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【人】 闇崎 宵稚― 序 ― [安物の軽自動車でも、窓を開けていれば 潮の匂いを感じるのは然程難しくない。 茹る暑さは都会よりマシだし、ある程度風に流され ドライブするには最高の夏と言えよう。 けれど今の俺にとって。 夏なんて、季節なんて、どうでもよかった。 この時期に帰ってきたのは偶然だった。 耿耿と反射する海の光の粒と、 ラジオのノイズが呼応して、パーソナリティは俺の気分とは裏腹に陽気な声で次のナンバーを紹介する。] (3) 2022/08/15(Mon) 0:44:59 |
【人】 闇崎 宵稚『――それでは本日ラストナンバー! 今年の夏のミュージックランキング第一位!』 [ラジオから流れる音楽に興味がないわけではない。 爽快なトランペットとギターがメインのポップス。 歌うのはデビューしたての若手アイドルグループ。 突発的な人気を掻っ攫うには十分なヒットチャート。 青く爽やかな歌声が右耳から左耳へ筒抜ける心地は、 今の俺にとっては寧ろ不快感に近い。 故郷の潮の匂いだけが、感情を誤魔化している。 曲が終わり、パーソナリティがトークに入る。 その言葉を遮るようにして、俺はラジオのスイッチを 切り、以降ただ黙ってハンドルを握っていた。] (4) 2022/08/15(Mon) 0:45:38 |
【人】 闇崎 宵稚「…………」 [途端に静まり返った車内には、 窓から通り抜ける風の音が小さく響いている。 車の速度を少しだけ緩める。 波の音が聴きたかった。 ] (5) 2022/08/15(Mon) 0:47:17 |
【人】 闇崎 宵稚「…………」 [すぐ物足りなくなって、速度はさらに遅くなって。 安い駐車場を見つけては、適当に停める。 村の中でも都市部に近いこの海浜公園は、 殆ど入り口で、村の中とは言い難い。 都合のいい観光地――海水浴場だった。 今なら叔父叔母に連絡する事は可能だろうか。 あの人達に会うだけなら。 僅かに、憧れる未来を想像して携帯を取り出す。] [……でも、 万一、復縁でもしていたらどうしようか。 会わせる顔が無いのは自分の方だ。] (6) 2022/08/15(Mon) 0:50:43 |
【人】 闇崎 宵稚「………………いや、」 [そんな事、あるはず無いか。 心の中の否定が声に漏れ、目を伏せる。 携帯を雑にポケットに突っ込んで、 軽く荷物を纏めて車を降りて、愛用のサンダルに履き替えた。 砂浜を歩くなら此方の方が楽で良い。] * (7) 2022/08/15(Mon) 0:51:51 |
【人】 闇崎 宵稚[少し歩けば、寂れた防波堤が見える。 漁師の船は既に仕事を終えて静かに並んでいた。 普段なら閑古鳥の鳴く干物屋に、珍しく客がいる。 地元の人間じゃないと直ぐに理解出来たのは、 若い真っ白いワンピースの女と、 これまた若く派手な茶髪の男だったから。 あんな奴ら、興味本位か冷やかし以外で 田舎の干物屋なんかに来るものかと、内心呆れた。 旅先の旅館で食べた刺身が美味しくて、つい 干物を土産にと思う気持ちは理解出来なくもないが。 この地元が嫌いというわけではない。 寧ろ、それなりに愛していると自負している。 だからこそ正直に言って、 海鳴はつまらない田舎村だと断言できる。 >>n3 唯一誇れる神社も、鳥居を見れば それ以外に珍しいものがあるかと言われれば、無い。 つまり、あのカップルの目的といえば さしずめ浅い縁結びの噂を聞きつけたのだろう。] (8) 2022/08/15(Mon) 0:53:59 |
