……顔を上げられないのは、何も人の死が怖いからだけじゃない。

今日という日を切り抜けられるか。ヌンキの犠牲を無駄にすることにはならないだろうか。迂闊なことを言って、自分の正体を看破されないだろうか。
恐ろしくて仕方がない。

……自分は今、"人間"の顔が出来ているだろうか。

赤く染まった入院着を、処刑部屋に立ち込める生臭い匂いを、手や腕に感じた温度を。思い出すだけで気分が悪くなる。
でも問題はない。医務室の世話にならなくとも、自分で対処できる程度だ。

「はーーー……なっっっっっさけねえな私……」

膝に顔をうずめる。コッコは今、もっと辛い思いをしているのに。自分達が命を奪ったせいで、辛い思いをしてる人間もたくさんいるのに。
血が怖いぐらいでこんなに……眠れないほど恐怖してしまう弱い自分が情けない。

端末から通知音が聞こえて、はっと我にかえる。仲間からの通信が入っている。

「……そうだよな…… ニコラシカや、ヌンキの分まで。私達が、やんねえと」

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あっ。

こっち陣営の方々には申し訳ないんだけど、これ夜まで議論に参加できねえな（PL事情で）。
あとで匿名箱に連絡入れとこ。

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カストルさん頑張れー！頑張れー！
マジで議論に全く参戦できねえのが申し訳ないが！！（PLに余裕がない）（今も議論斜め読みしかできてない）

キファは、自室のベッドにうずくまっている。
傍に投げ出された端末から、議論の音声ログが流れてくる。
互いの言い分を理解して援護するために、何度も聞こうとした。だけど、どうしても彼らの声は耳を通り抜けてしまって、頭に入ってこない。

喋らなくては。彼らの意見に反論し、仲間を守らなければ。
そう思うのに言葉は何ひとつ出てこない。

「……私達が……私が、頑張らねえといけねえのに……」

やっとの思いで端末に手を伸ばし、仲間からのメッセージに返答する。

ヌンキが処刑されてから、急に何も言えなくなってしまった。
怖い。うかつなことを口走って、彼らが必死に築いてくれた言い分をぶち壊してしまいそうで。そうなれば仲間のみんなにも迷惑がかかる。
かといって、黙っていては仲間を助けられない。彼らはあんなに頑張って議論してくれているというのに、私だけ何も言わないわけにはいかない。

（もし今夜、コッコが処刑されたら、残るは私一人だ。私がどうにかして生き延びねえと、皆が負けちまう）

だから、もっと頑張らなければならないのに。焦る気持ちとは裏腹に、体が動いてくれない。
反論が考えれない。言葉が何も浮かばない。彼らの意見が頭に入らない。
私一人のせいで、皆の決意を、覚悟を無駄にするのか。困難を打ち破って活路を見出せと、自らの占いにも出ていたはずではなかったか。

……もしかしたら、自分の心は、限界に近いのかもしれない。
人を殺すという初めての経験。人狼という少数の役職。精神的な疲労とプレッシャーで、追い詰められているのかもしれない。

だとしたら、情けない話だ。この程度の"人狼ゲーム"は、多くの人が経験してきたというのに。同じ立場の仲間もいるというのに。
それなのに、自分だけが潰れてしまうなんて。

再び端末を投げ出して、ぎゅっと縮こまる。
もう駄目だ、もう無理だ、なんて言いたくない。仲間の分まで頑張らなければいけないから。

だけど。

「……私、もう、これ以上出来ねえよ……」