【赤】 一匹狼 “楓”[>>*31彼女が腕にもたれかかってくるのを感じ、少し迷った末。 楓はそっと彼女の肩に腕を回し、緩く抱き寄せた。 このまま彼女と共に過ごす日々が続いたら。 戯れにそう考えてみても、やはり日常が思い浮かぶ。 自分の日常に彼女を迎え入れることはできない。自分という狼一人を御するのにも苦労しているぐらいなのだから。 もし彼女と共に在ろうとするならば、日常は捨てることになるのだろう。そう、例えば、先ほど思いついた旅路に共に出るような。独りきりで旅に出るよりは心強いものになるかもしれない、……厄介ごとも増えるかもしれないが。 彼女の思いも知らないままの思いつきをいくつか巡らせた末、ほんの少し残っていた紅茶を飲み干してカップをそっとテーブルに置く。 それからソファの背に改めて凭れたときにも、まだ椿は隣にいるだろうか。 早々に感じた体の重さが次第に頭にも及んできたようだ。ずっと彼女が寄り添っていてくれたなら、夜の静けさと彼女の体温がこのまま楓を眠りに落とすだろう]** (*33) 2023/03/08(Wed) 21:04:29 |