【人】 闇崎 宵稚[…あのカップルが、この辺を歩くのに、お守りと 干物購入だけで用事を済ませるとは思えない。 緩慢な動きで空を見上げる。 害とすら思える陽光に目を細め、項垂れる電線に 明かりのない紅白の提灯が道に連なっている。 それをみて、ようやく合点がいった。] (10) 2022/08/15(Mon) 0:55:18 |
【人】 闇崎 宵稚 ………、……。 [元気でやってるのかな。 海を凝望しそんな思考に行き着く。 叔父叔母より、両親より、顔が見たいと望むのが、 アイツになることは、もはや自然とさえ思えた。 ポケットにしまっていた携帯を取り出して、 メッセージの電話帳を下へ、下へとスクロールする。 もはや思い出せない人物達の間に、 鮮明に思い出せる人物の名前を見つけては。 不格好に文字を入力、しようとして。 ……何を、今更と。 再び躊躇ってしまうけれど。] (13) 2022/08/15(Mon) 1:00:19 |
【人】 闇崎 宵稚(……大丈夫) (大丈夫、だよな?) [あんなに話した筈の幼馴染に、親友に、 妙に緊張する意味が、自分の中で噛み砕けずにいて。 ――否、客観的に見ればそれも当然といえば当然だ。 このメッセージどころか、高校卒業以来、 それこそ縁が切れたかの如く顔を会わせていなかった。 唐突に声をかける不安だけで心境を上塗りし、 勢い任せに数件メッセージを送っていた。] (14) 2022/08/15(Mon) 1:03:45 |
【人】 闇崎 宵稚[…なんて当たり障りない言葉なんだろうか。 俺が著名人なら詐欺を疑われてもいいレベルだ。 しかも、言葉が続かず。 ──反応も怖くて。 それ以上送る事ができなくなっていた。 こんなに俺は言葉のでない奴だったっけか。 学生時代は、もう少しまともに振る舞えてたと。 ……そうであったと、自負していたのだけれど、 その記憶すら、曖昧になっている気がした。] (16) 2022/08/15(Mon) 1:06:52 |
【人】 闇崎 宵稚(……返事が、なかったら、) (それは、それで。…・・いいか) [今日一日、空虚を抱いて過ごすつもりだった。 予定通りに、事が進むだけだ。 何もなかった、メッセージなんて送ってなかった。 ただただ、旅路の果てに故郷に戻ってきただけ。 自身の胸中を騙して、過ごせれば良い。] (17) 2022/08/15(Mon) 1:07:31 |
【人】 闇崎 宵稚[数度、自分に思い聞かせて、車に戻る。 もう少しだけ、村の見知った方に近づくべく、 再び無音のまま、緩やかな速度で走り始めた。]** (18) 2022/08/15(Mon) 1:08:49 |
闇崎 宵稚は、メモを貼った。 (a0) 2022/08/15(Mon) 1:11:32 |
【人】 闇崎 宵稚……海音、運動部と文化部、どっち入る? …俺、決められなくて。……海音と、一緒がいい。 [小学生や中学生の時、 自我が弱くなって度々そんな風に問うて、 もしかしたら困らせていたかもしれない。 心の内を比較的明かせたのは、両親と"アイツ"だった。 なんとか、アイツの背中を追って人並みの成長をした。 在り来りに歪が生じたのは、高校の時だった。] (20) 2022/08/15(Mon) 8:31:07 |
【人】 闇崎 宵稚 ……軽音同好会… [高校一年、部員募集の広告で埋まった掲示板をじっとみる。 聞けばソコは先輩達が引退して、部員数が足りなくなり、 顧問も寿退社で離れたとかで、軽音部というには静かだった。 けれど、先輩たちの残した楽器たちだけが、 倉庫にひっそり残っていて。 先生や残っていた人間に、触ってもいいかと訪ねて。 ホコリを被っていたひとつにふれた。 学生が扱ったに相応しい安っぽいアコースティックギター。 弦の爪弾き方も、譜面の読み方も知らなかったけれど、 幼少期に感じた高揚感が体の奥底から湧き上がって、 テストの成績も運動能力も少し衰えたけど、 関係なく、音楽というものに没頭した。] (21) 2022/08/15(Mon) 8:32:06 |
