人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

ぶつかった視線、先にある翠。
鏡で見た自分のそれとよく似ている気がしたのは。

「────」

願いを聞いたからこその思い込み、だろうか。
撫でてくれる手つきはとてもやさしいもので。
ねえさんやにいさんと呼び慕うその人たちとも、違うもので。
呆けた表情を浮かべながらもそうされている内。
掻き消えそうな小さな言葉を拾い上げた瞬間。

…………なんで、泣きたくなったんだろ。


ついと視線が落ちかけてしまう前に、口を開く。

「────"フレッド"」

逸らされた話題に乗りかかることもなく。

[1/3]
(-3) mspn 2023/09/20(Wed) 21:15:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


「フレッドって、……呼んで」

貴方が遠ざけようとしたものを近づけるみたいに。

「…………オレの、ほんとの名前」

唐突に告げた。
今の名を渡されてから、昔を知らない誰かに教えたこともないし、伝えるべきでもない真実を……それでもだ。

『弟にして』、なんて。
そのまま伝えたところで、受け取ってもらえるかわからなかったから。

瞼を落として、頭を傾ける。
貴方の肩口に額を押し付ければ、よく似た金糸が揺れた。

[2/3]
(-5) mspn 2023/09/20(Wed) 21:17:03

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ



「教えたの…………とくべつ、だよ」



なんでもをしてほしいから、望んだんじゃなくて。
だいすきなあなたが、そんな笑い方をしなくていいように。


[3/3]
(-6) mspn 2023/09/20(Wed) 21:17:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


……ああ、そうなんだ、やっぱり。


"警察"が二人も肯定の意を示すのだ。
嘘であるはずがない、だから間違いがない。
視線は落ちていく、己の両手にずっとある手錠へ。
その内に……唇はゆっくりと開かれる。

「……フルーツを」
「たくさん、貰いました」


誰から貰ったかは明言しないまま。
なんだかもう随分と遠くなったその日を、思い出す。

「だから……彼にも、お裾分け、しました」
「……作ったお菓子も、うまくできたから、渡しました」


そうして、瞼を伏せる。
例えどのような場であれ。
貴方の前であったとして。
それを偽ることだけは、できなかったから。

「…………
家族
みたいな、ひとだから……」
(-9) mspn 2023/09/20(Wed) 21:44:30

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

貴方からの会いたいの気持ちを聞けば、じゃあいっか〜なんて機嫌よく笑っていて。
カッサータと聞けばしばらくぽくぽく……と考える。
けれどその内に思い当たる者があれば「あ!」と声を上げて。

「オレもおいしくてあれ好き!
 ねえさんあのお菓子好きなの?」

「作るのはむずかしそ……、……」


「……いや、でもぜって〜作る!
 大丈夫!この世で一番おいしいの作るから、そのうち!
 待ってて!」

貴方の期待を感じ取れば、できないとは口にしなかったししたくなかった。
男はぐっと拳を握って決意を滲ませている。
で、その後に続く"兄"の話には、そうなんだな〜って笑いながら。
やっぱり少し寂しさは感じたけれど、二人が明るい世界にいることが嬉しかったから遠くに置いた。
そうして手放しに寄せられた信頼を感じ取れば、もちろん笑顔で。

[1/2]
(-11) mspn 2023/09/20(Wed) 22:01:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


「──任せて!」


「ねえさんが逮捕されそうになったときには、
 いちばんにオレが助けるよ!」

この世の掃き溜めの隅。
蹲って時に貴方に縋り震えていた存在は、もう弱くなどはないから。
法の下で貴方を守る力はにいさんよりきっと強いなんて信じて、言葉を躊躇いなく形にする。

信じていたんだ。
何も知らなかった。
あの夜までは。


「……よしっ、じゃあそろそろ行こうかな。
 夜とか戸締りには気を付けてね? ねえさん」

[2/2]
(-12) mspn 2023/09/20(Wed) 22:04:12

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

繋がっている、というのが正しいのか分からない。
家族同然に想い、マフィアとしての活動は何も知らなかったから。

──でも、それより。

「立場は、知らなかった、けど……」


ひくい、おとこのひとのこえ。


「……いれねお、せんぱい?」

様子が変わったことに気が付けないほど、鈍くはない。
男は緩慢な動きで貴方を見上げた。
無意識に、喉奥がふるえる。
(-48) mspn 2023/09/20(Wed) 23:23:54

