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【人】 鬼 紅鉄坊[ それを見つめるのは、 役目を終えた後の鬼にはよくあることだった。 鬼は人間にとって見上げる程の異形の大男であり、 襤褸のように変わり果てた着物姿で、廃墟に棲まい暮らす。 獣を狩り、ただ火で炙っただけの肉を喰らい、暗がりで眠った。 輿入れの対価の一つである余所者の妖怪の排除 その殆どを請け負い、時にはその隻眼のように身体も紅く染める。 花を愛で小動物を懐かせるような趣味は無い。 しかし、心が確かに在った。 だからこそ、最初は巡って来た権利を拒もうとしたのだ。 ]* (72) 2021/06/16(Wed) 1:52:44 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 回想 ── 私は花嫁など望みません 捧げられずとも、獣の肉を喰えば飢えは凌げるのです [ 口にした瞬間、風が止み山に沈黙が訪れた。 面して座す男の黄色の強い金の髪が鬼の目についたのは、 無意識にその咎める視線から逃れようとしたせいであろう。 鬼の知り合いはかつては村人たちのような黒髪であった筈だが それが何時のことなのか、記憶には無い。 妖怪は人間のように加齢で見目が変わる者は少ない。 神仏の敵となった存在と彼らでは時の流れも仕組みも違う。 いけないよ、と男はいつもの温かな声のまま返す。 お前だけが赦されることなどはあってはならないのだ、と。 短い言葉には重い意味が込められている。 ] (73) 2021/06/16(Wed) 1:53:13 |
【人】 鬼 紅鉄坊[ 両者にとって大きく想いを違わせる約束を 百数十年前に結ばせ村の伝統としたのは、この鬼だった。 それまで数多の村人が、妖怪らの飢えと加虐性のままに 獣の如く狩られ喰らわれていた。 心身の片方でも成熟した妖怪は、皆番が巡って来れば村の娘を娶る。 目的は多くが二つに分かれるが、忌避を示す者は今まで皆無。 山の妖怪の中で体躯も腕力も優れ、村人との接触が多い。 そのような者が唯一、喜ばしくあるべき権利を拒むなど。 人間に同情しているのではと、いつか自分達を裏切るのではと思われ 脅威として扱われることになるかもしれない。 これでも今まで見逃してきたほうだと語る男は いつから山に居るのかも分からない、最も古株の妖怪。 名前も無かった鬼を紅鉄坊と定めた、父のような存在だった。 ] (74) 2021/06/16(Wed) 1:53:42 |
【人】 鬼 紅鉄坊………… [ 丸太のように太い腕の先、大きな手が五指を折り握り込まれる。 か弱き者の首ならば容易く手折れる力が込められる。 真に正しく、山の妖怪としてあるべき道を示されていた。 皆が約束に従いやがて訪れる花嫁を待って村人を喰らわぬのは、 強き仲介役の報復が恐ろしいだけではなく、行く先が無いから。 妖怪にとって短すぎる時間で変わりゆく人の世は、 目まぐるしく光が増えていき、とても生きづらい。 それは鬼もまた、同じことだった。 それでも中々、肯定を示せずにいた鬼に続けられた説得は 決定的かつ、記憶を呼び起こすものとなる。 ] (75) 2021/06/16(Wed) 1:53:57 |
【人】 鬼 紅鉄坊「なあ、紅鉄よ。何も難しく考えるこたぁ無いさ。 お前さんが親しかった、あの娘の子を娶ったらどうだ? いつか随分憤って、助けてやりたがっていただろう」 [ 人ならざる者らを取り囲む自然は、今も沈黙を破らないまま。 鬼が息を呑む音は男によく聞こえただろう。 ]* (76) 2021/06/16(Wed) 1:54:16 |
【人】 鬼 紅鉄坊── 現在 ── [ 全ての娘たちを送り届け、最後に残るのは自身の花嫁を迎える役目。 花を眺め思いに耽ることを止めた鬼は、門の前で待っていた。 ここまでご苦労だった、私が引き受けよう。 何度も口にした台詞が百数十回目に初めて出てこなくなった。 村人の様子も声も届かぬ如く、 白髪の花嫁をじっと眺める一つの紅眼は、驚いたように見開いている。 ややあって、漸く一言が呟かれる様に場に落ちる。 ] ……男、だったのか [ 今まで受けた仕打ちを何より物語る、痩せ細った姿。 しかし女と見紛う要素は何も無い。 せんという名前から想像したものとは大きく違っていた。 同胞とは違う理由で指名する相手を決めたが故に── ──確かに性別も見目も聞いてはいなかった。]** (77) 2021/06/16(Wed) 1:54:41 |
