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【人】 世界の中心 アーサー[ 黄薔薇のような女性が良い、と、 珍しくも、主人が語ったことがあった。 ──嫉妬深いおひとと? 口遊びに聞き返した執事は、 送りつけられた肖像画に鏤められた紅薔薇の意匠に “何処の”令嬢の其れであるかを直ぐに察し、 何も言わずに、瞳を伏せていた。 ──薔薇は、好きだが。 ──毒々しいまでの深紅はな。 返事もなく、唯肖像画を脇に置いたその人に、 内心の苦笑ばかりを隠し、 空のカップに 紅茶を 足した。*] (22) is0716 2020/05/18(Mon) 15:36:37 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 此方はずぅっと恨みのある言い方だった。 きっと彼女の発言には、己も含まれると言うのに。 一括りの、“えらいひと”。 ──その中にも、どうしても序列がある。 金のない貴族だって、往々にしているものだ。 舞踏会の主催は、相当に資産家だった。 国への“徳”を積んでいて、この舞踏会も 王室庭園の小宮で行われるのだとか…… ] (24) is0716 2020/05/18(Mon) 15:37:41 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 食事にしても、衣服にしても “相場”を下げるわけにいかない事情がある。 見栄とも違う。“そう”でなくてはいけない。 パンがないなら其処らの草を、とは行かない世界だ。 銀先が文字らしきものを辿るのを見ていた。 …文字を教えようと思ったこともあったはずだけれど、 それから随分経ってしまった。] (27) is0716 2020/05/18(Mon) 15:39:14 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 別段、勉強“させよう”という意志はなかった。 何を書く、なんて決めた手帖ではなくて ──それこそ、痕跡を 残したいが為の。 生き足掻いた印なんて碌なものではないが。 恨み辛みを詰め込んだ手記に限って、 後世本にされたりするのだ。 銀色の軌跡に、わらっていた。 きっと水を浴びた時の、苦笑に近く、] (29) is0716 2020/05/18(Mon) 15:40:03 |
【独】 世界の中心 アーサー/* オールドリッチ庭園 アギングハム公爵 名前は決まっているシリーズ 国王はバートランド王 王妃セレスト妃 (-15) is0716 2020/05/18(Mon) 17:13:48 |
【教】 世界の中心 アーサー[ ──人の味を知った獣は、そればかりを食すというが 毎夜 例えば 見知らぬ誰かの喉元に牙を立て、 味も知らないというのに“美味い”と想うのならば 最早獣に近しいと言っても、過言では無い。 大体、誰とも知らない被害者の瞳は胡桃色で、 光の無い眼に映る顔を見ている。] (/2) is0716 2020/05/18(Mon) 23:45:35 |
【教】 世界の中心 アーサー[ いつか、“見知った”顔を夢幻に観たとき、 きっと映るものは薔薇色の瞳を見開いた 獣なのだろう。] (/4) is0716 2020/05/18(Mon) 23:46:52 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 珍しく、月明かりのうちに覚醒していた。 ──カーテンの隙間だ。 真白を醒めた蒼に染める月光が 真っ直ぐ、 色の抜けたよなかんばせを指し示している。 ] (91) is0716 2020/05/18(Mon) 23:49:20 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 心の奥で茶化している。 慣れと言えば、そういったものだろう。 手を替えようが 人を替えようが、 目が覚めるのは決まって、“自分”の顔を覚えた頃。 ──光景を、味わい尽くした頃だ。 きっと、“リドル”はとっくにおかしい。 時折 真面目にそう思う。 ] (94) is0716 2020/05/18(Mon) 23:50:58 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 足を滑らせ両脚を地につけると、大きな姿見がある。 起きて先ず、“美貌”に酔う為。 ──と 言うことにしてある。 ベッド横のテーブルには、水瓶と硝子杯。 …少ないか。 不寝番にでも頼もうか。 燭台に灯りをつけ、真白の海を 降り立った。] (96) is0716 2020/05/18(Mon) 23:51:32 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ──ので、 扉の前で鉢合わせたのは、 きっと明月の思し召し。] …おや、“おはよう”。 忘れ物かい? …いや、君に限って“もの”は忘れないだろうね。 (97) is0716 2020/05/18(Mon) 23:52:04 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 燭台と、水瓶に3分の1ほどの薔薇水。 用向きの分かる出で立ちで、 “昼”と変わらぬかんばせを、 わらうように 解し、] ( 火は 明るく、温度を持っている。 白肌を誤魔化すには充分だろう。 ) (98) is0716 2020/05/18(Mon) 23:53:59 |