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

素直なので想定通りそのままに受け取って、ハッ……とした表情は浮かべたりしていたのだが。
けれどすぐにこの雰囲気を和らげるためだと思い当れない程、鈍くもない。
幼いときから変わらない温もりを抱いた視線を受け止めれば、うれしさで瞳を細めていく。
大人になってからより遠くに居るとわかった存在の、優先すべきの中に己が居る事実がこんなにも幸せで。

「……ありがとうございます。
 へへ、ヴィトーさんがサボるって想像できない。
 でもそうなんだ……意外だし、親近感、です!」

「料理は〜……いろいろ、落ち着いたら。
 また作って欲しいって甘えちゃうかも」

そんな風にいつもの調子を少し取り戻した男は、貴方と共に外へと歩いて行く。
道中に寄ったのは仲の良い人がよく働いているパン屋で、そこで自分の分にはパンドーロを一つ買って行った。

[1/2]
(-143) mspn 2023/09/21(Thu) 8:42:44

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

そうしてじきに腰を落ち着けたのは夕暮れ時で人も少なくなってきた公園。
養育院に居た頃、貴方に連れ出して遊んでもらったこともある場所。
ベンチで隣同士に並んで腰かければ、買って来たパンを片手に少し色褪せた遊具を眺めた。
昔はアレも大きく見えたっけ、とは頭の隅のもので。

「……今日決まった法について。
 喜んでる人もいれば、あんまりだって言う人も居て」

ぽつ、と。
なぜ貴方に問いかけたのか、署の中で伝えられなかった言葉を零していく。

「反社会組織……マフィアに対して。
 いろんな人が、いろんな感情を抱いてるのは知ってる。
 オレの今の家族も、マフィアのことがとても……きらいです」

「でもオレはそういう事情とかを知っていても。
 今回の法案には前向きな気持ちを抱けなくて。
 ……でも賛成するひとがいるのもわかる、から」

「……どっちつかずな感じで、ぐるぐる悩んでたんですけど。
 あの、ニコロせんぱいがね、いろんな人に話を聞いてみたらいいって。
 それでヴィトーさんの話が……聞きたかった」

そこまでを語り切ればちらと貴方を見上げる。
こういうのを聞いて、どんな顔してるかなあ、と。

[2/2]
(-144) mspn 2023/09/21(Thu) 8:43:26

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

テーブルを叩く音が耳に付き。
常より早い鼓動が更にどくんとうるさい。
そうして、たった一言が容易く心を抉った。

   "それだけ近くにいて"

知らなかった。
知らなかったから、こうなった?


「オレにとって、にいさんは」

「……ドライブが、好きで。
 贈り物ばっか、してきて。
 珈琲入れるのが、上手な。
 …………ただの喫茶店の、マスターで」

ああ、でも、ちがうな。

ゆるりと落ちゆく視線。

「知らなかった、…………でも」

「──知っていても、
おなじだった
(-145) mspn 2023/09/21(Thu) 8:54:23

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ


ほんとうを呼んでくれる。
とても、やさしい声音だった。

呼ばれる度に、剥がれてゆく。

やっぱり泣きそうだった。
こんなにも貴方は"大事"をできるのに。

生涯、隠そうとしたこと。

手が離れるのが嫌で。
追おうとした、指先を。
よく似た体温が繫ぎ止めてくれる。

だから。

そうして落ちた問いがあんまりにも。

……ああ、"いじらしい"って、こういうことをいうのかな。

[1/2]
(-150) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:20
ニーノは、ゆっくりと顔を上げれば。
(c6) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:31

ニーノは、微笑んで、告げた。
(c7) mspn 2023/09/21(Thu) 9:41:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ



