【人】 絵描き 要気付かれないように、気付かないように、と丁寧に開けた筈の、扉は無情にも大きな音を立てた。立てやがった。くそっ! それでも堂々と歩いていけば問題ない!僕は何も悪いことはしていないのだから……! と開き直ってみても、聞こえてきたのは女性の悲鳴。 そして何かが落ちる音。 落ちたのは画材だ。 やはり入らなければよかったか……と後悔するより先にすべきことがあるだろう? 僕が入らなければ無事平穏に暮らしていたはずの彼女。それに落ちるはずのなかった画材。両者にきちんと謝罪すべきだ。そうに違いないきっとそうだ。 予想外の反応でちょっとパニクりかけてる思考をどうにか働かせ、体を動かした。 とりあえず、身近にある絵の具をひとつ拾って、彼女に話しかける。 「えっと……?すいません。突然……」 彼女の方を恐る恐る見るとキラキラと美しい白い髪が無機質な蛍光灯の光を浴び、輝いていた。 (16) 2020/06/12(Fri) 10:40:57 |