73 【誰歓突発RP】私設圖書館 うつぎ 其漆【R18】
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[ぐるり、思考を巡らせたそのとき。
続いた言葉に、瞬きを、ふたつ。
ふ、と短く息を吐いて。]
後悔はしないの。私。今もしてない。
そのチケットが受け取ってもらえなくても
後悔はしない。少し早かったなって
思ってるだけだから。
───自分の気持ちに素直になって、
江戸川さんが好きだとおもったから。
あなたに照らしてもらえなくたって
私は自分の人生を明るくできるし、
暗くするつもりはない。
自信なくてもいいの。
…江戸川さん自身の気持ちが聞きたいって、
先週そう言ったでしょ。
[と微笑みかけ、カップをソーサーに置いた。]
[お嬢さんの真っ直ぐな目に
俺はまた口を噤む。
俺の素直な気持ちを口にしたら
彼女はどう思うだろう。
声に出そうとして、口を開いて
また閉じる。
お嬢さんが早いんじゃない。
俺の勇気が足りてないだけ。
俺自身が幸せになるための勇気が。]
[もしお嬢さんが少し怪訝な顔をするならば]
せっかくの『デート』なんだろ?
[なんて煙に巻く。
彼女の都合が着く日があったなら
その日は店は臨時休業。
そして、もし当日店にお嬢さんが来てくれたなら
店の前でヘルメットをふたつ持った俺が
ハーレイに跨ってお出迎え。
白馬のご用意は出来ない代わりに
俺の愛車でドライブしようか。]
…………お嬢さん、じゃ
せっかくのデートに味気ねェな?
[江戸川さん、もどうなんだろう。
一日、俺が素直になれるための時間があるなら
一歩歩み寄るのは許されるのだろうか。]
江戸川さん、じゃ他人行儀かね。
今日は颯介でいい。
[俺はお嬢さんをなんとお呼びしたらいいかな。
フルフェイスの奥から、小さな声で問い掛ける。]*
[わたしね、待つのは嫌いじゃないの。
でも、忘れられてしまうのは嫌。
待ってる間もきっと、私のことずっと
考えていてくれるならそれがいい。
だからね、何度だって伝えるのよ。
あなたが好き。私のことを好きになって。
いつになったって構わない。
どうしても無理ならそういって。
だけど、少しでも希望があるなら
いつまでだって待てる。]
わたしの幸せは私が決めるし
わたしの道は私が照らすから
あなたが幸せだと思うものを選んでほしい。
私を幸せにするんじゃなくて
あなたと幸せになりたいんだって。
[いつもなら自分の好きな服を着て、
自分の好きなメイクをして、髪型をする。
それでよかったはずなのに、どうしてだろう。
今日だけは、彼のことばかり考える。
はじめてのデートだ。かわいいって思って欲しくて
美術館に行くのだし、と、腰回りがタイトになった
黒のオープンショルダーワンピースにした。
スカート部分はAラインになっている。
いつもより少しおめかししたわたし。
赤のリップは欠かさずに。]
こんにち…は、
[店の前にたどりつけば、そこにあった
人影にきょと、と目を開いて思わず止まる。]
え、江戸川さん、バイク乗るのっ!?
[バイクに興味はないのだけれど、
好きな人が跨って待っていてくれていたって
それだけで、とんでもないときめきで
心臓がうるさい。
「うわぁ、かっこいい」と口に出して
頬を両手で覆いながらそちらに近づく。
フルフェイスの奥から聞こえた声に、
緩む口元は止め切れず、ふにゃ、と崩れる。]
…うん、 飛鳥って呼んで、…颯介さん
[「今日は」って、これからもそう呼んじゃだめ?って
聞こうとして、やめた。
せっかく一歩寄ってくれたんだから、焦らない。
にへら、とまた笑って、近くに寄れば、
わたしの分のヘルメットを渡してくれただろうか。
受け取ることができるなら、それを持って
くいっと引くように体を寄せて。]
…ね、呼んでみて?
