196 【身内】迷子の貴方と帰り道の行方
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[お湯の張られたバスタブに身体を沈ませれば、
強張った脚などが解れていくようです。
今日は大変な一日でした。
家に帰りにくい理由……
わたくしの場合はやはり、結婚の問題でしょうね。
家や家族に関しては、不満などある筈がありません。
ネリリさんは色々な人間を見てきたと言っていました。
でもその多くは、この屋敷に招かれた人ではないでしょうか。
ここに招かれる人間は等しく、"家に帰りにくい人"。
家に帰りにくい理由のある人ばかり見ていたら、
どうしたって考えや印象が偏るでしょう。]
[未だもって名前の分からない赤髪の男性。
貴族式に優雅にお辞儀をしてみせたけれど、
わたくしが名乗っても、名前を教えはしなかった。
どうしても言えない理由があるのでしょうね。
ネリリさんは今この屋敷の権利握っているけれど、
この屋敷自体は彼の所有物。
ネリリさんのお話を聞きたいと言った時に、
小さく「ここに来てからのならいいかなぁ」
と言っていました。
最初からここに居た訳ではない。
であれば、誰よりもこの屋敷に囚われているのは、
彼女自身ではないでしょうか。]
[灰被りの魔法はとうに消え、
わたくしは部屋にあったネグリジェを着て、寝台へ。
決断するまでの間は保ってくれると、
彼は言っていましたけれど、
その猶予は幾ばくでしょうか。*]
―
翌朝:庭
―
[しっかりと休んだおかげか、すっかり疲れは癒えていました。
屋敷から外に出て、庭を眺めます。
見事に咲き誇る桃色の薔薇に、白色の華鬘草。
ハートの形の鈴蘭のようで、とても愛らしい。
花言葉の中には
"あなたに従う"、"流れに任せて"そんなものもありましたね。
今置かれている状況を思うと、少々身震いします。
念の為、外に出られるかどうか試してみましたけれど、
やはり敷地から外に出ることは出来ないようでした。**]
[あの声の彼女は確かに長く意識が留まっている
後に来る人が同じ目にあうのが心配なんだろうね。
その心配が最も過ぎる。
ここにしか救いがない人は勿論いた。
その人たちの中には生きる希望すら失って
館に体を取り込めることを知れば
自分から志願して消えるような子もいたよ。
生きる気力がある子は
落ち着いたら自力で自立していったな。
他の理由もあって結果旅立っていった人ばかりだ
僕がそれで満足出来ればよかったのにね。]
[頭で分かっていてもそう動けるかは別だ。
感情のままに動いてしまう人だって珍しくない
仕方ないという理性で留まれるのを
凄いと知らないんだろうね。]
……そうだね。
帰る事を選んだ人は勿論いるよ。
その人はちゃんと家に帰したよ。
加えてこの館にはもう二度と来れないようしてる。
[捉えようによっては薄情かもしれないね。
でも、帰ると決められる人に
迷い道は二度もいらないだろう?]
……そう。
この状況でありがとうが聞けるとは思わなかったかな
うん、勿論。僕らもちゃんと休むよ。
ありがとう、エルメスさん。
[ネリリはまだ兎も角僕には睡眠が普通に必要だ。
じゃあ、と別れればあとは一人歩くだけ。]
− 翌朝 −
[外に出ようとしている。
その気配はネリリにはよくわかっていた。
彼女は美味しそうな匂いをふわり、と漂わせる。]
……おはよう、お姉ちゃん。
ご飯あるよ? デザートもつけるよ
体型が心配なら食べた後太らない魔法かけれるよっ
[その声は叱られた後の子供のよう。
機嫌を伺うような響きをもっている。
会話を拒絶するなら、彼女は黙るであろう。]**
[念のために、ここを出られないか試した後、
朝食の匂いが鼻を掠めました。
ネリリさんの声は叱られた子供の様で、
彼女なりに自分のしたことを
反省してるのではないかと思えました。]
お早う御座います。ネリリさん。
そうですね、朝食を頂きましょうか。
デザートは付けて頂きますが、
体型を維持する魔法は不要です。
[その様に伝えて、また館の中へ。
確かに嫁入り前ですし、体型は気になる所ですが、
肝要なのは美意識と自制心。
何の努力も無しに美しさを保とうとしても、
結局はその精神が見目に影響してしまうものです。]
[食堂へ入れば、昨日と同じ一番下座の席に着きました。
ベーコンエッグのパンケーキにジャガイモのポタージュ、
新鮮(そう)なミルクに、苺のソースのかかったヨーグルト。
わたくしが日頃から
食べ慣れているような朝食メニューでした。
「いただきます」としっかり言って、
ナイフとフォークに手を伸ばします。]
朝食もとても美味しいです。
昨日のお話しを早速蒸し返すのもなんですけれど、
体のない方々も食事はなさっているのでしょうか?
ここへ残る利点の一つに、
"美味しいご飯もある"と言っていましたね。
[出来るだけ何でもないことのように言ったつもりです。
今のわたくしは、現状をそれほど悲観してはおりません。]
[赤髪の男性ははっきりと、
帰る決断をしたものは帰したと言っていました。
結局の所、本人の意思が尊重されるわけですから、
あとはもう、わたくし自身の問題です。
一度ここから出たら、もう二度とここへは来られない。
当然の措置だと思います。
ネリリさんを説得できるほどの覚悟のある方が、
またここへ迷い込むような
悩みを抱えることがないのは勿論の事、
この館、及び魔法使いの存在が明るみになり、
国が捜査に乗り出したりなどしては、
お二人にとっては危険な展開となりましょう。**]
!!