「───あなたじゃなきゃ、やだ」

 
遠ざけないで。


「…………ロメオにい」


 
どうか、傍に置いて。



──ぬくもりを知る場所で、生きていて。


[2/2]
(-152) mspn 2023/09/21(Thu) 9:42:25
ニーノは、あなたの『  』になりたかった。
(c8) mspn 2023/09/21(Thu) 9:42:54

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

言わなければよかった、と。

暖かさを失くし見つめる瞳に思えばよかっただろうか。
熱に浮かされた思考が、判断を間違えたのだと。
でもそうじゃなかった。
例えいつだったとしても、己はそう口にしていた。

ゆえに貴方の優しさが消えゆくのは──当然の帰結。
……だとして。

「──ッ……ち、がい、ます……!」


それだけは否定した。力強く。

「騙してなんかない、オレは!
 あなたたちを、騙してはいない……!」

腹の奥底が震えた。
こわい、おそろしい、でも。

否定しなくてはいけない。
揺らめいていた瞳が初めて強く、意志を持って貴方を見つめた。
(-176) mspn 2023/09/21(Thu) 11:48:41

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
お声がけありがとうございます、ねえさん来てくれて嬉しい…!
ただ申し訳ありません。状況について今不確定なところがありますゆえ、もう少し確定次第のお返事になりそうです……お時間いただきます……
(-177) mspn 2023/09/21(Thu) 11:49:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

何に遮られることなく、真っ直ぐと見つめた貴方の翠は。
不思議な色をしていた。
或いはどこか、寂しくも思えた。
重なっていく声に言いたいことはあって、けれどそれが形になる前に。

「……ゎ、」


手を引かれる、バランスが崩れる。
そうしてそのままに貴方の両腕の中だ。
それは酷く恐ろしいこと……のはず、だったけれど。

「…………」

少し肩に力が籠ってしまっただけで、あとは。
ああ、貴方が望むものに手を伸ばしてくれたのだと。
理解し、うれしさに瞼を落としていた。

[1/2]
(-183) mspn 2023/09/21(Thu) 12:25:36

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……ぁの」
「きれいじゃないよ、オレ、だって。
 ……スラムで、生きてた」

そうして恐る恐ると形にしていく。
貴方の期待を裏切ってしまうかもしれないけれど。

「悪いこと、いろいろしてる。
 パン屋のパンだって盗んだこと、あるし」

「…………春だって、売ってた」


「ぜんぜん、きれいじゃないんだ。
 きれいじゃないのに、きれいのふりしてる。
 でも……だから」

控えめに、それでも確かに。

「ロメオにいがもし、きれいじゃなくてもね」

両腕を己よりずっと大きな背へと、回す。

「……だいすき、変わらないよ」

"心配しないで"を伝えるように。

[2/2]
(-184) mspn 2023/09/21(Thu) 12:27:20

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ

真っ当だ。
だからこそすぐに言い返せなかった。
貴方がマフィアを良く思っていないのは知っている。
初めて法の施行が言い渡されたとき、笑っていた姿も覚えている。

仲良くしていた、その事実を否定することはできない。
言えるのは知らなかったとそれだけ。
しかしそれも大した意味を持たなくて。
なら、なにを、いま?


「…………っ、」

音にびくりと震えた直後には、じゃらり。
腕を掴まれる、両腕を繋ぐ手錠が音を落とした。
なにを、いま。


「……な、かよくしてた。
 でも、知らなかった。
 あの人が、どんなことしてるのか」

「騙したりしてない、ほんとうに……
 警察のこと言ってもない、なにも」

重ねる毎に響かないだろう現実を痛感するばかりだ。
どうしたらいいのかわからない、思考がぐらつく。
ただあなたに信じてもらえないことが、ひどくかなしくて。
──こわい。

「……だ、ましてない……なにも、しりません……」
(-187) mspn 2023/09/21(Thu) 12:45:41

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

へんな気分だ。
全てをいいんだと許されていく。
それでもきれいなのだと告げられる。
昨日までは友達だったひと。
今日からは家族のように想うひと。

大きな腕の中に抱かれていると、安心した。
まるで昔からずっとそうしてほしかったみたいに。

「……ありがとう」

貴方もスラムにいたのなら案外、なんて。
ちょっと高望みしすぎか、それにそうじゃなくても。
嬉しい、の次に、己を想って告げてくれる言の葉たちと。
貴方自身が
そう
であると認めてくれたのだから。