[と上目遣いでお願いする。
彼の声で、聞きたくて、どきどきと逸る鼓動を
おさえながらじっと見つめる。
自分の名前にこんなに特別感を感じるのは
はじめてだな、なんて考えながら。]
[彼が呼んでくれたならはしゃいだだろうけれど
呼んでくれないなら少々不満そうに「えー」と
こぼしてから、「後でいっぱい呼んでもらお」と
声を弾ませて、彼の後ろに回ろうか。]
どうやって乗ったらいい?
くっついていい?
[そうわざと確認しながらその背中に
ぴったりと寄り添う。
広い彼の背中に耳を当てれば鼓動が
感じられただろうか。それが私と同じ
速度だったらいいのに、と願いながら。
ランチで行きたい店の候補を提案しようと。]*
[嬉しそうに約束にはしゃぐ様に
つい、また口元が緩む。
素直に自分の感情を表に出して
好きなことを好きなだけ楽しめるのが
やっぱり俺には羨ましくて。
だから、喜ぶ彼女に倣うように
俺も、自分の「好き」を
表に出してみようと思って。
店に行っては約束の日を指折り数えて
愛機をいつもより丁寧に磨いたりなんかして。
─────ああ、楽しい。認める。
いつもの1人でのツーリングより、ずっと。]
[店の前に愛機と共に佇む俺は
いつものシャツ姿よりも
ラフな格好を選んでしまっていただろう。
だから、いつもよりも華やかな、
「デート!」って服装のお嬢さんを見て
ちょっとしくった、と思った。
隣に並んで恥ずかしくないか、とか
テンション下がる、とか言われないか、とか。
でも、いつもより可愛い服のお嬢さんは
いつもと変わらず明るく笑うから
俺もつられて、ふにゃ、と笑う。]
骨董の趣味の延長みたいなモンで、
知り合いから譲り受けて乗ってンだ。
[手入れを欠かさない愛機を褒められ
ヘルメット越しの声は上機嫌。
我ながらちょろい。]
[自分から言い出したくせに
颯介さん、なんて呼ばれると
首の後ろがムズムズする。
にじり寄るお嬢さんへと、
ぽん、とヘルメットを投げてよこせば
少し距離が空くだろうか。]
……いいから、行くぞ。
[後で、勇気が出たら。
ヘルメットを被ってもなお貫く視線を避けるよう
俺は愛機に跨ってエンジンをふかせた。]
…………振り落とされたくないなら
しっかり掴まってくれよ。
俺も、怪我ァさせたくねェし。
[Tシャツの薄い生地越しに
じわ、と生々しい体温が伝われば、
ああ、やっぱりこの服は失敗だったな、って。
背に耳を寄せられたらきっと
ばくばくと煩い心臓の音まで
詳らかにされてしまう。
ちゃんと安全を確認できたら、
ドゥン、と低くエンジンをふかせて
晴天の下を滑り出すだろう。]
この先美味い天丼屋を知ってるし
なんか小綺麗なイタリアンが出来たらしい。
行きたいとこ、行こうぜ。
[自分の希望を出した上で
飛鳥が行きたいところを優先しよう。]
[飯を食ったら、美術館へとまた車を走らせて。
『香りの文化史 ー 日常から藝術までー』
中国から伝わったことで花開く香道文化から
紀元前エジプトの香水瓶、
アール・ヌーヴォーの豪奢なものまで
「香り」に纏わるものを集めたもの。
フルフェイスの下から出てきた俺の顔は
きっと照れと興奮とで
頬を赤く染めてしまっていたかもしれない。]
ほら、行こうぜお嬢さん。
[駐車場から受付まで向かおうとして、つい
いつもの呼び方をしてしまったのに気付いて
「あ、」と口を手で塞ぐ。]
[気合いを入れすぎて引かれないか、なんて心配は
はなからしていない。だっていつだって、
最高に可愛いわたしでいたいと思っている。
それが、彼の前ならば余計に。
そして、初デートと名のついた今日ならばさらに。
体を寄せようと思っていたのに、
残念ながらヘルメットは彼との間を
繋ぐどころか宙に舞う。思わず声をあげて
キャッチすれば、唇を少し尖らせた。
お願いにも答えてもらえなかったから、
不満そうにあとで、を約束して。]
[ぎゅっと捕まった背中から彼の体温を感じる。
薄い布越し。微かに動くのは鼓動だろうか。
エンジン音が響く。
どうしようもなくドキドキしてる。
愛しくて、たまらない。
ぎゅうっと唇を結んで、その体温に酔う。
伝われ、わたしの鼓動も。あなたに触れるだけで、
こんなにドキドキするんだよって。
彼が喋ると、体から響くのがわかる。]
天丼!食べたい!
