203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[玲羅は俺の料理にも喜んでくれる。]
オリジナルって言ったら大袈裟だけど……
[苦笑しながら。でもね。
うさぎの穴は、俺がただいまって帰る場所で。
俺の第二の家庭の味だから。
俺を構成する2つの大切な場所の味。]
まあ。家庭の味?????
ははっ。オリジナルとは到底言えないから。
リスペクトってことにしといて。
[母親と遠藤さん。2人に敬意を表して。]
[美味しいって受け入れて貰えて嬉しい。
俺は塩むすびを大口あけて食しながら。]
ん?俺の家族??
兄弟は居ないよ。一人っ子。
親父が超がつくお人好しで。
友達の借金の保証人になって逃げられてね?
でも未だにその人の事友達だと思ってるんだって……
いっつも身体の心配してる。
ちゃんと食べてるだろうか。眠れてるだろうかって。
母親はお肉料理は作ってくれなかったけど。
何時も俺にお腹いっぱい食わせてくれた。
後ね。こないだ真珠の事聞いたよ?
そしたら。好きになった切欠は確かに俺だけど。
真珠が好きな事は本当だって言ってた。そんでね。
親にお金を使うより、自分のために使って欲しかっただけだって。言葉が足りなかったねって。
……2人とも俺の自慢の両親。
[屈託なく玲羅に笑いかけて。]
玲羅は?
兄弟とか居るの?
ご家族のこと、好き?
[あんまり聞いた事無かったなーって。
もしも『好き?』て質問に躊躇うようなら。
別の話しを聞こう。
でも、この芯の強い人を育てた環境には。
やっぱりとても興味があったから。知りたいって、思った。*]
── これゼミでやったことあるやつだ! ──
[宿題には花丸がもらえました!!
あんまりもらっちゃいけない花丸ですね。]
……先生役がクビなら。
これからは同士としてよろしくお願いします!!
[これもあんまりいかんヤツですね。]
神田さん超頼りになる優しい人だから。
お幸せにね。
俺は嫉妬されないよう時々空気になります!!
流石に色々学びました!!
神田さんには
『俺は玲羅一筋だ』
って言っとくね。
でも……
それでも妬いちゃうのが、おもちみたいだからねぇ〜。
[ここら辺はとっても難しいのです。
栗栖くんでは分からない範囲なのです。
まだ習ってない!!
けれど流石に末っ子佑一との出来事は堪えてるから。
長男にまでそっぽを向かれないように。
大咲さんとも長男神田さんとも。
仲良くしたいなって思ってはいるのでした。**]
── お兄ちゃんにご報告 ──
[そうして俺はしっかりと。
お兄ちゃん(神田さん)に。『恋人が出来ました。』の報告をしましたよ。相手が玲羅だってこともね。]
神田さんが教えてくれた散歩道すごく綺麗だった。
ありがと〜〜〜。
それでね。あのね。えっとね……。
神田さんもおめでとう。
[耳元でこっそりと。
いやだってあのクッキーのくだり、俺の真横でやってたんだぜ?
気が付かないのは無理がある。
全部を全部見ないふりで流した俺は褒められるべき。
誰が褒めなくても自分で自分を褒めます。
そう言って笑った俺は。
『ところでもう登山誘ったの?』とか聞きました。
確か手が繋げるんだっけ???なんてね。**]
―― 隣の席 ――
そうだね普通に、隣から聞こえるし、
鴨南蛮食べるよ。
麺、啜るの恥ずかしいの
[ ボケ殺しもいいとこですが、
知ってて声かけたよね。
結果的には鴨南蛮も食べることになったので
悪魔の囁きげに恐ろしき。 ]
そうだね、ずっとってわけじゃないけど
この時間だと、チャンスがあったりするから。
つい、ね
[ この時間?と問われれば、
なんのと聞き返されそうな答えを放ったが。
聞き返すよりも先に、鴨南蛮が届いて
しまえば、一度はその話題は流されただろうね。
だって南蛮蕎麦なんて、熱々じゃないと
美味しくないでしょう?