【人】 五色 冥桜 ……ふむ、まぁ、良かろう。 どうせ寿命を迎えるまでに予の音を聞く者も少ないのだ。 家の者だけでは些か競い甲斐もなくなってきたところだ。 [三味線を床に置き、撥をそのすぐ横に置いた。 それを小さき家族が持ち上げ布か何かに包む音がした] では――……なんだ、女手総出で。 どうして脇を羽交い絞めにする。 この予、逃げも隠れもせぬぞ。 [嘘をつけと頭を叩かれれば驚きを隠せぬままに足も手も捕縛され風呂場へと連行された。 風呂場の中からは得も言えぬおどろおどろしい声が響いたようであるが身体中隅から隅まで磨かれるという行為は存外心地悪さしか感じなかった。 風呂上りには椿の香油を擦り込まれ肌への触れが優しい生地でできた服を着せられるがその間男の尊厳というものは皆無であった] (78) 2021/06/16(Wed) 2:01:25 |
【人】 五色 冥桜 ええい、お前たち覚えておれよ。 [一族郎党見送ってくれているらしいが輿に載せられたままに呪を吐いておいた。 膝の上に乗せられたものも普段使っている三味線とは異なる様子であり恨み百倍程度には溜まっていた。 だが、出来るのはそれだけだった。 この身で叶うことはあまりない] ……ふん、良いさ。 予はこれから望まれるままに奏でるのだからな。 [三味線を弾き音を奏でることだけが全てであった。 奏でた音に詩を乗せることだけが生き甲斐であった] (79) 2021/06/16(Wed) 2:05:52 |
【人】 五色 冥桜[こうして五色家の 嫁 を乗せた輿は所定の場所に運ばれ門前に置いていかれたのである。待つ間は実に業腹なもので輿の中で撥を奮い雷鳴さながらに音を奏でていたのは、嫁ぎ先の者が輿を開けるまで続いた**] (80) 2021/06/16(Wed) 2:09:28 |
【人】 鬼の子 千─ それから/輿入れの日 ─ っ……危ないねェ。そんなに押すなよ 俺ァ盗人じゃなくて大切な貢ぎ物だぞ? こんなにきつく縛られて逃げられるわけないだろうが [目を細め思わず場に足を留めさせたのは、千にとって十年ぶりに浴びる太陽の光だった。 間髪入れずに後ろの男に背を乱暴に押され、転びそうになったところを付き添う老婆が支えた。 曲がった腰で風呂敷包みを抱えたその背丈は千よりずっと低い。 しきりに気遣い声を掛け、山まで送り届ける為家に訪れた男達に涙ながらに乱暴に扱わないよう訴える。 彼女にとって鬼子は死んだ娘が遺した孫息子だった。 指名を受けるよりも、座敷牢に入れねばならなくなった日よりもずっと前から大切に扱ってきた。 しかし、孫息子はそちらに視線もやらないまま面倒臭そうに息を吐き、男達の求めに応じて黙して歩き出す。] (81) 2021/06/16(Wed) 2:11:36 |
【人】 鬼の子 千[老婆と千が、死んだ母親──さとの兄家族と共に暮らしていた家は大きく他の村人のものよりしっかりした造りになっている。 そこは豪商かつ村役人の家であり、大人も殆どが名前すら書けない村で千が読み書きを教わり、書物を与えられることが出来た理由だった。 村の中心にある為、山まで暫く歩かねばならない。 視線があちこちから突き刺さるが、誰も声を掛けず近づくこともない。 むしろ目を背ける。 千が静かに口角を上げ、再び背を押され怒鳴られることも厭わず態と彼ら彼女らをじっと見つめてやったのは ──可笑しくてたまらないからだ。 村人が自分に向ける侮蔑と嫌悪の中に、埋もれた怯えが伝わるのが。] (82) 2021/06/16(Wed) 2:11:56 |
【人】 鬼の子 千─ 現在/廃寺の門前 ─ [鬱蒼と茂る山の中、遠くからでも見て取れた姿>> 聳える大木のような身体、木々と薄闇に適合した色彩の衣服や肌、髪の色。 一つしかない紅い輝きだけがどこか警戒色じみて浮いている。 分かりやすい物怪の類い。周りの者達から緊張が伝わるのが千には分かった。] ああ?……あぁ、成程。ひひッ あんたら厄介者を捨てたくて捨てたくて、 性別すらも教えなかったのか! それとも確認してやっぱり女がいいと言い出すと思ったか? 酷い奴らだねぇ!敬いも何もあったものじゃねえな! [しかし言葉を交わせる距離にやって来た時気づく その目に人間のように驚きを浮かべ、言葉に詰まっている様に。 自分を指名した筈の鬼がそんな姿を見せることに訝しみ、眉根を寄せたのは一時。 ぱっと振り返り男達を見て、意地悪くにやついた。] (83) 2021/06/16(Wed) 2:12:37 |
【人】 鬼の子 千[曰く、知っていると思った。 曰く、紅鉄坊様が指名したのだから自分もそうだとばかり。 曰く、この男は妖の類だと昔から村で疑われていた。女ではなく仲間が欲しかったのかと思った。 口々に上がる弁解に千はますます楽しげに笑う。 嘘ではないのだろうが、確認しなかった理由も合っている筈だから。] 可哀想にな鬼様よぉ、気づかないよな千って言われたって 俺ァ本当は千太郎って付けられる筈だったらしいんだけどよ その名付け親のおっかさんが産んですぐに死んじまってな で、どうするんだ? [問い掛けた瞬間ふっと愉悦の炎がかき消え、真顔で傾けた首が白い髪を流す。 ここでやっぱり要らない、若い女が良いと言うのなら此れは期待外れのただの化け物。元通り幽閉され、二度と会うこともない。 なけなしの体力でここまで連れて来られた意味は潰える。 この場の男達を代表に、鬼子を山に捨てたい村人達の想いも叶わなくなる。 老婆だけが期待の隠せない眼差しで鬼を見上げていた。**] (84) 2021/06/16(Wed) 2:13:15 |