うんうんっ! ご飯用意するよっ!
そうなんだ? わりと欲しいって子多かったけど
まぁいいならいいかっ
[叱られなかったおかげか
途端に元気いっぱいの声となった。
朝の食堂に人は見当たらない。
青年は同席をしないようだ。]
へへーんっ。美味しいでしょっ!
ん? そうだね、食事はする人はするよ。
僕も食べたい時は食べるよ。
やっぱ美味しいの食べるといいよね〜
えーとね、体はないから
実物を食べるわけじゃないんだけど
魔法で見た目や味や満腹感をたいかんできる
……とか聞いたかな。うん、確か。
まぁ理屈はおいておいて、
美味しいのがい〜っぱい食べれるってこと!
こういうのをぼくは食べるかなっ
[エルメスの視界に入る位置に
ぽんっと苺たっぷりパンケーキが一つ。
それは手には触れず、見るからに透けている。
それに手を伸ばせば触れる事は叶わない。]
体がないって自由でいいよ〜
飛べるし、病気しないし、痛くないしっ
でもなんでかなぁ……望んでこうなった人もいるけど
最終的に寿命前に寝ちゃう人ばっかだったなぁ……
あっ、
今のなしなしっ!
とにか〜くっ! ぼくとしてはお勧めってこと!
他には? 知りたいことある?
なんでも聞いてみてよっ!
[なお、エルメスの国に関する心配は杞憂であるが
それは問わない限り知ることは無いであろう。]
− 回想:館について −
[僕が自分の館を持つと決めた時
手伝ってくれた魔法使いがいた。
彼は変わり者で、発明が好きで、頓珍漢な物から
役に立つものから色々楽しそうに作っていた。
そんな彼に頼まれたことがある。
どうしても、病弱な少年の願いを叶えたいと。
僕の魔法使いとしても能力をあてにして
この館を作るのの手伝いを対価に
僕も彼の願いを叶えた。]
[この館で、魔法使いじゃない彼女が
なぜ魔法を意のままに使っているのか。
それはこの館と契約させたからだ。
ほんの数個だけ創り上げた特殊な魔道具
一つにつきたった一人にだけ使える魔法。
契約が出来て、その契約者は魔法の恩恵を受ける
その内部にいれば、体や心が魔法で守られ続け
そして魔法使いのように振舞える。
魔法がそこまで万能かと言われるならそうだね
そうじゃない。けど、
僕は特殊だから
、ね。
はたから見れば彼女は魔法使い。
この場ではそれでいい。]
[流石に危険だと思ったから
特殊魔道具の存在は僕と彼の秘密だ。
彼はその病弱な少年に汽車を与え
夢だった空への冒険の旅に出た、とか聞いた。
僕はそれを、死にそうな少女に使った。
その少女はきっと自覚していない。
守られているからこそ、今でも心が元気な事を。]**
[体型維持の魔法は好まれるのですね。
まぁ気持ちは分かります。]
何でも魔法に頼るのはよくありませんわ。
[席に着くと、
今日はまだ男性と出逢っていないことに気が付きます。
朝は遅めなタイプでしょうか。]
[食事に関しては問題はないよう。
栄養補給ではなく、完全に娯楽という位置づけですね。
苺のパンケーキはとても美味しそうでした。
試しに手を伸ばしてみましたが、触れることは出来ません。]
飛べるのは最初は楽しそうですが、
実体がないのは味気が無いように思えますね。
[とは言え、それはわたくしが今、健康体であるから。
怪我や病気で不自由な方にしてみれば、
これほど有難いことはありません。]
(やっぱり、彼女たちを悪と断じることは出来ませんね)
[
ん?今なんでもって言いましたわね?
昨日は余り詮索するのも……と遠慮をしましたけれど、
こうなってしまっては話が変わってきます。
場合によっては一生(?)の付き合いになる訳ですし、
訊かない手はありませんね。]
まずお聞きしたいのですが、
貴女のお兄さま、
赤い髪の男性の名前を教えて頂けませんか?
なんとお呼びしたらいいのか分からず、
不便しております。
ネリリさんは
ここで生まれ育ったわけではないようですが、
どのくらいこの屋敷で生活していらっしゃるのですか?
あと気になっていたのは、
魔法使いは国に厳重に保護されると聞いております。
何故ネリリさんはここで暮らせているのでしょうか?
[ネリリさんは、そもそも生きていると言えるのか?
というのは流石にデリケートな問題ですので、
男性の方に聞きましょう。**]
[そっか、偉いね〜、と楽しそうな声が響く
青年の方は朝が遅めもあるが
同席を遠慮したというのは余談である。]
……そっか、エルメスお姉ちゃんは
味気ないって思うのか。人って色々だなぁ
ぼくにとって体っていらなかったしなぁ
だからいやがる人がいたのかなぁ。うーん、わかんないや
っと? あれこれやっぱ聞きたかったんだね
いいよ。順番にこたえるね。
えーとまずはあのお兄さんの名前だけど……
……あれ?
待ってね、えーとんーと
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