて眠った訳ではないと理解していたし、そりゃそんな顔になるんだろうけれど。
豪華なドレス姿でない事にはちょっと疑問が浮かんだが、口にする事はなく。
医者の話を一緒に聞けば、彼女の方が怪我人の様な顔になった。
それでも椅子に座って、隣にいてくれた]
そっか。
よかった。
[謝られたけど小さく首を振って、
彼女が大事なくて、今も安全を守られているとわかれば、医者に言った「そっか」とは違い、ほっとした様に笑う。
ほぅ、と強張っていた身体がひとつ、解ける気持ちだった。
「怖かった」「心配だった」とも言われたし、
涙を拭う様な仕草も見られたけど、
「ごめん」と返すとまた彼女を気に病ませそうだったから、微笑んだままでいた]
ぁはは、
ご配慮痛み入ります。
[勲章の話では、
そもそも誓いの儀なんてあるのかと苦笑もした。
「騎士さま」と呼ばれれば、はにかみからもう少し頬が染まる様な笑みになった。
色んな感情に振り回されるが、
日常の匂いに近付いて、悪くない]
騎士、ね……
くすぐったいですね。
[「義手の先生」と言われて、ちらりと義手を見遣る。
ちょっとくっつけるだけの前回と違って、直るんだろうかと疑問に思うが、ひとまず彼女の前で考え過ぎるのは止めようと思った。
彼女の持って来てくれたバラに礼を言って、
「また明日」と言ってくれる彼女に、
いつも通りのリフルの顔で頷いた。
彼女が静かに扉を閉めた後、
しばらく扉を見つめて、それから花瓶のバラを見つめた]
[この花の様に、ただ人の心を和ませられる存在であればどんなに楽であるだろう。
義手の繋ぎ目がかゆくなる迄眺めてから、
ゆっくりと枕へ頭を預けた。
掻けない、辛い。唇や舌をぎゅ〜〜と噛んで耐えた。
痒みを押さえ付ける痛みに、
バラにも棘があんじゃん、傷付ける事もあるじゃん、と気付いて目を伏せた。
思い出したくない事を思い出しそうで、
無理矢理眠った。
己がなるのは花でも駄目だ]
[それから何も変わらないまま数日が過ぎた。
否、変わらないのは両手の状況だけで、
他の痛いところは目に見えて回復していった。
うなされる様な悪夢だって、時間が少しずつ薄れさせてくれた。
傷跡が薄くなるとシャーリエも気付いて喜んでくれたろうし、
暗い表情を隠せない事が少なくなれば、
それも彼女の心を軽く出来ただろうか。
彼女の方も、
自分自身の問題を超えていった様な、
少しさっぱりとした様な、穏やかな顔をしていた。]
あぁ……
まぁ、気分は良くなったよ、大分。
[両手は未だ動かせないものだから元気とは言い難かったが、気持ちは日差しがさしてきたものだから、正直にそう答えた。
花の水を取り替えるなんて侍女がやる様な事をする彼女は何度見ても慣れないが、居心地の悪い光景ではない。
彼女がこっちを窺ったなんて気付かず、
目が合ったと思ったから、「ありがとう」と笑った]
[日常会話もこなせる様になって、
徐々に自分から会話も振る様になっていた。
「ユージーンって元気?全然顔見せに来ねぇ」とか、
(彼は血とか痛そうな事が苦手らしい)
最近出されたデザートが美味しかったとか、
そんな当たり障りのない話題だったけれど。
そうやって徐々に日常を取り戻していたからか、
彼女の話を落ち着いて聞けた]
そっか。
まぁ、お嬢様なりの、
お嬢様が考えた支え方で
良いんじゃないか?
[応援する、と見つめたまなざしで頷いた。
王子と婚姻を結ぶ以上に効率的な方法があるのだろうかとか、
難しい事はわからないが、
彼女は心優しく、又賢い人だ。
きっと国をよい方向に導くだろうと信じられるから、
彼女の味方であろうと思った]
……いいや。
待ってます。
……気を付けて。
[謝る彼女
に首を振って、
顔が赤いのも気付いて、移りそうになって、
顔を伏せようとしたけれど、
出て行こうとした彼女が扉にゴツンしていたから
思わずそんな言葉を投げた。
彼女がいなくなって一人の部屋で、
これ迄考えていた事を、また一人考えた。
ちょっと深みにはまって、
彼女が数時間後訪れた時は、うっかり寝てしまっていた。
ノックの音で起きるだろう]
お疲れさん、お嬢様。
[そう迎える顔は、いつも通り。
お疲れだろうから、と、すぐに先程の続きへ話を持って行った]
ありがとう、お嬢様。
オレもあんたの事を大事に思ってる。
いつ死んでも良いって思ってたけど、
あんたを守って死ぬなら
それってスゲェいいなと思ったし。
あんたの為なら人も殺せた。
これからもきっと、
同じ様に身を投げ出せると思う。
でも、きっと
あんたが言う「大事な1人」は
オレの言ってるのとは違うんだろ?
