【人】 軍医 ルーク ―― 前線基地・外壁 ――[ 基地の周りをぐるりと取り囲み、 高く高く張り巡らされた壁面の上に、 一つの人影がある。 針金のようなその人影は、 爆風の一つも食らおうものなら吹き飛ばされそうに ひょろりと頼りなく、細い。 ――けれど、何が起きたとしても目はそらさない、 退くことはしないと、二つの脚でそこに立っている。 爆風に吹き飛ばされないようにと、 ぺんぎんをしっかり両腕で抱えて。 サイレンが叫んでいる。 この基地が始まって以来発せられることがなかった、 最大の警戒レベルを告げて。 高く遠く、『太陽』に照らされた天の岩肌に、 穿たれた大穴がある。 世界の蓋に闇が口を開け、 数多の死が吐き出されようとしている。 けれど、届かない場所へと手を伸べることは、 もうしなかった。 ――彼は、あの大穴の向こうの世界から来た。 この地に降りてきたとき、 彼は何を思い、何を見たのか。 これまでに読んだ、日記の記述は、 一語一句たりとも忘れられるものではない。] (204) 2020/05/25(Mon) 22:24:53 |