【人】 天原 珠月[到着まで後もう少しというところで急に足を速める。 ここまで前を歩いて先導してくれた人を一気に追い越し、ニヤニヤという悪戯な顔で一番乗りを奪っていく。] んんー! 着いたぁ! [春用のニット帽を外すと結んで押し込んでいた長い金髪が一気に溢れ、白い上着の背に流れる。 つり目がちの紫の瞳が後ろの幼馴染を振り返り、ほら早く早くと急かすように手招いた。 二家族でキャンプに訪れるのは毎年恒例のようなものだったが、子供であるふたりだけなのは初めてだ。 といっても片方は成人済み、片方も来年成人の年齢だけど。 このキャンプ場は初めて選んだ場所で、森の中の道はなかなか複雑そうで迷子にでもなるんじゃないかと思ったがそんなこともなく――心地よい春の風に誘われるように歩いていると、気づけば目の前の木々が開け、この木製のコテージが姿を現していた。] ねぇ、雅空兄ぃ、ここって湖が近いんでしょ? [兄と呼ぶ幼馴染の服を遠慮なく引っ張る。 これくらいで転ぶようにヤワじゃないのは知っている。 早く見に行きたい、とせっつくが、まだコテージの鍵も借りていなければ荷物も運び込んでいなかった。**] (53) 2023/03/01(Wed) 1:44:26 |