【人】 行商人 美濃[一度借宿に向かい、濡れた身体を乾かすのと身支度を整える。 またすぐ外へと向かうつもりなれば、あまり意味のない作業だとしても。 水分を含んだ布が纏わりつく不快を抱えたままでは少ないとはいえない荷物─商品─の整理はままならない。 小さな鞠、お手玉、紙風船、単純な絡繰仕掛けの小さな人形と童の好むような玩具から、色とりどりの花を閉じ込めた硝子細工のプレートに、天然石の施された装飾。 幾何学模様の彫られた煙管や漆塗りの柄を持つ筆など、各地で仕入れた小物が女の扱う商品だった。 それらをひとつひとつ、畳の上に開いた菖蒲色の風呂敷へと並べては配置に首を捻りつつ、また鞄へと戻していく。 最後に残した小さな桐箱を大事そうに抱えると、そっと蓋を開く。 箱の中、姿を見せた小ぶりの茶碗にも見える陶器の中は、三分の二程が土で埋められていた。 鉢の役割をしている器の中を、掘り起こしてみたことはない。 窓に当たる雨粒の音に目を閉じると、焦がれるように器の丸い縁をなぞった。] (16) 2022/09/29(Thu) 10:30:49 |