世界の中心 アーサーは、メモを貼った。 (a14) is0716 2020/05/19(Tue) 0:33:30 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ──薔薇色は、僅か下を 眺めていた。 “噛みつきやすそう”な 細い首。 締める気も、 不器用に断つ気もないが 知らないはずの欲求ばかり有る。] (151) is0716 2020/05/19(Tue) 16:02:43 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 比べて華奢な、“使い込まれた”指先が、 抱えた水瓶を示すから、 成る程、水の不足だったかと そのまま手渡した。 ──そりゃあ、わかりやすい姫様のこと、 何かしらの“核心”に触れたことぐらいは、 日に照らしても未だ白いよな肌色に、 覚えだって 有れど、 全く人のことは言えないから。] (153) is0716 2020/05/19(Tue) 16:04:15 |
【人】 世界の中心 アーサー新しい水を足さなくて良いのかい? 折角なら冷たい方がいい。 目も 頭も冴える。 ──もしくは、ホットミルクでも良いけれどね。 今度こそ“夢も見ない”うちに眠れるかもしれない。 (154) is0716 2020/05/19(Tue) 16:04:39 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 湿り気の無い咥内を、無理に回している。 彼女が“声を上げない”から、──というわけでなく 忘れようとするかのよに、 昼よりも遥かに五月蝿い。 元より良く喋る男では有るけれど、 ( …それだって知るものは少ない。 ) それにしても無駄の多い口だ。 笑みの形にしか解れなかったかんばせを、 剥がす ように。] (155) is0716 2020/05/19(Tue) 16:05:09 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 巻き込もうという魂胆ではあったけれど こう言った“誘い”に、彼女が乗ったことがあったろうか。 どうにも懲りない というよりは 飽きない。 燭台を廊下の向こうにふわりと浮かすと、 どうやら話声に気がついたらしい。 人影の寄るのも見えた。] (157) is0716 2020/05/19(Tue) 16:06:24 |
【人】 世界の中心 アーサー満月の下の薔薇も、うつくしいのだろうね。 [ 屋敷の中庭に、真紅の薔薇ばかりの咲く、 “ちいさな”ガゼボがある。 きっと喩えひとりでも、 暫くはホットミルク片手に 月を見上げるだろう。**] (158) is0716 2020/05/19(Tue) 16:07:08 |
【人】 世界の中心 アーサー[ きっと紙幣を散らそうと、 金を遠くへ投げようと、 薔薇の血の通う限り 逃れられない牙だった。 ──今此処に生きているのだって、 唯、奇跡のようなもの。 …あの夜の夢も、大概酷かった。 背中に残る傷を背負い、獣の唸りを耳元に聞く。 そりゃあ良い夢なんか見られようはずも無い。] (183) is0716 2020/05/19(Tue) 21:40:09 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 薔薇ばかりの咲き誇る、中庭。 外からは見えないし、滅多に邪魔の入らない、 男にとっては、第二の私室のようであった。 散りばめられたベンチにも、座るのなぞひとりくらいで 中央に座すガゼボには、ラタンの家具が詰め込まれ… “第一”の私室に比べて、だいぶごちゃごちゃしていた。 本棚のラインナップも、 随分と“大衆向け”に変わっていた。] (185) is0716 2020/05/19(Tue) 21:43:20 |
【人】 世界の中心 アーサー( ほとんど客を通すことのない、 そういった部屋だ。 良く知る執事も、ホットミルクを置いて 直ぐ、何も言わずに消えている。 ) (186) is0716 2020/05/19(Tue) 21:44:03 |
【人】 世界の中心 アーサーふふ、 彼らももう諦めているよ。 君を“連れ込む”のも、僕が外に出ないのも。 それとも、もっと好待遇が良いのかい? (187) is0716 2020/05/19(Tue) 21:44:25 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ──先ずはドレスを着るところからだな。 ソファに沈み込みながら、マグに口を付ける。 微かにブランデーの香り。 アルコールなんかとうに飛んでいるけれど、 温かさに解れた舌はさらりと 悪態を受け流していた。 見上げれば、まあるい月。 燭台の明かりなど、必要もないかもしれない。 すこぅしずつ、 頬にも色が差していた。] (188) is0716 2020/05/19(Tue) 21:45:27 |