思惑通りか、やったーと
神田くんが声を上げたなら、自分も蕎麦を
啜り始めた。* ]
―― いつかの ――
へぇデート上手く行ったの
あの子でしょ、喋ったことはないけど
お肉大好きな子。紹介してくれてもいいよ
彼氏。
[ 隣に座る先輩に
実は見かけたものですから。
うさぎの穴でのお食事デート。 ]
誘えた。最高の日だったよ
[ 話が長くなりそうなら、今日は
日本酒とか頼んで、ゆっくりしても良いかもしれない。
彼氏が飛び入り参加しても、面白いなって
俺は思っているんだけどね。* ]
[彼が『ヒーロー』だった頃は知らない。
その名残がこの部屋にあったとしても。
今は、まだ。
あまり使われていなさそうな電化製品。
冷蔵庫には飲料ばかり。
不規則な時間の仕事。
人気に左右される商売。
何もかもが違い過ぎるから、想像がつかないこともある。
ただ、今みたいに部屋で
ゆっくりとくつろいで居る彼は、
自身と余り変わらないような気がした。
もし、広い浴室があると聞いたなら。
自身の1ルームに設置されている洗面台と一緒の
ユニットバスと比べて、羨むくらいはしただろう。
今はまだ、そのことは知らないまま。]
[離れられない。
どこかのラジオで言っていたのと似た台詞に笑う。
許可を貰えたのなら後で体験してみることにして。
スープの感想を横目に戻った後。
食器棚の前で佇んでいれば、慣れた家人がやってくる。
箱に入っているから気づかなかった。
少し高い位置にあったものを取ってもらったものを、
受け取りながら中を確かめる。
うん、これなら使えそうだ。
食器の有無には色良い返事が返されて。
必要なもの、と聞いて思い浮かんだのは、
今日ではとても使い切れないだろう調味料達。]
良かった。
今日だけじゃ使い切れそうにないから、
使ってもらっても……、
[……と、そこまで言いかけて。
後から入ってきた情報と
遅れて繋ぎ合わせてようやく理解する。]
[『必要なもの』の意味。そこには。
俺が増やそうとした食器と同じ意味が含まれていて。]
ああ……、
そうですね、その内。
[噛み締めるように感嘆を漏らした後。
改めて、実感する。これからの意味。
次に訪れる時には、食器以外にも。
共にゆっくりと過ごせるようなラフな服を持って来ようか。]
[テーブルで隣り合いながら、言葉を交わす。
店で立って眺めているのではなく、
今日は一緒に食事をしながら。
初めて、と言われたなら少し目を丸くしたけれど。
使わせてもらったキッチンを思えば納得は行く。
さっき脳裏に過ぎった以前の恋人は
この部屋には当てはまらないらしい。
味は好評のようで、
彼の目が丸まり、感想が零れたなら。
遅れてようやく自身も手を付ける。
最初の一口は、自分ではなく
誰かに食べて欲しい。味見は別の話。]
それ、冷蔵庫にも入れてあるんで。
明日以降にまた食べてくださいね。
[にんにくが効いているコールスロー。
評判がよければ目を細める。]
[食べる度に驚くような声に、小さく笑った。
店のように手をかけなくても喜んでくれることに。
少し擽ったいような心地を覚えて。]
スチーマー便利ですよ。
コンビニでも売ってるベジタブルセット買って、
肉重ねておくだけで蒸し料理になりますし。
ポン酢で食べると、旨いです。
[宝の持ち腐れになっていたスチーマー。
使い方を簡単に説明しておくのは、
彼の普段の食生活を気にしてのこと。
そんな中で不意に零れた笑い。
目許を綻ばせてそんな感想を零す彼を見ながら、
先程、話した食器の話を思い出す。
その時に感じた、噛み締めるような何かを、
彼も感じたのだと分かったら。]
ここの方が店に近いから、
朝、起きる時にゆっくりできそうですね。
[冗談混じりの言葉に、そう答えただろう。*]
[葉月の食レポによって桜カクテルのもう1杯の売り上げはなしになった。]
『色味が綺麗に出てるね。さすが●●製アプリ』
『人について書くのはあんなに「読ませる」のに、
なんで食レポは』
(やれやれと両手を挙げて首を横に振るうさぎスタンプ)
[送ったのはここまで。
店内では、写真を撮る以外でそう長くスマホを弄りたくないのだ。
