「こちらこそ」

　つんと澄まして。
　常ならばそのまま立ち去っていたことだろう。

　しかし、目の前の女性の格好が少女の気を引いた。

「――あんた、冒険者？」

>>682

　

「そうね、この街に来たばかりよ。
　それより……冒険者なら、知ってるかしら」

　見下ろして首を傾げる。
　少女のほうがいくらも背が高い。

「あの――例の事件のこと」

「なに、」

　名を呼ばれ、正面から見下ろされて。
　少女の肩が小さく跳ねた。

　頑なに下を向いていた薄紫が、覗き込まれて揺らぐ。
　その瞬間だけ、棘の消えたひどく幼い表情を晒した。

「……か、んたんに、
　分かったようなことを言わないで」

　けれど、一度きゅっと唇を噛んで――
　次に開いたときにはもう、どこかへ隠れている。

　（→）

「
　愛想笑いも、謙遜も。お世辞も。
　気遣いだって。あんたのその態度も」

　小さな口で並べ立てる。
　

「不確かなものを信じるなんて、馬鹿のすることだわ。
　あいにくわたし、馬鹿なんかじゃないの」

　白い手は、縋るようにシーツを掴んだまま。
　さっきまでよりずっときつく、握りしめられている。

　ちらりと斜め上を見て。
　ふたたび視線を下げ、頷く。

「そうね。噂を聞いたわ。
　……『犯人がこの街にいる』っていうのは、本当？」

　そうね、とどちらへの肯定か分からない返事。

「またがあればね」

　そう言って、やってきたとき同様、
　元気に去っていく配達員さんを見送った。

「そう、分かってないのね……」

　少女は気落ちした様子を見せる。
　重たいため息をつく様子は、
　ただの噂好きとは違う様に感じられるかもしれない。

　よく分かったわね、と顔を見つめたあと。
　視線を地面に落として、重たげに口を開く。

「……ええ、そう。
　知ってる人が……行方不明なの」

　顔を伏せたまま、小さな声で囁く。
　ほんの一滴の痛切が滲む。

「……ほんと？」

　顔を上げて、赤い瞳を見つめる。
　首を傾げると高く二つに結った髪がさらりと揺れた。

「――わたしの、助けになってくれるの？」