[お洒落なカフェだとか、小粋なイタリアンだとか
候補はたくさん見ていたけれど、きっと彼のよく行く
店なのだろうと、その口調から察することができれば
その店がいいと即決するだろう。]
[天丼屋さんは確かに美味しかった。
けれど、いくら待っても名前を呼ばれるそのときは
訪れなくて、少し寂しい。
すべて平らげてご馳走様でした、と手を合わせれば
さっさと出て行ってしまう彼の後ろを
ちょこちょこ小走りでついて行った。
呼んでくれないのかなって思いつつも
面倒くさい女だと思われたくない、のほうが
上回っているからだまって、またその背中に
ぴったりと寄り添って抱きしめた。]
[美術館に着けば、先程の天丼屋さんで降りた時とは
比べ物にならないほど、彼の表情は
ほころび、あからさまにうきうきしていて、
一層愛おしさにこちらも表情が柔らかくなる。
そんな彼に見惚れていたら、呼ばれた。]
あ、うんっ
[やっぱり、もうどうしたって好きだ。
愛しい、と思いながら駆けていけば、
いつも通りの呼び名で呼ばれたことに、
自分では気づかなかった。───けれど。
あ、と口を手で塞ぐ彼に、首を傾げる。
なにか、あっただろうか。
忘れ物を思い出したとか…まさか、自分の分の
チケットを忘れたとかじゃないよね!?
なんて目を開くと、逸らされる。
深呼吸なんてはじめて見るものだから、
困ったように眉尻を下げる。
まさか、誤魔化してる?
ほんとに忘れたのかと問い詰めようとしたそのとき]
っ………!
[呼ばれた名前に、ぎゅうっと心臓が掴まれて
体が一センチ浮くような心地がした。]
なまえ、
[どうしよう、どうしよう!
今、心の底から思う。この名前でよかった。
彼に、呼んでもらって、特別なものに
なったような感じがする。
ぶわぁ、と顔が熱くなるのがわかった。]
ふへ、 へへ
[間抜けに緩んだ表情を向けて]
………うん、颯介さん
[と差し出された手を取ろう。
普通に繋ぐのはもったいない。
だって今日は、デートだから。
緩めて、指を絡めて握りなおす。]
いこ、 …楽しみだね。
[そう、一歩そちらに寄って、歩き出した。]*
[てっきり、お洒落な店を推してくるかと思いきや
行きつけの天丼屋にご指名がきて
つい、くすりと笑う振動を伝えてしまったか。
尋ねられたら「てっきりもっと映えるところが
好きなンかな、って思っててさ」と
正直に答えよう。
見栄えはともかく、味は保証する。
名前は呼ばないくせに、
天丼を見事平らげるお嬢さんを
カウンター越しより近い場所から見つめ
「ああ、ンまそうに食うなァ」
……なんて呑気な感想を。]
[あの家にいて、きっと叱る人もいるだろうに
派手な化粧に派手な服。
それでも、周りの声はきっと
このお嬢さんの歩みを止めるには力不足で、
そのお嬢さんが今片時でも、
俺の傍でじっと「待つ」なんて選択肢を選んでいる。
……これは思ってたよりずっと愛されてンなァ、
なんて、今更気付いてしまえば
気安く「飛鳥」なんて、尚更呼べなくて。]
[だから、うっかりいつもの呼称を使った時
しまった、と思った。
約束を取り付けておいて
一方的に待たせておいて
俺は自分だけまた知らん顔するのを
選んでしまった気がして。
呼んで振り向いた飛鳥の顔は