【人】 闇崎 宵稚[俺は好きなものを『音楽』と言えるようになって。 元々友として慕っていた"アイツ"に、共有したかった。] なあ海音、あの…笑わないで、聞いて、くれるか。 ……曲、作ったんだ。作ってみたんだ。 歌って……みても、いい? [ほんの少し前向きになって。 アイツの目を昔より見れるようになって。 気持ちを、歌に乗せるという手段を思いついてからは、 できた稚拙な曲を、聞かせた、聞いてもらった。 たくさん、たくさん。 どの曲だって、一番に聞かせたのは、お前だけなんだ。 ヘタと思われてもよかった。でも、上手いと言わせるまで、 何度だって曲を作り直して、披露した。] (22) 2022/08/15(Mon) 8:32:48 |
【人】 闇崎 宵稚["アイツ"は、どんな目で俺を見ていたんだろう。 後ろからついてくるばかりの俺の事を 『変わった』と思ったのだろうか。 『昔の姿に戻った』と思っていたのだろうか。 ──それとも、気が触れたとでも思われていたのか。 当時の俺には、わからなかった。 俺の言葉の何が琴線に触れてしまったんだろう。 …卒業式の日、どうして、アイツは──] ** (24) 2022/08/15(Mon) 8:36:43 |
【人】 闇崎 宵稚[流れるのはサブスクリプションで聞けるR&B。 女性の落ち着いたボーカルは、景色に全く合わない。 畑道にも提灯が並んでいて。 村全体でお祭りを感じる雰囲気になっていた。 商店街の方に迎えば、もっと活気づいて、 前夜祭セールみたいなものがやっていたりした。 今もそうなのだろうか。 シャッター街化していなければいいのだけれど。 歩く道なりの景色自体はさほど変わってなくて、 五年もすれば一件くらい建っていそうかと期待した コンビニすらもないものだから。 思い出が色褪せないのと同時に――、 ]鮮明に、思い出されていく。 暑さによる蜃気楼か、潮風に運ばれたのか。 はしゃぐ子供が鬼ごっこをしている気がした。 逃げ回る子供は、"アイツ"に似ていて―― (45) 2022/08/15(Mon) 14:09:40 |
【人】 闇崎 宵稚[幻覚から目を覚まされるような、 『ポコ』と、ある種聞き慣れた通知音。 不意に肩を叩かれるような心地に肩を跳ねさせる。 イヤホンをしているとコレが少し厄介だ。 …そして現代人らしく、何も考えずに通知を見る。 先程、自分が何をしたのかも曖昧のまま。 もう少し、考えて見るべきだった。 その宛名に ヒュ、 と息が詰まる。喉元に詰まるのは期待、ではなく、恐怖だった。 明確に、『何』を言われるのか、怖かったのだ。] (46) 2022/08/15(Mon) 14:10:15 |
【人】 闇崎 宵稚[畑の電柱にもたれかかり、震える親指で操作する。 揺れる瞳孔で、文面を読んでいる間の俺は、 果たして、うまく呼吸が出来ていただろうか。 汗を拭うのも忘れ、画面に一雫滴ったあと。 その内容に。恐怖の中に、安堵が混ざる。 それと同時に湧いたのは、僅かな疑心だった。] (47) 2022/08/15(Mon) 14:10:35 |
【人】 闇崎 宵稚 ………かい、と、 [曰く、あの時から変わっていないという気持ちが、 その言葉に、乗っているというのなら…。 グルグル、ジクジクと、疑心が痛みに変わる。 顔が見えないお前が怖くて堪らないのに、 縋る相手も、もはや、お前しかいなかった。 つい、震える声に、お前の名前が乗る。] (49) 2022/08/15(Mon) 14:11:23 |
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