料理に向き合いたいのもあるけれど。
「店員の白うさぎさん」である彼女の姿をできるだけ沢山見ておきたいもので。]
[彼女は自分の「魔除け」に対し、「そんな人はいない」と拗ねてみせたけれど。
明るく笑顔で客を迎えて、いつも客達が楽しく過ごせるような工夫を考えていて、何より料理が上手で優しくて可愛い、そんな彼女にとって「特別な客」でありたいと思う人々は絶対に多くいる筈なのだ。
それは彼女が躱せないだろうと疑っているのとは別の話。
他の客のことを、自分は全く信用していないので。
ああそれにしても拗ねた顔は可愛かったなぁ。
店員と客の立場から変わっていなければ、彼女が言う「ばか」
があんなに甘い響きなことも知らなかった。
「単なる店員と客だった頃では見れなかった顔を、見れるのが
堪らなく楽しい」
お揃いの感情が増える。
一緒に時間を過ごす内に、きっと、もっと。]
[彼女に施した魔除けにはリターンがあって。
仕事は勿論手を抜くことなく恙なく終わったし、
あれからも何件か取材をしたけれど、
頭が仕事モードから離れる度に、「つまみ食い」の味を思い出しては突っ伏したくなっている。
ただでさえ、あの日からずっとしつけ糸並みの強度の理性でぐらぐら綱渡りをしているというのに。]
[この日のフルーツはメロン。
鴨南蛮だけで珍しく満腹感を覚えてしまったから、結局後はメロンをそのままカットして出して貰った。
スプーンですくって食べるのも好きだけれど、少し硬い部分にフォークを刺して食べる時の果物と野菜の境界のような味が好きだ。
柑橘も好き。
りんごもバナナもぶどうも無花果も。
中でもとりわけいちごが好きになったのは。
いちご狩りの話をした時の彼女の反応が可愛かったから。
運転していたけれど、助手席で真白の目が輝いたことには気づいていた。
反芻して喜びを確かめようとする癖が彼女にはある気がする。
もう少し観察して答え合わせを楽しみたいから彼女自身には言わないが。]
――あの日の車内――
うん、じゃあ一緒に作ろう。
いちごと、スポンジと、ホイップクリームと、
砂糖で出来た花やハートのトッピングなんかも
用意してあるみたい。
[大丈夫、と彼女が口に出したなら、「本当?」と確かめる言葉は出さない。
過去を思い出さないようになるなんてことはまだ無理だろうが、
避けていてはずっと「ケーキ作り」が嫌な思い出だけになることを、
もう彼女は何年も身をもって経験しているだろう。
自分と一緒に作る思い出を増やしたいという気持ちが
「作りたい」という言葉として出たことが、とても嬉しい。]
移動時間もあるし、温泉も入ろうと思ったら
結構ゆっくり時間がほしいところなんだけど、
いちごの季節が過ぎたらできないことだから、
日帰りなら次の日のシフトが夜だけの時にしようね。
[「お取り置き」の受取日がいつになるのかはまだわからない。
真白を一番幸せにする日、
とっておきに可愛くしたいという想いがあるならば、
どんな風に過ごすかは彼女の希望に寄り添いたいから、
いちごを摘んでケーキボトルにする日でも、
遊園地への憧れを叶える日にちょっと良いホテルを取っても良い。
他にやりたいことがあれば勿論なんだって、
自分にできることが彼女を幸せに出来ることが幸せで堪らないから
その約束はまたじっくりふたりで話すことにしよう。]
[とりあえず次に昼間時間が取れる時には「お揃いのパジャマ」を買いにいこうと誘った。
真白が思う自分に似合う色が知りたい。
何ならパジャマだけではなくて、他にも彼女の見立てで何着か買い足せるなら。
自分の部屋が彼女の色で染まることが楽しみで仕方がない。
浮かれた自分のポケットには今、小さな封筒が入っている。
先日は急なことで用意が間に合わなかった。
銀色の小さな金属を渡された真白の反応を想像して緊張している。
閉店まであと、 ――――**]
[テーブルで睦まじく談笑していた二人は先に退店していたようだ。
良い時を過ごせるように心の中でエールを送る。
うれしい結果が聞けたのは、また後日の話。**]
[未来の旅行計画を立てる彼に。]
ふふ、そうだねえ。
それ用の貯金箱でも作る?