責めるでもなく、詰るでもなく
ただ普通に呼ばれたから振り向いた、みたいな。
それが余計に、悲しくて、申し訳なくて。]
─────呼んだよ。飛鳥。
[呼ばわる瞬間朱に染った頬を見て
俺の方まで赤くなる。
でも追撃したくて、もう一度。
そしたら、普段呼ばれない下の名前で返されて
今度は俺がふぇ、とよく分からない声を出す。
咳払いをひとつ、気を取り直して
指まで絡めて手を繋ごう。
じん、と熱い体温はどちらのものか。
歩調を合わせるようにして
受付まで歩いていった。
受付嬢は無愛想に2枚のチケットに目を通して
「いったらっしゃせ」と2つハンコを押して
手を繋いだままの俺達を咎めるでもなく。
多分、ただのバカップルと思われてるのか。
そう思ったら、少し安心した。]
[中に入れば、香りの歴史を辿るよう
古代オリエントの香油壺がででん、とお出迎え。]
昔は、香りを楽しむッてェより
宗教的な意味合いが強くてな。
ミイラもただ仏さんに包帯まくんじゃなく
香油をたっぷり塗ってお弔いをしたンだ。
……まァ、今になってその香油自体が
防腐の役割を果たしてたことが分かってきた。
[土で焼かれた瓶を前に、つい悪い癖。
どこかの誰かと同じ、語りたがりが顔を出す。
手を繋いで、人の邪魔にならないよう
声を潜めて、身を寄せて。
俺が、自分の癖が出てるのに気付いたのは
古代オリエントを遥か超えて
日本の平安時代の頃。]
……っ、ワリ、つい、癖でな。
[頭を下げる代わりに、繋いだままの小指で
すり、と飛鳥の掌を撫でる。
ただ綺麗な瓶、綺麗な調度品、で終わっては
この飾られているだけの品々が
何となく、可哀想な気がして。
くるりと見渡す会場内には
歴史や地域に束ねられて
数多の美術品がガラスケースの中に眠っている。
まるで白雪姫みたいに。]
…………俺ァ、美術展は好きだ。
その一点一点に込められた想いを読み解くのが。
[周りに咎められないように
小さな声で、語る。
美術品から目を、飛鳥の大きな目へと移し
ゆっくりひとつ、瞬きをして。]
だけど、─────例えばこの香水瓶
こうして空瓶にして飾られッちまえば
お役目を果たせねェで悲しくないか。
そう、思っちまうこともある。
使われてこそ、物は幸せなンじゃねェか。
値段とかそんなんがこのモノの価値なンか。
この商売してて、そう思わねェ日はねえ。
[だけど、今日は違う。]
[お洒落なカフェより、あなたのことを知れるなら
断然、そちらの方が良かった、なんていったら
引かれてしまうだろうか。
そこだけはちょっと隠して
天丼すきだもんってW本当のことWで包んだ。
食べるところを見られるのは少し恥ずかしい。
だけど、知ってもらえるなら。興味を持って
もらえるなら。隠したりなんかしたくなかった。
美味そうに食う、と言われればごくん、と
口の中のものを飲み込んでから。]
だってすごく美味しい
[と微笑みを浮かべてみせただろう。
伝われってずっと願ってた。
この気持ちが軽いものじゃなくて、
いつもの仲間内のノリとかとは別次元で
あなたのことが心から大好きだってこと。]
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