[先ほど口付けを受けた右手は布団の上に出していて、
彼女から視線を逸らせばすぐに目に入った。
そこへしばらく縫い留められてから、
もう一度彼女へ視線を戻す。小さく息を吸った]
オレは旅人なんかじゃない。
貴族も平民も屠ってきた 盗賊なんだ。
[生まれながらにそうだった事、
犯罪に役立てる為に義手をつけられた事、
沢山の人を苦しめた事、
仲間内で揉めてあの庭に辿り着いた事を話した。
シャーリエという女性は本当に見た事がない事と、
本当は盗賊業は嫌だった事、
この屋敷で真っ当に働けて嬉しかった事も話した]
……盗賊だからあんたの気持ちを
受け入れられないって話じゃねぇ。
オレは あんたを想っているし、
もう役には立てないかもしれねぇけど、
騎士でありたいと思うよ。
オレにはこれが最上の気持ちなんだが、
……あんたには「そこどまり?」
ってなるのかもしんねぇな……
……なぁ。
オレが盗賊だったから、なんだが、
やっぱりオレがこの国から出たいって言ったら、
あんたは止めるか?
[ 「戻って来る」
そう萌黄の瞳には意志を湛えるが、口にはしないまま。
これ迄の話で軽蔑されようと、
彼女へ向ける顔は、いつも通りだった。*]
[彼が起きて、話をして
部屋に帰って、ベッドに戻って。
安心したのと悔しいので
顔がぐちゃぐちゃになるまで泣いた。
この部屋から居なくなったバラのように、
ただ見守ることなんてできそうにない。
恐ろしいいばらになって、
リフルを傷つけて絡め取ってしまいたい。
そんなことを思った自分にまた泣いた。
だめだ、しっかりしないと。
お姉さまがいない今、私が姉なんだから。
枕をきつく抱いて腕が痛くなるまで、私を励ました。
いつの間にか泣き疲れて眠りに落ちた。]
[リフルの部屋になってしまった病室では、
友人の話やデザートの話、
白いリコリスが咲いた話、昨晩は寒かった話……と
庭のお茶会が戻ってきたようで、小さな勇気をもらえた。
バラ越しに彼の笑顔を見て、
やっぱり綺麗な人だなって胸がおかしくなった。
不快なものではなかったので、照れくさく笑い返した。
――その翌日、お父様に縁談をお断りすると告げたんだ。]
[笑ってくれるから手を取った。
胸の高鳴りは1人ではどうしようも無かったんだもの。
また庭であなたとお茶したかった。
王子様よりも私の心に入り込んできたのはリフルだったんだもの]
[仕事終わりに帰ってきた部屋で、
まだベッドから降りないリフルに迎えられた
。
このまま動けなくなるなら、いっそ都合がいい。
私のために傷を負ったのだもの、私が看てなにがおかしいの。
彼に守られた私と彼の世話を焼く私で、お似合いじゃない……。
笑顔の下に何もかも隠して、お断りを甘んじて受け入れた。
私のために死んで欲しくない。
そう口にしようとして、爆弾をねじ込まれた。]
[リフルが賊だったことも、罪を犯したことも、
義手の役割も大人しく聞いた。
きっと消化し切れてなんかいない。
彼が帰るところを持っていないことだけ理解して頷いた。
庭に倒れていた理由も、お姉さまを知らないことも聞いて、
ここの暮らしが嬉しかったと言われて目頭を拭った。
「あんたを想っている」「騎士でありたいと思う」
荒っぽい2人のときの言葉で綴ってくれるのが嬉しいのに、
喉に詰まった声は涙になって出てこようとする。
……だって、私たち釣り合わないって言われてるんでしょう?
だから出て行くって言うんでしょう?