それだけでもう十分で……なんでだろ。
酔っているせいかな、胸が締め付けられて。
先の貴方の笑みを思えば一滴だけ、涙が落ちた。


一度詰まってしまった声を抱きしめる力を強めて誤魔化す。
見えてないから、ないしょ。

[1/2]
(-257) mspn 2023/09/21(Thu) 21:07:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「……へへ、うれしい。
 でも、逆だってそうだよ」

「オレも、ロメオにいの力になるよ。
 できること……多くないけどさ。
 それでも、オレが叶えられることならなんだって」

貴方のこと、多くを知るわけじゃない。
けれどきっと"家族"を多く知っているのは自分の方だ。
だから、と。

「ね、一緒に色々しようよ、これから」

ひとつひとつ、ぬくもりを教えられますように。
望んだものは夢などではないのだと告げられますように。

「友達じゃなくて、家族っぽいこと。
 ……いいだろ?」

ちら、と貴方を見上げ、いつもみたいに無邪気に笑う。
これから変わっていく明日に想いを抱いていた。
共に居られる日々は変わらないって、信じていたから。


[2/2]
(-260) mspn 2023/09/21(Thu) 21:09:35

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


──疑わなかったのか、と。

その言葉が耳に届いたとき、声を詰まらせた。
考えたことがないわけじゃなかった。
男はこの世の掃き溜めで生きていた。
十分に薄暗い世界を知っている。
或いは、だから、と考えたことはあっただろう。

それでも己に伝えないのならと明らかにはさせなかった。
もしそうだとしても、言いたくないのならと尋ねなかった。
じゃあ、これは、そう。

知らなかったじゃなくて──

──
知ろうとしなかった
、のではないかと。


だん。

「────い゛ッ!?」


[1/2]
(-266) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:17
ニーノは、ならば、その罰が下るように。
(c12) mspn 2023/09/21(Thu) 21:48:32

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 幕の中で イレネオ


痛み。

殴られたときのそれじゃなく。
蹴られたときのそれとも違う。
ペン先が皮膚を裂き、抉り。
先にある手骨を割った痛み。

「ぁ、? っ、せんぱ、……ぃ、なんで、」


いたい、いたくてたまらない。
吹き出る汗も滲む視界も、熱から来るものではない。
男は貴方を見た、怯え切った瞳にその笑みを映した。

「……ッ、ゃ、やだ、ごめ、なさ」


嗚咽を堪えて謝罪を形にしたのは条件反射のように。
それでも遠ざかろうと身を引く。
熱と痛みでろくに入らない力で、ペン先が突き立てられた手を引こうとする。

──逃げなきゃ、と、思って
 どこかに どこに?


[2/2]
(-267) mspn 2023/09/21(Thu) 21:50:15

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

先程の笑顔はもうそこにはない。
普段よりよく見えるいつもの笑みを見上げながら。
やりたいの意志を隠さずに示してくれることに眦を下げる。

「作ったご飯一緒に食べたり、とか。
 ……一緒に寝るならロメオにいの家行きたいな、そのうち。
 だめ?オレの家、ちょっと厳しいから」

尋ねながらもゆっくりと身体を離していく。
このままではグラスホッパーが頼めないし、と。
けれど、離れ切ってしまうその前。
少しだけ貴方の頬を掠めるように撫でては、悪戯をした幼子みたいに笑った。

「眼鏡さ、ないほうがかっこいいね」

それだけ告げて、姿勢を正したことだろう。
次いでマスターにグラスホッパーを注文して、…………。

……そういえば店の中だったんだよな、とか、今更のそれだ。
今になってちょっぴり恥ずかしさが湧いた。
誤魔化すように水に口を付ける。
(-335) mspn 2023/09/22(Fri) 9:46:16

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → Scorri, fiume eterno! ヴィンセンツィオ