【人】 世界の中心 アーサー──香りが良いだろう? 特に紅はいい。 僕の色だ。 元々百合園だったのだがね、僕は好かなかったんだ。 息苦しいような気がして── (189) is0716 2020/05/19(Tue) 21:45:49 |
【人】 世界の中心 アーサー[ “リドル”の家の証は、百合であった。 二十年前、前“リドル”が死んだ時まで、 薔薇の咲き誇る屋敷になったのは、つい最近のこと。 ──知らない、というのが、 心地良いときだって ある。 外に出ない以上、新しい景色を見ることもない そんな男にとって 目の前の彼女は、 ──確かに、目であるのだろう。 碧の、 未来以外を映す、 ] (190) is0716 2020/05/19(Tue) 21:46:32 |
【人】 世界の中心 アーサーこの薔薇は食用だよ。 パンの代わりに薔薇を食べるのだって良い。 [ ──大して腹には貯まらないけれど。 そうわらいつつ。 窓を薄く開け、いくつか花弁を手折ったなら、 硝子と、マグにひとひらずつ、香りを足すように。] (191) is0716 2020/05/19(Tue) 21:47:20 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 花弁を喰んだくちびるは、 薔薇色を塗るには向かないようだ。 ドレスも、 なにも。 服だけでなく靴だって不自由だというから、 拷問というのも強ち間違いではないのかも知れない。 ──嗚呼、それこそ、 黄薔薇が良いか。 白には紅が映えすぎる。] (260) is0716 2020/05/20(Wed) 11:21:29 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ぬるりとした陶器の白。 冷め始めた水面は薄く張った膜が波打っていた。 ──花弁は、乗っているだけに見える。 口をつけると乳膜が付いてくるから、 赤いばかりの舌が唇を這った。 薄く、色味のないくちびるだ。 これだって 滅多に彩られることないもの。] (261) is0716 2020/05/20(Wed) 11:22:22 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 手渡された薔薇の背表紙は、童話集であった。 薔薇の話ばかりを詰めたものだと言うので、 古書を持ち込んだ行商より買い求めたもの。 実は、完全に“積み本”だ。 ──話は、そう難しくないが、 古書ならではの読みにくさがある。 数頁をめくった後、ひとつで手を止めた。] (263) is0716 2020/05/20(Wed) 11:23:09 |
【教】 世界の中心 アーサーむかしむかし、とってもえらい男がおりました。 男は世界一うつくしいと言われる薔薇園と、 世界一うつくしい妻と、 世界一うつくしい娘を持っていました。 彼はとても幸せでした。 世界一うつくしい日々を送っていたのです。 ────…… (/11) is0716 2020/05/20(Wed) 11:23:59 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 男は、低い声をしている。 こどもに聞かせるよな、優しい声ではなかったろう。 遠回しに読めと言い出した彼女にむけての、 届けるよな語りでもなく── まるで 己を語るかのような、] (265) is0716 2020/05/20(Wed) 11:24:31 |
【教】 世界の中心 アーサーある日、彼の妻が重い病気にかかってしまいました。 お医者様を3人呼びましたが、3人とも、 彼の妻を助けることはできませんでした。 彼は悲嘆に暮れました。 毎日、薔薇園の真ん中で泣いてばかりです。 流れる涙はやがてちぃさな池になりました。 ちぃさな池には蝶々が集まって、 彼の悲しみを聞いておりました。 「ひとつだけ、おくさまを助ける方法があります。」 そう話しかけたのは、 ぼろぼろの羽をした、 今にも堕ちてしまいそうな蝶々でした。 ────…… (/12) is0716 2020/05/20(Wed) 11:25:22 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 挿絵を向ける。 うつくしい庭園に、蝶々の絵。 今、満月に照らされたこの中庭に、 何処となく 似ている。] この話が一番好きなんだよ。 ──結末は童話らしい教訓なのだけどね。 “金で買えない大事なもの”っていう… 僕には今のところ、この話でしか身近でないけれど。 (266) is0716 2020/05/20(Wed) 11:26:09 |
【人】 世界の中心 アーサー[ ──自分で読むかい? 揶揄する響きは 無い。 “読み聞かせ”に飽きただけの話だ。 …おそらく。 **] (267) is0716 2020/05/20(Wed) 11:28:22 |