他の可能性なんて考えられないくらいに、
楽天的な私を打ち砕かれた。
行かないでってすがりたかった。
私もいくって全部捨ててしまいたかったけど、
それには私の負ったものは重すぎた。
領民もお父様も臣下も捨てた私は、
彼に並び立つこともない大罪人になる。
……結局、リフルと同じにはなれないんだ]
……私を守って死ぬような騎士ならいりません。
騎士なら私の居ないところで死なないでください。
必要なら手の修理してからにしてください。
[鼻声にならないように、背筋を伸ばして彼を見る。
まっすぐにこちらを射抜く萌黄色に、
ちゃんとしなくちゃと碧の視線を向けた。]
ショックはショックですよ、
私も盗賊だったらリフルに付いていけたのかしら
なんて考えるくらいには。
…………。
お姉さまにはあなたが望むようにって言われるんです。
お父様にも、お前が決めなさいって言われたんです。
私もそうなりたかったから務めを果たします。
あなたがどこに居ようと、私たちの感謝は変わりません。
お気をつけて。私の騎士さま。
助けてくれてありがとう。
ここに来てくれてありがとう……
お元気で、になるのかな
……また、ね
[また明日もふつうの顔で現れたいし、
見送りの場にもなんとか出て行くつもりだけど、
今は1人になりたい。
彼にだけは泣いてるところを見せないようにしたいって、
ピアノの部屋に逃げ込んだ**]
[暫く球体の手入れをしていた少年は、
思う所があったのか、また顔を上げる。
手元に自ら球体を作りながら、彼に視線を向けた。]
本来は、貴方の意思を尊重するのが、
俺の意志でもあるのですが。
ここは俺の夢の様な世界ですし、
好きな夢を作り出してもいいでしょうかね。
[独りごちるように言って、一度更に上を見上げ。
僅かに微笑んでから、
柔らかそうな球体を先程と同じように押す。]
月明かりのもとで気付くのは随分と時間がかかりそうですから。
…起きた時に忘れるかは、貴方の自由です。
[1つ対処法を告げて。
作られた球体が当たると、選択肢は浮かばずに、
彼の視界を染めていく。]
[そうして気付けば砂埃の舞った地に戻っていただろう。
彼の様子がどうであれ、何処か満足気に、
少年は手入れを再開していた。]*
──鈍色の球体6──
[乳児を少し抜け出したくらいの小さな子供が、
黒髪の男の前でこてんと頭を傾けた。]
あきらは、あきらっていうです?
[なんで?どうして?と目につくもの全部に興味を持つ頃。
そんな子供が今日気になったのはよく言われる名前。]
“ああ、秋生まれの良い子で、秋良だ。”
あき?よいこ?
“何時も食べてる黄色いのが美味しい時期だよ。”
あれがあきです?
“あれは栗だな。”
あきらはくりら?
“秋良は秋良だ。
良い子はこの本に出てくるような子だな。
人々の色んなお手伝いをしてるんだ。ん…”
[男はポケットからの電子音に気付くと、
動物達や家族の手伝いをする絵本を指差し幼児に読ませ。
自分は携帯を取り出しメッセージを読み始めた。]
[男はほんの少しの空いた時間を幼児に当てたものの、
継いだばかりの会社は多忙を極めていた。
何時呼び出されてもおかしくはない。
すぐに仕事場にとんぼ返りする事になれば、
家に戻ってきたのは失敗だったかと男は息を吐き。]
“良い子にしてるんだぞ、秋良。”
はーい
[絵本の真似をした幼児の返事を受けながら、
男は家の者に教育を受けている妻に会う事もなく、
屋敷を後にした。
誰も覚えていない、
まだ物心がつく前の話。]*
[彼女が一人泣いた日がある事も知らず、己の思う淑女からは想像できない様な気持ちを持った事も知らず、
彼女が見舞いに来てくれる事を、
ただ毎日喜んだ己は浅はかだっただろうか。
彼女が生きて過ごしている事に、小さな幸せを見ていたんだ。
同じ気持ちならよかったと、
思うのはお互い様だろうか]
──………
[生に執着しない己に、
彼女の言葉は生きる理由をくれた。
普段ならハイハイと聞き流していたかもしれない。
けれど、いじらしくも凛とした姿で告げる言葉にこの身は内で反応を示した。
静かで穏やかでありながら己の胸を深く刺して、溶けて、時間をかけて同化していく言葉だった]
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