【人】 裁判官 リーベルト[彼がうちに越してくる利点のひとつは、家までの往復約1時間を大幅に節約出来ることだ。心弾む往路の楽しみはなくなるけれど、淋しい復路ももう味わわずに済む。 人間が人間を裁く。 小鬼の己が、法廷でならば閻魔になれる。 最初はそんな不純な動機で、裁判官を志したものだった。 現実はそう容易くはなかったけれど、持ち前の負けん気が功を奏した。 出世街道をノーブレーキで進み、多額の金銭を得た。 にも関わらず、どこか満たされない想いがあった。 たとえサバイバルまがいの三食もやし生活をしていても、未来への夢と希望に満ち、演技を熱く追求し、芝居に真剣に打ち込んでいたヴィクがずっと輝いて見えた。 己の野望が、ひどくつまらないものに思えた。 講義ノートを写させて欲しいといった上辺だけの友人ではなく、心から好意を寄せる友人たちが、彼の周りにはいつも集まっていた。 自分で言うのも何だが、学生時代の僕の面倒見は悪かった。 気遣いなど持ち合わせてはいなかったし、優しさに至っては「お前には人の心が無いのか」とまで言われる始末。 人と会話しては正面衝突してしまう日々。 特別な用事でもなければ、話しかけられる事もない。 僕が初めてのバイト先で真っ当に働けたのは、年下ながら先輩として僕を見捨てず、献身的なサポートを続けてくれた、彼のおかげだ。 眩しかった。 スポットライトで照らさずとも群衆の目を惹いた。 心優しい君が僕に構うことで要らぬ誤解を受けることのないようにと、己の態度を改めていった。] (820) 2019/04/12(Fri) 17:32:33 |