五色 冥桜は、メモを貼った。 (a9) 2021/06/16(Wed) 2:18:18 |
【人】 天狗[この悪童が「天狗」を名乗るようになってどれくらい経ったかは覚えていない 数年に一度「嫁」をよこせという以外は、天狗が無茶を言うことは「そう」なかった 麓にあるいくつかの村は、それに気づいてか順番に公平に嫁を選ぶことにしたという 嫁さえ宛がえば村は確かに守られ実りも約束されるのだから、と] さて、今年はどの村だったかね [ちびりと酒など舐めながら考える 麓の村は似ているようで少しずつ特徴があった 勤勉な者の揃う村、お人よしの集まる村、そうして 今年の村が少々小賢しい者の揃う村と気づき眉を寄せる] 扱いにくいんだよなぁ、あの村の嫁 まあ、最初のうちだけだが……やれ、此度はどれだけ「もつ」んだか [呟いて、くい、と酒を呷る 人食いの天狗など噂されているのは知っているが、人を食ったことなど一度もない 自ら嫁に手にかけたことも、一度も] (85) 2021/06/16(Wed) 3:37:30 |
【人】 天狗 さぁて、そろそろ用意ができたころじゃろう 此度の嫁を迎えに行くか [山の頂近くに構えた住処から出て、ばさりと先代から奪った羽を広げる 歩いていっても問題はないが、この羽音が「天狗が来た」という合図になる いきなり現れるよりはよかろうと、天狗なりの気遣いだが ひと際大きく羽音を立てて洞穴の前に降り立つ 周囲に人は見当たらず、中にわずかに気配を感じれば ゆっくりと踏み入り、そこに座り込む白無垢へと] お前が此度の嫁か……? どれ、ワシにその顔を見せてくれんか? [正面に屈み込み、懐から取り出した小さな行燈に念で火を灯して白無垢を照らす 天狗は夜目が利くが、嫁はそうではないだろうから] (87) 2021/06/16(Wed) 3:39:21 |
【人】 天狗[嫁に課している枷は足首のみ それは人間の女が非力であることと、何より始めは身構えてロクに動かないと知っているから つまりは油断しているのだ いきなり切り掛かるような馬鹿はおるまい 、と**] (88) 2021/06/16(Wed) 3:40:11 |
天狗は、メモを貼った。 (a10) 2021/06/16(Wed) 3:42:31 |
【人】 龍之介[帰されたところで もう自分には、あの村に居場所は無い。 いや…、弟の虎之介は 喜んで迎えてくれるとは思うけれど、 啞(おし)になってしまった 元は余所者の自分を ここまで育て上げてくれたのは ミクマリ様に捧げるために他ならないと知っている。 自分がきちんと務めを果たせている間は 豊かな実りも約束され 唯ひとりの肉親である弟も 幸せに暮らせていると信じられるから。 だから────…、] (92) 2021/06/16(Wed) 8:36:58 |
【人】 龍之介[ミクマリ様からのご要望に即刻応えるべく>>67 こくりと素直に首肯すると、 少し奥まったところへ移動し 婚儀のために誂えられた衣装を脱ぎ始めた。 黒い縁取りこそあるものの ほぼ純白のそれは汚れやすく、 踝まである裾は動き難い。 手際よく家事をこなすのには向かないから 持たせてもらった普段着の 袖のない上着と 足先がキュッと締まった下衣へ着替えていく。 普段使いと言えども 布地は張りがあり光沢もある上質なものだ。 黒い飾り紐の意匠も凝っている。 洗い方、保管の仕方なども しっかり叩き込んで来たから問題は無いが わりと手間のかかる代物だった。 (もっと簡素なもので良いのに…) そう思うけれど ミクマリ様に相応しく 在らねばならぬのだから文句は言えない。] (93) 2021/06/16(Wed) 8:37:16 |
【人】 龍之介[むしろ、 (ミクマリ様も 自分たちとおんなじように 生活をなさっているのだなぁ……) などと、微笑ましく思ってしまった。 親近感を抱くには あまりに尊い御方で 畏れ多すぎるのだけれども。 それを、うっかりと口にしてしまう 声も自分には無いから 安心していられる。 また、ちらりとご様子を伺って ふわりと頬を緩めた。]* (98) 2021/06/16(Wed) 8:40:54 |
水分神は、メモを貼った。 (a11) 2021/06/16(Wed) 8:55:18 |
龍之介は、メモを貼った。 (a12) 2021/06/16(Wed) 8:55:32 |
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