最後までを暖かく見守り聞き終えてくれた貴方が、次に口を開き話してくれるのは己が知らない時代のことだ。
マフィアについて詳しくもなかった男は今と昔の違いをそこでようやくに知る。
けれど一度広まった印象というものはそう簡単にはなくならないもので。
彼等からの被害も決して無くなったわけではないと、これは周囲を見ていても知るところ。

だから、やはり仕方ないのだろうかと。

落ちかけた視線、されど貴方の言は続いていく。
下がる眦が届けてくれる慈愛に満ちた表情。
鼻先を掠める芳香と混じり、かつての記憶が蘇るよう。
──変わらない。

「…………うん」

変わらないものが、ある。
そう感じる度にどうしてこんなにうれしくて。
どうしてこんなに泣きたくもなるのだろう。


「ちゃんと、ひとつの参考にする。
 けど、……よかった」
「ヴィトーさんが、"間違っている"を言ってくれること」

にぃと笑って届ける表情も幼いころと変わらない。
……のは己で自覚しているものではないけれど。
伸ばした指先は、貴方の服の袖をちょんと摘まんでいた。

「自分の心、よく見えなくなってたけれど。
 それを聞いてようやくちょっと……見えた気がするから」
「でも決まっちゃったもの、変えるのって難しい……ですよね。
 何かしてたら、オレでも変えられるものあるかなあ……」
(-422) mspn 2023/09/22(Fri) 20:42:47

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ

押し込まれた瞬間に悲鳴がまた落ちる。
骨が割れる音を拾い上げ腹の底は冷えるようなのに、
ペン先が刺さるその場所は燃えるような痛みを訴える。
片側の手を止めるために動かそうとしても──じゃらり。
金属が擦れる音が自由の無さを示しただけ。

「……な、にも、しらな」

ぐり。


い゛っ
、ぅ」
「っは、……」

「……ゎ……、かり、ませ」


ぐり。


「〜〜ッぁ゛」


ねじ込まれる度に背が丸まり、びくりと身体が跳ねる。
喘ぐように開いた唇から苦悶に満ちた哭き声だけが落ちる。
首を横に振る度に汗と涙がはたりと落ちていく。
息をすることさえままならなくて、こんなの。

[1/2]
(-423) mspn 2023/09/22(Fri) 20:49:50

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 法の下に イレネオ


──地獄、みたいだ。


いたい、こわい、くるしい、やめて。
逃れるための術を探している。
何か伝えたらやめてくれる?
でも本当になにもしらなくて。

貴方にそれを伝えようとしたのだと思う。
顔を上げ、滲む視界にその表情を捉えて。
けれど。

…………なんで。


どんな言葉よりも先に浮かんだものが、形になる。

「……な、んで…………」

「…………、……ゎ、らえる、の……?」


わからない。
わからなかった。
ぽた、とまた頬に雫が伝う。

[2/2]
(-424) mspn 2023/09/22(Fri) 20:52:29

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「やった!
 料理は……オレ、あんまりできないけど。
 でも手伝うから、火の番するとか……」

好きな食べ物を、なんて考えてくれていることも知らず。
おねだりを受け容れてもらえたのなら満足気。
マスターが早速作ってくれているのをちらと眺めたが。
それもすぐに貴方へと戻して、はたりと瞬いた。

「……なんでつけてたの?恥ずかしがり屋?」

……なわけ、ないだろうなあ。
ちょっとどきまぎした自分と違って、貴方は気が付いているだろうに涼しい顔だし。

「…………うん」

そうして続く、届いていない内の次の約束への返答は妙な間が一瞬空いた。
嫌だったとかそういうものではない、でもさっき聞いたばかりだ。
自分から誘うことはそうないって。
じわり湧き上がる嬉しさに口元がどうしたって緩むから、こてん。
気にしてないみたいだしいいかって、頭を傾けて貴方の肩にくっつけていた。
(-430) mspn 2023/09/22(Fri) 21:14:37

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

「じゃあ本当にとびきりの作って持っていくから、待ってて?」

貴方の言い方が面白くって、だからくすくすと笑ってしまった。
カッサータはどれくらい作るのが難しいだろうか、今はまだ想像もできないが。
それでも大好きな貴方のためならいくらだって頑張れる。