【独】 世界の中心 アーサー/* アンデルセン童話に世界一うつくしいばらっていうのがあるけど ままではない 時間かかってしまった…すまない… (-72) is0716 2020/05/20(Wed) 11:30:25 |
【人】 世界の中心 アーサー* [ そりゃあもう、不機嫌を貼り付けている。 “捕まってしまった”というバツの悪さなんてない。 だって此方は悪くないもの!] (307) is0716 2020/05/20(Wed) 21:58:37 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 割合、屋敷の中であれば、男は温厚で、 怒ることだって、不機嫌を露わにすることだって ほとんどないのだ。 珍しいと言える。 貼り付けた笑みも、今回ばかりは剥がれ落ちている。 随分と“御行儀の良い”おひめさまだった。 ──折角おとうさまが直々に招待したのに! まあ、要約すればそう言った文脈だった。 知らん。 誠に遺憾である。 そんな態度を欠片も隠しもしない主人に、 物腰穏やかな執事も諦感を滲ませている。] (308) is0716 2020/05/20(Wed) 21:59:24 |
【人】 世界の中心 アーサーそれで今日は何を? [ ──文句を言いにいらしたので? 冷え切った問いかけは、どうやら油だったらしい。] (309) is0716 2020/05/20(Wed) 22:00:04 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 部屋に戻ってきた頃には、脚がふらつく思いであった。 キィンとした耳鳴りが未だ抜けない。 耳が遠いような気もしている。 後ろ手にゆっくりと扉を閉め、 すぅ…と 音のするほど息を吸い、 ] (311) is0716 2020/05/20(Wed) 22:01:15 |
【人】 世界の中心 アーサーこれだから“きぞくさま”は! [ …部屋に人がいるかも、全く確認せず、 扉を閉じた瞬間に恨み言だけを吐いた! 全てが忌々しいって顔だ。 鼻につく香水の匂いも、天気がいいことさえも! 曇った薔薇色が、 ようやっと私室を映した時、] (313) is0716 2020/05/20(Wed) 22:01:59 |
【人】 世界の中心 アーサー──…おっと、 失礼。 全くうつくしすぎるのも問題だよ。 [ 執務机の卓上ミラーを覗き込み、表情の微調整。 すこぅし経てばいつも通り、 ──それでも何処か疲れたよな、 薄い笑み。] (316) is0716 2020/05/20(Wed) 22:03:25 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 男にとって、この屋敷は自分好みに出来ている そりゃあ面倒くさい書類は有れど── いざやり始めれば仕事と割り切れる。 使用人も、 家具も、 花も何もかも、 すべて思い通りの箱庭。 だからこそ、だろうか。 イレギュラーな“好まないもの”にとても弱い。 “匂い”を持ち込まれるなど、以ての外であった。 薔薇と 紅茶、 時折ミルクがあれば良い。] (365) is0716 2020/05/21(Thu) 0:33:11 |
【人】 世界の中心 アーサー( 通常、来客がないわけではないが、 必ず先に連絡があるし、此方も準備をしている。 ──礼儀知らずは嫌いだ。 今日の日記には罵詈雑言が並べられるに違いない。) (366) is0716 2020/05/21(Thu) 0:34:12 |
【人】 世界の中心 アーサー[ これでも、見知った顔を切欠に、 怒りの優先度はだいぶ下がっちゃいたのだ。 それよりはずっと、疲れていた。 どうにも引きこもりなので、人と会うと体力を使う。 おんな相手だと尚更だ。 真白の上に足を揃えたその姿は、 どうやら“他人”とも、“おんな”とも 呼ばないものであるらしいが──……] (367) is0716 2020/05/21(Thu) 0:34:51 |
【人】 世界の中心 アーサー[ 見上げるよな、 伺う視線に、 男は心底不思議そうに、ぽつんと 呟いた。 卓上の鏡に映るのは、すこぅし白いくらいの、 “いつも”の 美貌──と 思っている。 自分の何が違うのか、よく分かっていない。 もにもにと頬を揉み回す動きさえ見せていた。] (370) is0716 2020/05/21(Thu) 0:36:43 |
【人】 世界の中心 アーサー( ──己のことは、好きだ。 寧ろ、何よりも優先している。 …その 割に“微差”を察し難い節はあるが “何の”── “だれ” の せいか、 ) (371) is0716 2020/05/21(Thu) 0:37:24 |
【人】 世界の中心 アーサー…またブランデーが必要かな… [ 特に否定はしなかった。 疲れていることは確かだし、 “においけし”が必要なのも、確かだ。 差された先、ソファに沈みつつ、 手近な窓を 薄く開けた。**] (372) is0716 2020/05/21(Thu) 0:38:16 |
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