あ、そうなんだ!夏生まれ。
了解。じゃあ間に合ったら個別に祝うし。
間に合わなかったら旅行しながら一緒に祝お。
[彼の誕生日もそこまで遠い話じゃない。
その時は何をしようかな、何をしたら喜ぶかな。
少し先の予定を考えながら、そんな話をしていた。]
[そうして豆腐ハンバーグ。
遠藤に彼がレシピを窺っていたのは聞いていたけど
どこまで参考にしたのだろうか。
ネギ類の甘味に豆腐のなめらかさ。
彼も気に入ったらしい
ワサビは付いているのかな。
リスペクトだと少し苦笑しながら話す彼に
目を細めてもぐもぐと食べる。]
うん、でもほんとに美味しいよ。
ありがとね、作ってくれて。嬉しい。
[シンプルな塩むすびを一緒に食べながら
ず、と温かい玄米茶を啜る。
ああ、なんか。幸せだな。しみじみ。]
へえ――…
[そうして、聞くのは彼の両親の事。
お人好しで心配性な父と、
家計を切り盛りするしっかり者の母。
いつかの真珠の件の答え合わせも聞いて、
微笑ましさについ微笑みが零れる。]
そっかあ。
…良いご両親なんだね。
[感想は心から。
断片的なエピソードだけで
二人とも善人なのだろうことや
愛を受けて育ってきたのだろうことは窺えるし
その環境が彼の屈託のなさを形成したのだろう。
こどもから自慢だと、胸を張って言われる親は良い親だ。
そうでもない家庭も玲羅は多く知っているから余計。]
うち?
うん、好きだよ。兄弟はいない。一人っ子仲間だね。
[好きかと問われれば特に衒いもなくYESと答える。]
パパはね、普通の会社員。
私が一人娘だからかめちゃくちゃ親ばかで過保護で、
私には甘々。
実家出る時もすっごい寂しそうだったけど、
押し切って出てきちゃった。
[あ、余談ですが玲羅は社会人になって以降一人暮らしです。
また変なファンにストーカーされたら…と狼狽える父は
いい加減子離れしろと母に一喝されていた。
思い出して少し笑いそうになってしまいながら。]
ママは子供向けの音楽教室の先生しててねー。
私が歌とかダンスとか好きになったのはママの影響。
パパが甘い分容赦なくずけずけ物言うから
小さい頃はよく喧嘩したりしてたな。
大人になった今は友達みたいな感じだけど。
…でも、私がアイドルになるって決めた時も、
急にやめるって決めた時も、何も反対しなかった。
[玲羅がよく考えて決めたなら好きにしなさい。
悩んだ時には私たち親を頼ってもいいけど、
自分の選択に責任は持ちなさい。
あなたの人生なんだから。
そう真顔で諭した母のこと。
時には厳しく思えた母の
それが確かに愛だったのだと知ったのは、
きっと大人になってから。]
良いご両親だよ。うちもね。
[なんて冗談めいた口調で、けれど心から笑った。**]
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