「そう!オレもう警察だから!
 約束できるよ、まだまだ下っ端だけど」

少しぐらいは何かできるはず。
だからそのときはと、約束の一言には小指だって差し出していたことだろう。
昔からの変わらない契り方。
ぎゅっと絡めて、そうして解いて、じゃあって。
離れる前に両腕が伸ばされていた、気付けば貴方の腕の中だ。

「……へへ」
「うん。
 楽しみにしてる、フィオねえ」

其処は揺り籠同然の場所で。
恐れるものなんて何もなかったから、ぎゅうとこちらも抱きしめ返す。
子どもみたいに貴方の髪にも少しだけ頬を摺り寄せてから、名残惜しくもじきに離した。

そうして今度こそ手を振って離れていくことだろう。
もう少し夜が深くなれば雨も降り始める日のこと。
その晩に貴方は何かを食べてくれただろうか、メッセージででも感想を伝えてくれただろうか。

だとしても──そこに返るものは、何もなかったのだけれど。

[1/2]
(-440) mspn 2023/09/22(Fri) 21:38:51

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ


────こえがする。

暗い牢越しに貴方が名を呼んでも、そこにいるのが本当に"弟"なのかはすぐに分からなかっただろう。
冷たい牢の隅、与えられた毛布に丸まって蹲る人影。
声をかけられてもぴくりと跳ねるだけで、すぐに顔を上げない。

幻聴だと思った。
だってここであなたの声を聞くはずがないから。

……それでも、その内に。
緩慢な動作でゆっくりと顔を上げる。
泣き腫らし腫れた瞼も、熱で赤らみ汗ばむ頬も、暗くて貴方にすぐ見えるものかはわからない。

「…………ね、ぇさ、ん……?」


けれど貴方を呼ばう声が掠れ切っていて。
聞き落としてしまいそうな程に弱いものだったことだけは、明らかで。

夢かもしれないと思った。
なら夢でいいとも思った。
身体を動かす、それだけで。
走る痛みに喉奥がひきつる。

[2/2]
(-443) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:08

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 路地の花 フィオレ

/*
すみません、お待たせいたしました!
まだ最後まで状況は確定しておりませんが、とりあえずはこの程度は……といったところまで分かったのでお返事いたしました。最終的にもう少し酷くなる可能性はありますが、とりあえず、とりあえず……
どうぞごゆるりとお付き合いいただければ幸いです、ねえさん〜……
(-444) mspn 2023/09/22(Fri) 21:43:42

【秘】 暗雲の陰に ニーノ → 渡りに船 ロメオ

「え、ほんと? じゃあおしえて!」
「作ってもらうばっかりもくすぐったいからさ。
 オレも作れるようになったら作りたい」

冗談、だとは受け取ることはなく。
貴方が少しでもその未来を描いてくれているならと男は笑った。
……が、続く、ナイショの一言を聞けば少しだけ頬を膨らませる。

「弟に内緒にするんだ〜」

意地悪な言い方だ、とはいえ本当に拗ねたのではないのだけれど。
代わりにぐいぐい……と寄せた頭で貴方を押すようにしていた。

そんなもちゃもちゃとしたやりとりののち、カウンターに置かれたグラスホッパーに気が付けばきらと目を輝かせて。

「わ、ほんとうに緑」

つん……とグラスを謎に突いて感動の声。
そのままそろっとグラスを持ち上げて飲む前に。
誘いを持ちかけられるときょとんと眼を丸くして貴方を見上げる。
込められた意図に気が付けば目を細めて、無意識に微笑んでいた。

「うん。
 じゃあ〜えっと……
 ……兄弟になった日に、乾杯?」

小首傾げつつ、こつん、貴方のグラスと己のグラスを合わせてみる。
改めて口にしてみるとなんだかやっぱり恥ずかしいな。
つい感じてしまえばそそくさと誤魔化すみたいにグラスに口をうけて一口。
思っていた以上にチョコミントだったので感嘆の声よりもいっそ、「えっ……」という動揺の声が出ていたとされる。
(-457) mspn 2023/09/22(Fri) 22:45:34